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[ 本格 ]
金曜日ラビは寝坊した
ラビ・スモールシリーズ
ハリイ・ケメルマン 出版月: 1972年07月 平均: 6.83点 書評数: 6件

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1972年07月

早川書房
1976年04月

No.6 7点 クリスティ再読 2019/06/29 07:58
「スミスのかもしか」に続いて本作...でユダヤ=イスラエル3連発を狙ってます。第二弾でケメルマンのラビ第一作。クイーンの従兄弟たちだってユダヤ系なわけで、クイーンがこだわったダイイングメッセージだって、カバリズムに引っ掛けて論じたのを見た記憶もある。
しかし、ユダヤ教というのも、長い歴史があって実に多様なわけである。ラビ・スモールが属する宗派は「保守派」というセクトになる。名前のイメージに反して、アメリカでできたセクトで、世俗性が強くて、ハシディズムみたいな神秘主義的色彩は薄いようだ。作中でも強調されるが、ラビ、というは「僧侶」ではない。一般信徒と同等の特権と義務しかないわけで、日本で言えば浄土真宗の坊さんみたいなものだろう。タルムードに通じた学者というニュアンスが強そうだ。主人公のラビ・スモールはそういう「学者バカ」なキャラで、これが原因で教会のメンバーの一部から排斥される騒動もあって、この顛末が面白い。
ミステリ的な部分はかなり地味だけど、伏線丁寧だからカンが良ければ分かるんじゃないかな。殺された若い女性のハンドバッグが、教会(どうやら原著もTemple でシナゴーグじゃないみたい)に駐車したラビの車から見つかって、ラビ自身にも軽く容疑がかかる。早く真相を解明しないとユダヤ人差別事件を誘発しかねないコミュニティの危機を、ラビはどう凌ぐか?ここらのドラマづくりの上手さがナイス。
「タルムードの知恵」を生かして、冒頭に信徒間トラブルをラビが裁定するけども、その結論は弁護士相談みたいな地味な民法風の解釈で、結構「ふつう」。超絶論理を期待しちゃ、いけないや。ちょっとバレかもしれないが、こんなとこに間接的な伏線が仕込まれているから、そういう丁寧な仕事を面白がる小説だと思う。

No.5 6点 E-BANKER 2018/03/25 22:01
『九マイルは遠すぎる』で著名な作者のもうひとつの代表作(っていうかシリーズ)。
「○曜日+ラビ」シリーズ全五作の初っ端を飾るのが本作。
1964年の発表。

~マサチューセッツ郊外の町バーナード・クロスウィングに赴任してきた若いラビ(ユダヤ教の律法学士)、デイビット・スモールの評判は芳しくなかった。無頓着な服装と理屈っぽい説教に、教会の古い信者たちは眉をひそめていた。そんなとき、教会の庭に置いてあったラビの車のそばで女の絞殺死体が発見された。捜査は難航し、手掛かりはラビの車に残された女のハンドバックだけ。苦境に立ちながら、ラビは驚くべき論理性に貫かれた推理を駆使して反撃を開始した・・・~

なかなか事件が起きないし、本筋以外の脇道や薀蓄めいた説明箇所が多すぎない?
読みながらそんなことを考えずにはいられなかった。
まぁ、シリーズ一作目だしね。
いきなり「ラビ」って言われても、『何それ?』って思うよね、多分。

他の方も書かれているとおりで、ユダヤ教やユダヤ人、彼らのサークル(社会)などが丁寧に説明されていて、それはそれでまぁ参考になったといえばそうなのだが・・・
その代わり、本筋がやけにあっさりしてたなというのは否めない。
「車の後部座席に残された吸殻」のくだりだけが、いかにも作者らしい、「九マイル・・・」に通じるロジックっぽい箇所かな。
ただ、このフーダニットはどうだろう?
確かにサプライズ感はあるけど、まさかあの違和感がこんな結果になるとは・・・ということで、作者の大胆さにある意味サプライズだ。

良く言えば「ケレン味のない文章」だし、そこは評価すべきポイントなのだろう。
その分、派手好みの方には少々物足りなく映るかもしれないが・・・
個人的には嫌いではないが、もうワンパンチ、ツーパンチ欲しかったなという気にはさせられた。(曖昧な表現ですなぁー)
でも続編は読むでしょう。

No.4 6点 nukkam 2016/06/25 18:25
(ネタバレなしです) G・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズのように聖職者を探偵役にした本格派推理小説はいくつか例がありますが1964年発表の本書に始まるラビ・スモールシリーズはユダヤ教のラビ(本書を読むと律法学士と紹介されており聖職者とみなすかは微妙なようです)が探偵役で、ユダヤ教やユダヤ人社会を丁寧に描いているのが特色となっています。宗教色も民族色も決して押しつけがましくはなく万人受けする作品に仕上がっています。謎解きの方も派手な展開は全くありませんがツボは手堅く抑えてあります。あまりに大胆な伏線には驚いたというより笑ってしまいましたが。

No.3 7点 2013/09/10 23:41
再読してみると、このラビ・シリーズ第1作では、「ラビ」とは何かということについて、ラビ・スモールと他の登場人物たちとの会話の中で、カトリックの神父やプロテスタントの牧師と比較しながらていねいに解説されていました。また、ラビの論理的な推理の基礎となっている学問的な経験についても語られています。そのような細かい背景説明は概して鬱陶しいものになりがちですが、それがごく自然な流れの中で描かれているのです。堅苦しくならない緻密さとでも言ったらいいかもしれません。
謎の提出とその論理的解決だけを見れば、『九マイルは遠すぎる』に収録された諸短編とスケールや複雑さはほとんど変わりません。また、犯人指摘の根拠の一つには、ラビからの言い訳はあるものの、不満を感じました。しかし全体的には、ラニガン警察署長の人柄をも思わせるような好感の持てる作品になっています。

No.2 6点 kanamori 2011/03/09 20:47
ラビ(ユダヤ教の律法学士)デイヴィッド・スモールが探偵役のシリーズ第1作。久しぶりに再読。
教会の敷地内で見つかった女性の絞殺死体を巡り、ラビ自身も容疑者として事件に巻き込まれる、というのがあらすじです。信徒会のメンバーを中心に、ユダヤ人社会やラビの契約更新問題が随所に描かれていて、作品世界を丁寧に構築しています。
ミステリとしては決して派手さはないものの、車に残されたハンドバックから事件の様相を推理するシーンや、真犯人特定の場面など、名作「九マイルは遠すぎる」に劣らないロジックを披露しています。

No.1 9点 こもと 2008/05/19 23:12
 このシリーズは『○曜日ラビは・・・』とすべての曜日の数、過去に刊行されていますが、残念ながら現在は絶版本です。 まぁ、比較的手に入り易いのは、この『金曜日』のようですが。

 内容はと言えば、一見すると頼りなさげ~なラビが、終盤で怒涛の論理展開を見せるというこのギャップに、爽快さを見出してしまおうではないか、というミステリです(笑)
 死体がバラバラだったとか、閉塞された空間で起きた殺人だったとか、予告殺人だったとか・・・このミステリには、確かに、派手な演出は一つもありません。 ただ、そこにあるのは「ラビ本人が、一番犯人として疑わしいではないか」という事実のみ。 それを如何に論理的にひっくり返すことが出来るのか・・・ミステリを読み始めたばかりのあの頃(どの頃?)の、純粋に推理の過程を楽しんだ気持ちを思い出せるのです。 これぞ、まさしく『推理』小説。

 さて、ここまで感想を書きましたので、楽しんでいただきたいのは山々ですが、なにしろ絶版本ですからね・・・まず、この本を手に入れるところから始めていただかなければなりません。 幸運を祈ります(笑)←オニ


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ハリイ・ケメルマン
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