皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.1585 | 6点 | ドーヴァー5/奮闘 - ジョイス・ポーター | 2016/08/16 15:14 |
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(ネタバレなしです) 1968年発表のドーヴァー警部シリーズ第5作となる本書はドーヴァーの迷走ぶりが相変わらず楽しいけれど推理という面では「誤算」(1965年)や「切断」(1967年)に比べるとなるほどという説得力にやや乏しく強引さが目立つような感じがします。真相には意表を突かれましたが、(後の米国コージー派でよく使われた)ご都合主義的(棚ぼた式)な解決なので本格派好き読者の好き嫌いは分かれそうです。 |
No.1584 | 5点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2016/08/16 14:58 |
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(ネタバレなしです) 空さんのご講評でも紹介されているように、1936年発表のポアロシリーズ第13作の本書は「ABC殺人事件」(1935年)の中でポアロが「手掛けてみたい事件」と言った通りの事件を扱っているだけあってなかなかの意欲作となりました。4人の容疑者対4人の探偵という珍しい設定に過去の事件と現在の事件の謎解きを組み合わせた複雑な本格派推理小説です。もっともポアロ以外の探偵役はバトル警視、アリアドニ・オリヴァ、レイス大佐といかにもな脇役キャラクターばかり揃えたので探偵競争というよりは連携捜査の色合いが濃いです。犯人は1人ですから主役探偵もポアロ1人に絞った方がよいと判断したのでしょう。問題は4人の容疑者が関係した過去の4つの事件が相互関連が全くないため、同時に4つの推理小説を読んでいるような感じがして結構読みにくかったことです。 |
No.1583 | 6点 | 渇いた季節- ピーター・ロビンスン | 2016/08/16 14:10 |
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(ネタバレなしです) 1999年出版のバンクスシリーズ第10作で、現在の物語と過去の物語が交互に描かれる構成を採っています。戦後生まれの作者ですが戦時下の田舎の雰囲気が結構それらしく描かれています。バンクスの私生活の変化についてもかなりのページを費やしています。デビュー作の「罪深き眺め」(1987年)と比べると何と劇的に変化したことでしょう。バンクスが手掛かりに基づく推理を披露したりして「誰もが戻れない」(1996年)よりは本格派推理小説らしさがありますが謎解きはそれほど緻密ではなく、その分物語性で読ませている作品です。余談ですがホラー小説の巨匠スティーヴン・キングがこのバンクスシリーズの熱心なファンだというのは何とも不思議な感じがしますね。 |
No.1582 | 3点 | 沈める濤- 天城一 | 2016/08/16 13:56 |
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(ネタバレなしです) 天城一(1919-2007)の長編作品は全部で3作ですがその最後の作品が本書です。なかなか出版の機会に恵まれなかった作者ですが本書も完成から出版までの経緯が複雑です。1976年には完成していたそうですが私家版で出版されたのが1999年、商業出版されたのは2009年です(「天城一傑作集4」に第1長編の「風の時/狼の時」と一緒に収められました)。プロットは前半(第四章まで)を五百島(いおしま)部長刑事、後半(第五章以降)を淡路刑事を語り手として進行し、さらにはあの島崎警部も登場します。しかしながら物語の合間合間で語られる下士官出身者の戦時中や戦後の生き様や考え方のエピソードが謎解きの興味を寸断してしまいます。天城らしいといえばらしいのですがやたらと脇道にそれているように感じられます。また終盤に五百島が「死体を一つも見ない」「肝心の証人を1人も尋問できなかった」などと述懐しているように捜査描写もどこか焦点が定まっておらず、読み手を選ぶ本格派推理小説です。 |
No.1581 | 6点 | 風が吹く時- シリル・ヘアー | 2016/08/15 08:44 |
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(ネタバレなしです) 9作しか書かれなかったヘアーの長編はマレット警部単独作品が3作、ペティグルー単独作品が2作、両者の共演作が3作、非シリーズ作品が1作という内訳ですが1949年発表の本書はペティグルー単独作品です(ペティグルーシリーズとしては全5作中の第3作)。ヘアー得意の法律知識に加えて音楽知識も要求されていますがとっつきにくさは意外となく、個性的な登場人物や警察に配慮してでしゃばるまいと苦心するペティグルーの描写などで読ませます。物語の締めくくりもなかなか味わいがあります。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ何とかしてほしいなというのも正直ありますけど。なお英語原題は「When the Wind Blows」ですがどこかの書評サイトで「Wind」を「風」と訳した日本語タイトルは誤訳で、本書での「Wind」は「管楽器」を意味していると指摘されていましたがなるほどと思いました。 |
No.1580 | 5点 | ヴィンテージ・マーダー- ナイオ・マーシュ | 2016/08/15 08:35 |
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(ネタバレなしです) 1937年発表のアレンシリーズ第5作の本書は珍しくもニュージーランドを舞台にしています。殺害方法はかなり派手(図解入りで解説されます)、アリバイ表や現場見取り図などの読者サービスも充実しています。ただ見取り図は小さくて見づらいですが。全体的には取り調べシーンが長くて動きの要素があまりないので人によっては退屈するかもしれません。あと本筋とは関係ないのですが「殺人者登場」(1935年)の犯人名を何度も作中でばらしているのは参りました。「殺人者登場」の中でも「アレン警部登場」(1934年)の犯人名をネタバレしているし、出版順に読まない読者には容赦なしですか?困った作者ですねえ。 |
No.1579 | 5点 | 完璧な絵画- レジナルド・ヒル | 2016/08/15 08:31 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表のダルジールシリーズ第13作となる本書では「闇の淵」(1988年)と同じくクライマックスシーンが冒頭に置かれていますが、これが凄まじいです。ここでばらすのは興ざめになると思うので詳細は書きませんがあまりにも衝撃的な導入部で、早く結末にたどり着きたいと気が焦ること焦ること(笑)。残念ながらメインの事件が失踪事件なので(生きているにしろ死んでいるにしろ簡単に行方は判らない)ミステリーとしてあまり興味深い題材ではなく、中盤がやや退屈に感じました。ただこれまでのシリーズ作品ではダルジールの出番が少なすぎたりウィールドが精彩を欠いたりといった不満がありましたが、本書では3人(ダルジール、パスコー、ウィールド)にそれぞれ活躍の場がしっかり与えられていて主役陣の役割バランスという点ではこれまでの全作品中随一の出来かと思います。 |
No.1578 | 4点 | 絞首台までご一緒に- ピーター・ラヴゼイ | 2016/08/15 08:22 |
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(ネタバレなしです) 1976年発表のクリッブ部長刑事&サッカレイ巡査シリーズ第6作です。このシリーズ、ヴィクトリア朝の英国を舞台にした歴史ミステリーですが本書では実在のユーモア小説家ジェローム・K・ジェロームの代表作「ボートの三人男」(1889年)が出版された時期という設定になっています。このジェロームの作品は小説を真似たボート旅行が流行するほど大ヒットしたそうで、本書の捜査でもその影響が描写されています。前半はトラベル・ミステリーになっていますが馴染みのない地名がどんどん登場するので地図はほしかったです。この作者の軽妙な文章と物語の展開がうまく噛み合い、伏線もそれなりに張ってあって本格派推理小説としての謎解きもできています。とはいえこういう真相は個人的には嫌いな部類ですので減点評価となってしまいますが。 |
No.1577 | 5点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2016/08/15 08:13 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のフェル博士シリーズ第14作の本書はカーの多くの作品で見られる怪奇趣味や不可能犯罪とかいった派手な演出はなく、ユーモアも控え目で(プールでの飛び込みの場面なんかは結構楽しいですけど)ごく普通の本格派推理小説といった印象を与えますが、実はかなり大胆なトリックが使われていてどんでん返しが効果的な作品です。このトリック、実際の事件でもあったトリックだそうですが専門的知識のない一般読者にこれを解決前に予見するのはちょっと無理じゃないかと思います。了然和尚さんのご講評で的確に指摘されているように、カーがどれほど好きなのかによって本書の受け容れられ方は異なると思います。 |
No.1576 | 5点 | 盤面の敵- エラリイ・クイーン | 2016/08/14 02:23 |
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(ネタバレなしです) クイーンが最後の作品にするつもりだったとされる「最後の一撃」(1958年)から5年後の1963年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第25作ですが実態はゴーストライター(SF作家のシオドア・スタージョン(1918-1985))が書いてクイーン名義で出版されたそうです。殺人実行犯を影で操る真の殺人犯という設定が大変ユニークで、連続殺人のサスペンスと相まって終盤までだれることなく引っ張ります。真相にも工夫を凝らしていて、この時代ではかなり珍しいであろう犯人像が描かれていて本書に高い評価を与える識者がいるのも理解できます。しかしエラリーの推理が残念レベルです。宗教的というか観念的な説明ですっきり感を味わえませんでした。 |
No.1575 | 6点 | ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー | 2016/08/14 01:39 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のポアロシリーズ第17作となる本格派推理小説です。献呈序文で作者は作品が洗練されすぎているという批判に応えて血まみれの凶暴な事件を扱いたかったと述べています。なるほど血まみれの死体を用意しているし、クリスマスなのに少年少女は登場せず祝祭的な場面も全くありません。どちらかといえば暗い雰囲気です。でもこの作者ならではの優雅さや洗練さもちゃんと残っていて過度に重苦しくはなっておらずバランスの取れた物語だと思います。使われているトリックがちょっとひどいと思いますが(そんな小道具で騙せるのか?)、登場人物の心理描写に優れていて読み応えは十分以上のものがあります。 |
No.1574 | 5点 | 柳園の壺- ロバート・ファン・ヒューリック | 2016/08/14 01:24 |
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(ネタバレなしです) 1965年発表のディー判事シリーズ第10作の本格派推理小説です。「紅楼の悪夢」(1961年)でもせっかくの密室を謎の中心にしなかったように、本書では見立て殺人風な要素がありますがそれをことさら謎として盛り上げるような展開にはなっていません。とはいっても謎解きの伏線はちゃんと用意されているし、歴史ミステリーとしての時代風俗描写は丁寧だし、今回はディー判事だけでなく部下たちにも活躍の場を与えているなど内容は充実しています。疫病が蔓延し腐敗と死の都と化した新任地という陰鬱で暗い舞台にも関わらず後味がいいのも特徴です(人によっては結末の付け方に独善的なものを感じるかもしれませんが)。 |
No.1573 | 5点 | 老神温泉殺人事件- 中町信 | 2016/08/14 01:13 |
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(ネタバレなしです) 「夏油温泉殺人事件」(「不倫の代償」改題)(1990年)以来となる1994年発表の氏家周一郎シリーズの第11作の本格派推理小説でシリーズ最終作となりました。男に襲われて逃亡しようとして女性が死んだ事件の容疑者が自殺し、その事件の真相を調べてほしいと氏家夫妻が依頼されるのが発端です。ところが依頼人は密室で殺されます(しかもプロローグで間違い殺人であることが読者に提示されます)。密室の謎解きは他愛もない上に失敗リスクはそれなりに高いという残念トリックですが一応は密室にする理由が考えられており、単純そうな事件なのに容疑者の大半が嘘をついているために捜査は錯綜します。作者得意のミスディレクションはシンプルながら効果的です。 |
No.1572 | 5点 | 大あたり殺人事件- クレイグ・ライス | 2016/08/14 00:11 |
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(ネタバレなしです) 1941年発表のマローンシリーズ第4作で「大はずれ殺人事件」(1940年)の続編にあたります。前作のネタバレはされていませんが先に本書から読むことはお勧めしません。姉妹作の関係上どうしても前作と比較されてしまい、しかも本書の方が厳しく評価される傾向にあります。私もどちらかといえば前作の方が気に入っています。決して本書が駄作というのではなく、謎解きとしては同レベルぐらいだと思います。ただ前作はどたばたを繰り返しながらも被害者と容疑者たちとの関係が少しずつ明らかになるすっきりとした展開だったのに対して、本書は被害者の正体がなかなか判明せず人物関係がもやもやしたまま物語が進行するのでやや読みにくいです。せっかくのユーモアもこの読みにくさのせいで前作に比べると冴えがないように思えます。 |
No.1571 | 5点 | シャーロキアン殺人事件- アントニー・バウチャー | 2016/08/13 06:38 |
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(ネタバレなしです) 1940年に発表された本書は自身もシャーロキアンだったこの作者にふさわしくシャーロック・ホームズに関する薀蓄が散りばめられた本格派推理小説です。ユーモアは豊かだし時代小説的な描写もあり、暗号や不可能犯罪などの謎解きネタも満載ですが全体の仕上げはごった煮風で非常に読みにくく、ストーリーテリングに関しては「ゴルゴダの七」(1937年)と同じく低い評価にならざるを得ません。典型的なパズルミステリーで人物描写も精彩に欠けていて記憶に残らず、唯一ロマンスだけがわかりやすかったです(笑)。名評論家必ずしも名作家ならずを実践してしまった作品というのが私の印象です。 |
No.1570 | 6点 | メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー | 2016/08/13 06:20 |
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(ネタバレなしです) クリスティーは考古学者の夫の仕事の関係で中東旅行するようになり、「ナイルに死す」(1937年)や「死との約束」(1938年)など中東を舞台にした作品を書いていますがそれらが観光ミステリー風だったのに対して1936年発表のポアロシリーズ第12作の本書は遺跡発掘現場を描いているせいか「東洋の神秘」的な雰囲気が濃厚です。ややもすれば暗くて重苦しい作品になるところをレザラン看護婦を語り手役にすることによってそうならないようにしているのはいい工夫だと思います。謎解きもかなり凝っていてクリスティーには珍しい不可能犯罪に挑戦したり、(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが)あまりにも大胆な犯人の秘密(普通すぐばれるのではと突っ込みたい)などなかなかの力作です。 |
No.1569 | 5点 | 五つの箱の死- カーター・ディクスン | 2016/08/13 05:58 |
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(ネタバレなしです) 1938年出版のH・M卿シリーズ第8作の本格派推理小説です。同年には名作「ユダの窓」も発表されていますがまるで違うタイプの作品になっており、作者が好調期だったことをうかがわせます。異様な犯罪現場の雰囲気、不思議な品物の数々、奇妙な証言と序盤の謎づくりに関しては全作品中でもかなりの出来映えではないでしょうか。それなりに有名なトリックが使われていますしユーモアにも事欠きません。多くの読者や批評家から指摘されているように着地に失敗した感はありますが全体としてはまずまず楽しめました。 |
No.1568 | 6点 | Zの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/08/13 05:42 |
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(ネタバレなしです) 1933年発表の本書はドルリー・レーン4部作の3番目にあたる作品であることが重荷となってしまったような作品です。語り手による1人称形式、当時としては珍しい女性探偵の登場、タイムリミット・サスペンスの導入、裏社会の存在など「Xの悲劇」(1932年)や「Yの悲劇」(1932年)にはない特徴で一杯なのですが、それがかえって読者に違和感を感じさせたことも否定できないでしょう。論理的で緻密な推理は同時期の国名シリーズに匹敵する内容だと思いますが「Xの悲劇」や「Yの悲劇」と並べてしまうと詰め込みすぎて読みにくいなどなどの弱点が目立ってしまってます。 |
No.1567 | 5点 | 待ち望まれた死体- キャサリン・ホール・ペイジ | 2016/08/13 05:23 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家キャサリン・ホール・ペイジ(1947年生まれ)による1989年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズの第1作となるコージー派ミステリーです。軽快で読みやすい文章、上品なユーモアとウィット、後口の爽やかさとまさに気軽に読めるコージー派の特徴を備えています。探偵としてのフェイスは推理型というよりは行動型で、棚ぼた式に事件が解決されてしまうのと一部の謎を解けないままにしている結末は本格派好きの読者にはちょっと物足りなさを感じさせるかもしれません。 |
No.1566 | 5点 | 黒後家蜘蛛の会2- アイザック・アシモフ | 2016/08/12 13:26 |
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(ネタバレなしです) 1974年から1976年にかけて発表された作品を12作まとめて1976年に出版された黒後家蜘蛛の会シリーズ第2短編集です。謎解き的には辛くなりました。アメリカの文化風習や英語力などの知識を求められる作品が増えてしまったのです。私のような知識レベルの低い読者でもなんとかなりそうなのは「三つの数字」、「禁煙」、「鉄の宝玉」ぐらいですか。まあこのシリーズは額に汗して謎解きに挑戦するのではなく、ユーモア溢れる会話を気軽に楽しむというコージー派ミステリーだと思えばそれなりには楽しい読み物です。 |