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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1765 9点 家蝿とカナリア- ヘレン・マクロイ 2016/09/25 01:23
(ネタバレなしです) 1942年発表のベイジル・ウィリング博士シリーズ第5作で謎解きの伏線を縦横に張り巡らした本格派推理小説の秀作です。容疑者が少ないと往々にして取り調べが細かくなり過ぎてダレ気味になりがちですが本書は謎解きのスリルが最後まで持続しています。冒頭のカナリアの謎が後半になって再びクローズアップされる展開も見事だし、ベイジルのさりげない名探偵ぶりも好感が持てます。ポーストのアブナー伯父シリーズで既に使われているのと同じ謎解きネタがありましたがそれを差し引いても傑作の名に恥じません。

No.1764 6点 手をやく捜査網- マージェリー・アリンガム 2016/09/24 16:43
(ネタバレなしです) 1932年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第4作で、キャンピオンが「私立探偵でなく職業的冒険家」と自己紹介していますが本書においては私立探偵と見なしてよいのではないでしょうか。ソクラテス屋敷(何て名前だ)に住む家長(女性)と彼女に頭の上がらない居候状態の家族たちという、よくありがちな人間関係の中で起こる殺人事件の謎解きのストレートな本格派推理小説です。アリンガムというと文学的な作風が評価されることが多いですが本書はそういった面はない代わりにパズルとして大胆な仕掛けがあることに驚かされます。基本的なアイデアはコナン・ドイルの某作品でも見られますがこれをもっと複雑に発展させたものです。六興推理小説選書版は半世紀以上前の古い翻訳の割には読みやすいのですが、それにしても登場人物リストの人物紹介が「ビー公」って...(笑)。

No.1763 5点 フェニモア先生、墓を掘る- ロビン・ハサウェイ 2016/09/24 16:16
(ネタバレなしです) フリーランスの女性作家兼写真家としてのキャリアを持つ米国のロビン・ハサウェイ(1934年生まれ)が本書でミステリー作家としてデビューしたのは1998年、何と既に還暦過ぎていらっしゃいます。医者にして探偵のフェニモア先生シリーズ第1作ですが本書を読む限りでは探偵業で稼いでいるようには思えませんね(笑)。毒殺ではないかと睨んだフェニモア先生が被害者はどのように毒を盛られたかを見破ろうと様々な可能性を試行錯誤します。この展開はクリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)をちょっと彷彿させます。37章で明らかになるトリックは実際のケースとして過去に例があったようで謎解きとしては目新しさはありませんが全体としてのストーリーテンポは快調で、手軽に楽しめるコージー派本格派推理小説です。フェニモア先生をサポートする面々もなかなかいい味を出しています。

No.1762 5点 ロウソクのために一シリングを- ジョセフィン・テイ 2016/09/24 16:12
(ネタバレなしです) 「列のなかの男」(1929年)をゴードン・ダヴィオットという男性名義で発表したテイがテイ名義で最初に出版した作品が1936年に発表されたグラント警部シリーズ第2作にあたる本書です。物語の大半が足を使った聴き込み捜査主体で、グラントの考えていることもほとんど読者にオープンになっているクロフツ風な展開ですが最後はグラントの推理が披露されるフーダニット型本格派推理小説として着地します。ただ真相には驚いたというよりも何だこりゃと唖然としました。まず動機。どうやらグラントは床屋の雑誌記事から発見した模様ですが本当にアレが動機とは。ハヤカワポケットブックス版の巻末解説(評者は宮部みゆき)では伏線がちゃんと張られているように評価していますがとても十分とは思えないし、とってつけたようなアリバイ崩しと証拠の発見。謎解きという点では大いに不満があります。とはいえテイの特徴はパズルとしての完成度よりも文章表現の巧さやさりげないユーモアなどにあり、グラントが重要人物にまんまと逃げられるシーンや署長の娘エリカのアマチュア探偵ぶりなど読ませどころは一杯あります。

No.1761 10点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2016/09/24 16:00
(ネタバレなしです) 1949年に発表されたコックリル警部シリーズ第4作の本格派推理小説で「緑は危険」(1945年)と肩を並べる大傑作です。人間ドラマとしてはあちらの方が優れていると思います。本書の登場人物は個性的だけど魅力的じゃないんですね。嫌な人間か変な人間ばかりで感情移入できず、誰が犯人でも構わないという気持ちになりました。でもパズルとして凝っているのはこちらでしょう。本書は容疑者たちが次々に自白する場面が有名で、これが捜査陣と読者を混乱に陥れる効果は相当なものです。それからチェスタトンの某作品を連想させるあの大トリックにもしびれました。コックリルはさらりと説明していますが本当に凄いトリックです。なお「切られた首」(1941年)が作中でちょっとネタバレされているのでまだ未読の読者は気をつけて下さい。

No.1760 5点 死がかよう小道- ドロシー・キャネル 2016/09/24 15:44
(ネタバレなしです) 1985年発表の本書はエリー・ハスケルシリーズ第2作と紹介されることもありますがエリーは活躍しません。但し作中の登場人物が次作の「未亡人クラブ」(1988年)で再登場していて作品世界はつながっており、シリーズ番外編と位置づけるべきでしょう。プロローグがなかなか魅力的で、いきなりのどんでん返しに一気に引きずり込まされました。その後も盛り上がる場面が随所であるのですが、全体的には詰め込み過ぎかつ整理不十分気味で案外読みにくいです。終盤の登場人物たちが集まっての謎解きディスカッションはなかなか本格派として楽しめますが結末はやや唐突感が残りました。まあそれでもデビュー作の「いい女の殺し方」(1984年)と比べれば格段に進歩していますが。

No.1759 5点 ハイキャッスル屋敷の死- レオ・ブルース 2016/09/23 01:42
(ネタバレなしです) 1958年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第5作の本格派推理小説は古きよき時代へのオマ-ジュとして書かれたのでしょうか。貴族の屋敷を舞台にして数々の豪華な食事や行き届いたサ-ビスにとまどい気味のキャロラスが描かれています(使用人の数が半端ではありません)。オマージュといえば本書はかなりエラリー・クイーンを意識したように思えるところが散見されます。キャロラスが13の手掛かりを挙げて犯人を指摘する場面は初期のクイーンを彷彿させますが、それ以上に印象に残るのはまだ中盤の12章の終わりでキャロラスは真相を見抜いたらしいのにそこから解決に至るまでにやたらもたもたしていることです。そうなった理由はクイーンの1940年代の作品を連想させます。真相を証明する証拠を意外な人物が握っていたという設定は作者のオリジナリティを感じさせます。

No.1758 5点 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー 2016/09/23 01:04
(ネタバレなしです) フランスのガストン・ルルー(1868-1927)の作品では「オペラ座の怪人」(1910年)と並んで有名です。彼の作家としての本領はスリラー小説にあったようで、青年記者ルールタビーユの活躍する作品は本書も含めて8つの長編が書かれていますが本格派推理小説に属するのはどうも1907年に発表された第1作の本書だけらしく、ある意味で実験的な作品なのかもしれません。文章は表現が大げさであくが強く、時にまわりくどさを感じさせて必ずしも読みやすくはありません。密室ミステリーの古典としての地位を占める作品ですが文章の古臭さ故に現代の読者に推薦できるかはちょっと微妙な作品です。密室トリックは当時としてはかなり複雑に考え抜かれたもので、イズレイル・ザングウィルの「ビッグ・ボウの殺人」(1892年)のシンプルなトリックとは対象的です。それにしてもルールタビーユはまだ10代の若さの設定なのに態度や口ぶりは全然若者っぽくないな(笑)。

No.1757 6点 見知らぬ顔- アン・ペリー 2016/09/23 00:41
(ネタバレなしです) 1990年に発表された本書はクリミア戦争直後の英国を舞台にした本格派推理小説で記憶喪失の男ウィリアム・モンクシリーズの第1作です。職業が警部であることを教えられたモンクは記憶喪失が回復しないまま職場復帰し、クリミア戦争からの帰国軍人であるジョサリン・グレイ殺しの犯人探しをしながら同時に自分自身を取り戻そうとするのが本書のプロットです。モンクの部下エヴァン、看護婦ヘスター、ジョサリンの伯母キャランドラなど魅力的な人物が多数登場して読み物として非常に面白い作品です。この時代ならではの行動が事件の引き金になっているという背景は歴史ミステリーとして巧妙だと思います(この「行動」は横溝正史の某有名作品でも使われていましたね)。

No.1756 5点 紅楼の悪夢- ロバート・ファン・ヒューリック 2016/09/23 00:34
(ネタバレなしです) 1964年発表のシリーズ第9作の本書では密室内での死が扱われていますが自殺を前提にして物語が進むので不可能犯罪として謎を膨らますようなプロットにはなっていません。トリック的には30年前の密室トリックが印象的です。ユーモアに満ちたシーンもありますがどちらかといえば重い読後感を覚える作品で、ルオ知事やマー・ロン副官の明るいキャラクターをもってしてもそれを完全には払拭しきれていません。

No.1755 6点 ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー 2016/09/23 00:19
(ネタバレなしです) フランスを舞台にした1923年発表のポアロシリーズ第2作の本格派推理小説です。最初は単純な事件のように思えますが人間関係は結構複雑だし、誰もかもが何かの秘密を抱えているらしいなど意外と難解なプロットの作品です。探偵対決要素を織り込んでいるのが珍しいですが推理合戦(多重解決)レベルにまで達していないのは物足りないです。珍しいといえば中盤で発生した事件をポアロがすぐに解決しているのも珍しい展開ですね。その真相が横溝正史の某有名作と類似していたのにはびっくりしました。ワトソン役のヘイスティングスの暴走ぶりも読ませどころです。

No.1754 5点 陸橋殺人事件- ロナルド・A・ノックス 2016/09/22 02:09
(ネタバレなしです) 推理小説作家の中には色々な職業との二足のわらじを履いている人が少なくありませんが英国のロナルド・A・ノックス(1888-1957)は聖職者として英国国教会でナンバー2ぐらいの地位にまで昇りつめたそうです。そんな超大物が数少ないながらもミステリーを書いているのですからさすが英国です。その作風は宗教臭さもなくお堅くもなく、むしろ独特のユーモアに溢れた本格派推理小説です。1925年に発表されたデビュー作の本書は6作書かれた長編中唯一シリーズ探偵が登場しない作品です。創元推理文庫版で「推理小説ファンが最後にいきつく作品」と謳われていますがある意味これは正しいと思います。しかし「古典的名作」と評価するのには共感できません。「古典的」というのはスタンダードとして推奨できる作品にこそふさわしいと思います。本書は伝統的なフーダニットミステリーからかなり逸脱したプロットになっていて万人向けとは言えず、好き嫌いが分かれそうな作品です。私のような未熟な読者ではその良さを十分楽しめるに至りませんでした。

No.1753 6点 割れたひづめ- ヘレン・マクロイ 2016/09/22 01:40
(ネタバレなしです) 「殺す者と殺される者」(1957年)の後のマクロイはしばらく不調期だったようで1960年代にはわずか3作しか発表していません。その1つである本書(1968年出版)は「幽霊の2/3」(1956年)以来久々に書かれたベイジル・ウィリング博士シリーズ第12作の本格派推理小説でマクロイの本格派路線への復帰を期待させました(しかし本書に続くシリーズ次作はさらに12年待たねばならなかったのですが)。カーター・ディクスンの「赤後家の殺人」(1935年)を彷彿させる「死の部屋」が扱われており、特に前半部が素晴らしいです。オカルト的な雰囲気に加えて子供たちの陰謀と事件との絡ませ方など謎とサスペンスの盛り上げが見事です。魅力的な謎に比べるとトリックが平凡なのはちょっとがっかりだし、謎が解けたらハイ終わりという結末(後日談の類はありません)には物足りなさも感じますがなかなかの読み応えがありました。

No.1752 7点 ママのクリスマス- ジェームズ・ヤッフェ 2016/09/22 00:44
(ネタバレなしです) 1990年発表のママシリーズ第2作の本格派推理小説です。民族問題に宗教問題と大変重いテーマが突きつけられますが軽妙でユーモアを交えた文体のおかげでそれほど深刻さを感じさせないのはありがたいです。不真面目と非難されるかもしれませんけど私はミステリーをあくまでも娯楽作品として読んでいて社会問題を考えるのは別の時にしたいのです。本格派の謎解きに関してはさすがにヤッフェ、大変充実してます。ママをも恐れさせた「狂信者」には驚かされました。確かにあれは常人の理解を超越していますね。

No.1751 7点 ドーヴァー4/切断- ジョイス・ポーター 2016/09/22 00:38
(ネタバレなしです) 1967年に発表された史上最低の探偵ドーヴァー警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。本書のドーヴァーは人の迷惑を顧みないところは相変わらずですが推理に関してはいつになく鋭くて迷探偵ではなくちゃんと名探偵ぶりを発揮していたように思えます。結末はちょっと他に例を見ない型破りなもので(私は目が点になりました)、最高傑作との評価に恥じません。それまで私はブラックユーモアというのをあまりよく理解していなかったのですが、本書を読んでああこれこそブラックユーモア以外の何物でもないと啓蒙されました。

No.1750 6点 月が昇るとき- グラディス・ミッチェル 2016/09/22 00:30
(ネタバレなしです) 1945年に発表されたミセス・ブラッドリーシリーズ第18作の本書はミッチェルの代表作と評されていますが、なるほどミッチェル作品としては読みやすくビギナー読者にもとっつきやすいと思います。少年サイモンの眼を通して描かれる冒険談風の展開が時に幻想性さえ感じさせます。ミセス・ブラッドリーの描写は例えば初期の「ソルトマーシュの殺人」(1932年)に比べるとエキセントリックな面はそれほど見られず少年たちへの接し方も常識的です。好き嫌いが分かれるでしょうが明確な謎解き解説をせずにサイモンと読者の判断に委ねたような結末も含めて独特の霞がかったような物語が印象に残ります。

No.1749 5点 迷路- フィリップ・マクドナルド 2016/09/21 10:56
(ネタバレなしです) 本格派推理小説の黄金時代には謎を解く手掛かりを全て読者に提示するというフェアプレー精神を強調することも少なくなく、「読者への挑戦状」とか「手ががり脚注」などはその典型例でしょう。1931年発表のゲスリンシリーズ第5作の本書で採られた手法もなかなかユニークです。ゲスリンが海の向こうで起きた事件の真相を送られて来た裁判記録から読み取ろうとするプロットで、捜査活動には一切参加せず事件関係者と会ったり話したりもしていません。完璧に読者と同等の立場に立っているわけです。この手法は心理描写が得意でないマクドナルドの弱点を巧妙にカバーしていますが、同時に動機(犯人の心理)の説明が勝手な解釈にしか感じられないというという欠点にもつながっています。本格派嫌いの読者はよく「本格派推理小説は人間が存在感がなくて物語として全然面白くない」と指摘しますが、本書はその弱点が如実に現れた典型的なパズル・ストーリーです。

No.1748 6点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2016/09/21 09:44
(ネタバレなしです) 1957年発表のミス・マープルシリーズ第7作の本書はトラベル・ミステリー風にスタートしますがそれはほんの最初だけ、実質的には田舎屋敷を舞台にした本格派推理小説です。ややゆったりした感じで展開しますが中盤からはサスペンスが盛り上がり、最後に列車の目撃談が解決に活きてくるという着地もはまっています。もっとも犯人指摘の場面で狙った効果が空振りしていたらどうするつもりだったんでしょうね?推理説明が論理的でなく、第一の殺人の動機が後づけ説明ではありますがなかなか楽しめました。

No.1747 4点 語らぬ講演者- レックス・スタウト 2016/09/21 09:05
(ネタバレなしです) 「遺志あるところ」(1940年)の後は第二次世界大戦の影響でしょうか久しく書かれなかったネロ・ウルフシリーズですが1946年にシリーズ第9作となる本書で復活です。既に殺人事件が起きてから48時間が経過したところから物語が開始されており、全てを後追いさせられるプロットは非常に読みづらいです。登場人物も多く、登場人物リストを作って関係整理しないと大変です。ある証拠品が鍵を握り、それを捜索することに全力を尽くしていますが推理による解決要素が少ないのは本格派推理小説好き読者には物足りないでしょう。

No.1746 5点 知恵の輪殺人事件- 山沢晴雄 2016/09/21 08:31
(ネタバレなしです) 砧順之助シリーズ第3長編の本格派推理小説で、シリーズ短編の「銀知恵の輪」(1952年)と「金知恵の輪」(1996年)と三部作を形成しているそうですが作品同士の関連性はなく、読む順番も特に問題にしていません。作中時代から推測すると1986年頃に書かれたようですが2000年にようやく同人誌で限定出版されています。ひたすらアリバイ崩しに徹しており(密室からの人間消失もありますが)、ほとんどの容疑者にアリバイが成立していてしかもどこか怪しいというプロットになっています。作者はトリックについて「安易な方法」だが「変化のあるストーリーができる」と自己弁護していますが複雑難解に過ぎたような気がします。「砧自身の事件」(2000年)以上に砧順之助の存在感が希薄なのも物足りません。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)