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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2113 5点 朝刊暮死- 結城恭介 2019/03/21 20:00
(ネタバレなしです) 1997年発表の雷門京一郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。ノン・ノベル版の作者あとがきで「『犯人をつくる』探偵というコンセプト」についてコメントされていますが、過去の2作での京一郎は普通の名探偵の印象しかありませんでしたが本書においてはなるほど『犯人をつくる』工夫が感じられました(単純なでっちあげなどではありません)。挑発的で大胆な犯人にトリックへのこだわりという点は前作の「コール」(1995年)を連想させますがそこにプロット全体にまたがる仕掛けが加わり(それが『犯人をつくる』につながるのですが)、「殺人投影図」(1994年)でのユーモアまで復活して作者が自信満々なのも何となく理解はできます。ただやりたいことを色々とやった結果、力作にはなったもののひねり過ぎて(個人的に)感心できない謎解きも少々混ざってしまったように感じます。ストレートど真ん中の謎解きだった「コール」の方が好みです。とはいえ作者としてはやり尽くした感があったのでしょうか(それとも出版不況の時代にあって作品発表の機会を与えてもらえなかったのでしょうか)、本書以降はミステリー作品を発表していないようなのは惜しまれます。

No.2112 4点 そのお鍋、押収します!- ジュリア・バックレイ 2019/03/15 22:48
(ネタバレなしです) 28年に渡る教職を引退した米国のジュリア・バックレイは2006年にコージー派ミステリー作家として新たな道を歩み始めていくつかのシリーズ作品を世に出していますが、日本に初めて翻訳紹介されたのは2015年に新たなシリーズとして出版された秘密のお料理代行シリーズ(本国でも「Undercover Dish Mystery」として知られています)のデビュー作である本書です。ゴーストライターならぬゴーストケータラーとして依頼人のために料理を作る(公式には依頼人が料理したことになっています)ライラ・ドレイクを主人公にしたミステリーですがライラが重大容疑者になるわけでもなく、かといってそれほど積極的に犯人探しをしているわけでもなく、いくらコージー派といっても緩すぎるプロットに感じました。それでも12章での楽しく華やかな雰囲気の前半と突然緊張感が高まる後半の対照はなかなか読ませますが。謎解きとしてはほとんど動機だけで犯人を決め付けている推理があまりにも弱く、コージー派によくあるパターンですが犯人の自滅的な行動で解決してしまうのが物足りません。それにしても「秘密のお料理代行」が次作でも継続できるのか気になる締めくくりですね。コージーブックス版の登場人物リストには載ってませんがライラの両親がなかなかいい味を出しています。

No.2111 5点 昼下がり- 笹沢左保 2019/03/13 15:24
(ネタバレなしです) 1990年に雑誌掲載されて1991年に単行本出版されたタクシードライバー夜明日出夫シリーズ第3作でアリバイ崩しの本格派推理小説です。犯人当てとしての楽しみはほとんどないので(誰を疑っているかを夜明は堂々と公言しています)どのようなアリバイトリックを使ったのかに読者の関心が集まると思いますが、本書のトリックはかなり苦しいトリックだと思います。犯人の思いもよらない出来事が起きてしまうのですが、そもそも計画の段階で不確定要素が多い可能性を考慮しなかったのでしょうか。夜明の母親が初登場(捜査とは関係ありません)していますが、家族ドラマとしての膨らみもありません(この作者にそういうのを期待する方が筋違いかもしれませんけど)。

No.2110 5点 法月綸太郎の冒険- 法月綸太郎 2019/03/09 22:57
(ネタバレなしです) 1992年発表の法月綸太郎シリーズ第1短編集でシリーズ中短編を7作収めています。本格派推理小説が揃っていますが内容はかなり多種多様で、読者によっては好き嫌いが分かれそうです。講談社文庫版で100ページを超す中編「死刑囚パズル」は実に18人もの容疑者を揃え、法月が論理的推理で犯人でない人物を次々に容疑から外していく展開は作者がエラリー・クイーンの忠実な後継者であることを納得させます。個人的に最も好きな作品で、これだけなら7点評価です。一方で犯人が被害者の死肉を食べた理由は何かという気持ちの悪い謎解きの「カニバリズム小論」は全く合いませんでした。私がホラーとかサスペンスとかを敬遠しているのは気味悪い、怖い、おぞましいのが苦手だからなのですが、たとえプロットがガチ本格派であってもこの種のものは好みではないです。後半の図書館シリーズ4作では密室の謎の「緑の扉は危険」が面白かったですがトリックのアイデアは優れていると思いますけどトリックを実現させるための手段がちょっと残念レベルです。

No.2109 6点 クラヴァートンの謎 - ジョン・ロード 2019/03/08 13:16
(ネタバレなしです) 1933年発表のプリーストリー博士シリーズ第14作の本格派推理小説です。シリーズ代表作との評価も納得の出来映えです。旧友絡みの事件ということでプリーストリー博士の捜査への積極性が半端ではありません。人物の個性描写もこの作者としては敢闘賞もので、暗く禍々しい雰囲気が漂っています。語り口が単調で「退屈派」というありがたくないレッテルを貼られてる作者ですが、本書に関しては「やればできるじゃないですか」と褒めてあげたいです(笑)。痕跡の見つからない毒殺を扱っているところがトリックメーカーの作者ならではで、現代では通用しないトリックかもしれませんが説明がシンプルでわかりやすいです。

No.2108 6点 QED 伊勢の曙光- 高田崇史 2019/03/06 08:39
(ネタバレなしです) 2011年発表の桑原崇シリーズ第16作でシリーズ最終作として出版されました。示し合わせていたわけではないでしょうけど同年には篠田真由美の建築探偵・桜井京介シリーズもシリーズ最終作「燔祭の丘」が出版されましたね。もっとも読者からの継続要望が大きかったのか、このシリーズはその後も新作が発表されましたが。講談社文庫版で約550ページの大作で事件の真相のスケールも大きく、21世紀の犯罪ながら前近代的な動機が印象的です。こちらの事件は巻き込まれ型サスペンス風な展開で解決されますが、メインの謎である歴史の謎解きは一応は本格派推理小説風です。今回は伊勢神宮にまつわる謎解きで最終的には30もの謎が提示されてさすがの崇も大苦戦、随分と恩師に助けられてますね。これまでのシリーズ作品と同じく、学力のない私には何が何やらでほとんど理解できない謎解きでしたが日本で最も有名な伊勢神宮が近代(明治時代)までは目立たない存在だったというのは意外な発見でした。

No.2107 5点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅱ- エドワード・D・ホック 2019/03/02 23:14
(ネタバレなしです) サム・ホーソーンシリーズの第1短編集(最初の12作を収めてます)は本国アメリカで1996年、日本で創元推理文庫版が2000年(非シリーズ作品1作のおまけ付き)に出版されましたが、その後の日本では2002年の第2短編集の本書から2009年出版の第6短編集まで(それぞれ12作ずつ収めながら)順調に出版されて米国に先駆けてシリーズ全72作がまとめて読めるようになったのは本格派推理小説ファンにとっては大いなる喜びでしょう。ちなみに米国でも15作ずつ収めた短編集が2018年出版の第5短編集まで続いてついにあちらでも全集がめでたく完成しました。本書は第1短編集と比べると無理なトリックや粗い推理の作品が増えてしまった感はありますがその中ではバカトリックぎりぎりの「伝道集会テントの謎」、7つもの推理が繰り広げられる「ピンクの郵便局の謎」、全く異なる不可能事件の謎を2つそろえた「ジプシーキャンプの謎」が印象に残りました。レオポルド警部シリーズの「長方形の部屋」をおまけで付けたのは個人的には微妙。このシリーズでの短編集も作ってほしいので。

No.2106 4点 夜は千の鈴を鳴らす- 島田荘司 2019/03/02 22:37
(ネタバレなしです) 1988年発表の吉敷竹史シリーズ第8作の本格派推理小説です。多くの方のご講評で紹介されていますが某作家の某有名作品のトリックが使われているのが気になります。独創的なトリックを生み出すことが極めて困難なこのご時世ですからトリックの再利用自体をとがめるつもりは全くありませんが、それにしても本書の場合はあまりにも露骨な焼き直しではないでしょうか。詩情あふれるタイトルはとても魅力的ですが、作中での演出をもう少し高められればと思わないでもありません。

No.2105 6点 炎の証言- シェリー・ルーベン 2019/03/01 08:37
(ネタバレなしです) 米国の女性作家シェリー・ルーベンが1994年に発表したミステリー第2作です。火災調査専門の私立探偵ワイリー・ノーランと正義にこだわる弁護士マックス・ブランブルのコンビを主人公にして、炎上した車中の死体の謎解きに挑む本格派推理小説です。前半の13章あたりまではマックスの語りによる説明が単調過ぎていささか退屈ですが、会話が積極的に挿入されるようになってからは物語にメリハリが付きました。ワイリーの火災調査の描写が非常に丁寧で、素人の私にもわかりやすくて説得力のある推理説明です。それに比べると犯人調査の方は完全に後回しで、おまけに推理も粗く感じられるのが少々惜しいところです。

No.2104 6点 バラ迷宮- 二階堂黎人 2019/02/21 22:48
(ネタバレなしです) 1997年発表の二階堂蘭子シリーズ第2短編集です。「ユリ迷宮」(1995年)は200ページを超す作品を収めているため3作から成りますが本書は6作が収められ、短編集としてはこちらの方が多彩に楽しめると思います。臣さんやE-BANKERさんのご講評で評価されているように短編であっても大時代的な雰囲気が漂っているのが作品個性となっており、謎解きの面白さもたっぷりです。トリック重視の作品が多いのもこの作者ならではですが、毒殺トリックの謎解きの「薔薇の家の殺人」はページが多いこともあってプロットにも力を入れてます。作中でエラリー・クイーンの「フォックス家の殺人」(1945年)が引用されてますが、使われているトリックは異なりますけどちょっと似ているところがありますね。トリックが印象的なのはグロテスクな犯罪にふさわしい凄惨な真相の「喰顔鬼」です。

No.2103 6点 ニュー・イン三十一番の謎- R・オースティン・フリーマン 2019/02/21 22:20
(ネタバレなしです) 1912年発表のソーンダイク博士シリーズ第3作の本格派推理小説です。ワトソン役のジャーヴァスが謎の家で謎の住人と謎の患者に出会う物語、そしてソーンダイク博士が不自然な経緯で改訂された遺言状について相談を受ける物語、この2つの物語が交錯しながら展開するプロットです。もともと中編作品だったのを長編化したらしいので、それがこのような構成になった理由かもしれません。真相に意外性はありませんが前作の「オシリスの眼」(1911年)と同じくソーンダイク博士の細部に渡る推理が印象的で、あまりの細かさにもっと簡潔に説明できないのかとわがままな注文をつけたくなります(笑)。

No.2102 5点 燔祭の丘- 篠田真由美 2019/02/21 22:09
(ネタバレなしです) 2011年発表の桜井京介シリーズ第15作でシリーズ最終作の冒険スリラーです。冒険スリラーといっても展開は遅いしアクション場面も少ないのですが講談社文庫版で700ページを超す厚さが気にならない文章力はさすがです。過去のシリーズ作品のネタが随所で紹介されていますが記憶力が落第生レベルの私はほとんど思い出せませんでした(笑)。とはいえ少なくとも第三部の5作は発表順に読むことを勧めます。これまでのシリーズ作品で蒼、深春、神代教授の人生に大きな影響を与える物語があったので最後が京介の順番になることはまあ想定内でしたが、その割には京介の登場場面は意外と少なく、他のレギュラーキャラクターに十分以上のページを与えています。虫暮部さんのご講評でも触れられてますが、パズル色は薄いものの端正で爽やかな本格派推理小説でスタートしたこのシリーズが暗く重苦しい心理描写のスリラー路線へと切り替わり、しかも過去作品を読んでないと展開についていくのが困難な大河小説風になったのはどう評価されるのでしょう?本格派ばかり求める偏屈読者の私は当然アウト判定なのですけど(笑)。後期の作品ではもはや建築探偵ものではなくなってしまったし。

No.2101 4点 村で噂のミス・シートン- ヘロン・カーヴィック 2019/02/21 21:52
(ネタバレシリーズ) ミス・シートンシリーズは英国の男性作家ヘロン・カーヴィック(1913-1980)によって1975年までに全5作書かれましたが、彼の死後に米国で再販本がヒットしたのを機に1990年代になって英国の男性作家ハンプトン・チャールズ(1931-2014)がシリーズ続編を3作書き、さらに英国の女性作家ハミルトン・クレーン(1949年生まれ)によって書き継がれています。1968年発表の本書はカーヴィックによるシリーズ第1作です。コージー派ミステリーに分類されているようですが本書を読む限りでは本格派推理小説としての謎解き要素はほとんどなく、巻き込まれ型サスペンス風です。ミス・シートンが女性が男性に襲われている場面に遭遇し犯人は逃亡、被害者は死亡します。犯人の正体は程なく明らかになりますがそこには推理は全くありません(名前は登場人物リストに載りません)。これがきっかけで有名人となったミス・シートンの周囲で色々な出来事が起き、ミス・シートンの描く絵が事件解決の糸口になるようですが、肝心のミス・シートンが絵の意味をまるで理解していないのがまどろっこしいです。締めくくりがまだ何か嫌なことが起きそうな雰囲気になっているのが珍しいです。

No.2100 6点 T型フォード殺人事件- 広瀬正 2019/02/08 23:45
(ネタバレなしです) SF作家として注目を浴び、これからの飛躍が期待されたところで路上を歩いている最中に突然の心臓発作で亡くなってしまった広瀬正(1924-1972)、その遺作の1つとして1972年に発表されたのが本書です。日本にわずか数台しかないT型フォードが披露され、その車にまつわる46年前の殺人事件が語られ、それに続く謎解き議論と意外な展開が楽しめる本格派推理小説です。他の方々のご講評にもあるように当時としては斬新であったろうアイデアが光る作品です。現代ミステリーに馴染んだ読者には荒削りの作品に感じられるかもしれませんけど。それよりも発表当時はSF作品でなかったことに面食らった読者が多かったそうですが。

No.2099 5点 奥方は名探偵- アシュリー・ウィーヴァー 2019/02/08 23:29
(ネタバレなしです) 英国の女性作家アシュリー・ウィーヴァーの2014年発表のエイモリー・エイムズシリーズ第1作のコージ-派ミステリーです。本格派推理小説黄金時代であった1930年代英国を作品舞台にしていますが時代描写はあまりありません。エイモリーの衣装描写には凝っていて、もしかしたら当時の流行ファッションかもしれませんが。夫のマイロが遊び人で不在がちなことに振り回されるところは同情の余地があるものの、それにしたって昔の恋人の誘いに簡単に応じてしまうとは(浮気とか不倫とかは全く考えていないにしろ)エイモリーも浅はかとしか言いようがないですね。まあこれがプロットにメリハリをつけていてロマンチック・サスペンス風な展開になってはいますが。人物個性はきちんと描けているしミステリーの雰囲気も程々ありますが、ほぼ運任せの解決になってしまうのが(悪い意味で)コージー派らしく、日本語タイトルの「名探偵」らしさが感じられませんでした(ちなみに英語原題は「Murder at the Brightwell」です)。

No.2098 5点 模型人形殺人事件- 楠田匡介 2019/02/08 23:12
(ネタバレなしです) 戦前の1930年代に執筆開始していますが本格的な活動は戦後になってからの楠田匡介(くすだきょうすけ)(1903-1966)はトリックメーカーとして知られ、特に脱獄を扱ったユニークな短編ミステリーは高く評価されています。1949年発表の本書は初の長編作品の本格派推理小説です。開始わずか2ページで起こった殺人事件の現場は準密室状態で、死体をマネキン人形が見つめているだけでなく凶器と思われるピストルにはその人形の指紋が付いているという異常な事件です。その後も人形の首が盗まれたり、人形そっくりの謎の女性が登場したりとプロットは変化に富みますが展開が急過ぎて読みづらい一面もあります。トリックメーカーらしくトリックを沢山用意してはいますが、こちらの説明も駆け足気味で整理不十分に感じてしまいました。名探偵役かと思われた田名網警部は犯人の正体はつかんでいたようですが主人公らしさに欠けており、真相の大半を語る別の人物に「負け」を意識する有様です。

No.2097 5点 検事卵を割る- E・S・ガードナー 2019/02/08 22:58
(ネタバレなしです) 1949年発表の検事ダグラス・セルビイシリーズ第9作の本格派推理小説です。公園で発見された女性の死体事件に宝石泥棒や交通事故が絡む複雑なプロットです。またしても宿敵A・B・カーに翻弄されます。セルビイは「A・B・C老」などと呼んでいますが、本書のカーはセルビイに遜色ないフットワークの軽さが光ります。第8章で驚きの展開があってセルビイの捜査は暗礁に乗り上げ、彼の失脚を狙うメディアから批判記事の攻勢を受けてしまいます。残念ながらここからの逆転劇はペリイ・メイスンシリーズほどの鮮やかさがなく、非合法まがいの逮捕で強引に解決というのが物足りません。本書がシリーズ最終作(特に最終作らしい演出はなし)となってシリーズ打ち切りになったのもやむなしかなと思います。

No.2096 5点 壷中美人- 横溝正史 2019/02/08 22:43
(ネタバレなしです) 「壺の中の女」(1957年)という金田一耕助シリーズ短編を改訂長編化して1960年に発表したシリーズ第22作の本格派推理小説です(短編版は短編集の「金田一耕助の帰還」(1996年)で読めます)。少女が身体をくねらせながら小さな壺の中に収まる壺中美人という芸が紹介され、それをテレビ鑑賞していた金田一が後の事件解決につながるヒントに気づくという序盤(等々力警部は気づきません)、そして殺人現場でこの芸を試みる少女が目撃されるという不思議な謎(見られていることに気づいて芸を中断して逃亡します)という展開はなかなか魅力的ですが中盤以降は地味過ぎてだれてしまいます。動機がかなり後出し気味ですし、何よりもなぜわざわざあの芸をしようとしたのかという説明がきちんとされていません。

No.2095 5点 「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶- マーサ・グライムズ 2019/01/29 22:40
(ネタバレなしです) 1984年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第4作の本格派推理小説です。文豪シェイクスピアの故郷ストラトフォードを観光中のアメリカ人ツアーで連続殺人事件と少年の失踪事件が起きます。個人個人の描写はよく描けていますが、人同士の結びつきはあまり描かれずドラマとして散漫な印象を受けます。集団行動どころか一同が顔を合わせる場面さえないのでツアーの雰囲気がまるで感じられません。終盤近くになっての唐突な展開と唐突な解決、推理の説得力が十分とは思えません。一番意外だったのは少年がどこにどうやって連れ去られたかでしたが(生きていることは随所で読者に知らされます)、こちらについても説明があっさり過ぎて実現性には疑問が増すばかりです。

No.2094 5点 「能登モーゼ伝説」殺人事件- 荒巻義雄 2019/01/29 22:28
(ネタバレなしです) 1990年発表の埋宝伝説シリーズ第5作の本格派推理小説ですが、財宝探し的な趣向はありません。北海道の巨大迷路で発見された角のある男の死体の事件はやがて能登のモーゼ伝説の謎に発展し、最後は探偵役の荒尾十郎がフランスにまで乗り込みます。アリバイ崩しに力を入れていて第7章では荒尾が見破った時刻表トリックの解答は巻末にありますという、ちょっと変わった「読者への挑戦状」があります。もっとも肝心の時刻表(1989年9月号)が掲載されておらず、現代の読者はこの謎解きに挑戦できないのですが。まあ載っていたとしても時刻表を見ると頭痛が起きる私は敬遠しちゃうんですけどね(笑)。講談社文庫版の作者あとがきでは、現代社会におけるミステリーの在り方について色々と思い悩んでいるような記述がありますが方向性を見つけられなかったのか結局本書が作者最後のミステリー作品になりました。この後の作者は架空戦記小説の艦隊シリーズで大成功するのですからミステリーから離れたのは正解ということになるのでしょう。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)