皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.1685 | 5点 | ストライク・スリーで殺される- リチャード・ローゼン | 2016/09/07 11:01 |
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(ネタバレなしです) TVキャスターを経験したこともある米国のリチャード・ローゼン(1949年生まれ)が1984年に発表したハーヴェイ・ブリスバーグシリーズ第1作は野球界を舞台にした本格派推理小説とハードボイルドのミックスタイプです。米国や日本では野球はよく知られているのでそれほど問題ないのかもしれませんが特に25章から26章にかけての説明は野球を知らない読者には難解過ぎると思います(それ以前に野球選手だらけの登場人物リストでげんなりするかもしれません)。推理の要素が少ないので謎解き重視の読者はお気に召さないかもしれませんがストーリーテンポは軽快で読みやすいです。 |
No.1684 | 5点 | 殺人者の街角- マージェリー・アリンガム | 2016/09/06 19:29 |
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(ネタバレなしです) 1958年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第16作です。場面変化に富んでおり、犯罪者の視点で描かれているシーンあり、ルーク警視やアルバート・キャンピオンが活躍するシーンあり、奇しくも犯罪者と行動を共にするはめになったある人物の冒険シーンありと色々あって退屈はしませんが、逆に主人公不在の物語のようにも感じます。ミステリーとしてのジャンル分けも難しく、アリバイを巡る推理はありますが本格派推理小説ではないし、犯罪小説でもないし、私は(消去法的に)サスペンス小説に分類しましたがあまり自信ありません。ストーリーテリングが冴えわたった読みやすい作品で、ややメロドラマじみていますが印象的な結末が用意されています。 |
No.1683 | 5点 | 憎しみの巡礼- エリス・ピーターズ | 2016/09/06 19:18 |
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(ネタバレなしです) 1984年に出版された修道士カドフェルシリーズ10作目です。時代は1141年5月、スティーブン王と女帝モードの争いは形勢が逆転してモード優勢となりスティーブン擁護派のシュルーズベリが不安を隠せない状況下で起きた事件が扱われています。懐古調になったのか「聖女の遺骨求む」(1979年)、「氷のなかの処女」(1982年)、「聖域の雀」(1983年)などのエピソードが振り返られたり、懐かしの人物が再登場しています。特に要注意なのが「聖女の遺骨求む」のミステリー部分のネタバレをしていることで、未読の人は本書より先にそちらを読んだ方がいいと思います。前半は人物関係がばらばらでまとまりの悪い物語に感じられましたが最後には一つの流れに上手くまとめています。全体としては冒険小説のジャンルに属する作品ですが、本格派としての推理場面も終盤には用意されています。 |
No.1682 | 5点 | 青チョークの男- フレッド・ヴァルガス | 2016/09/06 19:10 |
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(ネタバレなしです) フランスのフレッド・ヴァルガス(1957年生まれ)は本国では大変人気の高い女性作家です(フレッドは男性名であることも多いので非常に紛らわしいです)。本書は1991年発表のアダムスベルグ署長シリーズ第1作の本格派推理小説です(長編ミステリー第2作のようです)。登場人物もエキセントリック、会話もエキセントリック、これが延々と続くので何度も頭の中が混乱してしまいましたが最後は本格派の謎解きとしてびしっと引き締めています。読み終えるのに苦労しますが横溝正史のフランス版みたいな結末は強く印象に残ります。 |
No.1681 | 6点 | カリブ海の秘密- アガサ・クリスティー | 2016/09/06 19:06 |
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(ネタバレなしです) 1964年発表のミス・マープルシリーズ第9作にあたる本格派推理小説です。大勢のリゾート客が訪れる西インド諸島を舞台にしており、もう少し異国の雰囲気が描けていればなあとは思いますがミステリーとしてのツボはしっかり抑えてあって1960年代の作品の中ではいい出来映えだと思います。作中でミス・マープルが「こんな簡単なことなのに」と述懐していますが、私は過去の作品で使われている騙しのテクニックにまたまたやられてしまった自分を再発見する羽目になってしまいました。 |
No.1680 | 5点 | 緋色の研究- アーサー・コナン・ドイル | 2016/09/06 19:00 |
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(ネタバレなしです) 英国のサー・アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)は本業は医者でしたが商業的に苦しかったため、冒険小説、歴史小説、怪奇小説、SF小説など幅広いジャンルの作品を精力的に執筆し、ついには専業作家へと転身しています。その作品中最も有名なのが世界で一番有名な探偵シャーロック・ホームズのシリーズでしょう。全部で4長編と5短編集(56短編を収録)が残されており、21世紀になった今なお多くの作家がホームズを主人公にした作品(パロディーも含む)を書いているなどミステリー界に巨大な足跡を残した偉人です。本書は1887年発表の記念すべき最初のホームズ作品となった長編です。中編に近いぐらいのボリュームで、しかもホームズの活躍場面が二部構成の物語の前半部だけという点に物足らなさを感じる人もいるでしょうが(後半部の最後にもちょっとだけ登場しますが)、それでもホームズの名探偵らしさは十分鮮やかに描かれています。後半部は冒険ロマン小説風になっていますが小説として面白いかはともかく、ここでのモルモン教徒の扱い方は現代だったら(宗教団体から)訴えられたんじゃないかなと思えるほど過激に描かれていますね。 |
No.1679 | 6点 | オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン | 2016/09/05 04:26 |
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(ネタバレなしです) 1931年に発表された国名シリーズ第3作でもちろん「読者への挑戦状」が付いています。相変わらず登場人物が多いし人物描写は上手くない、おまけに病院での殺人ということで「ほとんどが医者ばっかり」ですから誰が誰だかますますわからず人物整理が大変です。臣さんのご講評の通り単調な筋運びなのも読みにくさを助長しています。謎解きも不満点があり、確かに動機は決定的証拠にはなり得ず、機会と手段の手掛かりだけで犯人を特定できるというのが作者の主張かもしれませんけど、だからといって隠された動機が後出し説明というのはどこか釈然としません。とはいえエラリーの推理は国名シリーズの中でも屈指の冴えを見せており、特に靴の手掛かりに基づく推理はシャーロック・ホームズ現代版といった趣きさえ感じさせます(もちろん本書ももう古典的作品ですけど)。 |
No.1678 | 5点 | グリーン・ティーは裏切らない- ローラ・チャイルズ | 2016/09/05 00:51 |
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(ネタバレなしです) セオドシア・ブラウニングを探偵役にした「お茶と探偵」シリーズの2002年に発表の第2弾です。アマチュアゆえやむを得ないところはあるのですが例によって動機探しが探偵活動の中心となり、具体的な証拠となるとかなり後半にならないと出てこないし、しかもコージー派によくありがちな(推理の不十分な)パターンで犯人が明らかになります。とはいえ風景や小物類の描写にセンスの良さを感じさせる文章力は心地よく、午後のお茶を飲みながら優雅に読書を楽しむのには好適の一冊だと思います。 |
No.1677 | 7点 | 大はずれ殺人事件- クレイグ・ライス | 2016/09/05 00:43 |
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(ネタバレなしです) 1940年発表のマローン弁護士シリーズ第3作で「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)と並ぶ代表作とされています。個人的にはこの2作以外にも読み落とせない作品がいくつもあると思いますけど。ただ本書はビギナー読者にも勧められるかというとためらいがあるのも事実です。社交界の花形モーナ・マクレーンが「絶対につかまらない方法で人を殺してみせる」と突如宣言し、殺人事件が起きると(被害者とモーナの関係もわかっていないのに)犯人はモーナと仮定して探偵活動しているところからして尋常でないプロットで、王道的なフーダニット本格派しか読んでない読者は面食らうかもしれません。とはいえ殺人予告、どんちゃん騒ぎ、ハードボイルド風銃撃戦、ギャング、酒、身だしなみのセンス、賭け事、不可能犯罪とおバカなトリック、カーチェイス、脅迫、人情物語、容疑者を一堂に集めての真相解明とよくもまあこれだけの要素を盛り沢山に詰め込み、しかもテンションを落とすことなく一気に読ませてしまうストーリーテリングはちょっと誰にも真似できないでしょう。 |
No.1676 | 6点 | ある詩人への挽歌- マイケル・イネス | 2016/09/05 00:22 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のアプルビイ警部シリーズ第3作の本書は江戸川乱歩や折原一が大絶賛した作品です。五部構成ですがそれぞれ異なる人物の目を通して各部を語らせているのが作品の個性です。第一部は(教養文庫版の)巻末で解説されているように読みづらい部分もありますが、それでも前作の「ハムレット復讐せよ」(1937年)に比べると格段に読みやすくなっています。どんでん返しの連続が圧巻です。 |
No.1675 | 5点 | フレンチ警部最大の事件- F・W・クロフツ | 2016/09/05 00:06 |
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(ネタバレなしです) 1925年発表のミステリー第5作はシリーズ探偵であるフレンチ警部の初登場作であり、これ以降の作品のほとんどはフレンチ警部(後に警視まで出世します)が登場するようになります。本書は通常の犯人当て本格派推理小説とは毛色が異なっていて、謎の人物「X夫人」の追跡劇が中心のスリラー小説要素の強い作品です。しかし随所ではフレンチによる推理場面がありますので一応は本格派の体裁を保った作品と言えると思います。フレンチの捜査範囲が英国から欧州各国へと広がっていくのですが風景描写に関しては物足りなく、トラベルミステリーの雰囲気は意外と希薄でした。「最大」というタイトルもかなり誇張気味なので期待は割り引いておいた方がいいかも(笑) |
No.1674 | 7点 | シーザーの埋葬- レックス・スタウト | 2016/09/04 10:09 |
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(ネタバレなしです) 1939年発表のネロ・ウルフシリーズ第6作の本格派推理小説です。軽妙な会話や大胆な行動によるユーモアがスタウト独特の魅力ですが本書では特にそれに磨きがかかっているように感じられました。それは本書で初登場するリリー・ローワンというアーチーの恋人役に拠るところも大きいでしょう。恋人関係といってもベタベタな描写はほとんどなく、物語のスムーズな流れを全く妨げていません。タイトルに使われている「シーザー」とは全米チャンピオンの座を獲得した名牛ヒッコリー・シーザー・グリントンに由来しますが牛を謎解きに絡めたプロットが個性的で、スタウトを代表する傑作と評価されているのも納得です。 |
No.1673 | 5点 | 五匹の赤い鰊- ドロシー・L・セイヤーズ | 2016/09/04 09:55 |
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(ネタバレなしです) 1931年発表のシリーズ第6作でセイヤーズの全作品中最もパズル要素が強く、一方でセイヤーズの個性が希薄とも評されています。題名に使われている「赤い鰊」は目くらましとか偽の手掛かりという意味らしく、また物語の序盤で「読者への挑戦状」(エラリー・クイーンのそれとは毛色が違いますが)が挿入されるなどまさに「本格派推理小説」にこだわった作品になっています。となると私の好みには適合するはずなのですがこれが結構読みづらかったです。クロフツ顔負けの細かいアリバイ崩しが延々と続いたからというのも一因ですが一番の理由は6人の容疑者をあまりにも均等に描き分けたからだと思います。もう少し容疑にメリハリを付けた方が読者をミスリードしたり意外性を演出できたのでしょうが、悪い意味で完璧になリ過ぎて(Tetchyさんのご講評で指摘されているように)誰が犯人でも同じだという気分にさせてしまっています。文章が上手いと言われるセイヤーズでさえこうなのですから謎解きの面白さというのは奥の深い、永遠の課題なんでしょうね。 |
No.1672 | 6点 | 十二人の評決- レイモンド・ポストゲート | 2016/09/04 09:41 |
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(ネタバレなしです) 「新本格派」の一人として江戸川乱歩が高く評価した英国のレイモンド・ポストゲート(1896-1971)はジャーナリスト、政治経済評論家など多彩な顔を持っていた人で、あのコール夫妻(といっても日本での知名度は低いですが)の夫人であるマーガレット・コールの弟でもあります。ミステリー作品はホリー警部の登場する作品を3冊書いたのみですがその第1作である1940年出版の本書はプロット構成のユニークさが印象に残ります。第一部で個性的な陪審員が次々に紹介されます。前半に登場する人たちがかなり詳細に描かれる一方で後半では十把一絡げ的な紹介に留まってしまう人たちもいます。第二部では事件に至るまでの経過がサスペンス豊かに描かれ、いよいよ審議の第三部へ突入です。ここでは陪審員の心の動きをメーターで表示するアイデアが珍しいですが演出効果としては微妙です。名探偵役が推理で真相を明快に説明してすっきり締め括るという伝統的な本格派推理小説とは異なっているところが(ホリー警部も脇役です)評価の分かれ目になりそうです。法廷ミステリーとのジャンルミックス型として同時代に書かれたパーシヴァル・ワイルドの「検死審問」(1939年)や「検視審問ふたたび」(1942年)と読み比べるのも一興かもしれません。 |
No.1671 | 5点 | ソルトマーシュの殺人- グラディス・ミッチェル | 2016/09/04 01:20 |
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(ネタバレなしです) 1932年発表のミセス・ブラッドリーシリーズ第4作の本格派推理小説で、ミセス・ブラッドリーが哄笑する場面が随所にあるものの読者も一緒に笑えるかは微妙だと思います(私のユーモアセンス不足もありますけど)。初期作品だけあってプロットが(作者の計算通りかもしれませんが)ちぐはぐで、他の事件をハイライトしていながらまるでおまけのように実は殺人が起きていましたというのには面食らった読者も少なくないでしょう。謎解きは結構しっかりしているのですがこの読みにくさに慣れないと読者は推理どころではないかもしれません。結末の一行がなかなか衝撃的です。 |
No.1670 | 7点 | ブラウン神父の知恵- G・K・チェスタトン | 2016/09/04 01:09 |
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(ネタバレなしです) 1914年に12作を収めて出版されたブラウン神父シリーズ第2短編集の本書は印象的なトリックという点では第1短編集「ブラウン神父の童心」(1911年)にやや見劣りするものの、奇想天外なプロットという点ではひけを取りません。個人的なイチ推しは「ペンドラゴン一族の滅亡」です。語り口が難解なのが玉に瑕ですが非常にスケールの大きい物語で、映像化したらさぞ見映えがするでしょう。「泥棒天国」も相当奇抜な大仕掛けが用意されています。あとは「グラス氏の失踪」が生真面目に推理しているが故に結末のユーモラスぶりとの落差がかなりのものです。 |
No.1669 | 6点 | 八点鐘- モーリス・ルブラン | 2016/09/03 02:52 |
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(ネタバレなしです) フランスのモーリス・ルブラン(1864-1941)は怪盗アルセーヌ・ルパンシリーズの生みの親といえばそれだけで十分な紹介になるでしょう。その作風は冒険ロマン小説に属しますが中には本格派推理小説として通用する作品もあり、1923年発表の連作短編集である本書はその代表とされています。主人公のレニーヌ公爵は盗みの類を一切せずに探偵役に徹しています(「まえがき」ではルパンと同一人物かどうか明言を避けていますが)。本格派といっても謎解きの手掛かりが解決前に読者に提示されていないので読者が推理に参加する余地はほとんどありません。トリックメーカーとしてのルブランをよく示した作品が収められており、特に「テレーズとジェルメーヌ」と「雪の上の足跡」ではもはや古典となった有名トリックが使われています。この時代には珍しいシリアルキラー(連続殺人犯)を扱った「斧を持った貴婦人」のサスペンスも秀逸です。 |
No.1668 | 5点 | 気どった死体- サイモン・ブレット | 2016/09/03 02:37 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表のミセス・パージェーターシリーズの第1作です。何となくクリスティーのミス・マープルを彷彿させるような登場の仕方をしていますが中盤あたりからその探偵活動は行動型になり(しかもかなり大胆)、むしろD・B・オルセンの探偵レイチェル・マードックの方に近いかも。もっとも特殊技術を駆使した捜査に加えて彼女をサポートする仲間(元プロ?)の存在と、いくらフィクションの世界とはいえ好都合にもほどがあるとも思えますがそれが気にならなければ結構楽しい読み物です。一応推理もしていますが解決が犯人自滅で終わってしまうのが本格派推理小説としてはやや物足りないです。 |
No.1667 | 4点 | グラブ街の殺人- ブルース・アレグザンダー | 2016/09/03 02:31 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表のサー・ジョン・フィールディング判事シリーズ第2作です。前作の「グッドホープ邸の殺人」(1994年)は犯人当て本格派推理小説でしたが本書はスリラー小説で謎解き要素が後退したのは個人的には残念です。ハヤカワポケットブック版の解説では〇〇人格と△△教団という現代的なテーマと時代ミステリーとの融合を誉めていますが、前者に関してはそれほど効果的ではなかったように思えます。人物描写やストーリーテリングは相変わらず優れており読み易いです。それにしてもサー・ジョンは前作でのショックからの立ち直りが早すぎませんか(笑)? |
No.1666 | 6点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2016/09/03 02:10 |
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(ネタバレなしです) クリスティーは長編だけでなく短編もかなりの量を書いています。本書はエルキュール・ポアロシリーズ初期の短編が収められていて、完成度としては粗削りの感は否めませんがいくつかのプロットやトリックは後年の作品に流用されており、彼女のミステリーの原点を感じることができます。英版が1924年に11短編収録されて出版され(創元推理文庫版の「ポワロの事件簿1」が英版)、翌1925年に3短編を追加収録して14作収めた米版が出版されました(ハヤカワ文庫版が米版。私が読んだのはこちら)。収録作品で個人的に気に入っているのは意外性の高い「ダヴンハイム失踪事件」と神秘的な雰囲気と珍しいトリックが印象的な「エジプト王の墳墓の事件」です。 |