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[ 本格 ]
小麦で殺人
銀行副頭取パトナム・サッチャー
エマ・レイサン 出版月: 1970年09月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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早川書房
1970年09月

No.3 7点 クリスティ再読 2025/01/26 15:35
評者CWAとの相性がいいというのは何度も言っているけど、本作もゴールドダガー(1967)。この時期のゴールドダガー受賞作って、評者は大好きな作品が多い。「ドルの向こう側(65)」「シロへの長い道(66)」「ガラス箱の蟻(68)」「英雄の誇り(69)」「若者よ、きみは死ぬ(70)」。こんな流れの中だから、本作も評者は気に入ったのは当然かも。

米ソデタントの背景から、ソ連によるアメリカ小麦買い付けの決済を主人公サッチャーが副頭取を勤める銀行が行うことになった。入港したソ連船に小麦が積み込まれ、その証拠として船荷証券が銀行に提示され、添付された小麦ブローカーの書類もソ連領事館の証明書も揃っていたため、代金の小切手が渡された....しかし、書類はすべて偽造。銀行は100万ドルの詐欺に逢ったのである。その小切手を運んだ運転手がソ連領事館の前で射殺され、手がかりは失われる。米ソデタントに水を差しかねない問題に直面したサッチャーは、NYの捜査当局・ソ連要人と協力して、小切手を取り返すべく真相究明に乗り出す。

こんな話。あらすじでも分かるように、船荷の貿易のデテールがしっかりと描かれて社会派的な、というか経済小説的な面白味がある。けどね、何度も評者は吹き出したくらいにユーモアたっぷり。その分キャラも背景もしっかりと描かれて、これぞ「イギリス好み!」と言いたくなるような小説。ミステリ的にも「知識と機会がある人物」の絞り込みが論理的で、狭義のミステリ的な面白さも充実。人間観察のシビアさもあり、とぼけたような文章に歯ごたえもあり、小説的にしっかり楽しめる。事態収拾に派遣されたソ連要人が、アメリカのヒッピーと議論し、「長い間マルクス主義的論争で訓練された」ソ連要人が、ヒッピーをやりこめるあたり、評者大爆笑。

(サッチャーの勤務するウォール街の銀行は商業銀行ではなく、投資信託銀行のようだ。なるほど)

No.2 6点 mini 2013/05/17 09:56
アベノミクスで世の中浮かれ気分のようだが、世界の中で突出して急激に通貨安が進んだ日本に対していつまで世界に許容してもらえるかねえ
経済状況の実体も円安で為替相場上の目先の収支改善に助けられている一部輸出企業に支えられている上っ面な好況感も無きにしも非ず
長らく株価低迷で売らずに株を持ち越していた投資家が好況感を世の中に煽って売り抜けを画策していると疑っているのは私がヘソ曲りなせいかな

さて経済ミステリーを代表する作家と言えば真先に名前が挙がるのがエマ・レイサンである
もちろんもっと古くには夫婦揃って経済学者兼ミステリー作家のコール夫妻なんてのも居るが、コール夫妻の「百万長者の死」などはたしかに本職が経済学者らしい描写も有るには有るが正面きって”経済ミステリー”か?というと微妙だ
やはり”経済ミステリー”という分野を意図的にはっきり打ち出した専門家と言えばエマ・レイサンだろう

レイサンは珍しい女性同士の共同ペンネームである
上記で名前が出たコール夫妻もそうだが夫婦などの男女合作というのは割とよくあるパターンなのだが、女性同士の合作は珍しくロジャー・スカーレットなどごく一部の作家しかいない
「小麦で殺人」はCWA賞受賞した銀行副頭取サッチャーシリーズの代表作の1つで、書かれた時代的に背景に米ソの冷戦時代末期の国際政治状況があり、その中での小麦取引という経済問題を扱っている
ただし誤解してはいけないのはいわゆる政治ミステリーでは全然ない、米ソの確執はあくまでも背景だけであってミステリー的には個人的な動機の普通の本格派作品である
私は本格派に普遍的な要素を求めてはおらず絶対的な評価基準を置いていない、10人の本格派作家が居れば10の作風が有っていいと思っていて、絶対的な1つの本格派のスタイルなどは存在しないと思っているわけだ
そもそもレイサンという作家をを選んで読むという事は、経済的な薀蓄を除いたパズル的要素だけを期待しても意味が無いので、政治経済色の強さは作家の個性が濃厚に表れているという事で良い方に解釈したい
レイサンはアメリカ作家なのにCWA賞を受賞したのはそういう要素が評価されたのではないかなぁ

No.1 5点 nukkam 2012/01/17 19:04
(ネタバレなしです) 1967年発表のジョン・サッチャーシリーズ第6作で、CWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得したことから代表作のように紹介されていますが、個人的には微妙な作品でした。一応は本格派推理小説としての謎解きもありますが、政治色が濃厚なのは評価が分かれそうです。米ソ間の「雪どけ」時代に発表されたからでしょうか、ソ連人が登場していますが結構気配りしたような描写になっていますね(笑)。


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エマ・レイサン
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