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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1334 5点 ギリシャで殺人- エマ・レイサン 2016/06/21 08:53
(ネタバレなしです) 執筆当時の時事問題を作品に取り入れることのあるレイサンですが、1969年発表のジョン・サッチャーシリーズ第9作となる本書では1967年に起きたギリシャの軍事クーデターを背景に取り入れています。本書は冒険スリラーで、本格派推理小説の緻密なプロットに比べると解決に向かっての展開が好都合過ぎる感があります。悪役を追い詰めるための仕掛けが大掛かりでユーモラスなのがユニークです。パトリシア・モイーズの冒険スリラー(「ココナッツ殺人」(1977年)や「死の天使」(1980年)など)が好きな読者なら楽しめそうです。

No.1333 6点 探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ- ダイアン・A・S・スタカート 2016/06/21 08:42
(ネタバレなしです) 米国のダイアン・A・S・スタカート(1957年生まれ)は1994年にロマンス小説家としてデビューしてそちらの方面でも成果を上げているようですが、2008年に本書を発表してミステリー分野にも進出しました。あの天才レオナルド・ダ・ヴィンチを探偵役にしたシリーズ作品です。前半は本格派推理小説のプロットがしっかりしていますが後半は政治陰謀の要素が入ってきて冒険スリラー路線に流れていきます。これはこれで非常によくできていますが探偵の推理に関しては物足りません。とはいえエリス・ピーターズの修道士カドフェルシリーズが好きな読者ならきっと気に入ると思います。

No.1332 6点 シャーロック・ホームズのジャーナル- ジューン・トムスン 2016/06/21 08:39
(ネタバレなしです) イギリスに滞在することにしたアメリカ人百万長者へ送られる脅迫状の謎を解き明かす「脅迫された百万長者」、狂気の徴候を見せるようになったワトソン博士の旧友の事件の「ウォーバトン大佐の狂気」など7つの作品を収めて1993に発表された第三短編集です。過去の短編集の作品ではホームズが饒舌すぎたりワトソンがやたらと冴えていたりと若干ながらもドイル原作に比べて違和感を覚えることもありましたが、本書はもっとも原作の雰囲気を再現しているのではと思います。個人的には一番本格派らしい「スミスーモーティマーの相続」が好みですが、作品の出来映えにもばらつきがなく入門編としても好適の1冊と思います。

No.1331 4点 事件現場は花ざかり- ローズマリー・ハリス 2016/06/20 08:53
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ローズマリー・ハリスが2008年に発表したミステリーデビュー作ですが華やかで美しい花の描写を期待させるかのようなイソラ文庫版のタイトル(英語原題は「Pushing Up Daisies」)はミスマッチだと思います。園芸家ポーラ・ホリデーを主人公にしたこのシリーズは本国ではダーティー・ビジネス・シリーズと命名されているようにグロテスクとまでは言わないまでもコージー派ミステリーとしては地味で暗い作風です。赤ん坊の身元とピーコック家の過去を調べる前半の展開も謎解きとしてはやはり地味過ぎに感じました。

No.1330 5点 休日には向かないクラブ・ケーキ- リヴィア・J・ウォッシュバーン 2016/06/20 08:38
(ネタバレなしです) いとこの経営するB&B(朝食つき民宿)の留守をあずかることになったフィリスが桟橋へ出かけ、座っている宿泊客の肩をポンと叩いて挨拶するとその宿泊客が海に落ちてしまうという(本当にこんなことあったら凄いショックだろうな)2009年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第4作です。ユーモアや料理描写が過去の作品に比べて控え目になりましたが語り口は相変わらずスムースで読みやすいです。謎解きまでがややレベルダウンしたのは残念で、動機だけで犯人を決めているようなところがあって推理の粗さを感じます。

No.1329 4点 ベベ・ベネット、モデルと張り合う- ローズマリー・マーティン 2016/06/20 01:12
(ネタバレなしです) 2006年発表のベベ・ベネットシリーズ第2作です。恋に探偵に大忙しのベベの描写でぐいぐい引っ張るプロットです。意外と秘書の仕事もしっかりこなしているように見受けられますが後半になると大胆な行動が目立つようになってブラッドリーが「もう何もしないでくれ」と言いたくなるのもわかります(笑)。アメリカ作家が恋愛を描くと安易にベッドインしてしまうことが多いのですがこのシリーズはそうはならず、積極的なようでどこか遠慮気味な恋模様が楽しいです。謎解きは残念ながら前作以上に運任せで解決されてしまいましたけど。

No.1328 6点 不思議の国のアリバイ- 芦辺拓 2016/06/19 23:51
(ネタバレないです) 1999年発表の森江春策シリーズ第6作で森江のアシスタント役となる新島ともか初登場の作品でもあります。「アリバイ崩しの復権」をもくろんで書かれたためでしょうか、読みやすさを重視しているようなところがありトリック説明もわかりやすいです。またシリーズ前作の「十三番目の陪審員」(1998年)での造り込み過ぎた感のあった作品背景と比べると本書の怪獣映画製作現場や製作に携わる人々の思い入れはかなり淡白な描写です。アリバイ崩しの抱えるジレンマとして往々にして犯人が早々とわかってしまうことが多いのですが、本書は犯人探しとしても最後まで楽しめます(容疑者数が少ないので当てやすいですけど)。

No.1327 5点 螺旋状の垂訓- 森村誠一 2016/06/19 23:37
(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説です。興味深いのは作者のあとがきの中で「本格推理」の森村流解釈が紹介されていることです。そして「読者と探偵との知的競争に自分も参加して作者と知恵比べができる」ことを推理小説の人気の理由に挙げています。では本書でそれはどこまで実践されているのでしょうか?クロフツのフレンチ警部シリーズや鮎川哲也の鬼貫警部シリーズと同様、推理と裏づけ捜査が丁寧に描写され、推理が破綻すればまた新たな推理と裏づけが繰り返されます。しかしこのプロットでは読者は刑事たちの模範解答的推理を後追いするので手一杯で自分で推理する余地がほとんどなく、「参加」した気分を味わえないと思います。作者は自身のことを「本格派のつもりなのだが社会派というレッテルをよく貼られる」と嘆いていますが、本格派好きの読者にどう推理に「参加」させるかの工夫がもっと必要ではないでしょうか。

No.1326 5点 記憶をなくして汽車の旅- コニス・リトル 2016/06/19 03:06
(ネタバレなしです) 1944年発表のミステリー第10作です。創元推理文庫版の巻末解説ではユーモア豊かでトラベル・ミステリーの要素もあり、ロマンスに意外な真相と随分持ち上げていますがユーモアは単発的で旅情を感じさせるシーンはほとんどなく、ロマンスも抑制気味です。主人公の記憶喪失への不安や悩みも淡々とした描写に留まっています。物語を面白くする材料はたっぷり揃えていながら十分活かしきれていないのは惜しいですね。解決は唐突で謎解きもあまり楽しめませんでした。会話のテンポがいいので地味でも退屈しない点はプラスに評価できますが。

No.1325 5点 江南の鐘- ロバート・ファン・ヒューリック 2016/06/19 01:57
(ネタバレなしです) 初めて国内に紹介された時は「中国梵鐘殺人事件」というタイトルの1958年発表のディー判事シリーズ第2作です。「半月小路暴行殺人事件」、「仏寺の秘事」、「鐘の下の白骨死体」の3つの事件を扱っていますが、順繰りに解決されることもあって初期作品の中では構成がシンプルです。本格派推理小説らしさが感じられるのは「半月小路暴行殺人事件」のみ、しかしそれも一般的な犯人当てを期待すると肩透かしを食らう真相です。一筋縄ではいかない悪役の登場や大捕り物など全体的には壮大な時代劇の印象を残します。巻末の「著者あとがき」を読むと時代描写に細心の注意を払っているのがよくわかりますが、前作の「中国迷路殺人事件」(1956年)と同じく処刑の場面を丁寧に描写しているのは好き嫌いが分かれると思います。それも作者が参考にしている中国の犯罪小説では珍しくないのかもしれませんが。

No.1324 4点 E・S・ガードナーへの手紙- スーザン・カンデル 2016/06/19 01:34
(ネタバレなしです) 美術評論家でもある米国のスーザン・カンデル(1961年生まれ)は伝記作家シシー・カルーソーシリーズ第1作の本書を2004年に発表してミステリー作家としてデビューしました。内容的にはコージー派の本格派推理小説でミステリーに関する知識とヴィンテージ・ファション描写を作中に散りばめているのが特徴です。ただし博識ぶりを披露するなら関心の低い読者への配慮が必要だと思いますが本書の場合はわかる人にしかわからないレベル、読者を選びそうです(私ごときでは完全に選外です)。登場人物リストに載っていない登場人物が多く、前半部があまりミステリーらしくない展開ということもあってコージー派としては読みにくく感じました。謎解きが運任せ気味に解決されてしまうのはいかにもコージー派ですけど(笑)。

No.1323 6点 九人の偽聖者の密室- H・H・ホームズ 2016/06/18 23:12
(ネタバレなしです) アントニー・バウチャー(1911-1968)はH・H・ホームズというペンネームで修道尼ウルスラシリーズの本格派推理小説を長編2作といくつかの短編を発表しており、1940年発表の本書はその長編第1作です。英語原題は「Nine Times Nine」で、邪教徒集団による「ナイン・タイムズ・ナイン」という死の呪いをかけられた者が密室内で死んでしまうという魅力的な謎を扱っています(呪いの場面がなかなかなの迫力です)。途中でジョン・ディクスン・カ-の名作「三つの棺」(1935年)の密室講義が引き合いに出され、この講義の密室分類と照らし合わせながら密室の謎をああでもないこうでもないと議論する場面は不可能犯罪ファンには受けること間違いなし。使われている密室トリックがまた「三つの棺」のトリックの影響濃厚なのも面白いです。「三つの棺」を読んでなくてもそこそこ楽しめますが、先に読んでおく方をお勧めします。

No.1322 8点 OZの迷宮- 柄刀一 2016/06/17 18:35
(ネタバレなしです) 8つの短編を収めて2003年に発表された短編集です。「ケンタウロスの夕べ」のように100ページを越す中編から40ページに満たない短編まで多彩な作品が揃っていますがいずれも本格派推理小説としての謎解きに真っ向から取り組んでおり、しかもトリックに工夫を凝らした作品が多いのはこの作者ならではです。驚くべきなのは個々の作品の書かれた時期はばらばらなのに連作短編集として仕上げられており、「本書必読後のあとがき」に至るまでの大胆極まりない全体構想は衝撃的でさえあります。個人的には「あとがき」は蛇足ではと思いますが。あえてお勧めを1つ選べと言われれば「絵の中で溺れた男」ですが、これは全編通して読むべき短編集だと思います。

No.1321 6点 人喰いの時代- 山田正紀 2016/06/17 18:11
(ネタバレなしです) SF小説の大家として知られる山田正紀(1950年生まれ)の初のミステリー作品が1988年発表の本書だそうですが、あとがきによればミステリー作家として認知されるようになるまでにはそれから10年近くを費やしたそうです。探偵役として呪師霊太郎(しゅしれいたろう)が活躍する6短編を収めた本格派推理小説の短編集で、探偵役の名前と全作品が「人喰い」を付けたタイトルを持つことからさぞオカルト色の雰囲気が濃い作品だろうと思ったらそうではありませんでした。推理のプロセスはそれほど丁寧に説明されず、どちらかといえば事件の背景(主に動機)描写の方に力を入れています。連作短編集となっており、最後の「人喰い博覧会」の風変わりなプロットが奇妙な読後感を残します。

No.1320 7点 炎に絵を- 陳舜臣 2016/06/17 13:26
(ネタバレなしです) 陳ミステリーの代表作と紹介されることも多い1966年発表の本格派推理小説です。探偵役としての特別な能力を持ち合わせていない会社員を主人公にし、産業スパイ小説要素が織り込まれているなど社会派推理小説風な部分もあります。戦前に中国革命軍から預けられた資金を横領したとされる父の無実を晴らしてほしいと病床の異母兄から依頼される事件の真相は案外と他愛もないものですが、絶妙なタイミングで新たな事件と謎を生み出すプロットで読者を飽きさせません。家族愛の描写と鮮やかなどんでん返しの謎解きの絡ませ方が見事で、小説と謎解きのどちらも楽しめる作品に仕上がっています。

No.1319 5点 複合誘拐- 大谷羊太郎 2016/06/17 12:02
(ネタバレなしです) 1980年発表の誘拐サスペンスと本格派推理小説のジャンルミックス型ミステリーです。誘拐トリック、人質輸送トリック、身代金受け取りトリックとトリックメーカーの作者らしさを発揮していますがトリックだけでなく誘拐事件自体がタイトルの通り複雑な展開を見せ、追う立場の人間をまた別の人物が追ったりと二転三転どころでないひねりが読者を翻弄します。後半になると殺人事件が発生し、こちらの謎解きもどんでん返しの連続が圧巻ですが惜しくらむは少々やり過ぎ気味に感じられます。前半ほとんど登場しない人物が突然容疑者として浮上したり、ある容疑者にアリバイがありますと指摘されて「共犯者を使ったと考えればいい」と短絡的な発言が飛び出すなど、何でもありの謎解きでは読者がなるほどと得心しにくいと思います。

No.1318 4点 水のなかの何か- シャーロット・マクラウド 2016/06/16 15:59
(ネタバレなしです) 1994年発表のピーター・シャンディ教授シリーズ第9作は舞台がいつものバラクラヴァでないためシリーズキャラクターはほとんど登場していません。そのためか過去作品に見られた、容疑者よりもシリーズキャラクターの方が目立つというアンバランスさはなくなって普通のミステリーらしくなっています。ところがこれまでの作品のはちゃめちゃぶりに私が中毒になってしまったのか、お騒がせ役を欠いた本書はおとなし過ぎてどうも物足りなく感じました。ピーターも探偵役としては精彩がなかったように思います。唐突に明らかになるトリックの大胆さが印象に残ります(常識的にはこんなトリックは実行されないという意味での大胆ですが)。

No.1317 5点 殺人セミナー- B・M・ギル 2016/06/16 15:44
(ネタバレなしです) 英国の女性作家B・M・ギル(1921-1995)はミステリー作家としては1970年代のデビューと遅咲きですが、それより以前から別名義でロマンス小説を書いていたそうです。1作ごとに作風を変えようとするタイプのようで犯罪小説あり、サスペンス小説ありと多彩ですが1985年発表の本書はメイブリッジ主任警部シリーズの本格派推理小説です(シリーズ第1作と紹介されていますが「Victims」(1980年)という作品が第1作という文献もあります)。メイブリッジが講演者として参加したミステリ作家団体のセミナーで殺人事件が起きるという設定は古典的ですが、アガサ・クリスティーなどの黄金時代の本格派とは雰囲気の異なる作品でした。ロマンス作家出身とは思えぬほどドライなタッチの文章で人間を描いています。終盤にはどんでん返しの謎解きがありますが探偵役の推理よりは幸運に恵まれての真相解明に近いです。

No.1316 5点 大聖堂の殺人- マイケル・ギルバート 2016/06/16 15:31
(ネタバレなしです) 英国のマイケル・ギルバート(1912-2006)は事務弁護士としてハードボイルドの巨匠レイモンド・チャンドラーの遺言書作成に関わったことでも有名で、ミステリー作家としては1947年に本書でデビューしました。長命に恵まれて作家生活は50年以上に渡りましたが、シリーズ探偵に重きを置かなかったことや様々なジャンルの作品を書いたことで特徴が見えにくくなってしまった作家でもあります。本書は6つの長編といくつかの短編に登場するヘイズルリッグ主任警部シリーズの第1弾となる本格派推理小説です。登場人物リストに人物プロフィール(学歴や家族構成)を紹介しているのがとても珍しいです。デビュー作ゆえでしょうか、丁寧に描いてはいますが文章が硬くて物語のテンポは重く、人物の個性も感じられません。現場見取り図やマニアックなクロスワードパズルなど本格派らしさは十分にありますがちょっと地味過ぎですね。

No.1315 5点 殿下と七つの死体- ピーター・ラヴゼイ 2016/06/16 15:25
(ネタバレなしです) 1990年発表のバーティシリーズ第2作で作中時代を1890年にした本格派推理小説です。読みやすい文章に加えて次々に人が死ぬ展開なのでまず退屈はしません。ユーモアも豊かです。そして第22章冒頭では「読者への挑戦状」的なメッセージがあり、これは謎解き好き読者ならわくわくすると思います。ところが肝心の真相解明場面でのバーティの説明が意外と短く、推理のプロセスがはっきりしないのは残念です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)