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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2165 6点 八人の招待客- パトリック・クェンティン 2019/09/20 22:04
(ネタバレなしです) 本国アメリカでも雑誌掲載したきりで単行本化されなかった中編「八人の招待客」(1936年)と中編「八人の中の一人」(1937年)を山口雅也が翻訳して1冊の単行本として2019年に国内出版しました。ちなみに国内紹介されたのはそれが初めてではなく、半世紀以上前の1950年代に前者は「ダイヤモンドのジャック」、後者は「大晦日の殺人」という日本語タイトルで雑誌掲載されています。どちらがどちらだか混乱しそうな新タイトルよりも英語原題の「The Jack of the Diamonds」と「Murder of New Year's Eve」に忠実な旧タイトルの方を個人的には支持したいですが。どちらもクローズド・サークル内での殺人を扱った本格派推理小説で、「八人の中の一人」はマンハッタンの高層ビルを舞台にして株主総会が終わった後に総会メンバーが殺される事件というのが珍しく、当時のミステリーとしては結構モダンです。閉じ込められた人々の中に犯人がいる(はず)という設定がサスペンスを盛り上げます。「八人の招待客」は脅迫された被害者たちが一堂に会するというのがアントニー・ギルバートの「黒い死」(1953年)を連想させますがプロットは全くの別物。脅迫者を始末しようと画策しますが予期せぬ展開を見せます。むき出しの殺意がサスペンスを盛り上げます。「グリンドルの悪夢」(1935年)に劣らぬサスペンスは一級ですけど解決が駆け足気味になったのが少々惜しいと思います。謎解きはじっくりと味わえさせてほしかったですが、これが中編の限界でしょうか?

No.2164 5点 H殺人事件- 清水義範 2019/09/20 21:26
(ネタバレなしです) 清水義範(1947年生まれ)はパスティーシュ小説の第一人者として知られ、作品ジャンルは極めて多岐に渡りますがミステリーについては1985年発表の本書を皮切りとする躁鬱探偵コンビシリーズ(躁鬱を「でこぼこ」と読ませてます)とやっとかめ探偵団シリーズが代表作でしょうか。ユーモア本格派推理小説である本書ではシリーズ主人公の1人である不破太平の住んでいるアパートで殺人事件が起き、太平はアリバイを主張して容疑を晴らします。そのアリバイ証人がもう1人のシリーズ主人公の朱雀秀介で、初登場場面では被害者の死亡時刻を推理しますがこれがなかなかの切れ味で印象的、こちらが名探偵役であることを早々と読者にアピールしています。しかし肝心の最終章での犯人との対決場面では「証拠はありません。でも僕はそう思うのです」とかなりの部分を想像で補った推理になっていてご都合主義に感じられてしまうのが残念。通俗色はありますがそれほどくどくなく、思っていたよりは謎解きに集中しています。

No.2163 6点 キャッスルフォード- J・J・コニントン 2019/09/20 21:06
(ネタバレなしです) 1932年発表のドリフィールド卿シリーズ第10作の本格派推理小説です。裕福な女主人が遺言書を変更すると発表しますが変更前に殺されてしまうという、よくある設定の事件の謎解きです。古い方の遺言書の破棄は達成しているので遺言書なしで死亡したことになり、利害関係がややこしくなりそうですがそこを深く追求するストーリーにならないのがちょっともったいない気もします。人物描写が上手くない作家と評価されているようですが本書では結構頑張っており、第2章「政略結婚」で語られる家族ドラマは読者の心に訴えるインパクトがあると思います。地道で重箱の隅をつつくような捜査が続くし、ドリフィールド卿の出番は後半になってからですがドリフィールド卿に助けを求めながら嘘や隠し事する容疑者など謎を盛り上げる工夫をしています。しぶとく抵抗する犯人を追い詰める、微に入り細に入りのドリフィールド卿の推理説明も読ませどころです。

No.2162 6点 八月の消えた花嫁- 野村正樹 2019/09/16 20:33
(ネタバレなしです) 1989年発表の「殺意のバカンス」シリーズ第2作の本格派推理小説です。今回の舞台はタヒチで(但し後半は東京に舞台が移ります)、雑誌の読者特派記者に応募して当選した村上加奈子(速水敏彦は行けないのでちょっと不満げです(笑))が現地で事件に巻き込まれます。軽薄な観光ミステリーかと思ってあまり期待しないで読んだのですが、確かに観光要素もあって緩さを感じる場面もありますが謎解きプロットは意外とがっちりしてました。舞台設定は決してお飾りではなく、タヒチを選んだ理由がきちんとしていますし巧妙な手掛かりに基づく推理が光っています。なお集英社文庫版の巻末解説は犯人の名前こそ明かしていないものの、中盤の事件の被害者や後半に判明する秘密をばらしてしまっているので先には読まないことを勧めます。

No.2161 5点 魔女の不在証明- エリザベス・フェラーズ 2019/09/16 20:13
(ネタバレなしです) 1952年発表の本格派推理小説です。同じ被害者の死体が別々の場所で発見されたらしいという奇妙な事件で幕開けし、あやふやな証言にあやふやなアリバイと、ある作中人物が述べているように「何を考えるべきかも、どうしたらいいかもわからない」状態が続きます。下手な書き方だと退屈極まりなくなるのですが、主人公の混乱を上手くサスペンスに絡めているのがよい工夫です。これで複雑な真相説明をすっきり着地できていればかなりの傑作と評価できるのですが、どうも一部の謎が放ったらかしになってしまった印象を受けました。本当の被害者でない方の死体の身元については「警察は(中略)自分たちで推理するはずだ」で片づけてしまっているし、第2の事件についてはほとんど推理されてません。さらに終盤の第21章の終りで起きた悲劇に至っては尻切れトンボではないでしょうか。

No.2160 6点 パリに消えた花嫁- 長井彬 2019/09/11 21:19
(ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。結婚式間近だというのに婚約者の男性へ何も告げずに女性はヨーロッパへ旅立ちます。男性は当然不満を抱くのですが調べていくと旅行を企画手配した会社は架空の存在だったことが判り、女性への不信と同時に不安が芽生えます。ミステリーのテーマとして盛り上げるのが難しい失踪事件を扱っていますが、読者に対してのみ「女性からの届かなかった手紙」を随所で提示しているのがちょっとした工夫になってます。使われたアリバイトリックを「地球規模の密室」と表現しているのにはどう突っ込めばよいのか困ってしまいますし(笑)、謎解き伏線を前もって提示しているとはいえ犯人がアリバイを主張した瞬間に待ってましたとばかりに探偵役がトリック説明を開始する電撃的解決もいやはや何ともです(笑)。

No.2159 5点 瓜二つの娘- E・S・ガードナー 2019/09/11 21:08
(ネタバレなしです) 1960年発表のペリー・メイスンシリーズ第62作の本格派推理小説です。父親から朝食のお代わりを頼まれた娘が台所から食堂へ戻ってきた時には父親の姿は消えています。残っていたのは床の上に落ちていた新聞、手つかずのコーヒー、煙が立ち上るシガレットが置かれたままの灰皿、そして仕事カバン。カバンの中には「緊急事態が生じた場合は、ペリー・メイスン弁護士に、即刻電話すべし」とのメッセージがありました。さらに庭の離れの建物の床には大量の100ドル札がばらまかれ、血のような赤い液体が溜まっています(現場見取り図が欲しいところです)。謎に満ち溢れた導入部、そして劇的な展開と前半部は非常に充実してますが後半は失速気味。後出し感の強い証言に頼り切った解決はお世辞にも切れ味が鋭いとは言えず、家族ドラマは中途半端な状態で放り出されています。

No.2158 5点 潤みと翳り- ジェイン・ハーパー 2019/09/04 22:41
(ネタバレなしです) 5人の女性が企業主催の合宿研修に参加するが、遭難に合って山中から戻ってきたのは4人のみ。一体何が起きたのか、戻らない1人はどうなったのかの謎を読者に突きつける2017年発表のアーロン・フォークシリーズ第2作ですが、「渇きと偽り」(2016年)と比べると本格派推理小説要素は大きく後退し、代わりにサスペンス小説要素が強くなってます。合宿シーンとアーロンの捜査シーンを交互に描く構成ですが、前者のサスペンスは秀逸です。一方でアーロンが事件発生前から失踪者と何らかの関わりがあったことが示唆されていますが、その経緯をアーロンがなかなか説明しないなど謎解きはどうにも回りくどいです。真相解明につながる伏線はあるのですが、伏線が証拠に転じるのはかなり終盤近くであっけない解決です。本格派好きの私にはシリーズ前作ほどの充実感は得られませんでした。

No.2157 5点 61年目の謀殺- 日下圭介 2019/09/04 22:15
(ネタバレなしです) 1990年に雑誌連載され1991年に単行本化された倉原真樹シリーズ第4作の本格派推理小説です。61年前の1929年に実際に起こった佐分利貞夫怪死事件を調べていたノンフィクション作家が殺されます。彼と口論していた同業作家が疑われ、そのアリバイ証人が真樹だったいう偶然はまだ目をつぶりますけど真樹までが佐分利事件に高い関心を持っていた理由はもっと明確にしてほしかったですね。現代の事件よりも61年前の事件の謎解きにやや重きを置いた感じですが、何しろ昔の事件ですからなかなか捗りません。おまけに佐分利事件の関係者と思われる人物が次々に謎の死を遂げていることが判ってきて、大がかりな事件の様相を呈しているのですが展開が地味過ぎてむしろ小ぢんまりした印象を与えてしまっています。しかし終盤近くになって新たな事件が起きると一気に劇的な展開となったかと思うと一気呵成に解決です。

No.2156 5点 神々の殺人- 篠田秀幸 2019/08/25 18:41
(ネタバレなしです) 2006年発表の弥生原公彦シリーズ第10作の本格派推理小説で、ここまでのシリーズ作品全てに「読者への挑戦状」を挿入したことは見事だと個人的には評価したいと思います。「稗田阿礼こと、もと捜査官」と名乗る犯人から「国辱の記念日に」「聖地で」「国賊を抹殺していく」という殺人予告状が送られてきたことから犯人は警察官あるいは警察関係者ではという疑惑が膨れ上がり、古代史の謎解き、警察小説要素、さらには社会派推理小説要素まで贅沢に盛られてます。作者が「非常に危ない小説」と自己評価しているのはおそらく近代現代の政治思想の批判にまで踏み込んでいるからでしょう。自説を強調するあまり他説に対して攻撃的に過ぎる批判が散見されるのも好き嫌いが分かれそうです。ハルキ・ノベルス版巻末の「作者ノート」で作者が本書のことを「作家人生の中締め」と位置づけていることからまだまだ創作意欲はあったと思いますが、出版不況の波に翻弄されたのでしょうか本書以降は次作を発表する機会を与えられないままのようです(もう一つの職業である教職の方に専念しているのかもしれません)。

No.2155 6点 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン 2019/08/18 15:15
(ネタバレなしです) 昔の創元推理文庫は本格派推理小説なら顔に「?」が描かれた男のマーク、サスペンス小説なら黒猫マーク、ハードボイルドなら拳銃マークとどんなミステリージャンルかを読者に示すサービスがあって私にはありがたかったのですが、本書については少々戸惑いました。なぜなら本のカバーには本格派マークが付いていたのですが、巻末の文庫目録ではサスペンスの項目に分類されていたからです。まあそんなんで困るのはジャンルの好みが片寄り過ぎている私ぐらいでしょうけど。文庫の紹介文が凄い。「1955年に発表されるや、英米両国のあらゆる批評家から最大級の賛辞」とか「新しき古典として推理小説史上に早くも不動の位置を占めたベストテン級の傑作」とか。ジャンルは気にしつつも(しつこい)、期待を高めて読みましたが、ありゃ凄くない(笑)。主人公が不幸な境遇の前妻に(今の家族には内緒で)同情したのがあだとなってどんどん状況が悪化するという、謎解きよりも人間ドラマ重視のサスペンス小説的プロットで、ダルース夫妻シリーズの「女郎蜘蛛」(1952年)を連想させます。打つ手がなくなった主人公が窮地を打開するには真犯人を見つけるしかないとアマチュア探偵として活動する終盤の展開がようやく本格派風、しかし主人公にしろトラント警部にしろ鮮やかな推理を披露して解決するわけではありません。地味にいい作品ですけど、派手な演出も気の利いた手掛かりも工夫をこらしたトリックもなく、創元推理文庫版の宣伝文句だけ妙にハイテンション(笑)。

No.2154 6点 ストラング先生の謎解き講義- ウィリアム・ブリテン 2019/08/14 20:35
(ネタバレなしです) 作者を代表するミステリー作品といえば「読んだ男」シリーズとストラング先生シリーズ、どちらも作者の生前には本国アメリカでは短編集が出版されず、ようやく2018年になって「The Man Who Read Mysteies」という短編集が前者を全11作と後者を7作収めて出版されました。ちなみに日本ではこれよりも早くストラング先生シリーズを14作収めてぎりぎり作者が亡くなる前の2010年に論創社版の本書が出版されています。全32作の短編が短編集に収められることを祈念します。作風はエドワード・ホックの諸短編とアイザック・アシモフの黒後家蜘蛛シリーズの中間風の本格派推理小説で、凶悪犯罪が少ないことと往々にして犯人当て要素が軽視されています。他愛もない謎解きが多いですが本書の中では推理説明が丁寧な「ストラング先生の初講義」と異色の怪死事件の謎解きの異様な展開の「ストラング先生の熊退治」が印象に残りました。

No.2153 5点 黄河遺宝の謎を追え!- 荒巻義雄 2019/08/14 20:22
(ネタバレなしです) 1988年発表の埋宝伝説シリーズ第3作です。この後シリーズ作品は2作が発表されていますが探偵役の牧良男の登場は本書が最後で、シリーズ次作では別の人物が探偵役になります。事件現場に謎の記号や暗号のようなものが残され、被害者によるダイイングメッセージではないことから何のために残されたのかという謎も加わります。写真や図柄が豊富に掲載され、結構早くに「あとで思うと、すでにこの段階で、事件解明の手掛かりは出揃っていたのだ」という文章が挿入されるなど前半は本格派推理小説の要素が濃いです。しかし後半になると冒険スリラー風に展開します。メッセージの謎解きは専門知識が求められるのでまず一般読者にはハードルが高過ぎそうだし、推理よりも自白による説明が多いので何が「事件解明の手掛かり」なのかよく判りません。おまけに偶然の要素がいくつも重なった真相なので本格派を期待する読者には勧めにくいです。

No.2152 5点 閉じられた棺- ソフィー・ハナ 2019/08/14 20:09
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティー遺族団体公認による新エルキュール・ポアロシリーズ第1作の「モノグラム殺人事件」(2014年)が大ヒットしたことで自信をつけたか、2016年にシリーズ第2作である本書が発表されました。エキセントリックな容疑者たち、被害者の意外な秘密など謎を盛り上げる工夫たっぷりの本格派推理小説なのですが、肝心のポアロの推理説明が中盤あたりまではともかく終盤になっても回りくど過ぎてキレを感じさせません。風変わりな動機も説得力を欠いているように思います。クリスティーと比較されてどうだこうだと批評されるのはこのシリーズを書く以上作者も覚悟していると思いますけど、クリスティーの謎解きプロットの巧さが際立ったような印象です。

No.2151 6点 密室・殺人- 小林泰三 2019/07/30 21:57
(ネタバレなしです) ホラー短編作家としてデビューした小林泰三(こばやしやすみ。私はずっと「たいぞう」だと思ってました)(1962-2020)の長編第1作が1998年発表の本書です。意外にもユーモア本格派推理小説として展開し、密室の中にいたはずの人間が密室の外で死体となって発見されるという1種の逆密室の謎が提示されます。エキセントリックな容疑者たち相手に探偵助手役の主人公の苦心の捜査が描かれています。それに加えて主人公の抱えるトラウマによる乱心描写がホラー作家として評価の高い作者ならではですが、捜査が完全に中断されてしまうので本格派好き読者の好き嫌いは分かれるかもしれません。結末の付け方も賛否両論あると思いますがなかなか力の入った作品で、謎解き伏線の張り方が巧妙です。

No.2150 5点 囲いのなかの女- E・S・ガードナー 2019/07/30 21:38
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)が亡くなった後にいくつかの作品が遺作として出版されましたが、その中にペリー・メイスンシリーズ第81作となる本書と第82作の「延期された殺人」(1973年)があります。アガサ・クリスティーのように死後発表用として計画していたわけではなさそうですが、いずれにしろファン読者にとっては嬉しい贈り物だったでしょう。1972年の出版となった本書の幕開けはなかなか印象的です。依頼人が旅行から帰ってくると自宅が鉄条網で二つに寸断されていて、半分を見知らぬ女性に占有されているのですから。依頼人の意外な秘密や「日光浴者の日記」(1955年)を彷彿させるどんでん返し(ちょっと偶然の要素が強過ぎか?)など読ませどころが沢山です。真相を見抜く手がかりが後出し気味なのが残念ですけど。

No.2149 5点 カケスはカケスの森- 竹本健治 2019/07/30 21:22
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1990年発表の本格派推理小説です。Tetchyさんのご講評で紹介されているように二人称形式を採用しているのが大変珍しく、しかも時々一人称による語りまで混ざっているのは私は他に例を知りません。二人称の「あなた」は最初からどういう人物か紹介されているのに対して一人称の「わたし」は正体不明の人物として描かれているのもユニークです。ただ二人称だと往々にして読者に作中人物の役割を与えて作品世界に誘うのですが、本書ではそんなことはないのでこの二人称形式が効果的だったのかよくわかりませんでした。本書と同年に発表された綾辻行人の「霧越邸殺人事件」を連想させるところがあり、読み比べてみるのも一興かと思います。ただ本格派としての完成度では綾辻作品の方に軍配が上がり、消化不良気味の謎解きになっているのは謎解き好き読者の評価が分かれそうです。

No.2148 5点 世紀の犯罪- アンソニー・アボット 2019/07/16 20:45
(ネタバレなしです) アメリカのアンソニー・アボット(1893-1952)はジャーナリストだったフルトン・アワスラーのミステリー作家としてのペンネームで、1930年代から1940年代前半にかけて発表されたニューヨーク市警のサッチャー・コルト警察本部長シリーズ(長編8作といくつかの短編)の本格派推理小説で人気を博しました。私はこのシリーズ、「ナイトクラブレディ」(1931年)と「シャダーズ」(1943年)を先に読んでいますがあまりにも無茶苦茶なトリックにB級ミステリーの典型という印象を抱いていました。しかし1931年に発表されたシリーズ第2作の本書は死体発見の場面こそやや派手ですが、全体としてはそれほど破天荒な内容ではありません(英語原題の「The Crime of the Century」はあまりにも大仰ですが)。コルトの強引な捜査活動はリアリティのかけらもありませんし、読者に対して真相を推理できる手掛かりをフェアに提示しているかも疑問ですが、14章でコルトが登場人物たちの容疑を次々に羅列する場面はいかにも本格派黄金時代に書かれた作品であることを感じさせます。

No.2147 4点 墓場への持参金- 多岐川恭 2019/07/16 20:25
(ネタバレなしです) 1965年発表の本書は佐野洋による光文社文庫版の巻末解説で紹介されているように、この作者としては「珍しく」本格派推理小説の要素を持ち、中盤では土地売買に絡む詐欺疑惑が注目されるなど社会派推理小説要素もあります。作品の個性となっているのが終章で、ここではある人物による手紙で複雑な人間関係と思惑が明らかになります。これが佐野洋が賞賛した「人間の謎、人間心理の深さを見事に描いている」ということなのでしょう。しかしながら自白形式なので推理による謎解きを期待する読者に受けるかは疑問ですし、それ以上に問題視されそうなのは火葬場の事件のトリックのひどさです。受けるどころか怒り出してしまう読者がいるかもしれません。

No.2146 5点 密室殺人- ルーパート・ペニー 2019/07/10 21:57
(ネタバレましです) ビール主任警部シリーズ第8作の本格派推理小説である本書と別名義による非シリーズ作品を1941年に発表してルーパート・ペニー(1909-1970)はミステリー作家としての活動を停止しました。英語原題の「Sealed Room Murder」の通り密室殺人が起きるのですがこの事件は中盤以降まで起こらず、それまでは器物破壊や紛失(盗難?)などの小さな事件が相次ぐ展開でチマチマかつごちゃごちゃした印象が否めません。お世辞にも人物描写が上手いとは言えない作風なので大勢の家族が同居する大きな屋敷という舞台背景も十分活かされていないように思います。とはいえ「読者への挑戦状」の後で図解入りで丁寧に説明される密室トリックはなかなかに印象的でした。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)