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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.24 5点 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー 2016/07/20 04:49
(ネタバレなしです) 1949年発表のフェル博士シリーズ第18作ですが従来のシリーズ作品とはかなり趣を変えた作品です。本格派推理小説としての謎解き場面はちゃんとあるのですが弁護士のパトリック・バトラーを主人公にした冒険スリラー小説の要素が非常に強く、ジャンルミックスタイプのミステリーと言えそうです。「盲目の理髪師」(1934年)やカーター・ディクスン名義の「一角獣殺人事件」(1935年)のようにカーはこれまでにもアクションシーン豊富な本格派をいくつか書いていますがそれらとも異なるのは、ある組織の存在が事件の背後に見え隠れしていることです。これは本格派ファン読者にとって好き嫌いが分かれるでしょう。

No.23 5点 血に飢えた悪鬼- ジョン・ディクスン・カー 2016/06/12 05:10
(ネタバレなしです) カー(1906-1977)の最後の作品となった1972年発表の歴史本格派推理小説で、作中時代は1869年、探偵役を「月長石」(1868年)の作者ウィルキー・コリンズが務めています(作中で「月長石」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい)。もっともコリンズは出番が意外と少なくてそれほど印象的ではありません。史実としてこの時代のコリンズはリューマチと阿片中毒に苦しんでいたそうなので意図的に精彩に乏しい描写をしたのかもしれませんが。密室トリックは小手先のトリックで可もなく不可もなくといった感じですが、中盤で明かされたもう一つのトリックにはどちらかといえば悪い意味で驚かされました。ある人物が長々と説明しているのですが、これは絶対に無理だという思いが頭から離れないまま読みました。本書はユーモア本格派ではありませんが、こんなお馬鹿で強引なトリックは笑い飛ばすのが1番か(笑)?

No.22 6点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2016/05/15 00:00
(ネタバレなしです) 1939年発表のフェル博士シリーズ第10作はカーが得意とする密室や足跡のない殺人でなく、容疑者の大半にアリバイが成立してアリバイ崩しに挑んだ珍しい作品です。まあ鉄壁のアリバイだって一種の不可能トリックには違いないし、クロフツのアリバイ崩しミステリーと違って犯人当てとちゃんと両立させています。心理実験に隠された様々なトリックや落とし穴が謎解きの面白さを倍増させているのはさすが巨匠ならではの趣向です。また「三つの棺」(1935年)の「密室講義」ほどは有名ではありませんが、本書では「毒殺講義」があるのも興味深いですね。

No.21 6点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2016/05/12 12:58
(ネタバレなしです) 1942年に発表されたシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説で、使われたトリックをアガサ・クリスティーが絶賛したことでも有名な作品です。ネタバレになるのでどういう種類のトリックかは紹介しませんが、このトリックは別にカーが最初に考案したわけではありません。私が知っているだけでも3人の作家が本書よりも以前にこのトリックを使っていますが、不思議なことにその1人が他ならぬクリスティー自身。まさか自分でそのことを忘れてしまったのでしょうか?とはいえトリックの使い方とそれによる意外性の演出ではカーが断然優れており、クリスティーが感心したのもその辺かもしれません。ロマンスの行方も思わぬ方向へと流れていきますが、こちらはいささか唐突過ぎて私には理解できませんでした。男女の関係ばかりは論理的に解けないミステリーですね(笑)。

No.20 9点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2016/05/11 11:24
(ネタバレなしです) カーの作品を読んで現場見取り図が欲しい、と要求不満になったことが何度あることか。1938年発表のフェル博士シリーズ第9作の本書は庭にいる被害者に誰も近づけなかったという不可能犯罪ものなのですが、文章だけでは庭の間取りや登場人物の位置関係がわかりにくく、せっかくの不可能性がぴんときませんでした(私の読解力が平均レベルを大きく下回っているのも要因ですが)。ただそれを差し引いても本書は本格派推理小説の傑作だと思います。このとんでもないトリックは成立条件が極めて特殊なので、そんなの見破れるわけないじゃないかと拒否反応を示す読者も少なくないでしょうけど。二人の財産相続人候補の静かな対決も読み応えありますし、自動人形(現代のロボットとは全然異なります)の演出も巧妙です。もしも本書を映像化したらあの場面やこの場面はどう再現するのかと想像するだけでもわくわくします。

No.19 5点 火よ燃えろ!- ジョン・ディクスン・カー 2016/04/24 22:33
(ネタバレなしです) 1957年発表の歴史本格派推理小説です。不可能状況下での銃殺という魅力的な謎を扱っていますが、目撃情報がかなりあやふやなこともあって不可能性がいまひとつ伝わりにくくなっているのは惜しいところです。冒険スリラー小説要素が強いため謎解きが盛り上がりにくくなっているのも否めません。まあそれでも「喉切り隊長」(1955年)よりはなんとかミステリーとして踏みとどまっていますが。トリックは歴史物だから謎として成立したというものなので賛否両論あるかもしれません。ちゃんと謎解き伏線があることは巨匠カーならではです。それにしても「ビロードの悪魔」(1951年)、(カーター・ディクスン名義の)「恐怖は同じ」(1956年)に次いで3度目のタイムスリップとは、いくらなんでも多すぎでは(本書でタイムスリップは最後みたいですが)。

No.18 4点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2016/03/21 06:58
(ネタバレなしです) オーギュスタン蝋人形館で目撃されたのを最後としてセーヌ河に死体となって浮かび上がったオデット・デュセーヌの殺人事件の調査中のバンコランがそこの地下室で新たな死体を発見する、1932年発表のバンコランシリーズ第4作の本格派推理小説です。序盤は蝋人形館の不気味な雰囲気、後半は秘密クラブにおける冒険スリラー風展開と傑出した描写力を見せつけています。他のシリーズ作品と比べるとバンコランがやや精彩を欠いていて捜査に手こずっている印象を受けますが、それでも気の利いた手掛かりによる推理はなかなか見事です。ただ第一の事件の真相が(ネタバレ防止のためはっきりと理由は書きませんが)大いに不満を覚える内容だったのは残念ですが。

No.17 4点 深夜の密使- ジョン・ディクスン・カー 2016/01/15 18:23
(ネタバレなしです) 1934年にロジャー・フェアベーン名義で発表した「Devil Kinsmere」を改訂して1964年にカー名義で出版された歴史冒険小説です(英語原題は「Most secret」)。原典版の方は私は未読ですがもともと別名義での作品からの改訂だからでしょう、一般的にイメージされるカーの作品とは異質の作品です。創元推理文庫版の巻末解説では「謎解きの興味は疎かにしていない」と弁護していますが個人的には本書はミステリーに分類するのは無理筋かと思います。ある「秘密」について物語の中で伏線が張られてたことが説明されていますが、読者に対して解くべき謎として提示されていたわけではありません。殺人事件もありますが推理の余地もなく場当たり的に犯人がわかります。ミステリーを期待するとがっかりするかと思いますが、もともとが初めて書いた歴史物だからでしょうか時代風俗の描写に並々ならぬ力が入っており、原典版を書いた当時の若き作者の熱意のようなものがこの改訂版でも伝わってきます。

No.16 6点 毒のたわむれ- ジョン・ディクスン・カー 2016/01/06 13:02
(ネタバレなしです) 1932年発表の長編第5作である本書はバンコランシリーズのワトソン役であるジェフ・マールは登場しますがバンコランは登場せず、パット・ロシターという青年が探偵役です。ロシターは本書のみの登場で、そのためかフェル博士シリーズ第1作である「魔女の隠れ家」(1933年)へのつなぎ的な作品のように位置づけられていますが本書は本書でなかなか個性的です。舞台をクエイル邸に限定し、登場人物もほとんどがクエイル家ゆかりの者に限定してクローズド・サークル的な世界でじわじわと緊迫感を盛り上げているのはカーとしては珍しいです(邸の見取図があればもっとよかった)。謎解き手掛かりやミスディレクションに気を配っており、本格派推理小説として十分に水準をクリアしています。ユーモア要素はほとんどありませんが最後に意外な「笑い」の理由が説明され、なぜタイトルに「たわむれ」を使っているのかが納得できました。

No.15 4点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2015/09/06 00:20
(ネタバレなしです) 1805年のフランスを舞台にした1955年発表の歴史ミステリーです。カーの歴史ミステリーは冒険スリラー色の濃い本格派推理小説が多いのですが、本書はスパイ・スリラーに分類すべき作品かと思います。目撃者の監視状況下での見えない殺人者による殺人という謎はありますがその謎は9章であっさりと解かれ(トリックもそれほどのものではありません)、19章の終わりで説明される真相は本格派推理小説の謎解きというよりは冒険小説でラスボスの正体が暴かれるものに近いと思います。

No.14 5点 ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/28 23:38
(ネタバレなしです)  カーが歴史ロマンへのあこがれを抱いていたことは(カーター・ディクスン名義の)「赤後家の殺人」(1935年)などからも明らかですが、1950年代になると積極的に歴史ミステリーを書くようになりました。1950年発表の本書はその皮切りとなった作品で、本格派推理小説と冒険小説をミックスしたような作風になっています。活劇シーンを挿入してにぎやかに盛り上げていますがその分謎解きストーリーが寸断気味になるのは功罪半々といったところでしょう(消える部屋という魅力的な謎が用意されているのですが)。とはいえ後年の「喉切り隊長」(1955年)などに比べればしっかり謎解きしています。惜しいのはヒロイン役のキャロラインの出番が意外と少なく、せっかくのタイトルが十分に活かしきれていないことです。

No.13 6点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/11 10:36
(ネタバレなしです) アンリ・バンコランシリーズの「蝋人形館の殺人」(1932年)を書いた後、カー作品のシリーズ探偵はフェル博士へと交代するのですが1937年にバンコランシリーズ第5作の本書を唐突に発表しました(これがシリーズ最終作です)。ここでのバンコランは引退した身の上でアマチュア探偵(といっても経験豊富)になっているのが特徴です。カーが得意とした不可能犯罪もオカルト要素もありませんが複雑な人間関係、アリバイ調べ、様々な小道具(本当の手掛かりか偽の手掛かりか容易にはわからない)、そしてどんでん返しの連続が圧倒的な謎解きと、本格派推理小説としての密度は非常に濃いです。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上も前の古い翻訳なので、新訳版が待ち望まれます。⇒(後記)2019年に新訳での創元推理文庫版が登場です。万歳!

No.12 6点 九つの答- ジョン・ディクスン・カー 2015/06/28 10:56
(ネタバレなしです) 1952年出版の本書は、「好事家への小説」という副題がついているように、謎解きマニアを意識して書かれた本格派推理小説です(シリーズ探偵は登場しません)。物語の合間合間で作者から読者に対して仮説が9回にわたって提示され、その仮説は間違いで真相は違うところにあると警告されます。中でも9番目の仮説はいかにも謎解きマニアの読者を意識したものです。中盤からの殺人挑戦ゲーム以降の展開はカーが以前書いたラジオドラマ脚本の焼き直しにすぎず、先が読めてしまった...と思っていた私は第7の警告で見事に背負い投げを食らいました。トリックはかなり強引で無理があるように思いますが、非常に複雑なプロットとたたみかけるような場面変化の連続によってじっくり読むもよし一気に読むもよしの作品に仕上がっています。

No.11 6点 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー 2015/06/22 00:14
(ネタバレなしです) 1960年発表のフェル博士シリーズ第20作の本格派推理小説です。この作者としては地味な部類ですがすっきりしたストーリー展開で読みやすく、推理合戦的な趣向もあって十分楽しめました。不可能犯罪風に仕立てるのに苦心した感がありますがトリックも印象的です。

No.10 5点 ヴードゥーの悪魔- ジョン・ディクスン・カー 2015/03/05 19:43
(ネタバレなしです)  晩年のカーは米国のニューオーリンズを舞台にした歴史本格派推理小説を立て続けに3冊発表しており、1968年発表の本書はその第1作です(ちなみに3作の相互関連性はないので、どれから読んでも構いません)。導入部で描写されているのが娘の行状を心配する親だとか、誰かに見られているのではと気にしている主人公のマクレイだとか、不安なのはわかりますが事件性があまりないためミステリーとしては前半部が盛り上がりません。また得意の不可能犯罪もトリックがあまりよろしくないです。しかしフーダニットとしては謎解き伏線を豊富に用意にしていてまとまっており、ニューオーリンズ3部作の中では一番出来がいいという評価には私も賛成します。原書房版はなぜか登場人物リストが付いていないのが残念です。

No.9 5点 バトラー弁護に立つ- ジョン・ディクスン・カー 2014/10/14 10:10
(ネタバレなしです) フェル博士シリーズの「疑惑の影」(1949年)で主役級の活躍をした弁護士バトラーを再登場させた1956年発表の本格派推理小説です。本書ではフェル博士は登場せず、バトラーはフェル博士の後ろ盾なしで謎を解きたいとこだわっています。ところがこのバトラーが主役かというとそうではなく、準主役に留まっており(主役はやはり弁護士のヒュー・ブランティス)、しかも法廷場面がないのですからどうしてこのタイトルになったのか不思議です。ハヤカワポケットブック版は手袋を「手套」と表記するほど古い翻訳ですが、それでも巻き込まれ型冒険スリラーとしては文句なく面白かったです(ヒューが結構火に油を注いでいます!)。日本人読者には辛い言語絡みの手掛かりなど謎解きとして粗い面もありますが、どたばた劇の中に忍ばせた伏線はカーならではの巧妙さが光ります。なお作中に「疑惑の影」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい。

No.8 5点 ロンドン橋が落ちる- ジョン・ディクスン・カー 2014/09/09 11:16
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書は作中時代を1757年に設定した歴史本格派推理小説ですが、冒険小説の要素も強いことやニューゲイト監獄が登場するところなどが「ニューゲイトの花嫁」(1950年)を連想させます(作中時代が異なるので登場人物はダブリません)。冒頭場面が既に冒険の途中みたいになっており、後になってからどういう経緯になっていたかが説明される展開なのでわかりにくく、そのためかジェフリーとペッグの心理葛藤もどちらに肩入れすればいいのか悩みます。ブルース・アレグザンダーのミステリーで主役を務めているジョン・フィールディング判事が本書で登場しており、どう扱われているのかが注目です(書かれたのは本書の方が先です)。謎解きはトリックが冴えないのが残念です。近代を舞台にした「引き潮の魔女」(1961年)に比べるとさすがに歴史ミステリーならではの雰囲気がよく描けています。昔はロンドン橋の上に住居があったなんてのは新鮮な情報でした。

No.7 4点 死の館の謎- ジョン・ディクスン・カー 2014/08/13 17:47
(ネテバレなしです) 1927年の米国を舞台にした、ニュー・オーリンズ三部作の最後を飾る歴史本格派推理小説です(出版は1971年です)。もっとも作中時代がカーが生きていた時代ということもあってかあまり歴史物らしさを感じられませんでした。不可能犯罪プラス容疑者の大半にアリバイ成立というカーらしいプロット、更には宝探し趣向まで織り込んでいるのですがさすがに晩年の衰えは隠せないですね。元気な時代のカーなら無理そうなトリックでもこれでもかと言わんばかりの伏線を用意してトリック成立の説得力を高めていたのですが、本書では伏線が十分でなく推理の強引さばかりが目立ってしまっています。カーの長所の一つであるストーリーテリングの巧さも翳りが見られ、読みにくくなってしまったのも残念です。

No.6 6点 ハイチムニー荘の醜聞- ジョン・ディクスン・カー 2014/02/16 11:09
(ネタバレなしです) 1959年発表の歴史本格派推理小説ではありますが作中時代を19世紀後半(1865年の英国)にしたためか風俗描写がそれほど歴史を感じさせず、現代ミステリーに雰囲気が近くなっています。プロットは過去のある作品を髣髴させて二番煎じを感じさせるところは否めませんが、謎とロマンスの盛り上げ方はさすがに巨匠ならではの出来栄えですらすらと読ませる語り口もお見事です。

No.5 6点 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー 2011/09/06 16:26
(ネタバレなしです) 1944年発表のフェル博士シリーズ第15作の本書は愛情と疑惑の狭間で揺れ動く若者を物語の中心に据えた心理サスペンス小説風な作品です。密室の毒殺事件というと普通の密室に比べると大した謎でないように思えるでしょうが本書の場合は注射による毒殺のため不可能性は勝るとも劣らないのがポイント高いです。本格派推理小説としての謎解きもしっかり組み立てられており密室トリックは古いトリックの流用ながらそこにある工夫を加えることによって新鮮味を出すことに成功しています。一方で意味のない巻き添え的な事件を起こしているのは蛇足としか思えず、ここはマイナスポイントです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)