皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2879件 |
No.1059 | 5点 | 英雄の誇り- ピーター・ディキンスン | 2016/02/10 12:10 |
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(ネタバレなしです) 1969年発表のピブルシリーズ第2作の本格派推理小説で、CWA(イギリス推理作家協会)のゴールデン・ダガー賞を受賞しました。「ガラス箱の蟻」(1968年)と本書で2年連続受賞したというのはさすがに凄いと思います。20世紀でこの快挙を達成したのはディキンソンとルース・レンデル(一つはバーバラ・ヴァイン名義作品)ぐらいではないでしょうか。テーマパーク風の大邸宅というこだわりの舞台に加えて登場人物もかなりエキセントリックです。おまけにライオンまで登場します。プロットも凝っており、最初は謎らしい謎もないのですがピブルの捜査で次々に謎が増えていき、思わぬ危機に意外な助っ人と予想を超える展開でした。しかしどこか回りくどい語り口のせいか全般的に読みにくく(私の読解力のなさも一因ではありますが)、再読するほどに味わいの出てくるタイプかもしれません(私はその気になれませんけど)。 |
No.1058 | 5点 | 宿命と雷雨- 多岐川恭 | 2016/02/08 02:21 |
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(ネタバレなしです) 松本清張責任監修による「新本格推理小説全集」の10冊の1冊として1967年に発表された作品です。8月中旬の雷雨の夜に死ぬという予言に怯える建設会社社長から予言した及川和泉という女性の調査を社長秘書の坂出が命じられるプロットです。事件がかなり後半にならないと起きない上に及川和泉が予言者としてよく当たるのかというのは謎としての魅力に乏しく、サスペンス的には物足りません。光文社文庫版の巻末解説では「人間の謎を追及した推理小説」と紹介されていますがまさしくその通りで、第三者である坂出の視点を通じて登場人物の心理描写に重点を置いています。私はエラリー・クイーンの「十日間の不思議」(1948年)を連想しました。坂出が推理する場面もありますが真相は彼の独力では明らかにならず劇的な最終章で場当たり的に解決しており、本格派推理小説というよりサスペンス小説に分類すべき作品だと思います。 |
No.1057 | 4点 | クッキング・ママと仔犬の謎- ダイアン・デヴィッドソン | 2016/02/08 02:11 |
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(ネタバレなしです) 2011年発表のゴルディシリーズ第16作の本書は集英社文庫版で650ページ近くあってこのシリーズとしては大作ですが、最初から最後までテンションを落とさないのはさすがです。もはやあきらめの境地に達したのかゴルディの探偵活動や捜査への口出しを夫のトム(刑事)はある程度は大目に見ているような感がありますが、それにしても血を見ると気絶してしまう容疑者の口を割らせるのに血を見せてやれというゴルディの過激な発言は断固注意しろよと言いたくなります(笑)。いくつかの伏線を張ってあるとはいえ推理する手掛かりとしては十分でなく、場当たり的解決に留まっているのが残念です(真相自体もあまり魅力あるものではありませんでした)。 |
No.1056 | 5点 | 火の神の熱い夏- 柄刀一 | 2016/02/08 02:06 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表の南美希風(みなみみきかぜ。男性です)シリーズ第1長編で、光文社文庫版で250ページに満たないコンパクトな本格派推理小説です。短いながらも謎解きは充実しており、転々とする容疑と論理の積み重ねによる推理を楽しめます。但しトリックについてはわざと曖昧な説明に留めているところがあって、読者によってはすっきり感が味わえないと不満を抱くかもしれません。まあ放火トリックなどは詳細かつリアルに説明して、実社会で模倣犯罪が発生しては作者も責任の取りようがないと開き直られたら仕方ないような気もしますが。犯人当てとしてはきちんと成立しています。 |
No.1055 | 6点 | トランプ殺人事件- 竹本健治 | 2016/02/08 01:49 |
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(ネタバレなしです) 1981年発表の牧場智久シリーズ第3作で、ゲーム三部作の最終作です。密室の謎解きもありますが暗号解読に力を入れた本格派推理小説です。角川文庫版の作者あとがきによれば、ホワットダニット(何が起こっているか)を追求した作品です。トランプ(カード)に関する用語説明が半端ではありませんが、その中にも謎解き伏線が忍ばせてあったりして油断なりません(といっても私は読み飛ばしに近かったのですが)。探偵役としては須藤信一郎の登場場面が少なく、その分牧場智久が前面に出てようやくシリーズ主人公らしくなります。狂気三部作の第2作でもあるのですが、狂気描写は思っていたより控え目なので私にも耐えられました(笑)。時々わけのわからない表現や文章が登場するし、結末はかなりひねくれていますがプロットは意外とストレートで読みやすく、ゲーム三部作の中では奇想と読みやすさのバランスがよくとれた作品だと思います。 |
No.1054 | 5点 | 折鶴が知った…- 日下圭介 | 2016/02/07 04:20 |
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(ネタバレなしです) 26の長編と18の短編集を残した日下圭介(1940-2006)はジャーナリスト出身者ですが、「新聞記者が推理小説を書いたと聞いて『ははあ、社会派』と先回りする人が多い。勘弁してほしい」と述べているように国内ミステリーで人気の高い社会派推理小説には背を向け、フレンチ・ミステリーに影響を受けたサスペンス小説と本格派推理小説が創作の中心でした。1977年発表の長編第3作の本書は前者に属する作品です。私はフランスのサスペンス小説を読んでいないので比較はできませんが、婚約破棄の理由がはっきりしない上に殺人犯と疑われてしまった主人公(結城京子)が被害者の家族につきまとわれるプロットはサスペンス豊かで、作者がねらった「過去の傷痕を負った人間たち」「穏やかな川面の下の暗い底流」「激しく静かなドラマ」が過不足なく描かれています。また折鶴や絵葉書や不思議なメッセージが謎を深め、終盤にはよく考えられたアリバイ崩しがあるなど本格派も意識したようなところがあります。最後は自白に頼ってしまったため本格派になりきれていませんが。 |
No.1053 | 5点 | 北斎殺人事件- 高橋克彦 | 2016/02/07 04:02 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表の浮世絵三部作の第2作です。歴史の謎解きと現代の謎解きの二段構えであるところは前作の「写楽殺人事件」(1983年)と同じです。現代の謎解きは捜査場面の描写も少ないまま終盤に唐突に解決されている感があります(読者が推理に参加する余地もほとんどありません)。最初は津田良平のサポート役と思えた風俗史研究家の塔馬双太郎(既に本書以前のいくつかの短編で活躍しているのですが)は後半になると単独行動が目立つようになり、どちらが主人公なのか困惑した読者もいたのではないでしょうか。前作から改善されたと思えるのは歴史の謎解きで、説明がわかりやすく整理されていて歴史知識のない私でもそれほど退屈しませんでした。事件の悲劇性がひしひしと伝わってきますが、それでいて結末はどこかさわやかな後味を残します。 |
No.1052 | 7点 | 雨月荘殺人事件- 和久峻三 | 2016/02/07 03:50 |
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(ネタバレなしです) ジョー・リンクス原案、デニス・ホイートリー著の「マイアミ沖殺人事件」(1936年)に代表される捜査ファイルシリーズに影響を受けて1988年に発表された「公判調書ファイルミステリー」です。ホイートリーの二番煎じと批判される方もおられるとは思いますが、完成に5年をかけて発表されただけあって細部に至るまで丁寧に作り上げられた、(変な表現ですが)一級の二番煎じ作品です。私が読んだのは約550ページから成る双葉文庫版ですが、前半の100ページほどが6回に渡る市民セミナー、残り約450ページが10回に渡る公判調書の構成となっています。読者は市民セミナーの講師の指示にしたがって公判調書で使われる専門用語を学ぶと共に事件について推理できる仕掛けとなっています。現場図や写真も用意されていますが圧巻は証人たちの証言で、これが一癖も二癖もあるところが本書をミステリーならしめています。動きや感情の表出の描写がないため小説らしさを犠牲にしているのはやむを得ませんが、単に記録を後追いするのではなく読者が推理に参加できる本格派推理小説として完成度は非常に高いです。 |
No.1051 | 5点 | 女囮捜査官 触姦- 山田正紀 | 2016/02/07 03:40 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の北見志穂シリーズ五部作の第1作です。もともとのタイトルは「女囮捜査官1 触姦」という、かなり過激なタイトルでした。エログロシーンはそれほど過激なものではなく(全くないわけでもないが)、タイトルで官能サスペンスと思われて敬遠されるか、官能サスペンスを期待して読んで裏切られるか、いずれにしても本書のタイトルはネーミング失敗だと思います(笑)。メルカトルさんのご講評に私も賛成で本書は警察小説かと思います。私のイメージする山田ミステリーは幻想的な作風なのですが本書はそんな要素は全くなく、ある意味ハードボイルド的にドライで明快なストーリー展開で、読みやすさ抜群でした。体当たり捜査だけでなく随所で推理場面もあるところは本格派推理小説的でもあります。といっても序盤で容疑者が勢ぞろいして犯人当てに挑戦するというタイプの作品ではありませんが。 |
No.1050 | 6点 | 火曜日ラビは激怒した- ハリイ・ケメルマン | 2016/02/07 03:29 |
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(ネタバレなしです) 1973年発表のラビ・スモールシリーズ第5作です。ユダヤ思想と哲学の講師としてウインダミア大学で講師をすることになったラビが描かれていて学園ものとしても意外と面白く、何も知らないのに意見だけはやたらと持っている大学生をラビがどう対応していくのかが興味深く読めました。ラビは事件捜査にはあまり積極的に関わりませんが、それでも謎解き伏線はしっかりと用意されており本格派推理小説としても十分な水準は保たれています。 |
No.1049 | 6点 | 憑かれた夫- E・S・ガードナー | 2016/02/07 03:14 |
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(ネタバレなしです) 1941年発表のペリイ・メイスンシリーズ第18作です。ヒッチハイクでロス・アンジェルスへ向かう女性が大型車に乗せてくれた運転手に車中で襲われ、抵抗する内に車が横滑りして数台に衝突し、女性が気づいた時にはなぜか運転席でハンドルを握っていて運転手が消えていたという事件で幕開けしますが、プロットは地味で法廷場面も盛り上がりを欠き、真相は結構入り組んでいますのでじっくりと読むことを勧めます。第19章でメイスンが「生物でない手掛かりは余り重視しない方がいい。それよりも動機だとか機会だとかいうものを分析してみて、どういうことが起こったかを推理する方がずっと効果が大きい」と語っているのが興味深いですね。 |
No.1048 | 6点 | 今はもうない- 森博嗣 | 2016/02/07 00:03 |
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(ちょっとネタバレになったかもしれません) 1998年発表のS&Mシリーズ第8作です。私の読んだ講談社文庫版では「シリーズナンバーワンに挙げる声も多い」と絶賛されていますが、どちらかといえば読者を選ぶ問題作ではないかと思います。確かに私にとってシリーズ作品で最も驚かされた作品ではあるのですが、シリーズ作品をある程度読んだ人でないと驚きを味わえない仕掛けになっています。仮に本書が初めて読んだS&Mシリーズだと何が何だかわからないのではないでしょうか。密室トリックを巡って次々に仮説が飛び交う本格派推理小説としても楽しめますが(現場見取り図は欲しかった)、前述の仕掛けのためにメインの謎解きが霞んでしまったような気もします。シリーズ作品としては評価7ですが、単独作品としては評価5といったところでしょうか。 |
No.1047 | 6点 | 月をのせた海- 陳舜臣 | 2016/02/06 23:57 |
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(ネタバレなしです) とてもミステリーとは思えないような美しいタイトルですが、1964年発表の本書はアリバイ崩しの本格派推理小説です。徳間文庫版で250ページに満たない短さのためか好都合過ぎな展開で犯人にたどり着いている感じを受けますが、謎解きよりも人物描写の妙が印象的な作品でした。自身の容疑を晴らすために恋人同士の男女が探偵役となるプロットですが、特にヒロイン役の小夜子の芯の強さは強烈な個性となっています。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか微妙な幕引きも作品の個性だと思います。 |
No.1046 | 5点 | 薫大将と匂の宮- 岡田鯱彦 | 2016/02/06 23:47 |
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(ネタバレなしです) 岡田鯱彦(おかだしゃちひこ)(1907-1993)は大学教授が本業でミステリーの執筆は余技の域を出なかったようですが、1950年発表の長編第2作の本書は代表作として評価の高い本格派推理小説です。歴史ミステリー自体、当時の国内ミステリーでは非常に珍しかったと思いますが、舞台を紫式部の「源氏物語」という古典文学の世界を下敷きにしているのが非常にユニークです。ちなみにオリジナルの「源氏物語」は中途半端な終わり方から未完説と完成説があるそうですが岡田は未完説に準拠して本書を書いたそうで、未完に終わった「源氏物語」の続編があり、しかもそれが世界最古の探偵小説だったという内容です。紫式部の探偵ぶりは「合理的な理屈を積み重ねて行って事件の謎を究める」のでなく「個人の感情による直感」頼りのため非常に心もとないのですが、最後は推理で解決に至っています。「源氏物語」をよく知らない読者(私もその1人)でも困らないように人物関係の説明は丁寧ですが、それでも登場人物が男か女か名前だけではわかりづらいのは辛かったです(薫(男性)、匂の宮(男性)、中宮(女性)、中君(女性)など)。 |
No.1045 | 5点 | 源氏物語人殺し絵巻- 長尾誠夫 | 2016/02/06 23:23 |
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(ネタバレなしです) 長尾誠夫(ながおせいお)(1955年生まれ)は非ミステリーの歴史小説も書いていますがデビュー作は1986年発表の本書で、紫式部の「源氏物語」をミステリー仕立てにアレンジした本格派推理小説です。こういうタイプでは岡田鯱彦の「薫大将と匂の宮」(1950年)という偉大なる前例がありますが岡田作品は光源氏死後の時代の物語、本書は光源氏の時代の物語となっています。紫式部が作中人部として登場しているのは両者の共通点ですが、岡田作品では式部の一人称形式にしてほとんど出ずっぱりでしたが本書は頭中将など式部以外の人物にスポットライトが当たる場面が随所にあります。平安時代の貴族社会では普通なのかもしれませんが現代の社会常識から見れば乱れた人間関係描写が多く、時にホラー風な場面さえあるのは好き嫌いが分かるでしょう。重苦しい結末も読者を選びそうです。 |
No.1044 | 5点 | 中国銅鑼の謎- クリストファー・ブッシュ | 2016/02/05 12:24 |
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(ネタバレなしです) 1935年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第13作の本格派推理小説です。被害者の周囲に容疑者たちがいたにも関わらず銅鑼が鳴った音で銃声がかき消されてどこから撃たれたかわからないという、誰がどのようにして被害者を射殺したのかというのがメインの謎です。トラヴァースの手書きによる現場見取り図が添えられていて、しかも誰がどこにいたかまで書き込まれているのが親切で大いに助かります。でも微妙に書き方が粗くてわかりにくいです(笑)。この作者らしいのですがストーリーテリングが上手くなくて損をしており、せっかく容疑が転々とするプロットを用意しても謎解きが盛り上がりを欠いています。 |
No.1043 | 5点 | 小鬼の市- ヘレン・マクロイ | 2016/02/03 14:33 |
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(ネタバレなしです) 1943年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第6作ですが、洗練された本格派推理小説だったシリーズ前作の「家蠅とカナリア」(1942年)とは作風が大きく異なっていたのに驚きます。カリブ海の島国サンタ・テレサを舞台とし、異国情緒や時代性を感じさせます。フィリップ・スタークという男を主人公にした冒険スリラー風のプロットですがスターク自身も謎めいた人物として描かれており、スパイ小説的な要素もあります。犯人当てとしての推理も充実したもので、ジャンルミックス型ミステリーとしてよくできた作品だと思います。ただ本書におけるベイジルの扱い方はかなり特殊なので、シリーズ作品として最初に読むべき作品ではないと思います。 |
No.1042 | 6点 | 迷路荘の惨劇- 横溝正史 | 2016/02/03 14:17 |
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(ネタバレなしです) 中編「迷路荘の怪人」(1956年)を長編にリメイクして1975年に発表した金田一耕助シリーズ第28作の本格派推理小説です。元となった中編の方は私は未読ですが本書はだらだら感もなく、この長編化は成功と言ってもいいのではないでしょうか。作中時代が1950年ということもあって前時代的な雰囲気が濃厚ですが、横溝の作風はこの古さがよく似合っていると思います。密室トリックまで前時代的なのはまあご愛嬌ということで(笑)。 |
No.1041 | 4点 | オイディプス症候群- 笠井潔 | 2016/02/03 14:03 |
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(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズは第3作の「薔薇の女」(1983年)と第4作の「哲学者の密室」(1992年)の間に長期間の空白がありましたが、シリーズ第5作である本書も2002年の出版とこれまた久方ぶりです。光文社文庫版で上下巻合わせて1000ページを超す大作の本格派推理小説で内容も濃厚です。このシリーズの特色である哲学に加えて、神話や性愛に関する議論がびっしりと作中に織り込まれています。ただ過去のシリーズ作品に比べてそれらの議論と謎解きとの関連性が弱いように感じられ、無用に長大な作品になってしまったような気がします。また読者へのフェアプレーを意識したのでしょうが、早い段階で共犯者や便乗殺人の可能性が指摘されるのですが、そこまで可能性を広げられると私のような凡庸な読者では真相を当てようとする気になりません(理解するのも難儀でした)。過去作品のネタバラシをする悪癖は相変わらずで、「バイバイ、エンジェル」(1979年)や「薔薇の女」の犯人名を明かしています。これは本当にやめてほしいです。 |
No.1040 | 5点 | 長い長い眠り- 結城昌治 | 2016/02/03 13:43 |
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(ネタバレなしです) 1960年発表の郷原部長刑事シリーズ第2作です。ユーモア本格派推理小説として紹介されていますが直接的に笑いを誘うような場面はほとんどなく、最後になってそそっかしさが招いた皮肉がわかるというプロットでした。主人公の郷原部長刑事の出ずっぱりではなく、合間合間で容疑者たち同士のやり取り場面を挿入して単調にならないように工夫はしていますが、感情を抑制した人物描写は好き嫌いが分かれるかもしれません。国内ハードボイルド作家の先駆者の一人として評価されることになる結城らしいとは言えるでしょうけど。 |