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皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.195 5点 暗い森- アーロン・エルキンズ 2010/12/24 20:38
(ネタバレなしです) 1983年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第2作ですが、本書は冒険スリラー小説のジャンルに属する作品で、「古い骨」(1987年)や「呪い!」(1989年)のような本格派推理小説を期待すると肩透かしをくらいます。連続失踪事件に猿人による殺人を思わせるような状況証拠と、謎の魅力は十二分にあるのでちょっと残念です(とはいえあの真相では本格派ファンの読者の賛同を得るのは難しいでしょう)。原始時代にタイムスリップしたかのような雨の森林の描写が見事で、息詰まるようなサスペンスを生み出しています。ギデオンが(後に妻となる)ジュリーと初めて出会うということでシリーズファンなら必読です。

No.194 6点 佐渡・密室島の殺人- 深谷忠記 2010/12/21 12:49
(ネタバレなしです) 2002年発表の壮&美緒シリーズ第33作で、作者得意のアリバイ崩しの本格派推理小説ですが驚いたことに「読者への挑戦状」が付いているではありませんか。犯人は誰かではなく、アリバイトリックを見破ってみよという大変珍しい挑戦状です。この挑戦状に胸のときめきを抑えられる本格派好き読者はそうはいないでしょう(笑)。残念なのは説明が物足りないことです。挑戦状を付けるからには真相はこうだという説明だけでなく、どういう推理でその結論に至ったかまで説明してほしかったです。でもまあ意欲を評価して1点おまけします。

No.193 9点 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー 2010/12/21 12:42
(ネタバレなしです) 1938年発表のフェル博士シリーズ第8作の本書は典型的な「巻き込まれ型」サスペンス小説のような出だしで始まりますが、死体を発見する羽目になったケントが警察に追い詰められることもなくあっさりフェル博士のもとに辿り着いているのはちょっと物足りなかった(笑)。怪奇趣味もなく不可能犯罪でもなくユーモアやロマンスも控え目で終盤まではとても地味な展開ですが、結末で待ちかまえていたのは驚愕の大仕掛けでした。この仕掛けは反則だという感想も少なくないし、その気持ちもよくわかります。ただ反則であってもこれほどの劇的効果をあげていることはやはり評価に値すると思います。そして最後の最後に明かされる、皮肉に満ち溢れた人間関係が何ともいえない後味を残します。

No.192 5点 北列車連殺行- 阿井渉介 2010/12/13 07:57
(ネタバレなしです) 阿井渉介(1941年生まれ)は1980年にシナリオライターから作家に転身してサスペンス小説や冒険小説を書くもあまり目立った存在ではなかったようですが、1988年発表の本書(長編としては7作目)に始まる列車シリーズで注目を浴びました。タイトルから西村京太郎のトラベル・ミステリーの二番煎じかと思いましたが、アリバイ崩しだけでなく怪現象や某童話の見立て殺人など、謎の魅力が満載の本格派推理小説です。もっともこれでもシリーズ作品の中では地味な部類ですが。ホワイダニットの謎解きに1番重点を置いたプロットだったのは意外でしたが、これだけの大事件が起きていながらあれほどまでに捜査に非協力的な事件関係者たちというのは(真相を知った後でも)釈然としない部分がありますけど。

No.191 4点 病院坂の首縊りの家- 横溝正史 2010/12/06 11:18
(ネタバレなしです) 1970年代、横溝正史のリバイバルブームが起き、映画にTVドラマ、書店の目立つ所にずらりと並ぶ作品群とまさに犬も歩けば横溝正史(笑)。それに刺激されて再び執筆意欲が湧いてきたのか、晩年を迎えた作者が金田一耕助シリーズの新作を発表したのはファンにとって何よりのプレゼントでしょう。その1つが1975年発表のシリーズ第29作の本書で、角川文庫版で上下巻合わせて750ページを超す大作です。内容的にはいまひとつで、複雑な人間関係を重厚に描いた作品と言えなくはありませんがサスペンスが犠牲になっているのは否めないし、魅力的なタイトルも十分には活かされていません。自白に頼る部分の多い謎解きも残念です。金田一耕助最後の作品という位置づけですが、まだまだ未発表の事件記録が存在することを示唆しており、今後に期待させてくれています。しかし本書以降は「悪霊島」(1978年)のみしか発表されず、作者が逝去したのは残念でした。

No.190 7点 蛇の形- ミネット・ウォルターズ 2010/12/06 11:07
(ネタバレなしです) 2000年発表のミステリー第7作は主人公の1人称形式で語られる本格派推理小説で、これまでに読んだウォルターズ作品の中では最も本格派推理小説らしさを感じた作品です。とはいえ単純に謎解きを楽しむようなプロットではありません。主人公によって次々に明らかになる恐るべき真実(殺人の謎解きだけではない)は圧倒的というか衝撃的というか...。いやあ舞台となっているグレアム・ロードってまるで魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界ですね(笑)。事件関係者たちも主人公に抵抗します。覚えていないととぼける、威嚇する、嘘をつく、話をそらす...。そんな彼らを主人公がどうやって追い詰めていくのかが本書の見所の1つです。とにかく重苦しくて暗くて劇的で緻密な物語を堪能しました。もっともこういう疲れる作品を読むとウォルターズ作品は当分もういいや、という気分にもなってしまうのですが(笑)。

No.189 4点 匣の中の失楽- 竹本健治 2010/12/06 10:57
(ネタバレなしです) 竹本健治(1954年生まれ)が1978年に発表したデビュー作の本書は、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」(1934年)、夢野久作の「ドグラ・マグラ」(1935年)、中井英夫の「虚無への供物」(1964年)のミステリー3大奇書に続く第4の奇書と評価されている作品です。相次ぐ推理合戦や膨大かつ広範囲な知識の披露は明らかに中井作品の影響が色濃く、歪みを感じさせる作品世界描写は中井作品の発展型といってもいいのでは。それが小説としての面白さとは乖離しているところが奇書たる所以であり、すっきりした結末は期待しない方がいいです。私の読解力では4大奇書は楽しむどころか理解さえもほとんどできず、ただ機械的にページをめくっただけに等しいです。

No.188 4点 単独捜査- ピーター・ラヴゼイ 2010/12/06 10:30
(ネタバレなしです) 1992年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第2作で、前作とはがらりと趣向を変え、犯人当て本格派推理小説ではなく陰謀に巻き込まれた被害者を救うのが目的の誘拐サスペンス小説で、謎解き要素はほとんどありません。前半は全くミステリーらしくない展開ですがダイヤモンドの人情談としてはそれなりに楽しめますし、超人じみた助っ人の存在がご都合主義を感じさせるとはいえ後半はサスペンス豊かです。ダイヤモンドが「もと警視」という肩書きを利用して警察組織をかなり積極的に動かしているので、「単独」という日本語タイトルはしっくりきませんが(英語タイトルは「Diamond Solitaire」)。

No.187 6点 悪霊島- 横溝正史 2010/12/02 09:32
(ネタバレなしです) 横溝正史(1902-1981)最後の作品となった1978年発表の金田一耕助シリーズ第30作の本格派推理小説です。全盛期の作品を髣髴させる舞台設定にどきどきわくわくした読者も多かったと思いますが(私もその1人です)、さすがに晩年の作品なので全体的には淡白な印象を受けました。とはいえ凡百の作家など及ばない面白さは十分に持っています。

No.186 6点 目撃者を捜せ!- パット・マガー 2010/12/02 09:18
(ネタバレなしです) これまで被害者探しや探偵探しといった変わった趣向の本格派推理小説を書いてきたパット・マガーの1949年発表の第4作は目撃者探しを主目的にした、これまた前例のないプロットです。本格派推理小説における主人公は探偵、犯人、被害者であり、脇役的存在の目撃者に光を当てているのは確かにユニークだとは思いますが、これが魅力的な謎かというとやや疑問ではあります。とはいえ迷走する推理が生み出すユーモアは強烈で、暗い作風の「七人のおば」(1947年)や「四人の女」(1950年)とは違った作者の一面を見せています。

No.185 5点 高層の死角- 森村誠一 2010/11/01 21:22
(ネタバレなしです) 累計発行部数が1億冊を超える森村誠一(1933-2023)の初期作は犯罪を扱っていても非ミステリー作品に分類されており、ミステリーデビュー作とされるのが1969年発表の本書です。後年の社会派推理小説要素はなく、純粋な本格派推理小説といっても差し支えないでしょう。密室トリックの鮮やかな解明も印象的ですが、崩しても崩しても再生するアリバイの強固さはすさまじいものがあります。私にとっては犯人当ての楽しみを放棄することの多いアリバイ崩しは相性がよくないのでどうしても辛目の採点になりますが、緻密に考え抜かれた佳作であることは認めます。

No.184 5点 空白の一章- キャロライン・グレアム 2010/11/01 21:10
(ネタバレなしです) 同じバーナビー主任警部シリーズ作品であっても「蘭の告発」(1987年)と「うつろな男の死」(1989年)はまるで雰囲気が異なりますが、1994年発表のシリーズ第4作の本書は前者寄りの重苦しい作品でした。見方によっては「蘭の告発」以上に登場人物のどろどろした関係が描かれているのですが、なぜか「蘭の告発」を読んだ時のような衝撃は感じませんでした。異常性の描写が少しくど過ぎて驚く前にげんなりしてしまったのかもしれません。謎解きも「蘭の告発」に比べて若干ながら物足りなさを感じました。

No.183 5点 陽気な幽霊 伊集院大介の観光案内- 栗本薫 2010/11/01 19:55
(ネタバレなしです) 2005年発表の伊集院大介シリーズ第26作で、講談社文庫版の作者による巻末解説によれば「ご都合主義で殺人事件を引き起こす」ことに疑問を感じてきた時期の作品だけあってかミステリーらしからぬ作品です。特に前半は事件らしい事件も起きず、起きそうな気配もなく、伊庭緑郎のにぎやかさだけでどうにか場をつないでいるという有様です(それさえもだんだんトーンダウンしていきます)。後半になると消える幽霊(ちゃんとトリックあります)や失踪事件やツアー客による推理合戦などでそれなりに盛り上がりますが、前半をもう少し何とかできなかったのでしょうか。

No.182 6点 殺す手紙- ポール・アルテ 2010/11/01 19:44
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書はハヤカワポケットブック版裏表紙の粗筋紹介を読んだ時には純然たるサスペンス小説かと思いましたが内容的には推理による犯人当て本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型でした(ちなみにシリーズ探偵は登場しない作品です)。不可能犯罪要素が全くないのがアルテらしくないとも言えますが、その分綱渡り的なトリックも少なくて謎解きのまとまりはいい方です。冒険スリラーの部分もじわじわと緊迫感を高めていく作者の手腕がなかなか見事。結末はやや唐突感があって呆気にとられましたが。

No.181 7点 グリュン家の犯罪- ジャックマール&セネカル 2010/10/26 17:50
(ネタバレなしです) フランスのイヴ・ジャックマール(1944-1980)とジャン=ミシェル・セネカル(1944年生まれ)のコンビは劇作家としては散々辛酸を舐めましたが、1976年発表の本書が(1977年度の)パリ警視庁賞を獲得してミステリー作家としてはこれ以上ないほど幸先いいスタートを切りました。フランス作家とは思えないほどプロットのしっかりした本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版で200ページに満たない薄さながら容疑者数は15人を超え、しかも中盤まで続くアリバイ調査がやや単調に感じられますが最終章でのどんでん返しの連続はそれまでの冗長さを補って余るほどのサスペンスです。フランス本格派推理小説界の巨星となる可能性を十全に見せてくれたのですがコンビの片割れ(ジャックマール)が本書発表のわずか4年後に急死してしまったのは本当に残念です。

No.180 6点 黒い白鳥- 鮎川哲也 2010/10/26 09:55
(ネタバレなしです) 1959年発表の鬼貫警部シリーズ第3作でアリバイ崩しを堪能する作品です。複数のトリックを組み合わせたものですが前作の「黒いトランク」に比べて格段にわかりやすいです。犯人当てとして楽しめる作品ではありませんが(物語の2/3ぐらいでやや唐突に特定される)謎解き伏線の張り方とそれに基づく推理は堂に入ったもので、これはこれで立派な本格派推理小説です。余談ですが創元推理文庫版の巻末解説で有栖川有栖が批判している、「アリバイ崩しは地味で退屈だという偏見を抱いている読者」には間違いなく私が含まれていますね(笑)。

No.179 6点 封印再度- 森博嗣 2010/10/25 19:51
(ネタバレなしです) 1997年発表のS&Mシリーズ第5作となる本格派推理小説です。トリックに関しては専門知識に頼ったところがあって感心しませんでしたが、タイトルには思わず唸りました。このシリーズは全作品、英語の副題を用意してあるのですが本書はそれが「Who Inside」だったので、日本語タイトルの駄洒落ではないかと呆れましたが読み終えてびっくり、どちらのタイトルもプロットと密接につながっていました。これはよく考え抜かれていましたね。犀川と萌絵の波乱含みの関係(笑)に謎解きが食われているようなところもありますがなかなか楽しめました。

No.178 3点 第三面の殺人- カルパナ・スワミナタン 2010/10/25 17:32
(ネタバレなしです) インドの女性作家で外科医でもあるカルパナ・スワミナタン(1956年生まれ)によるラッリシリーズの長編第1作で2006年に発表された本格派推理小説です。確かに会話重視のプロットだし正統派スタイルの犯人当て本格派推理小説ではありますが「インドのクリスティー」という宣伝にはあまり期待しない方がいいです。肝心の会話がギクシャクしてとても読みにくい上に事件が中盤まで起こらない展開なので読むのが辛かったです。第8章の躍動感ある舞踏の場面など読ませる個所もあるのですが。推理説明もあまり整理できておらず最後までよくわかりませんでした。密室の謎がわずか数ページで解けたのだけは覚えています。

No.177 6点 遠きに目ありて- 天藤真 2010/10/22 11:56
(ネタバレなしです) 1976年に雑誌発表された5作の短編をまとめて1981年に発表された短編集です。ユーモアはそれほど豊かではありませんが主人公の信一少年と彼を取り巻く人間関係描写に温かみが感じられ、どこか和やかな雰囲気が全編を覆っています。これがミステリーと相性がいいかは意見が分かれそうで、密室あり、怪現象あり、アリバイありと本格派推理小説としてのネタは充実していて結構大胆なトリックもあったりするのですがこの雰囲気がややもすると読者の謎解き意欲を微妙にそらすかもしれません。緻密な推理の「出口のない街」なんかは犯人の名前指摘は1回しかないので読み落としのないようご用心を!「完全な不在」の大胆な発想も印象的です。

No.176 7点 引き裂かれた役員室- エマ・レイサン 2010/10/20 12:49
(ネタバレなしです) 1988年発表のジョン・サッチャーシリーズ第20作となる本書はとても完成度の高い作品です(なお講談社文庫版では作者名はレイスン、サッチャーの肩書きは副頭取でなく副社長になっています)。航空会社を舞台にした企業ミステリーですが主役はあくまでも登場人物で、無味乾燥な物語にはなってません。「数字の扱いはうまいが人間の扱い方を知らない」、「どんな革命家もいつかは保守派になる」、「極論を吐くのは常にやさしいのだ」など含蓄のあるせりふが随所で飛び出しています。サッチャーの描写が控え目ですが、見るところはちゃんと見ていて名探偵の役割をしっかり果たしています。本格派推理小説としての謎解き伏線もしっかり用意してあり、まさに「ウォール街のクリスティー」と称されるにふさわしい作品です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)