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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.155 3点 死の笑話集- レジナルド・ヒル 2010/08/17 22:06
(ネタバレなしです) 2002年発表のダルジールシリーズ第18作で、軽そうなタイトルとは裏腹に650ページ近い分量で読者を圧倒する巨大な作品です。厚さだけではなく作者得意の複数のエピソードを並行して絡ませる複雑な構成をとっており、更には過去作品の「武器と女たち」(2000年)や「殺人のすすめ」(1971年)と密接なつながりを持っているプロットの奥深さは凄いんですけど、凡庸な頭脳の持ち主である私にはとてもついていけない世界でした。また前作の「死者との対話」(2001年)の後日談にもなっていて、曖昧なままだった物語にある種の決着をつけています。というかこれでは前作は中途半端に未完だったように感じてしまいます。本格派推理小説としての推理の楽しみもなく、探偵役(ダルジールにしろパスコーにしろ)が特に活躍することもありません。最後はちょっと感動的な場面がありますが、私はあまりの難解さにぐったりでした。

No.154 6点 密室の鍵貸します- 東川篤哉 2010/08/06 11:40
(ネタバレなしです) 有栖川有栖が「ユーモア本格派のエース」と激賞した東川篤哉(ひがしがわとくや)(1968年生まれの)の2002年発表のデビュー作です。派手な爆笑よりもくすくす笑いを誘うようなユーモアを特徴とし、すれ違いや勘違いを随所にばら撒いて読者を混乱させながら謎解き伏線を巧妙に配置する手腕は確かなものです。もっとも探偵役に「僕らはヴァン・ダインとは違うのだし」と言わせるほど珍しい真相の捻り方はアンフェアだと感じる読者がいるかもしれません(横溝正史の某作品にもこの真相パターンがあったような記憶が...)。それさえも軽妙な文体のおかげで、まっいいかと思わせてしまうのですが。

No.153 5点 変調二人羽織- 連城三紀彦 2010/07/22 18:29
(ネタバレなしです) 1981年発表の第2短編集ですが収容されている作品はデビュー作の表題作など初期作品ばかりです。父親の「どれを読んでもすぐ犯人がわかってしまうので退屈だ」という不満がミステリーを書くきっかけというだけあって結末の意外性を追求した作品が多いです。もっとも普通に犯人当てをしている作品は表題作ぐらいで、本格派系の作品でも読者が推理に参加しにくいプロットの作品が多いのですが。個人的に1番意外性を演出できたと感じたのは犯罪小説の「依子の日記」でした。

No.152 6点 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 2010/07/15 20:11
(ネタバレなしです) 松本清張の大ヒット作「点と線」(1958年)を強く意識して書かれた1961年発表の本格派推理小説です。鬼貫警部シリーズ第5作でありますが彼が登場するのは後半からだし、真相に限りなく近づきながらも事件の締めくくりには出番がありません。この作者は読者の感情に訴えるような文章を書くのは得意でないと思っていましたが、本書の哀愁溢れるエンディングには驚かされました。何度か映像化されたというのも納得できます。

No.151 3点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2010/07/09 10:54
(ネタバレなしです) 1938年発表のエラリー・クイーンシリーズ第13作では「悪魔の報酬」(1938年)の続編にあたる作品で(前作ネタバレはありません)、ハリウッドを舞台にしたユーモア本格派推理小説です。前作以上にどたばたやロマンスが派手になっており、なるほど私のイメージするハリウッドらしさも十分に堪能できました。しかし「悪魔の報酬」では論理的推理による謎解きもしっかりできていたのに本書はどたばた描写ばかりが目立ちすぎて推理の説得力が弱く感じられます。

No.150 6点 悪魔パズル- パトリック・クェンティン 2010/06/16 19:14
(ネタバレなしです) 後年(ウエッブが引退してホイーラー単独執筆時代)にはサスペンス小説路線へと切り替わる作者ですが、1946年発表のダルース夫妻シリーズ第5作(といっても実質はピーターのみの登場作品)の本書においても本格派推理小説よりサスペンス小説の要素が色濃く表れています。前半は陰謀に巻き込まれた(らしい)主人公がたっぷりと描かれ、中盤からは犯罪小説風な展開になり退屈させませんが謎解きの醍醐味は希薄です。最後は推理も披露されて謎解き伏線も回収されますが犯人の正体が判明してからの後出し気味の感があります。よくできた作品ですが個人的な好みの点では「俳優パズル」(1938年)や「悪女パズル」(1945年)の方に軍配を上げます。

No.149 4点 4000年のアリバイ回廊- 柄刀一 2010/06/01 11:43
(ネタバレなしです) 「3000年の密室」(1998年)の姉妹作的な1999年発表の本格派推理小説です(前作ネタバレはありません)。光文社文庫版の巻末に紹介されている参考文献の多さにびっくり。1冊書くのにここまで下調べしていることに感心しました。ただ小説としての面白さという点では残念ながら満足できませんでした。地の文も会話も抑揚に乏しく展開も地味過ぎます。過去(4000年前)の謎はユニークですがDNA鑑定の結果から生じた謎なので芦辺拓の「十三番目の陪審員」(1998年)のような作品を読んだ読者には「そもそも鑑定方法に問題はないのか」という疑惑が先立って、推理の楽しみが減ってしまうと思います(ちなみに芦辺作品のネタバレにはなってません。念のため)。

No.148 5点 原罪の庭- 篠田真由美 2010/04/29 13:44
(ネタバレなしです) 1997年発表の桜井京介シリーズ第5作にして作者が「本書をもって第一部を終了する」と宣言した本格派推理小説です。この第1部、5作品中3作品が回想の殺人を扱っており、出版順と作中時代順がずれています。それでいながらシリーズとしての統一感が強固なのは回想を通じてシリーズキャラクター同士の関係を構築することに成功しているからだと思います。本書は作中時代的には早期の事件簿にあたり、京介とあるシリーズキャラクターの出会いが描かれていますが本書からシリーズ作品を読み始めるのは勧めません。人間関係が安定した第1作「未明の家」(1994年)から先に読む方が作品世界になじみ易いと思います。読み応えのある作品ではありますが本格派推理小説としては自白で明らかになる真相が多くて推理に関しては物足りないです。また色々な意味で「心の傷」描写が多いのも好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.147 6点 ユリ迷宮- 二階堂黎人 2010/04/22 11:55
(ネタバレなしです) 1つの大きな城館がたった半日の間に建っていた場所から跡形もなく消え失せる「ロシア館の謎」、三重の密室で起こった殺人事件の「密室のユリ」、そして死を予告する手紙が次々と舞い込む「劇薬」、二階堂蘭子の活躍する3つの中短編を収めた1995年出版の第1短編集です。200ページを超すので長編といってもよさそうな「劇薬」(講談社文庫版では中編と紹介されています)はどうやって毒を飲ませたのかというハウダニット要素の強い作品で、丁寧に謎解き伏線を張っていますが小粒で地味な作品です。デビュー作の「地獄の奇術師」(1992年)やそれより先に完成された「吸血の家」(1992年)よりも更に早く書かれたらしいのでまだ作風に余裕がないとも言えそうです。「ロシア館の謎」はロマンの香りと大トリックの絡ませ方が素晴らしい逸品で、これだけなら8点評価に値します。「密室のユリ」は自信満々の犯人が案外と他愛もなく逮捕されているのが拍子抜けでした(それだけ名探偵が優秀といえますが)。

No.146 5点 ゴールド1 密室- ハーバート・レズニコウ 2010/04/09 15:56
(ネタバレなしです) 米国のハーバート・レズニコウ(1920-1997)は建築技師のライセンスを持ち建築会社を設立していましたが、財政上の問題と健康上の問題(心臓発作)から作家業に手を染めるようになったそうです。ゴールド夫妻シリーズ第1作となる1983年発表の本書がそのデビュー作です。内容的にはプロットのしっかりした本格派推理小説で、密室トリック自体はそれほど印象に残るものではありませんが丁寧に謎解き伏線を張ってあり、犯行現場の緻密な描写は建築家出身の作家ならではのものがあります(見取り図を付けてほしかったですが)。建築業界という一般的にはなじみにくい舞台背景が気にならなければ読みやすい作品です。ただ問題は探偵役のアレックス・ゴールドが非常に共感しにくい人物に描かれていることでしょう。彼の発言は毒舌を通り越して言葉の暴力に近いように思えます。弱い人間に対してはそうでないとフォローが入っていますがそういう場面がほとんど描かれず、妻のノーマや容疑者に対する非難や挑発まがいの言動がしつこく描かれているのに正直げんなりしました。第12章では容疑者の1人に巧く反撃されていますが、どちらかいうと容疑者の方に肩入れしてしまいましたよ(笑)。

No.145 6点 猫は知っていた- 仁木悦子 2010/04/07 18:24
(ネタバレなしです) 仁木悦子(1928-1986)の作品は長編はわずか11作に対して短編は100作を超すので短編ミステリー作家といっても差し支えないでしょうけど、1957年発表の長編第1作(仁木兄妹シリーズ第1作)である本書を読む限りでは長編を苦手にしているようには思えません。。「日本のアガサ・クリスティー」と評価されることもある作者ですが軽妙な文章と会話重視のプロット、そして充実した謎解きはなるほどと納得させるものがあります。防空壕の残る庭など時代性を感じさせる部分も散見されますが小説としてしっかりしているので現代読者の鑑賞に堪えられる作品です。トリックは実現性に問題ありかと思いますがなかなかユニークです。

No.144 5点 蔵書まるごと消失事件- イアン・サンソム 2010/04/03 09:38
(ネタバレなしです) 英国のイアン・サンソムが2005年発表したデビュー作でユーモア本格派推理小説です。何度もとんでもない目に遭って悲鳴と頭痛薬を欠かさない主人公描写(しかも推理は暴走気味)から目を離せません。主人公以外にも個性的人物が多数登場し、まるでクレイグ・ライスのマローンシリーズの世界です。もっともライスほどには羽目を外さず、文章にどこか抑制が効いているところはイギリス作家ならではでしょうか。映像化したらかなり派手なものになりそうですが。殺人の起きない謎解きは物足りませんが気軽には読める作品です。

No.143 6点 逃げ出した死体 伊集院大介と少年探偵- 栗本薫 2010/03/27 00:20
(ネタバレなしです) 「伊集院大介と少年探偵」の副題をもつ、2006年発表のシリーズ第28作です。本格派推理小説らしさを感じさせるところもありますが巻き込まれ型サスペンスの要素も強く、謎解き伏線が解決前に読者へ十分提供されているわけではありません。とはいえ主人公の少年(14歳)のモノローグ(独白)が延々と続き、物語の4分の3近くまで彼以外に生身の人間として登場しているのはアトム君ぐらいというプロットはなかなか個性的です。少年のキャラクターに共感できない場合は全くつまらなく感じてしまう危険性がありますけど。余談になりますが余命あと数ヶ月で書かれた講談社文庫版(初版)の作者あとがきは痛々しさがひしひしと伝わってきて読むのが辛かったです...。

No.142 6点 クッキー交換会の隣人たち- リヴィア・J・ウォッシュバーン 2010/03/09 13:20
(ネタバレなしです) 2008年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第3作で、コージー派としてはプロットがしっかりしており、(やや見破りやすいながらも)伏線もちゃんと用意されて本格派推理小説としての謎解きを楽しめます。展開に派手さはありませんが文章は滑らかで読みやすいです。

No.141 4点 龍臥亭事件- 島田荘司 2010/03/08 12:35
(ネタバレなしです) 1996年発表の本書は御手洗潔シリーズ番外編でワトソン役の石岡和己を主人公にしています(「アトポス」(1993年)のように最後になって御手洗潔登場、という風にはなりません)。作者の大作主義は留まることを知らず光文社文庫版で上下巻合わせて1100ページを超すボリュームですが、さすがに長すぎかなと思います。特に後半で挿入される3章200ページに渡るドキュメンタリー風の物語は、コナン・ドイルの「緋色の研究」の構成を連想させるもので物語の流れを中断させてしまったように感じました。またエピローグで「ある事実」が判明するのですがこれは他の島田作品を読んでいないと読者にはぴんとこない事実です。メインの謎解きに関係ないとはいえ、1つの作品内で全てが完結するようにしてほしいですね。

No.140 8点 「化かされた古狐」亭の憂鬱- マーサ・グライムズ 2010/02/25 11:46
(ネタバレなしです) 1982年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第2作の本格派推理小説で、前作の「『禍いの荷を負う男』亭の殺人」(1981年)に比べるとプロットがすっきして格段に読みやすくなっています。ジュリーもちゃんと名探偵らしくなりました。代わりにメルローズ・プラントが地位を下げましたが(笑)。舞台描写も卓抜で、霧や風そして暗さを巧妙に描いて寒村の雰囲気をたっぷり味わせてくれます。丁寧な謎解き説明も好感を持てます。

No.139 5点 死びとの座- 鮎川哲也 2010/02/22 11:49
(ネタバレなしです) 鮎川哲也(1919-2002)の作家としての活動は1991年まで続きますが鬼貫警部シリーズに関しては1983年発表のシリーズ第17作の本書が最終作となりました。メイントリックはなかなかよく考えられておりハウダニットの謎解きはよくできた部類だと思います。しかし鬼貫警部の登場シーンが非常に少ない上に犯人当てに関しては容疑者の1人が途中から探偵役に切り替わって謎解きしているのが唐突に過ぎるように思います。山手線や総武線の駅名にちなんだ人物名が多いのは作者のお遊びとしても東京事情を知らない読者にはぴんと来ないでしょうし。

No.138 6点 ベヴァリー・クラブ- ピーター・アントニイ 2010/02/22 10:50
(ネタバレなしです) 1952年発表のヴェリティシリーズ第2作で、前作「衣裳戸棚の女」(1951年)と比べると地味でユーモアも控え目です。アリバイと動機を丹念に調査するという、ひたすら普通の本格派推理小説に徹しています。しかし結末は決して普通ではなくかなり独創的な真相を用意しており、この独創性(といっても本書より先に書かれた某国内作家の某作品に似たアイデアがありますが)の評価は分かれるかもしれません。マニア読者なら受けるかもしれませんがビギナー読者は拒否反応の方が多くなりそうな気がします。

No.137 4点 殺人ピエロの孤島同窓会- 水田美意子 2010/02/17 10:33
(ネタバレなしです) 水田美意子(1992年生まれ)の2006年発表のデビュー作です。その早熟ぶりが話題になりましたが実は12歳の時に完成させていたとか。登場人物が30人以上もいますが単純計算すれば10ページに1人の割合で殺されていくので、覚えておくべきなのは意外と少人数ですみます。最後には本格派推理小説ならではの推理要素もありますが物語のほとんどはノンストップで派手な殺人描写が連続するホラー小説風な展開で、たまにはリアリティーを無視しまくったB級ミステリーを読むのも悪くはないけれど、これはちょっとしつこいかなとも思います。

No.136 7点 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 2010/02/15 17:16
(ネタバレなしです) 十代のほとんどをフランスで過ごした岸田るり子(1961年生まれ)の2004年のデビュー作である本書は創元推理文庫版で300ページ程度とコンパクトで登場人物も決して多くはありませんが重厚さを感じさせる本格派推理小説です。心理サスペンスの要素も濃厚な作品で、クリスチアナ・ブランドの某短編を連想させるような幕切れは結構衝撃的です。謎解きが粗くて説明が少々中途半端なところがブランドレベルにはまだ到達していませんが、デビュー作としては上等の出来映えだと思います。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
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A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
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