皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.34 | 7点 | 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 | 2009/01/27 09:18 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の本格派推理小説です(シリーズ名探偵は登場しません)。後年デビューする石持浅海の作品を髣髴させるような風変わりなクローズド・サークル内の事件が印象的で、緊迫感あふれる展開の中に謎解き伏線を巧みに配置しどんでん返しも切れ味鋭いです。スムーズな語り口と(講談社文庫版で)300ページにも満たないコンパクトな分量のためあっという間に読み終えますが中身は充実しています。騙しの基本的な仕掛けは本書以前にも前例があるものですが私はまたまた騙されてしまいました。 |
No.33 | 9点 | くたばれ健康法!- アラン・グリーン | 2009/01/26 16:58 |
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(ネタバレなしです) 米国のアラン・グリーン(1906-1975)の1949年発表のデビュー作である本格派推理小説です。派手なスラプスティック(どたばた劇)は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、たかがユーモア本格派推理小説と侮ってはいけません。ギャグ漫画的なノリの中にもしっかりと手掛かりを潜ませ、全盛期のエラリー・クイーンに匹敵するほど論理的な推理による説得力ある謎解きが用意されているのですから。密室トリックもよく考えられています。 |
No.32 | 10点 | 死人はスキーをしない- パトリシア・モイーズ | 2009/01/26 16:47 |
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(ネタバレなしです) 長編19作が全てヘンリ・ティベット主任警部(後に主任警視)シリーズの英国の女性作家パトリシア・モイーズ(1923-2000)の1959年発表のデビュー作です。個人的にはちょっと気に入らない箇所もあるのですが、それでも満点評価できると思います。個性豊かな登場人物の描き分け、美しい自然描写、ユーモアとサスペンスのバランス、フェアに隠された手掛かりに基づく推理と本格派推理小説としての完成度は極めて高いです。 |
No.31 | 6点 | 死を開く扉- 高木彬光 | 2009/01/26 16:10 |
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(ネタバレなしです) 1957年発表の神津恭介シリーズ第7作で密室にこだわり抜いた本格派推理小説です。密室殺人トリックは実現性にやや疑問があるような気もしますが(実現してもすぐにばれるでしょうし)アイデアとしてはなかなか面白いです。でももっと印象に残るのが密室放火トリックの方でした。すごく簡単に実現できそうですね。(仮に実現可能だとして)模倣実行犯が出ないことを切に祈ります(笑)。ワトソン役の松下研三は相変わらず役立たずですが今回はちょっと同情したくなります。神津の伝言があれではねえ。 |
No.30 | 7点 | 水車館の殺人- 綾辻行人 | 2009/01/26 15:58 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表の館シリーズ第2作の本格派推理小説です。前作の「十角館の殺人」(1987年)や次作の「迷路館の殺人」(1988年)と比べると、「読者の意表をつく」ところが弱いためか特にマニア読者からの評価は低いようです。確かにそういう評価もあるとは思いますが、安心して謎解きが楽しめる王道路線の本格派推理小説として個人的には十分以上に満足できました。何よりも後年の作品でもよく見られる幻想的な雰囲気が魅力的です。 |
No.29 | 7点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2009/01/26 14:39 |
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(ネタバレなしです) わずか3長編と14の中短編の登場ながら根強い人気を持つ星影龍三シリーズの1958年発表の長編第1作で、鮎川全作品の中でもかなりの人気作です。フェアに謎解き手掛かりが用意され論理的な推理で犯人が明らかになる、王道的な犯人当て本格派推理小説としては完成度が非常に高いです。それだけに最後の殺人が蛇足というか美しい着地でないのが(と個人的には感じました)惜しいです(これもよく考え抜かれてはいるのですが)。 |
No.28 | 8点 | サファリ殺人事件- エルスペス・ハクスリー | 2009/01/26 13:43 |
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(ネタバレなしです) 英国の女性作家エルスペス・ハクスリー(1907-1997)は生まれはロンドンながら子供時代のかなりの部分を(当時はイギリス植民地だった)ケニアで過ごしており、アフリカに関する著作も書いています。ミステリー作品は1930年代にやはりケニアを舞台した3作のヴェイチェル警視シリーズで知られています。本書は1938年発表のシリーズ第2作で、何ともタイトルがお手軽過ぎというのが第一印象でしたが、読んでみるとこれ以外にふさわしいタイトルは考えられないと思えるほどにサファリの雰囲気一杯の本格派推理小説でした(英語原題は「Murder on Safari」です)。獲物の皮を剥いでいたというアリバイ証言なんか普通の本格派ではまずお目にかかれないでしょう。単に異国情緒頼りの作品ではなく、同時代のアガサ・クリスティーに遜色ない出来映えの謎解きもうれしいです。 |
No.27 | 5点 | バイバイ、エンジェル- 笠井潔 | 2009/01/26 11:42 |
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(ネタバレなしです) 笠井潔(1948年生まれ)は学生時代に学生運動組織に参加していた過去を持つためか、連合赤軍集団リンチ事件を機に政治活動から身を引いたとはいえどこか思想家的な雰囲気を引きずっている作家です。謎解きと哲学を融合したと評される矢吹駆シリーズ第1作の本書(1979年発表)は「現象学」とか「本質直観」とか私には難しい用語が連発されながらも本格派推理小説としては正統派で、第3章で提示される六つの謎を明らかにする第6章の説明はわかりやすいです(ネタバレ防止のために詳細は書きませんが魅力ある謎の提示に対して何でもあり的な真相はちょっと残念ですが)。しかし本書のクライマックスはその第6章の後半部の思想対決で、半端なハードボイルド小説など及びもつかないほどの冷酷さと非情さを感じさせます。これは笠井潔にしか書けないであろう、作品の個性でもありますがちょっと近寄りがたいかも。 |
No.26 | 7点 | 傾いたローソク- E・S・ガードナー | 2009/01/26 11:35 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のペリー・メイスンシリーズ第24作で本格派推理小説としてのプロットがしっかりしています。細部を丁寧に検証しているため、ややもすると退屈になり気味ですが現場見取り図を使って謎のポイントをわかりやすくしたのがいい工夫です。ちょっとした着眼点の違いでどんでん返しを演出しているのが非常に巧妙で、私も検事と一緒に「しまった」と内心で舌を巻きました。なお本書の最後はシリーズ次作の「殴られたブロンド」(1944年)へとつながる締め括りとなっています。 |
No.25 | 6点 | 二つの密室- F・W・クロフツ | 2009/01/26 10:13 |
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(ネタバレなしです) 地味で退屈というのがクロフツの一般的評価だと思います。もっとも最近のミステリーは筋がすごく複雑で登場人物も多いものが珍しくないので、クロフツも相対的には読みやすく感じるようになりましたが。1932年発表のフレンチシリーズ第8作の本書はその中では読みやすく、入門編として勧められるのではと思います。捜査するフレンチの視点だけでなく事件関係者のアンの視点も絡めているのが構成の工夫になっており、家庭内悲劇を描いているのも(クロフツとしては珍しい)新鮮です。密室トリックはあまり期待すると失望すると思いますが無理なトリックに走っていないのが堅実なクロフツらしいですね(ちなみに英語原題は「Sudden Death」です)。 |
No.24 | 5点 | 不連続殺人事件- 坂口安吾 | 2009/01/26 09:23 |
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(ネタバレなしです) 純文学畑の坂口安吾(1906-1955)は推理小説愛好家でもありましたが1948年発表の本書は何と犯人当て懸賞小説で、作者の「正解者選後感想」によれば完全正解1名を含む8人が犯人を的中したそうです。江戸川乱歩や松本清張も絶賛し、もはや伝説化した本格派推理小説ではあるのですが今でも読む価値があるのかというと微妙かもしれません。個性的な登場人物が揃っていますがみんな変人ばかりのためか却って誰が誰だかわかりにくく、しかも人数が無駄に多いです。互いのののしり合いに終始するようなプロットも案外と変化に乏しくてサスペンスが盛り上がりません。言葉遣いの汚さが極端過ぎで、本書に比べると同時代の横溝正史はエログロ表現は使っていても節度をわきまえていたなと今更ながらに見直しました。 |
No.23 | 9点 | こわされた少年- D・M・ディヴァイン | 2009/01/23 11:31 |
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(ネタバレなしです) 1965年発表の長編第4作の本格派推理小説です。短気な私は事件性がなかなかはっきりしない失踪系はどうも苦手で、名手ディヴァイン作の本書でも前半は読んでてちょっと辛かったです。しかし後半になってようやく事件らしい事件が起きてからは挽回し、最後はさすがディヴァインと唸るような謎解きが楽しめました。 |
No.22 | 7点 | 人狼城の恐怖- 二階堂黎人 | 2009/01/23 11:03 |
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(ネタバレなしです) 1996年から1998年にかけて出版された講談社文庫版で実に4巻2500ページ超から成る大作、いや巨大作の二階堂蘭子シリーズ第5作の本格派推理小説です。量も凄いが内容もぎっしりで、いたずらにページを水増ししている感じはうけません。怪奇小説風になったりSF風になったり巨大な悪の存在がほのめかされたりグロテスク表現がかなりきつい箇所もあるし、締めくくりも端正な本格派とは程遠いので肌が合わない読者もいるでしょうが大変な力作には違いありません。読み終えた時の充実感はかなりのものです(あまりの厚さに読み始めるのに覚悟が必要ですが)。なお「地獄の奇術師」(1992年)のネタバレが作中にあるのでまだ未読の人は本書を後回しにすることを勧めます。 |
No.21 | 6点 | ロートレック荘事件- 筒井康隆 | 2009/01/22 12:40 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の手掛かり脚注付きで真相が説明される本格派推理小説です。大変トリッキーな作品で書評も賛否両論ですが、(確かに万人受けはしないとは思いますが)個人的には問題なしです。ただトリックのカモフラージュに気を回しすぎたか、小説としては(新潮文庫版で)200ページ少々の短い長編にも関わらず読みにくくなってしまったのは残念でした。最終章は(好き嫌いは別にして)なかなか味わい深いものがありますが。 |
No.20 | 10点 | 被害者を捜せ!- パット・マガー | 2009/01/22 10:23 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家パット・マガー(1917-1985)のデビュー作で犯人探しではなく被害者探しの謎解きを楽しむ異色の本格派推理小説です。このアイデア自体はレオ・ブルースの「死体のない事件」(1937年)が先行採用していますが、作品としての面白さは圧倒的に1946年発表の本書が上回ります。当時としては珍しいであろう企業ミステリー要素もあり、個性的な人物描写、犯人(最初から読者に知らされています)を取り巻く人間関係がだんだんおかしくなる展開のサスペンスが実に魅力的です。ゲーム感覚で謎解きに挑む探偵役の海兵隊員たちのユーモラスな会話もいい味出しています。 |
No.19 | 7点 | 七人の証人- 西村京太郎 | 2009/01/21 16:58 |
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(ネタバレなしです) 孤島を舞台にして十津川以外の警官が登場しない、かなりの異色作です(十津川も警察の組織力を使わないので本書は警察小説とは言えないでしょう)。有罪判決を受けた犯人(と認定された者)の無罪を証明し、なおかつ真犯人を突き止めるというミステリーは書くのがとても難しいと思います。まず有罪判決に説得性がなくてはいけなく、さらにそこからひっくり返すのですからこれは本当に至難の業です。しかし1977年発表の十津川警部シリーズ第5作である本書は無実の証明も真犯人探しも緻密で、論理的に謎解きされる本格派推理小説の傑作に仕上がっています。 |
No.18 | 7点 | マッターホルンの殺人- グリン・カー | 2009/01/21 15:31 |
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(ネタバレなしです) 北極探検やヒマラヤ遠征にも参加した英国の冒険家のショーウェル・スタイルズ(1908-2005)はスタイルズ名義で冒険小説や歴史小説を書いていますが、グリン・カー名義でミステリーも書いています。初期の作品ではスパイ・スリラーの主人公だったアバークロンビー・リューカーシリーズの第5作(1951年発表)である本書は本格派推理小説で、タイトル通りマッターホルンを舞台にした山岳ミステリーでもあります。自然描写はそれほど派手でもありませんが、十分に山の雰囲気は出ています。謎解きも粗い面はありますが雄大な舞台にマッチしたトリックもあって楽しめました。それにしてもマイペースな名探偵が多い中、本書のリューカーの控えめすぎるぐらいの態度はある意味新鮮でした。 |
No.17 | 10点 | 緑は危険- クリスチアナ・ブランド | 2009/01/21 09:18 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のコックリル警部シリーズ第2作で、凄いトリックがあるわけではありませんが本格派推理小説の王道的作品として文句なしの傑作だと思います。戦時下という緊張した時代背景とミステリーとしてのサスペンスを巧みに融合し、そこに個性的な登場人物の織り成す人間模様やしっかりとした謎解きが織り込まれているのですから。デビュー作の「ハイヒールの死」(1941年)、コックリル警部シリーズ第1作の「切られた首」(1941年)では普通の本格派作家という印象だったブランドがいい意味で「大化けした」作品だと思います。 |
No.16 | 8点 | 霧に溶ける- 笹沢左保 | 2009/01/21 09:10 |
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(ネタバレなしです) 作家デビューした1960年に発表された4作の本格派推理小説はどれもトリックを惜し気もなく注ぎ込んでいますがその中でも第2作である本書は屈指の傑作で、個人的には(それほど笹沢ミステリーを読んではいないのですけど)笹沢の最高傑作だと思います。密室トリックもよく出来ていますが、あのメイントリックのアイデアには(いくらなんでも実行不可能だろうとは思いつつも)びっくりしました。これだけアイデア豊かな本格派推理小説はそう多くは出会えません。ただ容疑者とはいえ女性の描写は男性と比べると差別されていると言わざるを得ませんね。最初は情けない人物として登場した男性でさえ後ではかっこいい場面を与えられているのに、女性については内面の醜さが強調されるばかりで男性の私が読んでもちょっと気になりました。 |
No.15 | 7点 | 崖の館- 佐々木丸美 | 2009/01/20 17:15 |
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(ネタバレなしです) デビュー作の「雪の断章」(1975年)は推理による犯人当てをやっていながらも全体的にはミステリー要素が希薄でミステリーに分類しない読者もいるようですが、1977年発表の長編第2作の本書はおそらく佐々木作品の中では最もミステリーらしい作品でしょう。本格派推理小説としてのしっかりした謎解きプロットに作者の特徴である、時に少女漫画風とも評価される独特の作品世界が構築されており、特に結末の美しさ、はかなさの演出は出色の出来栄えです。 |