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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.74 5点 薔薇の殺意- ルース・レンデル 2009/04/22 15:13
(ネタバレなしです) P・D・ジェイムズと共に英国ミステリーの女王の座に君臨する存在だったのがルース・レンデル(1930-2015)です。その作風を大雑把に分類すればウェクスフォード主任警部シリーズの本格派推理小説、ノンシリーズのサイコ・サスペンス小説、バーバラ・ヴァイン名義の文学志向の強いサスペンス小説に分かれますがいずれのジャンルも高く評価されています。もっともミステリー第1作(ウェクスフォードシリーズ第1作でもあります)である本書が発表された1964年が本格派推理小説冬の時代だったためか最初はあまり売れなかったようですが。本格派としては容疑者の数がかなり絞られているので犯人当ては比較的容易ですし、後の作品に比べると内容も軽いです。しかし深みのある人物描写は既に本書でも十分に発揮されていますし後の重厚な作品群もいいのですが本書の淡色の水彩画を思わせるような繊細なタッチもまた魅力的です。これこそがレンデルの原点だということをしっかり感じさせてくれます。

No.73 5点 アイルランドの薔薇- 石持浅海 2009/04/22 12:48
(ネタバレなしです) 風変わりな状況下で起きる事件を背景にしたミステリーを得意とする石持浅海(1966年生まれ)が2002年に発表した長編デビュー作の本書はスパイ・スリラーの舞台に本格派推理小説の謎解きを組み合わせた作品です(タイトル通り舞台は北アイルランドで、英国からの独立を目指す武装勢力が登場します)。謎解きはとても丁寧ですが個人的には殺し屋や武装勢力メンバーといったプロの犯罪者が容疑者にいる設定がいまひとつ好みに合わなかったです。

No.72 5点 女彫刻家- ミネット・ウォルターズ 2009/04/21 11:39
(ネタバレなしです) 1993年発表のミステリー第2作でMWA(アメリカ推理作家協会)最優秀長編賞を獲得した作品です。創元推理文庫版では猟奇的犯罪や(犯人と目される)オリーヴのグロテスクな描写がフォーカスされているからかサイコ・スリラーのイメージが定着している感もありますが読んでみると思ったよりもそういう要素は少なく、捜査と推理を中心にした本格派推理小説といっていいと思います。もっとも単純な犯人探しの謎解きでもなく、事件の詳細を追及することによって矛盾や謎が発生していくという、やや異色系の本格派です。人物の性格(本性)が最初のイメージから少しずつ変わっていき、それによって事件の全貌が見えてくるパターンは前作「氷の家」(1992年)と共通しています。微妙に曖昧感を残す結末は謎をきっちり解いてほしい読者には好き嫌いが分かれそうですし、色々深読みするのを楽しむ読者なら歓迎かもしれませんが私はそれほど頭がよくないのでちゃんと説明してほかったです。

No.71 6点 殺人鬼- 浜尾四郎 2009/04/21 09:21
(ネタバレなしです) 浜尾四郎の長編ミステリーの最高傑作とされるのが1931年発表の藤枝真太郎シリーズ第2作の本書です(といっても長編は3冊しかないのですが)。ヴァン・ダインの影響が濃厚ですが幕切れはアガサ・クリスティーの某作品を彷彿させます。トリックにはご都合主義的なところもありますが戦前のミステリーにこれほど王道的な本格派推理小説があったというだけで本格派好きとしては嬉しくなります。なおヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)のネタバレを作中で行っているので未読の方はご注意下さい。

No.70 7点 マルヴェッツィ館の殺人- ケイト・ロス 2009/04/17 17:49
(ネタバレなしです) 1997年発表のジュリアン・ケストレルシリーズ第4作はケイト・ロス(1956-1998)の遺作となってしまいました。死の前年の作品ながら衰えを見せるどころか(講談社文庫版で)上下巻にまたがる重量級の歴史本格派推理小説です。下巻になってようやく顔を見せる登場人物がいたりしてストーリー・テンポがやや遅すぎる感じもありますが、冒険ロマン小説的なクライマックスや衝撃的な事実など終盤の盛り上げ方はなかなか劇的です。当時のイタリアの情勢やオペラの世界が描かれていますのでそれらに関心のない読者にはやや辛い面もありますが純粋な人間ドラマとしても十分楽しめます。

No.69 6点 高木家の惨劇- 角田喜久雄 2009/04/17 16:59
(ネタバレなしです) 角田喜久雄(1906-1994)は戦時中は伝奇小説、時代小説作家として有名でしたが戦後はミステリーにも力を注ぎました(それでも時代小説の方が主要でしたが)。その代表作とされるのが1947年に(当時は)「銃口に笑ふ男」というタイトルで発表された本書(加賀美捜査一課長シリーズ第1作)で、横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)、高木彬光の「刺青殺人事件」(1948年)と共に戦後の国内本格派推理小説黄金時代の幕開けを飾る作品と評価されています。プロットには甘いと思われる箇所がありますしトリックも今となっては子供だまし的です。まあ登場人物の1人がアリバイという言葉を知らなかったような時代の作品ですから堂々と通用したのでしょうが。とはいえこの作品の優れているところはトリックに全面依存していないことで、終盤のどんでん返しの見事さは戦後間もなくの本格派推理小説としては高水準だったのではと思います。随所で挿入される、タバコを巡る悲喜劇的なやり取りが物語のいいアクセントになっています。

No.68 8点 呪い!- アーロン・エルキンズ 2009/04/14 14:29
(ネタバレなしです) 1989年に発表されたギデオン・オリヴァーシリーズ第5作で、メキシコを舞台にしています。呪いの正体(真相)が他愛もないと低く評価されている傾向にあるようですが、謎とトリックが無理なく両立していることを(最後の石化トリックはかなりこじつけ的ですけど)もっと高く評価してもいいのではないでしょうか。どちらかといえばひらめき的(悪く言えば場当たり的)に謎を解いているギデオンが本書では実に論理的な推理を披露しており、良い本格派推理小説を読んだ充足感を与えてくれます。この作者ならではの明るい文体のため呪いの恐さが十分表現できていないきらいはありますが逆にそういうのが苦手な読者でも安心して読めるメリットの方が大きいでしょう。風景描写も上手いです。

No.67 2点 三角館の恐怖- 江戸川乱歩 2009/04/14 12:01
(ネタバレなしです) 1951年発表の長編本格派推理小説で読み物としてはそれなりに面白いとは思います。しかし問題なのは本書は某海外ミステリーのコピー作品であることです。トリックの借用程度ならまだしもプロットまで丸ごとパクリです。国内ミステリーが海外ミステリーの翻訳や模倣から始まったのは確かですが、黎明期ならいざしらず戦後になってもまだこんなことをしているのは許されないでしょう。ミステリーファンの開拓における乱歩の功績は大いに認めますが、こういう作家良心に反する行為はとても残念です。これを盗作と批判せず翻案と擁護する出版界にも失望です。

No.66 4点 魔弾の射手- 高木彬光 2009/04/10 18:05
(ネタバレなしです) 1950年発表の神津恭介シリーズ第3作となる本格派推理小説で、犯人当て懸賞付き小説として発表され、「読者への挑戦状」も付いていたそうです(私の読んだ角川文庫版では挑戦状は削除されています)。この複雑な真相を果たして読者はきちんと当てられるのだろうかと思いましたが、(どれほど応募があったかはわかりませんが)4名の正解者がいたそうです。魔弾トリックは某海外作家のトリックのコピーに過ぎず謎解きとしてはあまり感心できませんでしたが読みどころとしては名探偵・神津恭介の苦悩ぶりが印象的に描かれているところでしょうか。

No.65 7点 未明の家- 篠田真由美 2009/04/07 17:47
(ネタバレなしです) 1994年に発表された本書は記念すべき建築探偵桜井京介シリーズ第1作です。笠井潔による講談社文庫版巻末解説によればこの作者は「第三の波」の「第二世代」に所属する作家のようですが、王道的な本格派推理小説にこだわった第一世代作家の作品と違い、本格派推理小説といってもやや毛色が異なります。その解説の表現を借りれば、桜井京介と準主人公3人(本書では2人が活躍)による「血縁関係のない家族」のようなドラマが最大の魅力で、他の誰にも真似できない作品世界を築き上げています。その特長は本書でも十分に発揮されています。謎解きもやってはいますがむしろ家族問題をどうまとめるかにかなり力を入れています。容疑者たちの人物描写も繊細で、謎解きもホワイダニットに重点を置いたものです。建築の謎解きも家屋の特殊な構造や奇抜な仕掛けに頼っていないところにユニークさを感じさせます。

No.64 10点 「そして誰もいなくなった」殺人事件- ジャックマール&セネカル 2009/04/07 15:34
(ネタバレなしです) 本書が発表されたのは1977年、つまりあのアガサ・クリスティー(1890-1976)が亡くなった翌年で、クリスティーへのオマージュ作品であることは明白です。クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)のネタバレを作中で行っているのは通常ならマナー違反ですが、これほどクリスティー作品と密接な関係を持つプロットではやむを得ないと思います(当然クリスティー作品を先に読んでおくことを勧めます)。個性豊かな登場人物(変な人だらけだけど)、サスペンスの盛り上げ方、舞台描写(もともと作者は劇作家だったので劇場の雰囲気づくりは巧い)などに前作「グリュン家の犯罪」(1976年)から格段の進歩を遂げており、何よりも壮大な事件構図と白熱の推理合戦(第3部第4章が秀逸)は本格派ファンとして大いに楽しめました。動機については事前の手掛かり不足かであるなど小さい問題点もありますが大満足の面白さです。

No.63 5点 和時計の館の殺人- 芦辺拓 2009/04/06 16:49
(ネタバレなしです) 2000年発表の森江春策シリーズ第8作は横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)へのオマージュ的な本格派推理小説で、横溝作品を読んだ読者なら楽しめる趣向があちこちに仕掛けてあります(読んでいなくても鑑賞上の支障はありませんが読んでおくことを勧めます)。綾辻行人の「時計館の殺人」(1991年)を意識したかのような舞台も印象的です。ということで背景や雰囲気についてはなかなか面白いネタが揃っているし、ストーリー展開もスムーズで読みやすいのですが謎解きが(私には)複雑過ぎるのがやや惜しまれるところです。

No.62 5点 三つ首塔- 横溝正史 2009/04/03 17:12
(ネタバレなしです) 1955年発表の金田一耕介シリーズ第11作ではありますが名探偵としての推理らしい推理をすることもなく(登場シーンも少ないです)、殺人事件は場当たり的に解決してしまいますので本格派推理小説としては楽しめません。犯罪に巻き込まれたヒロインがこれまで全く縁のなかった裏社会の人間模様にカルチャーショックを受けていく様を丁寧に描いていた通俗スリラーです。21世紀の読者視点では世間知らずのヒロインの内面描写に古臭ささを感じるかもしれませんが、遺産を巡ってのサバイバル・ゲームにも通じるサスペンスと連続殺人の絡ませ方は巧妙でぐいぐい読ませます。風俗描写に力を入れすぎてせっかくの三つ首塔がいまひとつ存在感がなかったのは惜しいですが。

No.61 6点 サマー・アポカリプス- 笠井潔 2009/04/01 18:01
(ネタバレなしです) 前作の「バイバイ、エンジェル」(1979年)も決して軽い作品ではありませんが1981年発表の矢吹駆シリーズ第2作の本格派推理小説の本書は重厚感がぐっと増しました。前半は中世の宗教史の知識が半端でなく、その分謎の魅力がややもすると霞んでしまったようなところもありますが第4章の終盤あたりからは前作でも見られた思想対決的な雰囲気が濃くなり、息苦しさと緊張感を同時に味わいました。そして鮮やかな謎解きの後に訪れる、あまりの後味の悪さは高木彬光の某作品を連想しました。なお作中で「バイバイ、エンジェル」のネタバレ(犯人の名前を堂々と公表)しているのはいくら原作者といえどマナー違反ではないかと思います。

No.60 7点 踊り子の死- ジル・マゴーン 2009/04/01 16:09
(ネタバレなしです) 1989年発表のロイド主任警部&ヒル部長刑事シリーズ第3作です。登場人物が揃いも揃って共感できないタイプだったので物語的にはいまひとつのめり込めませんでしたが本格派推理小説としては1級品です。緻密な推理が披露された後でそれを根底からひっくり返すような証拠が提示され、さらにそこからの逆転推理という流れが凄いです。どんでん返しの鮮やかさでは世評の高い「騙し絵の檻」(1987年)をも凌ぐと個人的には思います。

No.59 8点 検死審問ふたたび- パーシヴァル・ワイルド 2009/03/31 10:54
(ネタバレなしです) 「検死審問」(1939年)の続編的な1942年発表のリー・スローカムシリーズ第2作で、本書を先に読んでも支障はありませんが共通する登場人物も多いのでできれば前作を読んでから本書を読むことを勧めます。証人の証言シーンが続くので単調と言えなくはありませんがこれが実にユーモアたっぷりで、派手などたばたがないのに全くだれることなく読み進めました。ユーモア一辺倒ではプロットが腰砕けになりがちですがそこはさすがワイルド、緻密な仕掛けを施した用意周到な謎解きが用意されており本格派推理小説マニアも満足できると思います。

No.58 4点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2009/03/27 14:10
(ネタバレなしです) エラリー・クイーンはいとこ関係にあったフレデリック・ダネイ(1905-1982)とマンフレッド・リー(1905-1971)から成るコンビ作家で、単に米国本格派推理小説の黄金時代を代表する作家というだけでなくミステリー専門誌を発行して無名作家の発掘に力を注ぐなどミステリー界全体の振興に偉大な功績を残しています。1929年発表の本書がクイーンの記念すべきデビュー作で、「読者への挑戦状」を挿入して謎解き手掛かりを全てフェアーに提示したことを宣言した作品です。息子エラリーのヒントを基に父リチャードが真相を見抜くという、2人3脚探偵形式を採用しているのがこのシリーズとしては異例の試みです(本書以降は普通にエラリーが謎解きしてリチャードは脇役です)。エラリーを古書愛好家で会話の中にやたらと古典文学からの引用を混ぜる癖があるキャラクターにしていますが、これは当時人気絶頂だったヴァン・ダインの名探偵ファイロ・ヴァンスを意識した造形になっています(ちょっと意識しすぎだと思う)。登場人物が無駄に多くて(しかも個性が描けていない)非常に読みにくく、心地よくだまされたという快感よりもこんな物量作戦では犯人が当たるはずないという不満の方が強かったです。

No.57 6点 死神の座- 高木彬光 2009/03/27 11:51
(ネタバレなしです) 1960年代になると作者は社会派推理小説や法廷ミステリーを発表するようになりますが、1960年発表の本書は神津恭介シリーズ作品(第11作)だけあって純然たる本格派推理小説です(但しシリーズ次作は1970年代まで書かれませんでした)。占星術にロマンスに宝探し趣向まであって書きようによってはロマンチックで神秘的な作品にも仕上げられたと思いますが、作者独特の暗くてドライな文章ではさすがにそういう雰囲気にはならなかったですね。

No.56 2点 雪だるまの殺人- ニコラス・ブレイク 2009/03/26 18:27
(ネタバレなしです) 1941年発表のナイジェル・ストレンジウェイズ第7作の本格派推理小説です。雪だるまの中から死体登場、という出だしはなかなかのインパクトがありますが結局のところ、メインの謎解きは首吊り事件の方だったのは拍子抜けでした。自殺か他殺かを推理するのはいいのですけれど、死体が全裸であったことに名探偵役のナイジェルを筆頭に誰も疑問を表明しないのはなぜ?あまりにも不自然だとは思わなかったのでしょうか?不信感を持ちながら読んでしまったので私個人にとって最も不満の多いブレイク作品となってしまいました。猫の不思議な行動の謎解きなんかは結構読ませますけど。

No.55 3点 冷たい校舎の時は止まる- 辻村深月 2009/03/26 16:55
(ネタバレなしです) 辻村深月(1980年生まれ)の2004年発表のデビュー作ですが文章はなめらかで読みやすいです。第16章の前に読者への挑戦状風なメッセージがあるというので本格派推理小説かなと期待して読みましたが、ああいう超自然的な舞台設定では真相も無限に用意可能にしか思えず、謎解きの面白さは感じませんでした。これはホラー小説と割り切った方が間違いなさそうです。残虐シーン連発タイプのプロットではありませんが、それでも私は苦手でして...。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)