皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.25 | 6点 | 二つの密室- F・W・クロフツ | 2009/01/26 10:13 |
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(ネタバレなしです) 地味で退屈というのがクロフツの一般的評価だと思います。もっとも最近のミステリーは筋がすごく複雑で登場人物も多いものが珍しくないので、クロフツも相対的には読みやすく感じるようになりましたが。1932年発表のフレンチシリーズ第8作の本書はその中では読みやすく、入門編として勧められるのではと思います。捜査するフレンチの視点だけでなく事件関係者のアンの視点も絡めているのが構成の工夫になっており、家庭内悲劇を描いているのも(クロフツとしては珍しい)新鮮です。密室トリックはあまり期待すると失望すると思いますが無理なトリックに走っていないのが堅実なクロフツらしいですね(ちなみに英語原題は「Sudden Death」です)。 |
No.24 | 5点 | 不連続殺人事件- 坂口安吾 | 2009/01/26 09:23 |
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(ネタバレなしです) 純文学畑の坂口安吾(1906-1955)は推理小説愛好家でもありましたが1948年発表の本書は何と犯人当て懸賞小説で、作者の「正解者選後感想」によれば完全正解1名を含む8人が犯人を的中したそうです。江戸川乱歩や松本清張も絶賛し、もはや伝説化した本格派推理小説ではあるのですが今でも読む価値があるのかというと微妙かもしれません。個性的な登場人物が揃っていますがみんな変人ばかりのためか却って誰が誰だかわかりにくく、しかも人数が無駄に多いです。互いのののしり合いに終始するようなプロットも案外と変化に乏しくてサスペンスが盛り上がりません。言葉遣いの汚さが極端過ぎで、本書に比べると同時代の横溝正史はエログロ表現は使っていても節度をわきまえていたなと今更ながらに見直しました。 |
No.23 | 9点 | こわされた少年- D・M・ディヴァイン | 2009/01/23 11:31 |
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(ネタバレなしです) 1965年発表の長編第4作の本格派推理小説です。短気な私は事件性がなかなかはっきりしない失踪系はどうも苦手で、名手ディヴァイン作の本書でも前半は読んでてちょっと辛かったです。しかし後半になってようやく事件らしい事件が起きてからは挽回し、最後はさすがディヴァインと唸るような謎解きが楽しめました。 |
No.22 | 7点 | 人狼城の恐怖- 二階堂黎人 | 2009/01/23 11:03 |
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(ネタバレなしです) 1996年から1998年にかけて出版された講談社文庫版で実に4巻2500ページ超から成る大作、いや巨大作の二階堂蘭子シリーズ第5作の本格派推理小説です。量も凄いが内容もぎっしりで、いたずらにページを水増ししている感じはうけません。怪奇小説風になったりSF風になったり巨大な悪の存在がほのめかされたりグロテスク表現がかなりきつい箇所もあるし、締めくくりも端正な本格派とは程遠いので肌が合わない読者もいるでしょうが大変な力作には違いありません。読み終えた時の充実感はかなりのものです(あまりの厚さに読み始めるのに覚悟が必要ですが)。なお「地獄の奇術師」(1992年)のネタバレが作中にあるのでまだ未読の人は本書を後回しにすることを勧めます。 |
No.21 | 6点 | ロートレック荘事件- 筒井康隆 | 2009/01/22 12:40 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の手掛かり脚注付きで真相が説明される本格派推理小説です。大変トリッキーな作品で書評も賛否両論ですが、(確かに万人受けはしないとは思いますが)個人的には問題なしです。ただトリックのカモフラージュに気を回しすぎたか、小説としては(新潮文庫版で)200ページ少々の短い長編にも関わらず読みにくくなってしまったのは残念でした。最終章は(好き嫌いは別にして)なかなか味わい深いものがありますが。 |
No.20 | 10点 | 被害者を捜せ!- パット・マガー | 2009/01/22 10:23 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家パット・マガー(1917-1985)のデビュー作で犯人探しではなく被害者探しの謎解きを楽しむ異色の本格派推理小説です。このアイデア自体はレオ・ブルースの「死体のない事件」(1937年)が先行採用していますが、作品としての面白さは圧倒的に1946年発表の本書が上回ります。当時としては珍しいであろう企業ミステリー要素もあり、個性的な人物描写、犯人(最初から読者に知らされています)を取り巻く人間関係がだんだんおかしくなる展開のサスペンスが実に魅力的です。ゲーム感覚で謎解きに挑む探偵役の海兵隊員たちのユーモラスな会話もいい味出しています。 |
No.19 | 7点 | 七人の証人- 西村京太郎 | 2009/01/21 16:58 |
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(ネタバレなしです) 孤島を舞台にして十津川以外の警官が登場しない、かなりの異色作です(十津川も警察の組織力を使わないので本書は警察小説とは言えないでしょう)。有罪判決を受けた犯人(と認定された者)の無罪を証明し、なおかつ真犯人を突き止めるというミステリーは書くのがとても難しいと思います。まず有罪判決に説得性がなくてはいけなく、さらにそこからひっくり返すのですからこれは本当に至難の業です。しかし1977年発表の十津川警部シリーズ第5作である本書は無実の証明も真犯人探しも緻密で、論理的に謎解きされる本格派推理小説の傑作に仕上がっています。 |
No.18 | 7点 | マッターホルンの殺人- グリン・カー | 2009/01/21 15:31 |
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(ネタバレなしです) 北極探検やヒマラヤ遠征にも参加した英国の冒険家のショーウェル・スタイルズ(1908-2005)はスタイルズ名義で冒険小説や歴史小説を書いていますが、グリン・カー名義でミステリーも書いています。初期の作品ではスパイ・スリラーの主人公だったアバークロンビー・リューカーシリーズの第5作(1951年発表)である本書は本格派推理小説で、タイトル通りマッターホルンを舞台にした山岳ミステリーでもあります。自然描写はそれほど派手でもありませんが、十分に山の雰囲気は出ています。謎解きも粗い面はありますが雄大な舞台にマッチしたトリックもあって楽しめました。それにしてもマイペースな名探偵が多い中、本書のリューカーの控えめすぎるぐらいの態度はある意味新鮮でした。 |
No.17 | 10点 | 緑は危険- クリスチアナ・ブランド | 2009/01/21 09:18 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のコックリル警部シリーズ第2作で、凄いトリックがあるわけではありませんが本格派推理小説の王道的作品として文句なしの傑作だと思います。戦時下という緊張した時代背景とミステリーとしてのサスペンスを巧みに融合し、そこに個性的な登場人物の織り成す人間模様やしっかりとした謎解きが織り込まれているのですから。デビュー作の「ハイヒールの死」(1941年)、コックリル警部シリーズ第1作の「切られた首」(1941年)では普通の本格派作家という印象だったブランドがいい意味で「大化けした」作品だと思います。 |
No.16 | 8点 | 霧に溶ける- 笹沢左保 | 2009/01/21 09:10 |
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(ネタバレなしです) 作家デビューした1960年に発表された4作の本格派推理小説はどれもトリックを惜し気もなく注ぎ込んでいますがその中でも第2作である本書は屈指の傑作で、個人的には(それほど笹沢ミステリーを読んではいないのですけど)笹沢の最高傑作だと思います。密室トリックもよく出来ていますが、あのメイントリックのアイデアには(いくらなんでも実行不可能だろうとは思いつつも)びっくりしました。これだけアイデア豊かな本格派推理小説はそう多くは出会えません。ただ容疑者とはいえ女性の描写は男性と比べると差別されていると言わざるを得ませんね。最初は情けない人物として登場した男性でさえ後ではかっこいい場面を与えられているのに、女性については内面の醜さが強調されるばかりで男性の私が読んでもちょっと気になりました。 |
No.15 | 7点 | 崖の館- 佐々木丸美 | 2009/01/20 17:15 |
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(ネタバレなしです) デビュー作の「雪の断章」(1975年)は推理による犯人当てをやっていながらも全体的にはミステリー要素が希薄でミステリーに分類しない読者もいるようですが、1977年発表の長編第2作の本書はおそらく佐々木作品の中では最もミステリーらしい作品でしょう。本格派推理小説としてのしっかりした謎解きプロットに作者の特徴である、時に少女漫画風とも評価される独特の作品世界が構築されており、特に結末の美しさ、はかなさの演出は出色の出来栄えです。 |
No.14 | 6点 | 象牙の塔の殺人- アイザック・アシモフ | 2009/01/20 16:14 |
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(ネタバレなしです) 米国のSF作家のアイザック・アシモフ(1920-1992)はミステリー作品では「鋼鉄都市」(1954年)や「はだかの太陽」(1957年)などのSFミステリーが名高いですが、1958年発表の本書はSF要素のない普通の本格派推理小説です。後年に書かれた「黒後家蜘蛛の会」シリーズや「ABAの殺人」(1976年)に比べると文章は生真面目で、ユーモアがほとんどありませんが読みにくくはありません。毒ガスによる殺人という珍しい殺人手段がアシモフならではです。重ねて書きますがSFトリックなどは使われず、合理的な謎解きの本格派推理小説です。 |
No.13 | 10点 | ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー | 2009/01/20 10:48 |
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(ネタバレなしです) 1933年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第9作の本格派推理小説である本書は最後の一行のインパクトもかなりのもので、それだけでも十分に読む価値があるのですが最大の特徴はプロットの逆転ではないでしょうか。最初は普通に犯人探しをしていたロジャー・シェリンガムがある理由から解決でなく未解決に向かって奮闘する、とんでもない展開になります。果たしてどう決着するのかは読んでのお楽しみです。 |
No.12 | 8点 | 占星術殺人事件- 島田荘司 | 2009/01/20 10:22 |
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(ネタバレなしです) 本格派推理小説の作家としてだけでなく、後進作家の発掘にも力を注ぎ長い間国内ミステリー界で不遇が続いた本格派推理小説の復興に大いに貢献した島田荘司(1948年生まれ)の1981年発表のデビュー作です。2度に渡って「読者への挑戦状」が挿入され、「日本中の人が40年かかっても解けなかった謎」と作中で豪語していますが確かにそれだけの自信ももっともだと思います。過去に起こった事件を後追いするプロットのためか探偵役の御手洗潔(みたらいきよし)が容疑者たちとやり取りや駆け引きする場面がないのでサスペンスは乏しいです(事件発生時代を過去に設定する理由はちゃんとあるのですが)。しかし結末で明かされる真相には本当に驚きました。ワトソン役の石岡君ではありませんが思わず「あっ」と唸らされました。 |
No.11 | 7点 | 鬼面村の殺人- 折原一 | 2009/01/19 18:08 |
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(ネタバレなしです) デビュー作の短編集「五つの棺」(1988年)(後に作品が追加されて「七つの棺」(1992年)に改訂されました)で活躍した黒星警部のシリーズ長編第1作が1989年発表の本書です(当初は「鬼が来たりてホラを吹く」というタイトルでした)。横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)のパロディー要素が強調され気味なのは本書にとって不幸なことだと思います(共通点より相違点の方が圧倒的に多いです)。家屋消失や密室などの派手な謎解きに加えて、肩透かしの結末と思わせて更にどんでん返しがあるなどオリジナリティー十分の本格派推理小説の傑作です。 |
No.10 | 6点 | 誕生パーティの17人- ヤーン・エクストレム | 2009/01/19 18:01 |
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(ネタバレなしです) 1975年発表のドゥレル警部シリーズ第8作の本格派推理小説で、息子を殺した父親が密室状態の部屋で自殺したかのような事件が起きますが自殺と判断するには疑問点が出て密室殺人事件の謎解きになります。そこは「スウェーデンのカー」と評価される作者らしいところではありますが家族間の複雑な人間関係を描くことに重点を置いているところはむしろクリスティーの作品の方に近いように思います。さすがに登場人物が多すぎて整理しきれていない感もありますが、手堅いプロットの本格派推理小説です。ちょっと変わった密室トリックが印象に残りました。犯人当てとしてはもう少し丁寧に謎解き説明してほしい気もありますが。 |
No.9 | 10点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2009/01/19 14:31 |
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(ネタバレなしです) 1928年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第3作で(子供用のリライト版は別ですが)私が初めて読んだ推理小説なので、10点評価には思い入れの分も織り込まれています。現代の本格派推理小説には本書よりも優れた内容の作品はいくらでもあるでしょう。とはいえサスペンス濃厚な雰囲気は今なお十分に魅力的だし、100近い項目に分類しての手掛かり分析はまさしく謎解きの王道路線を貫いています。 |
No.8 | 8点 | 燃えた花嫁- 山村美紗 | 2009/01/19 13:38 |
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(ネタバレなしです) 私は山村美紗作品をそれほど多くは読んでいないのですが、今後どれだけの作品を読んだとしても1982年発表のキャサリンシリーズ第3作の本格派推理小説である本書が最高傑作というMY評価は変わらないと思います。何といっても連続焼死の謎の魅力が素晴らしいです。被害者が火の気に細心の注意を払い、更に厳重な警備体制を敷いているにもかかわらず事件発生が止められないという、絶対的に思える不可能犯罪を実に合理的に解明しています。トリックの鮮やかな謎解きに比べて犯人当ての方が印象に残らないのがやや弱いですが、それでもこの作者の本をまず1冊というなら私は本書を推薦します。 |
No.7 | 8点 | 11枚のとらんぷ- 泡坂妻夫 | 2009/01/16 15:14 |
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(ネタバレなしです) 泡坂妻夫(1933-2009)の1976年発表のデビュー作で実に読み応えのある本格派推理小説でした。(多分発表当時では珍しいであろう)作中作を挿入する構成をとっていますが、それがちゃんと謎解きにも貢献しているのが巧妙です。奇術の世界の雰囲気が濃厚なのも謎解き好き読者にはアピールするでしょう。 |
No.6 | 7点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2009/01/16 14:59 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のエラリー・クイーンシリーズ第12作はハリウッドを舞台にした作品で、国名シリーズやドルリー・レーン4部作とは全く雰囲気が違い、どたばたとお笑いに徹しているのが特徴です。おふざけが目立ち過ぎてクイーン作品の中では一般的評価は低い方ですが本格派推理小説としての手抜きはなく、クイーンならではの論理的な謎解きがちゃんと楽しめます。 |