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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1294 5点 血に飢えた悪鬼- ジョン・ディクスン・カー 2016/06/12 05:10
(ネタバレなしです) カー(1906-1977)の最後の作品となった1972年発表の歴史本格派推理小説で、作中時代は1869年、探偵役を「月長石」(1868年)の作者ウィルキー・コリンズが務めています(作中で「月長石」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい)。もっともコリンズは出番が意外と少なくてそれほど印象的ではありません。史実としてこの時代のコリンズはリューマチと阿片中毒に苦しんでいたそうなので意図的に精彩に乏しい描写をしたのかもしれませんが。密室トリックは小手先のトリックで可もなく不可もなくといった感じですが、中盤で明かされたもう一つのトリックにはどちらかといえば悪い意味で驚かされました。ある人物が長々と説明しているのですが、これは絶対に無理だという思いが頭から離れないまま読みました。本書はユーモア本格派ではありませんが、こんなお馬鹿で強引なトリックは笑い飛ばすのが1番か(笑)?

No.1293 4点 使いこまれた財産- E・S・ガードナー 2016/06/11 07:33
(ネタバレなしです) 82冊もの長編が書かれたペリー・メイスンシリーズですが被告に法廷で証言させているのは非常に珍しいそうです。1965年発表のシリーズ第75作の本書はその珍しいシーンが読める作品です。メイスンのライヴァル的存在のはずなのに結構お間抜けぶりの方が目立ってしまうハミルトン・バーガー検事が本書ではなかなか健闘しており、法廷での対決ではメイスンよりポイントを稼いでいるのではという印象を受けました。謎解きは極めて粗く、最終章でメイスンがこの人は犯人でないと説明していますが理由が皆無に近く、私はこの人が犯人だっていいのではと思ってしまいました。

No.1292 4点 毒の神託- ピーター・ディキンスン 2016/06/11 07:15
(ネタバレなしです) 1974年発表の本書はジャンルとしてはシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説に分類できる作品ですが相当奇妙な味付けがされた作品です。謎解きプロットは意外とストレートなのですが、これでもかと言わんばかりの独特な世界の描写に圧倒され、ミステリーであることを忘れてしまいそうです。空想世界を舞台にするのはディキンスンの得意とするところですが、架空のアラブ人や沼族の風俗習慣、チンパンジーの学習プログラムなどあまりにも異世界的で、私のような想像力も読解力も乏しい読者には厳しい作品でした。

No.1291 7点 俳優パズル- パトリック・クェンティン 2016/06/11 02:17
(ネタバレなしです) 1938年発表のピーターとアイリスのダルース夫妻シリーズ第2作ですが本書ではまだ結婚前で、名探偵役は前作「迷走パズル」(1936年)に続きレンツ博士が務めています。前半は同時代のジョン・ディクスン・カーに匹敵するほどのオカルト雰囲気と合理的なトリックの組み合わせの妙が楽しめます。後半はがらりと様相が変わり、複雑な人間関係描写を中心にした謎解きになります。この多面性を高く評価する読者も多いでしょうが、個人的には最後まで怪奇性を維持してほしかった気もします。

No.1290 5点 荒野のホームズ- スティーヴ・ホッケンスミス 2016/06/11 01:52
(ネタバレなしです) 米国のスティーヴ・ホッケンスミス(1968年生まれ)はジャーナリスト出身で、ミステリー作家としては2000年のデビューです。当初は短編ばかりでしたが2006年発表の本書から長編も書くようになりました。シャ-ロック・ホームズのパロディー風なタイトルで(英語原題は「Holmes on the Range」)ホームズが実在する世界という設定ですがホームズは登場せず、西部アメリカを舞台にして赤毛のカウボーイ兄弟(ホームスに私淑する兄グスタフがホームズ役、弟オットーがワトソン役)が活躍するシリーズです(ちなみに初登場作品は「親愛なるホームズ様」(2003年)という短編だそうです)。個性豊かな人物が登場し、西部ならではの撃ち合いもあるかと思えばぞっとするような猟奇的な場面もあったりと起伏のある物語ですが手堅い文章で意外とドライに流れます。まあこのプロットで描写が丁寧過ぎると汚らしさやおぞましさや品のなさが気になりそうなので本書程度で十分だと思います。どんでん返しの謎解きが楽しめますが、グスタフだけが知っていた手掛かりで犯人を特定できる立場にあったというのでは謎解き好き読者に対してアンフェアに過ぎる気がします。

No.1289 6点 苦いオードブル- レックス・スタウト 2016/06/11 01:04
(ネタバレなしです) 1940年発表の本書はテカムス・フォックスシリーズ第2作の本格派推理小説です。「手袋の中の手」(1937年)の女性探偵ドル・ボナーも顔を出しますがわずかな登場シーンだけの脇役扱い、しかも活躍しているとは言えないのがちょっと残念。私立探偵に対して必ずしも協力的ではない事件関係者からどうやってフォックスが情報を探り出すかというのを丹念に描いているところはネロ・ウルフシリーズと共通していますね。本書のプロットなら危機に巻き込まれたエイミーにもっと焦点を当ててサスペンスを盛り上げるというのも一つのやり方ではあったでしょうけど、探偵の丁寧な捜査と推理を堪能できる本格派推理小説として手堅く書かれた作品に仕上がりました。

No.1288 4点 誘拐殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2016/06/09 17:44
(ネタバレなしです) 1936年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第10作ですが、サスペンス小説に流れやすい誘拐と本格派推理小説の謎解きを組み合わせようとする努力は評価したいものの、彼の作風に合わないハードボイルド小説要素まで織り込もうとしたのは失敗だったと思います。もともとこのシリーズは知識教養を豊富に織り込み、スリラー系が主流だった当時のミステリーとは一線を画していたことが成功要因だったと思いますが本書はそういったイメージと微妙に乖離していて、とはいえ通俗というほど開き直ってもいないので中途半端な作品に感じます。当時の評価も散々だったようです。駄作とまでは言わないまでも、後期のヴァン・ダインはレベルダウンしてしまったと言われても仕方のない出来だと思います。

No.1287 5点 密偵ファルコ/水路の連続殺人- リンゼイ・デイヴィス 2016/06/09 16:53
(ネタバレなしです) 1996年発表のファルコシリーズ第9作は無差別連続殺人の犯人探しを扱っていますが、王道的本格派推理小説とは異なるプロットになっています。犯行パターンから犯人の特長を分析するプロファイリング手法を歴史ミステリーに織り込んだ本格派推理小説というべきでしょうか。被害者の素性は大半が最後まで不明のままだし、犯行動機に至っては完全に無視されています。停職中の警備隊長のペトロをファルコが助手代わりに使っていますがほとんど役にたっていません(笑)。ヘレンの方が断然有能そうですが、家族を危険に巻き込まないよう必死でファルコが押し止めています。ローマ帝国自慢の水道網を謎解きに絡めているのはナイスアイデアですが、読者に馴染みのない知識なのでちゃんと地図が添付しているとはいえ推理が難解に感じられました。このシリーズとしては盛り上る場面が少ない方ですがそれでも終盤はサスペンス豊かな場面が続き、解決後に笑えるネタまで用意しているところが巧妙です。しかも次作を待ち遠しくさせるようなエンディングに至っては何と商売上手なこと(笑)。

No.1286 6点 最長不倒距離- 都筑道夫 2016/06/09 12:21
(ネタバレなしです) 1973年発表の物部太郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。光文社文庫版で300ページ程度の長さしかなく文章も軽快ですが密室殺人、死者からの電話、ダイイング・メッセージなど謎は盛り沢山で複雑なプロットになっています。トリックは子供だまし的なものもあってそれほど印象には残りませんが、トリックよりロジック(論理)重視の謎解きは読み応えたっぷりです。できれば舞台となる温泉旅館の見取り図が欲しかったですが。

No.1285 6点 金雀枝荘の殺人- 今邑彩 2016/06/09 12:00
(ネタバレなしです) 1993年発表の本格派推理小説です。冒頭に置かれた「序章という名の終章」では幽霊視点のような描写があり、霊感豊かな(?)登場人物が何度か「出た~っ」と騒ぐなど、ホラー小説的な味付けがなされていますがあくまでも味付けに留まっておりホラー小説が苦手な私でも許容範囲でした(逆にホラー要素に期待し過ぎると物足りなく感じると思います)。作者のあとがきで、犯人はAかBか、2つの可能性だけ提示して答えは出さず、どちらを選択するかは読者の自由という無責任な探偵小説を当初は構想していたと書いていたのには驚きました。後年発表の東野圭吾の某作品の先駆になった可能性があったのですね。結局本書はきちんとした解決を迎えており東野作品ほどの知名度は得られませんでしたが、私は作者の良心的な姿勢が感じられる本書の方が好きです。謎解きも巧妙なミスディレクションに感心しました。カーター・ディクソンの「ユダの窓」(1938年)のネタバラシは勇み足だと思いますが。

No.1284 5点 山師タラント- F・W・クロフツ 2016/06/08 18:52
(ネタバレなしです) 1941年発表のフレンチシリーズ第21作の本格派推理小説です。時代が時代だからかもしれませんが、素性の知れない薬品が簡単に市場に流通するストーリーにはそれほどリアリティーを感じられませんでした。前半は野心家の薬局店員タラントの物語ですがタラントばかりに焦点を当てているわけではなく、彼と利害関係のある人間も丁寧に描写されていて群像ドラマ風です。もっともクロフツなので性格描写という点ではそれほど成功してはいません。フレンチの登場は中盤以降で、いつもながらの地味な捜査に加え、法廷シーンがあるのがクロフツとしては珍しいです。作者は更に法廷後の場面も用意するなどプロットに多少工夫しているところがありますが、棚ぼた気味の解決に加えて謎解き説明が十分でないのが残念です。

No.1283 6点 クッキング・ママの依頼人- ダイアン・デヴィッドソン 2016/06/08 18:46
(ネタバレなしです) コージー派ミステリーでアマチュア探偵が事件捜査に顔を突っ込むのは、自分自身か大切な人が事件に巻き込まれたのがきっかけというケースが圧倒的に多いのですが、1997年発表のゴルディシリーズ第7作である本書は何と大嫌いな人のために探偵するというのが非常に珍しく、これはどういう結末になるんだろうとわくわくさせます(できれば過去のシリーズ作品を読んでから本書に取り組むことを勧めます)。最後はやや棚ぼた式に犯人が判明していますが、推理するための伏線も張ってあります。ゴルディが逃げようとする犯人を捕まえるやり方も機知に富んだものです。

No.1282 6点 バースへの帰還- ピーター・ラヴゼイ 2016/06/08 18:28
(ネタバレなしです) 警察をやめて2年が経過しているピーター・ダイヤモンドがかつて自分が殺人犯として逮捕したマウントジョイの脱獄の件で警察から協力要請される、1995年発表のシリーズ第3作です。過去の2作品に比べて本格派推理小説要素が増え、CWA(英国推理作家協会)のシルヴァー・ダガー賞を獲得しています。ただキャラクター描写はやや表面的になり、特にマウントジョイの無実を訴える声や誘拐犯としての危険な雰囲気がそれほど伝わってこないところは評価の分かれそうなところです。良くも悪くも淡々とした筋運びの作品で分厚い割りには読みやすいです。謎解きは動機についてはかなり細かく追求していますが、逮捕するだけの具体的な証拠探しについてはやや不十分の印象を受けました。

No.1281 5点 グリシーヌ病院の惨劇- ジャック・バルダン 2016/06/08 18:20
(ネタバレなしです) フランスの高校教師ジャック・バルダン(1965年生まれ)が友人の勧めで夏休みの間に書き上げた1997年発表の本書はかなり風変わりな本格派推理小説でした。目を引くのが「読者に対する意識」です。作者からの読者へのメッセージのようなものが随所で挿入されるだけでなく、作中人物のアルソノー刑事にまで「推理小説の人物として読者を意識した発言」を何度も言わせているのが斬新です。「重要容疑者を物語の終盤になって登場させては読者も不満に感じるだろう」などとまともな本格派推理小説を期待させておいて、最後に型破りな結末が待ち構えているところなどは油断なりません(不満に思う読者もいるでしょうが)。

No.1280 4点 猫は床下にもぐる- リリアン・J・ブラウン 2016/06/08 17:43
(ネタバレなしです) 1989年発表のシャム猫ココシリーズ第9作のコージー派ミステリーです。些細なトラブルがやがて凶悪な大事件の謎解きにつながっていくというプロット構想は悪くないのですが、クィラランの推理は最終章でアマンダが言うように「あほらしいたわごと」レベルで、運のよさとはったりで解決したようにしか感じませんでした。クィラランと大工のイギーの漫才みたいなやり取りはなかなか面白かったですけど。

No.1279 5点 デーン人の夏- エリス・ピーターズ 2016/06/04 05:03
(ネタバレなしです) 1991年発表の修道士カドフェルシリーズ第18作です。1144年4月、懐かしのマーク(かつてのカドフェルの弟子)との再会で物語は幕を開け「死者の身代金」(1984年)に登場した某人物も重要な役どころで出演します。内容は完全に冒険スリラーと言ってよいでしょう。一応殺人事件と犯人探しも用意されていますがストーリーのメインテーマではなく、カドフェルも単なる傍観者的な役回りに留まります。冒険スリラーとしては様々な登場人物の思惑や行動が入り乱れ、どんでん返しの展開がスリリングですが、本格派推理小説を期待する読者には楽しめる部分は少ないと思います。

No.1278 4点 封じられた指紋- アントニイ・オリヴァー 2016/06/04 04:50
(ネタバレなしです) 英国のアントニイ・オリヴァー(1923-1995)はアンティーク商を営む一方で1980年代にジョン・ウェバーと未亡人リジー・トーマスのコンビを主役にしたミステリーを4冊発表しており、そこにはアンティーク業界にまつわる知識が散りばめられているそうです。ウェバーがフランスで起きた夫婦焼死事件を調査する本書は1985年発表のシリーズ第3作で、本格派推理小説と紹介されている書評も多いのですが犯罪スリラーとして読んだ方がいいと思います。確かに推理によって容疑者を犯人候補から外したりしてはいますが犯人当てミステリーとしては反則級のトリックが使われています。焼死トリックの謎解きも本格派推理小説の常識範囲を超えたものです(確かに意表を突かれましたけど)。

No.1277 6点 嘘から出た死体- A・A・フェア 2016/06/04 04:38
(ネタバレなしです) 1952年発表のドナルド・ラム&バーサ・クールシリーズ第13作です。もっとも本書のバーサは金勘定ばかりでちっとも役に立っていないのですが(笑)。バーサの援護はなし(秘書のエルシーは影で支えてくれますが)、警察にはにらまれ、ドナルドは四方八方敵だらけみたいな状態に陥りますがそこからの戦局打開はまさに快刀乱麻、複雑な事件背景を一気に解決します。結末も痛快に締めくくっています。

No.1276 4点 カモミール・ティーは雨の日に- ローラ・チャイルズ 2016/06/04 04:20
(ネタバレなしです) 2005年発表の「お茶と探偵」シリーズ第6作で、ランダムハウス文庫版の巻末解説ではこれまでの作品とは違うように評価していますが謎解きとしては特に変化は感じません。強いて挙げるなら容疑者数が少ないので早い段階で犯人の見当がつきやすいことでしょうか。セオドシアの日常の人間関係に関しては前作「ジャスミン・ティーは幽霊と」(2004年)を読んだ人はちょっと驚くかもしれない変化が起きていますが、問題の人はドレイトンやヘイリーに比べると影が薄かった人物なので正直どうでもよかったです(笑)。

No.1275 2点 悪夢はめぐる- ヴァージル・マーカム 2016/06/04 04:13
(ネタバレなしです) 米国のヴァージル・マーカム(1899-1973)は1920年代から1930年代にかけて8作のミステリーと2作の歴史小説を書いたことが知られているのみで、そのミステリーもいわゆるB級ミステリー系らしいです。1932年発表の本書の原書房版の巻末解説でマーカムの作品を「中盤までは文句なく面白いものの竜頭蛇尾の結末を迎えるものが少なくない」と紹介していますが、本書に関しては主人公の行動原理がわからないままに場当たり的に怪しげな人物たちと出会い、場当たり的に事件が起きていく展開で、冒険スリラー風ながら物語の筋が見えないゆえにサスペンスが犠牲になっています。後半になって密室内の溺死体という不可能犯罪の謎が唐突に発生し、第24章では本格派推理小説風の謎解き議論が活発になりますが真相解明はあっけなくしかも魅力的でありません。序盤の場面を再現するような締め括りになっているのが工夫として光ってはいますが、個人的には「中盤まで文句なくつまらなく、竜頭にさえ至らないまま結末を迎えた」作品のように感じます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
ローラ・チャイルズ(24)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)