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こもとさん
平均点: 6.60点 書評数: 86件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.86 6点 去年の冬、きみと別れ- 中村文則 2018/08/15 12:55
メジャー作品を読んだので、感想を一言。(笑)

推理小説というものは一般的に、物語に於ける起承転結の結部がわかりやすいと思っている。
乱暴に言ってしまえば、大広間に関係者を集めて「この中に犯人がいます」と、探偵に宣言させれば良い。

しかし今作に於いては、そのセオリーが通用しなかった。

起承転結の結は、どこが始まりだったのだろう…? 自分が今読んでいるこの描写は、もう伏線の回収に入っているつもりで読んでいいのか、それともまだ、転部が続いているのか…読みながら私は、とても不安だった。
不可解で曖昧な狂気に満ちた世界は、物語の骨組みという流れすらも、不安定にさせていった。
それがこの作品世界に取り込まれるということだったのだと思う。

最後の一文のために、多くの方が本書を冒頭から見直しているのではないかと、想像がつくし、気持ちもわかる。
でも、その一点集中をこの本の評価とするのは、違うんじゃないかとも思う。
そこはちゃんと、注意書きが書かれているのだから、「考えるな、感じろ」ってところ。

※20160524読了

No.85 5点 逃亡作法 - 東山彰良 2010/01/09 02:36
 「好みか」と問われれば、思いっきり否定したいほど、内容はエグイ(笑)
 『逃亡作法』ってタイトルは、作者のセンスを感じるし、 前半はこのタイトルや装丁に見合う内容の脱獄モノだったと思うのだが。 なのに、後半の失速具合は何だろうか、と。
 スピーディーだとは思えなかったし、かと言って、『不夜城』のようなピリピリした印象もなかった。 場面の転換があっても、シチュエーションがわかり難いので、流れが掴めなかったことが、トーンダウンの原因かな、と。
 気の利いたセリフとジョークがなかったら、読むのは正直、しんどかったと思う。

No.84 6点 屋上物語- 北森鴻 2010/01/09 02:31
 良くも悪くも、あまりにも、北森作品らしい。 つまり、キャラの魅力はふんだんにあるが、謎解きに関しては、推理というには根拠が弱く、推測の域を出ない印象しか持てないということ。
 などと、手厳しいことを言いつつ、実は私は北森氏の大ファンなんですが。 だって、ミステリと言えども『小説』ですもの、こんなに人物が描ける作家を、嫌いなワケないじゃないですか(笑)
 正直、起こる事件の内容に関しては、救いようがない。 残忍というよりも、残酷なストーリーばかりだったけれど、3人のキャラ設定で救われた部分は、大いにある。
 以前、『数字錠』を読んだ時、事件を解決した探偵が御手洗潔で良かったと思ったものだが、この短編集も、探偵役がさくら婆ァであることに意味がある気がした。

No.83 6点 模倣の殺意- 中町信 2009/11/28 21:51
 長編ではあるが、印象としては小品であり、同時に良品であるとも思う。 こぢんまりと品よくまとまった作品。
 正直、先は読める。 どこかで読んだ気がするなぁ、というような。 でもそれは、今の時代であるからこそ、だとも思う。
 逆に言えば、40年近く前に書かれたこの作品に、現在巷にあふれかえっている多くのトリックの方が、似ているのだと思うから。
 ただ、メイントリックに、ちょっとばかりご都合主義が垣間見えてしまったのは、否めない。

No.82 5点 密室に向かって撃て!- 東川篤哉 2009/11/17 12:39
 この手のギャグを小説として読むには、ぬるさが痛い。 以前、『しゃべくり探偵』を読んでいて、辛かったことを思い出してしまった。・・・と言っても、私が単に好みじゃないだけかもしれませんが。
 「科学捜査をもってすれば、多々矛盾が出てくるんじゃない?」と思えてならない解決も、ちょっと。

No.81 8点 空中ブランコ- 奥田英朗 2009/11/17 12:37
 一作目に感じた、伊良部キャラの突拍子のなさが、二作目ともなると、あろうことか、違和感を感じなくなってしまったという・・・そんな恐怖を味わった(笑) 逆に、何をやらかしてくれるのかと、期待してしまう始末。
 しかし・・・表紙の赤ちゃんが、私にはもう、伊良部にしか見えない。 かわいいのに、気の毒。

No.80 4点 震源- 真保裕一 2009/11/17 12:34
真保氏、大好きですが、この本の評価は微妙。 最初に大風呂敷を広げ過ぎた感があるので、まとめに入る頃には最初の方との繋がりがピンと来ず。 相変わらず、主人公となる男性はキャラ的に男前で、好みですが。

No.79 4点 クリスマスの4人- 井上夢人 2009/11/17 12:31
 あららら、この解答はいただけない。 ある意味、ミステリとして一番やってはならないことなので、違うジャンルの本を読んだと思えば、腹も立たないのだろう。
 井上作品は、何気にエンドレスというか、ループというか、メビウス的なものが多いが、個人的に一番成功してるのは「プラスティック」かと思う。
 ラストの興ざめ具合は、もっと得点が低いのだが、途中までは楽しませてもらえたので、4点をつけておく。

No.78 9点 ジョーカー・ゲーム- 柳広司 2009/02/12 19:02
 オススメ度を聞かれたら、かなりの高得点です。
 私は基本的に文庫本読みなので、「ハードカバーを買って面白くなかったということは、賭けの敗北を意味する」と、常々言っておりまして。 この本は目出度くも、久々の勝利です(笑)
 やはり、こういう、作家の頭の良さが窺える作品は、楽しいですね。 無駄のない文体も、スパイ養成学校というクールな舞台に見合っていますし。
 すべての短編に、「一を聞いて十を知る」ことが出来る程の切れ者の主役がいるにも関わらず、彼らの背後に浮かぶ結城中佐の影の、なんと巨大なことか・・・まさに『魔王』。 どんだけのレベルですか、このキャラ(笑)
 最終話『XX(ダブルクロス)』のラストシーンで、私は結城中佐に感電死しました・・・。
 『秀作』という言葉が、これほど当てはまる小説に出合ったのは、久しぶりです。

No.77 8点 不夜城- 馳星周 2009/01/10 13:30
 いやはや、なんというか・・・全編に渡って、緊張感が漲っている本でした。
 どのページからもピリピリした印象が感じられて、本から目が離せない状態だったと言えます。 謎解きモノではないけれど、二転三転するそのスリルや、サスペンスを考えると、読む価値は十分にあり。
 歌舞伎町を牛耳ろうと目論む、それぞれのカケヒキの様子も面白く、まさに「殺るか、殺られるか」の厳しい世界は、読んでいて背筋がゾクゾクと(笑)

No.76 8点 笑う警官- 佐々木譲 2008/07/01 16:11
 面白かった。 語彙が貧困なので恐縮だが、「面白かった」というのが正直な感想。
 所轄署が、いわゆるキャリアを相手に一泡吹かそうと頑張っちゃう話。 まず、その設定がこもと的にポイント高し。 銀行員であれば伊木(果つる底なき)、勤務医であれば田口(チーム・バチスタの栄光)を彷彿させるところだけれど、佐伯の用意周到さは、「陽気なギャング」の成瀬タイプ。 冷静で、男気があって切れ者の佐伯は、素敵なのに、自分の魅力をわかっちゃいないというか、自分をただのオッサンだと思ってる。 憎いキャラ設定だと思う。
 こんなこと言っちゃアレなんですが、私的には、水村殺しの真犯人を知ることなんて正直、どうでも良かったですね(オイ) そんなことよりも、ノンキャリアの佐伯が最後の山場で見せる、その切れ者ぶりに、この本の魅力が凝縮されていると言っても過言ではない・・・えぇ、そう思っていますから。 オススメです。

No.75 5点 空を見上げる古い歌を口ずさむ- 小路幸也 2008/06/05 02:51
 メフィスト賞って、ミステリ分野の文学賞だと思っていたのですが、そういうワケではないのですね? これは、サスペンスやホラーの色濃い本。

 「みんなの顔がのっぺらぼうに見える」
 冒頭からぐいぐいと引き込まれていく設定ではあるのだけれど。 でもそれは、「ミステリとして、この謎にどのような解がつくのだろうか」という興味があったから。 でもまぁ、これは私が勝手にこの本をミステリだと思い込んで読み、勝手に失望したというだけのこと。 「読み物」として考えれば、十分に面白いのだと思う。

 でも、初めて読む本であるにも関わらず、実は私「この話を知ってる」とも思った。 ノスタルジー漂う空間と、不可思議な謎。 それは、過去に読んだ本と、あまりにも似ているから。
 ちょっと考えてみて、思い当たった本が3冊、何れも恩田陸氏の作品。
(「月の裏側」+「光の帝国」+「Q&A」)÷3=「空を見上げる古い歌を口ずさむ」。
 すべてを読了されている方には、私の気持ちがわかっていただけるかと思う。
 そして、ここから導き出される結論。

 「あぁっ! また、終わり方がハッキリしない~!」

No.74 7点 孔雀狂想曲- 北森鴻 2008/05/27 21:34
 何しろ骨董という世界ですから、イメージとして、古めかしい、ともすると因縁めいた世界を連想してしまうのですが。 それを清々しい読後感に仕立てるって・・・いや、さすが北森氏、お見逸れしました。 これはもう、キャラクターの魅力勝ちでしょう。
 私はやはり、「一見キレモノそうではない人が実は鋭い観察眼を持っている」という「私、脱いだらすごいんです!」ばりの設定に弱いのですねぇ(違)
 越名が強気で(謎解きの)勝負に出るシーンには、クラッと来ます。 えぇ、今の私の理想の男性は越名さんですから(いや、工藤さんは何処行った?/笑)

No.73 8点 悪夢のエレベーター- 木下半太 2008/05/27 21:31
 なんたる力技!(笑) そりゃもー感心する程の。
 んー、なんというか、筆の勢いに押されっぱなしの数時間でしたね。 いわゆる一気読みです。

 セリフが多かったこともあり、脚本調に感じた部分はあったけれども、さすが劇作家(作者は某劇団の主宰者)の書いた小説というだけあって、テンポの良さはピカイチ。 「どうやれば観客を(この場合は読者を)飽きさせることがないのか」、今までの仕事の経験上、十分に心得ていると言わんばかりの展開に、脱帽しました。
 第二章のマッキー編は、そりゃもー、下手なマンガよりも笑えるってもんです。

 荒削りだし、ツッコミドコロは満載だとわかっちゃいるんだけど、その欠点を補って余りある勢い。 つられて、ありゃりゃ、私も高得点をつけてしまったぞー!・・・そんな感じ(笑) 拍手。

No.72 9点 金曜日ラビは寝坊した- ハリイ・ケメルマン 2008/05/19 23:12
 このシリーズは『○曜日ラビは・・・』とすべての曜日の数、過去に刊行されていますが、残念ながら現在は絶版本です。 まぁ、比較的手に入り易いのは、この『金曜日』のようですが。

 内容はと言えば、一見すると頼りなさげ~なラビが、終盤で怒涛の論理展開を見せるというこのギャップに、爽快さを見出してしまおうではないか、というミステリです(笑)
 死体がバラバラだったとか、閉塞された空間で起きた殺人だったとか、予告殺人だったとか・・・このミステリには、確かに、派手な演出は一つもありません。 ただ、そこにあるのは「ラビ本人が、一番犯人として疑わしいではないか」という事実のみ。 それを如何に論理的にひっくり返すことが出来るのか・・・ミステリを読み始めたばかりのあの頃(どの頃?)の、純粋に推理の過程を楽しんだ気持ちを思い出せるのです。 これぞ、まさしく『推理』小説。

 さて、ここまで感想を書きましたので、楽しんでいただきたいのは山々ですが、なにしろ絶版本ですからね・・・まず、この本を手に入れるところから始めていただかなければなりません。 幸運を祈ります(笑)←オニ

No.71 8点 ふたたびの虹- 柴田よしき 2008/05/19 23:08
 いいですよ~、この本♪ 実は、私にとっての柴田よしき作品ベストです。 季節を意識した「美味しい料理」と「謎」を楽しめるという安楽椅子型のこの設定が、私のストライクゾーンど真ん中なんですね(笑)

 でももちろん、この本の魅力はそれだけではなく、一口に言えば、そばで一緒に話を聞いているかのような「居心地の良さ」なんです。 日本酒などちびちびとやりながら、ぽつりと呟けば、女将が微笑みながら話を聞いてくれる・・・彼女の笑顔とおばんざいには、人の緊張した糸を緩ませる力があるのだと、納得させる上手さは、さすがのストーリーテラー柴田氏です。

 北森氏の『香菜里屋』シリーズを初めて読んだ時、実は私の頭には、真っ先にこの作品が浮かびました。 和と洋、女将とマスターという違いはあっても、根底に流れる温かさは、同じものだと思いましたから。 もちろん、どちらもオススメ作品です。

No.70 4点 出られない五人- 蒼井上鷹 2008/05/12 20:28
 この作者の本はさらっと読めるのが魅力ではあるのだけど、今回はヒネリがなさ過ぎた。
 前回読んだ蒼井氏の本は、シニカル具合が楽しめたので、今回もそれを期待していたんですね。 今、そのような本を書ける作家って、なかなかいないと思うから。
 しかし、願望通りにはいかないもので、妙に間延びしているようで、そのくせ「あら?これで終わり?」みたいな長編に、ちょっと拍子抜け。
 彼のシニカルな作風は、短編でこそ活きてくるってことかなぁ。
 ショートショートなんて書いたら、故・都筑道夫氏ばりに面白そうだと思うんだけど。

No.69 6点 三人目の幽霊- 大倉崇裕 2008/05/10 23:01
 「日常の謎」、「落語」という二つのキーワードを使うと、頭の中の検索エンジンでは、北村薫氏の「円紫さんと私」シリーズが真っ先にHITするという方も多いのではなかろうか、と思う。
 もちろん、私もその一人ではあるのだけれど、ただ、あちらのシリーズを色で例えるとしたら、私は「白」だと思うんですね。 それは、物語の世界観が「清潔」過ぎるため、若干、絵空事めいた感が否めないからなんですけど。
 でも、こちらのシリーズの世界は、上記の作品よりも、醜い部分も描かれている分「現実的」かもしれない。 そういった意味で、イメージとしては「茶色」って感じかな。
 読みやすいし、私的には好きな系統ではあるんだけれど。 ただね、ワトソン役の緑さんの印象が薄いのが勿体ないと思う一方で、ホームズ役の牧編集長の容貌が「おにぎり顔」と書かれているのを見て、イメージが南伸坊氏の似顔絵で固まってしまったのには、参った(笑)

 収録作品で一番好きなのは、『患う時計』。
 「逆転の発想」って、「やられた!」の原点だな、とつくづく思う。

No.68 8点 イニシエーションラブ- 乾くるみ 2008/05/10 22:48
 恋愛小説が苦手分野な私ですから、読めども読めども激甘な展開に、何度本を放り投げようとしたことか(笑) それでもまぁ、読み進められたのは、文庫本梗概の「必ず二度読みたくなる」の意味が知りたかったから。 と言っても、ミステリ好きなら、仕掛けに大方の予測はつくんですけどね。
 そんな状況ですから、問題のラストも、「やっぱりね」とスルーしてしまったわけです。
 しかーし! 実はじわじわと、後から効き目が。 そして、本当の意味を理解した瞬間には、薄ら寒い気すらしました。 こうなるともう、「勘弁してよ」だったはずの甘々な部分を丹念に丹念に読み返してしまう自分がいます・・・まさに、解説者の思うツボ(笑) するとまた、練りこまれた作品であることに感心しきり。
 激甘の仮面に騙されてはなりませんね。 熟読した今、私は人間の怖さを描いたホラーだと思っていますから。

No.67 7点 ロートレック荘事件- 筒井康隆 2008/05/10 11:13
 人間、「思い込み」っていうのは、怖ろしいものですね。  私、この年になって、それを痛感しました・・・。
 いえね、思い込みの何が怖いかって言うと実はですね、私が筒井康隆氏の本を手にすることは、一生ないだろうなと思いこんでいたからなんですよ。 というのも、イメージとして、筒井氏は「流行作家」さんという感じがありましてね、私の中の「本格」というカテゴリの枠外だったと言いますか・・・。
 えぇ、強烈に勝手な思い込みでしたね。 ここに、訂正して謝りを入れたいと思います、ごめんなさい。

 「気合の入った本格ですよ、コレ。」
 ・・・・・以上(笑)

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こもとさん
ひとこと
 基本は、「ネタバレのない書評」とします・・・。
好きな作家
藤原伊織(ダントツ)、真保裕一、大沢在昌、鯨統一郎、石持浅海、加納朋子、恩田陸、ア...
採点傾向
平均点: 6.60点   採点数: 86件
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