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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2849件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2849 5点 恋恋蓮歩の演習- 森博嗣 2025/03/31 09:55
(ネタバレなしです) 2001年発表のVシリーズ第6作の本格派推理小説です。前半は2つのロマンス描写が中心であまりミステリーらしさを感じさせません。後半になると舞台が豪華客船に移り、ついに事件となりますが人間消失と絵画消失の謎を発見されない状態のままで長く引っ張る展開のためか微妙に捉えどころがありません。そこに多彩な人間ドラマを複雑に織り込んでいます。しかし初登場の人物はともかく、レギュラー陣(特に探偵と便利屋(謎)の二つの顔を持つ保呂草潤平)のドラマについては過去のシリーズ作品を読んでいるかいないかで読者の受ける印象が大きく変わるように感じました。ロマンスとミステリーの融合という点でよくできた作品だと思いますが、初めて読むシリーズ作品としてはお勧めできない作品です。少なくとも「黒猫の三角」(1999年)と「魔剣天翔」(2000年)は本書より先に読んだ方がいいように思います。

No.2848 4点 ハニー・ティーと沈黙の正体- ローラ・チャイルズ 2025/03/29 09:16
(ネタバレなしです) 2023年発表の「お茶と探偵」シリーズ第26作のコージー派ミステリーで、白昼堂々と大勢の参加者がいる野外のお茶会で大物政治家が殺されます。セオドシアが殺人シーンを目の当たりにして犯人に迫りながらも目撃者としては役にたっていないのはシリーズ前作の「レモン・ティーと危ない秘密の話」(2023年)と対照的です。解決場面も前作のような推理による解決でなく、これまでのシリーズ作品でも最もアクション頼りといっていいでしょう。サスペンスはありますけど本格派推理小説好きとしては減点評価です。とはいえシリーズの特色である優雅で洗練された雰囲気は失われておらず、美味しそうなお茶や料理が散りばめられています。ドレイトンの家が紹介されていますが、アンティーク家具に囲まれているのは彼のイメージに合っていますがキッチンのコンロが6口というのには驚き。アメリカでは普通なんでしょうか?

No.2847 5点 指哭- 鳥羽亮 2025/03/26 18:39
(ネタバレなしです) 本格派推理小説を3作発表していた鳥羽亮(1946年生まれ)にとって4番目のミステリー作品となる1992年発表の本書は警察小説です。個性豊かな刑事を複数配した警視庁捜査一課南平班シリーズと比べると本書は高杉順平刑事の単独の活躍が目立っています。湖上のボートで手首を切って落水自殺したと思われる女性は左手の指が4本失われており、ボートには血文字で「私の指が」と書き残されていました。その指は2年前の車同士の交通事故で失ったことがわかります。それから3年後、高杉家に死後切断の人差し指が送られ、指の持ち主の死体が川で発見されますが死体の身元はあの交通事故での車の同乗者でした。その後も交通事故関係者が殺され、切られた指が刑事の家に届くという事件が続きます。中町信が書きそうなプロット展開で、残された容疑者が少なくなって真相がかなり見え透いているようですがどんでん返しを用意しています。本格派の謎解き要素もありますが犯人がどうやって刑事の住所を知ったのかについては全く説明されておらず、ご都合主義を感じてしまいました。

No.2846 5点 弔いの鐘は暁に響く- ドロシー・ボワーズ 2025/03/26 07:17
(ネタバレなしです) 長く辛い第二次世界大戦がようやく終結し、ドロシー・ボワーズ(1902-1948)は「アバドンの水晶」(1941年)以来となる本書を1947年に発表します。翌1948年には英国推理作家のディテクション・クラブへの入会も果たしますがその矢先に肺結核で世を去ってしまいます。タイタニック号の海難事故に巻き込まれたジャック・フットレル(1875-1912)、心臓発作で倒れたE・D・ビガーズ(1884-1933)、スペイン内乱で戦死したクリストファー・セント・ジョン・スプリッグ(1907-1937)、アルコール中毒だったクレイグ・ライス(1908-1957)、ガンに冒されたケイト・ロス(1956-1988)たちと共に早すぎる死が惜しまれます。遺作となった本書ですが田舎と都会が混ざり合ったレイヴンズチャーチと周辺の村で春から初夏にかけて5件の自殺事件が起きます。6件目の事件は殺人事件で、被害者は「五人が死んだ。だが六人目も死ぬかもしれない」という匿名の手紙を受け取っていました。本当に自殺だったのかの疑問については探偵役のレイクス警部が第五章で「五件もの殺人を明白な自殺に見せかけることなど、天才でなければ無理です」と語っていて論創社版の登場人物リストには自殺者の名前が載っていないので重要でないのかと油断していると、中盤以降は彼ら(と関係者)についての捜査があって誰が誰だかわかりにくくなってしまいます。登場人物リストを補完することを勧めます。第十章で「もつれた糸を解きほどすことに多大な時間を費やすのが仕事のレイクス」と紹介されているように非常に地味に展開しますが終盤は容疑者同士が二人きりになる場面が相次いで挿入されてサスペンスが盛り上がり、劇的な(それでも抑制が効いていますが)結末を迎えます。探偵役による推理説明が不十分なのは本格派推理小説としては不満もありますが、犯人の自供書が印象的です。マザー・グースの「オレンジとレモン」の詩を引用しているところはマーサ・グライムズの「『五つの鐘と貝殻』亭の奇縁」(1987年)を連想させます。

No.2845 6点 邪魔な男- 大谷羊太郎 2025/03/13 06:36
(ネタバレなしです) 1988年発表の本書は最後は本格派推理小説ならではの推理による真相解明で着地していますが、定型にはまらないプロット構成が印象に残ります。旅行中の女性が渓谷で死体となって発見されます。警察の捜査は迷宮入りしてしまい、被害者の婚約者である男性と被害者の親友である女性が探偵コンビを組んで事件を調べます。中盤には何と唐突に殺人犯の正体が読者に対して明かされ、謎の脅迫者に悩まされていることがわかります。この脅迫者の正体も同様に読者に明かされ、探偵役の視点、殺人犯の視点、脅迫者の視点が入れ替わるという展開になります。警察が失敗した謎解きを素人ができるはずがないと微妙に消極的な主人公(婚約者)が、捜査が進み被害者の秘密を知るにつれて心情に大きな変化が生じていくところが本書の読ませどころです。

No.2844 5点 検事円を描く- E・S・ガードナー 2025/03/12 17:10
(ネタバレなしです) 1939年発表のダグラス・セルビイシリーズ第3作で、最もライヴァル的存在となるA・B・カーが初登場します。第12章でセルビイが彼を「頭の回転の早い、巧妙な、非道なほど利口な、良心のひとかけらもない弁護士」と評価していますが、随所での駆け引き合戦が本書の読ませどころになっています。2発の異なる銃弾を撃ち込まれた死体(ペリイ・メイスンシリーズの「歌うスカート」(1959年)を連想させます)、血痕を残して行方不明になった男など関連性のなかなか見えない事件に手こずりながら最後はつじつまを合わせています。地図に円を描きながら推理していますができれば地図を掲載してほしかったです。派手なアクションの末に犯人が逮捕され、告白書で真相が明らかになる終盤の演出は悪くはありませんが、本格派推理小説としては推理説明不十分になっているのは賛否両論でしょう。

No.2843 5点 雷龍楼の殺人- 新名智 2025/03/11 09:06
(ネタバレなしです) ホラー小説家として2021年にデビューした新名智(にいなさとし)(1991年生まれ)が2024年に発表した本格派推理小説です。何とプロローグに「読者への挑戦状」が置かれ、「これより油夜島で起きる連続殺人事件の犯人は、外狩詩子ただひとりである」と宣言されているのがユニークです。しかしsophiaさんのご講評で指摘されているように何を読者へ挑戦しているのかが明確でありません。エラリー・クイーンの「Xの悲劇」(1932年)のように「読者への公開状」にした方がよかったのでは。犯人視点の描写はないので倒叙本格派ではなく、それどころか詩子の登場場面も極めて少なくて微妙にとらえどころのないプロットです。並行して誘拐監禁されたヒロイン(?)と誘拐犯との不思議な謎解き議論が挿入され、2年前の四重死亡事件(殺人か事故か曖昧)の謎解きも追加されるなど話は複雑化していきます。1980年代に国内作家によって書かれた「読者への挑戦状」付きの某本格派推理小説を連想させる、好き嫌いが大きく分かれそうな仕掛けがありました。唯一人が満たしていた条件の伏線の張り方は巧妙なものがあって感心しましたが、この条件は一般知識レベルの読者では気づきにくいかと思います。締めくくりはホラー小説家らしさを発揮しています。

No.2842 5点 智天使の不思議- 二階堂黎人 2025/03/09 06:01
(ネタバレなしです) 2008年発表の水乃サトルシリーズ第8作です。このシリーズは社会人編の「軽井沢マジック」(1995年)に始まり、続いて学生編の「奇跡島の不思議」(1996年)が出版され、以降は社会人編と学生編が交替で書かれてきたのですが本書は1953年の未解決殺人事件の謎解きを1987年に学生のサトルが挑み、1996年に社会人のサトルによって真相の全てが明かされるという構成です。しかも犯人が誰かは最初から明かされるという倒叙本格派推理小説というのもシリーズ作品としては異色です。なかなかの力作で、倒叙ということである程度は読者にオープンにしつつもなお意外性を追求しています。最終章でサトルが指摘した「二度」はなかなか意表を突いたものと思います。とはいえ犯人の工夫は必要以上に手がこんでいて、隠せばいいのをわざわざ騙しに走っていて不自然さが目立つ気もします。そういうのを突っ込むのも読者の楽しみかもしれませんが。

No.2841 5点 フランチャイズ事件- ジョセフィン・テイ 2025/03/03 08:17
(ネタバレなしです) グラント警部シリーズ作品は「列のなかの男」(1929年)に始まり、かなり間を空けて「ロウソクのために1シリングを」(1936年)が発表され、そこからまた長い空白を経て1948年に出版された本書がシリーズ第3作ということになっていますがグラントは完全に脇役で個人的にはシリーズ番外編と思っています。シリーズ主人公が脇役になるケースは私もいくつかは知っていますが、人並由真さんがご講評で驚かれているように本書の待遇はかなりの異例だと思います。さて内容についてですがリリアン・デ・ラ・トーレが18世紀に実際に起こったエリザベス・キャニング事件を下敷きにして「消えたエリザベス」(1945年)を書いていますがそれに刺激を受けて本書は書かれたのかもしれません。トーレ作品は研究レポート風で小説としての面白さはほとんどありませんが、本書はしっかりした小説です。告発が真実なのか嘘なのかの図式は西村京太郎の「寝台特急あかつき殺人事件」(1983年)や草野唯雄の「紀ノ国殺人迷路」(1995年)を連想させ、犯人当て本格派推理小説としては楽しめません。噓のはずなのに正確過ぎる証言をどうやって捏造したのかの謎解きですが、怪作レベルのトリックが使われていて思わず笑ってしまいました。

No.2840 5点 フローテ公園の殺人- F・W・クロフツ 2025/02/27 00:52
(ネタバレなしです) 冒険スリラーの「製材所の秘密」(1922年)に次いで書かれた、1923年発表の第4作となる本書は本格派推理小説に戻りました。二部構成となっていて舞台が前半は南アフリカ、後半はスコットランドとなっているのが特徴です。フローテ公園(Groote Park)は架空の公園のようですが英語読みのグルートでなくオランダ語読みのフローテにしている翻訳は正しいと思います。南アフリカ編でのファンダム警部による捜査では解決に至らず、謎解きがスコットランドのロス警部へとリレーされます。鮎川哲也の鬼貫警部シリーズのいくつかの作品では前半を鬼貫以外の刑事たち、後半を鬼貫による捜査と推理というパターンが見られますが本書はそのプロトタイプと言えるかもしれません。私の読んだ創元推理文庫版の粗筋紹介で「両警部の活躍」と記述されていますが、19章の最後で明かされた意外な秘密に関してはどちらの手柄でもない気がします。巻末解説では「樽」(1920年)に比べれば作品価値は劣ると思われると随分な評価ですが(笑)、この秘密のおかげで読者へ与える衝撃という点では勝っていると思いますし、地味で時に退屈という点では互角ながら「樽」よりページ数が少ないのも好ましかったです。

No.2839 6点 康子は推理する- 藤沢桓夫 2025/02/19 04:43
(ネタバレなしです) 藤沢桓夫(ふじさわたけお)(1904-1989)は200冊近い著作を残し、いくつかの作品は映画化もされたほど人気のあった大衆作家です。医学生の滝口康子を探偵役にした本格派推理小説の短編を8作書いており、「そんな筈がない」(1957年)と「青髭殺人事件」(1959年)の2つの短編集で全作を読むことができます。私が読んだのは全8作を1冊にまとめた東京文藝社版の「康子は推理する」(1960年)で、先行出版の2つの短編集を読んでいる読者は本書を読む必要はありません。康子はデビュー作品となる「そんな筈がない」では百貨店の屋上庭園から投身自殺したと思われる事件で自ら積極的に警察の捜査に協力していますがこれはむしろ例外で、犯罪に関わるのも名探偵扱いされるのも遠慮するキャラクターとして描かれています。大衆作家らしく読みやすさは抜群で、謎もそれほど複雑なものではありませんがその中では「爆竹殺人事件」が密室殺人を扱い、謎解きのスリルにあふれていて印象に残りました。

No.2838 5点 公爵さま、これは罠です- リン・メッシーナ 2025/02/16 21:31
(ネタバレなしです) 2019年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第5作の本書は結婚式の延期話で幕開けするコージー派ミステリーです。延期の理由は「公爵さま、前代未聞です」(2019年)の事件と関りがあることが説明されるのですが犯人名をネタバレしており、これを回避する工夫はできなかったのだろうかと思わずにはいられませんでした。さて今回のベアトリスの謎解きは秘密の場所に隠されたダイヤモンド探しです。あまり面白そうな謎解きには思えませんでしたが、予想の斜め上の展開にびっくりしました。後半は普通に殺人事件の謎解きになりケスグレイブ公爵とのコンビ探偵ぶりも好調ですが、推理は思いつきが当たった程度の説得力しかなく解決部分は物足りません。前半のダイヤモンド探しの方が印象に残る作品です。

No.2837 5点 花の罠- 本岡類 2025/02/07 22:34
(ネタバレなしです) 1997年発表の水無瀬翔シリーズ第2作の本格派推理小説です。「大和路・萩の寺に消えた女」のサブタイトルが付いており、個人的にはこちらの方が作品内容に合っているように思います。奈良で女流将棋名人が誘拐され、身代金の運び役に水無瀬が任命されますがまんまと身代金を奪われてしまいます。殺人事件にまで発展しますが容疑者は早々と絞り込まれ、アリバイ崩しの謎解きになります。古都と「ここ二、三年で人々の生活を大きく変えてしまった"最新の道具”」を合体させ、「前代未聞のトリックを用意してあります」と作者は自画自賛していますが、この種のトリックは技術の進歩と共に古びてしまうリスクがあります。本書のようにトリック依存度が高いと現代読者へのお勧めは難しくなってしまいます。

No.2836 5点 ゴア大佐第二の事件- リン・ブロック 2025/02/06 17:08
(ネタバレなしです) 1925年発表のゴア大佐シリーズ第2作の本格派推理小説です。本格派といっても読者が犯人当てに挑戦できるような作品ではなく、探偵役のゴアの捜査と推理を後追いするプロットは弾十六さんのご講評で指摘されているようにクロフツに通じるところがあるように感じました。血痕、銃声、失踪者、2年前の殺人事件の犯人かもしれない謎の人物など早い段階から手掛かりが色々と提示されているのですが、事件性がはっきりしない状況が続くので謎として捉えどころがなくて読みにくいです。ゴアが死体を発見してからようやくミステリーらしくなりますが、ゴアが名探偵として十分に活躍したかというと微妙ですね(そこもクロフツの某作品が頭をよぎりました)。あまりにも複雑な真相のためか最終章で事件の全貌を整理してくれていますが、これはA・E・W・メースンのアノーシリーズの影響があるかもしれません。

No.2835 5点 毒草師 七夕の雨闇- 高田崇史 2025/02/02 23:49
(ネタバレなしです) 2015年発表の毒草師・御名形史紋シリーズ第4作の本格派推理小説です。京都で起きた怪死事件の鍵を握ると目される関係者が次々と死んでいく展開はなかなかサスペンスに富んでいます。しかし御名形が事件に関わると物語のリズムは重くなり、七夕に関する知識を延々と聞かされる人たちがいらいらする場面が繰り返されます。ここを我慢できるかで読者評価が分かれそうです。警察の鑑識でも正体のわからない毒の謎解きは珍しければ何でもあり的な真相であまり感心できませんし、動機に関わる悲劇的な運命が何度もあったという設定も信じがたいです。

No.2834 6点 シャンパンは死の香り- レックス・スタウト 2025/01/31 12:38
(ネタバレなしです) 1958年発表のネロ・ウルフシリーズ第21作の本格派推理小説です。4人のシングルマザー(作中表記は未婚の母)と4人の男性を招いての夕食会にアーチー・グッドウインが代理参加することになりますが、毒薬を持参している女性がいると聞かされてその女性を注目しているとシャンパンを飲んで死んでしまいます。しかし被害者が毒をシャンパンに投入していないというアーチーの目撃証言しか殺人の証拠がなく、警察は(終盤まで)自殺と判断しています。彼女を狙ってグラスに毒を仕込む方法がわからないというトリックの謎解きがこの作者としては珍しいです。一方でシングルマザーの子供や子供の父親についてほとんど言及されないプロットなのは意外でした。推理説明が後出し気味ではありますがこの作者としてはしっかりした謎解きだと思います。論創社版の巻末解説ではスタウトの作風と欧米と日本での人気の格差について丁寧に紹介しており、確かにガチ本格派が大好きな私はこの作者のよき読者とは言えないなと再認識しました。余談ですが後半での登場とはいえ、被害者の母親は登場人物リストに載せた方がよかったように思います。

No.2833 6点 ミステリーしか読みません- イアン・ファーガソン&ウィル・ファーガソン 2025/01/29 16:50
(ネタバレなしです) カナダのイアン・ファーガソンとウィル・ファーガソンは兄弟作家でそれぞれが単独で文学賞を受賞しているほどの実力者ですが、共作で2023年に発表したミステリー作品が本書です。主人公はかつては主演作品が大ヒットしたものの現在は仕事にありつくのも苦労している女優のミランダ・アボットです。大女優気分が抜けておらず、時には人と対立していますが恨みを抱くタイプではないようでそれなりには社交性もあるようです。ハーパーBOOKS版で500ページ近い分量があり、犯罪もなかなか起きませんが個性的な登場人物を揃えた劇場ミステリーとして十分に楽しめました。コージー派ミステリーに分類されますが、本格派推理小説としての手掛かりと推理にもしっかり配慮されており、ミスリーディングの巧妙な謎解きだと思います。

No.2832 5点 思いがけないアンコール- 斎藤肇 2025/01/21 12:21
(ネタバレなしです) 1989年発表の思い三部作の第2作です。「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説ですが、探偵役が気づいた不自然なことは何かという「読者への宿題」が早い段階から挿入されているのが本書の特徴です(似たような事例ではドロシー・L・セイヤーズの「五匹の赤い鰊」(1931年)やパトリック・クェンティンの「死を招く航海」(1933年)がありますね)。探偵役が謎解きを途中で放棄して帰ってしまったり、市川哲也の「名探偵の証明」(2013年)や阿津川辰海の「紅蓮館の殺人」(2019年)に先駆けて名探偵の役割と意義を語らせているなど作品個性もあります。もっともいくらフィクション小説の世界とはいえ、犯行を未然に防げないのは名探偵の責任ではないというコメントは暴論の気もしますが(笑)。肩の力を抜いたような文章は読みやすいものの読者の好き嫌いは分かれそうです。真相も結構ひねっており、マニア読者向けの作品かなと思います。

No.2831 5点 百人一首一千年の冥宮- 湯川薫 2025/01/18 01:09
(ネタバレなしです) 2002年発表の湯川幸四郎シリーズ第5作の本格派推理小説です。タイトルが高田崇史のQEDシリーズみたいだなと思っていたら新潮ミステリー倶楽部版の参考文献一覧の中に「QED 百人一首の呪」(1998年)と「QED 六歌仙の暗号」(1999年)があったのには思わず笑ってしまいました。三部構成の物語ですが第一部は1992年から1993年にかけてのニューヨークが舞台だったのに意表を突かれます。指を失って絶望したピアニスト(語り手)が主人公で、一目ニューヨークを見てから自殺しようとしますがそこで運命の女性に出会い、第二の人生を始めます。やがて血文字で百人一首の俳句が書かれたタロットカードが次々に送られるようになり、ついには密室での二重銃殺事件が発生します。第二部からは現代(2002年)の日本に舞台が移って湯川幸四郎や教え子たちが登場して謎解きしていきます。語り手もワトソン役の公文洋介に交代します。百人一首や五家荘伝説といった日本の文学歴史の知識に加えて作者得意の理系ネタも用意されており、何と科学による魔術に挑戦です(幽体離脱トリックが印象的)。私には難解な作品でしたが、トリックは異なりますけど柄刀一の「fの魔弾」(2004年)を連想しました(本書の方が先に書かれています)。意外だったのは湯川幸四郎の活躍は控えめで、事件解決したのは教え子の冷泉恭介でした。

No.2830 6点 狂ったシナリオ- レオ・ブルース 2025/01/15 23:34
(ネタバレなしです) 1961年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第10作の本格派推理小説です。ダイイング・メッセージというと殺された被害者が死に際に語る(或いは書き残す)というのが通常ですが、本書の場合は自殺した(らしい)人物が録音で残したというのが非常に珍しいです。しかもそのメッセージの中で誰かを殺したことを語っているのです。同じ作者のビーフ巡査部長シリーズの「死体のない事件」(1937年)を連想させる設定ですがあちらのような被害者探しがメインのプロット展開にはならず、自殺(らしい)事件の状況調査にページの多くを費やしています。登場人物が20人以上もいるので雑然とした感があるところは「怒れる老婦人」(1960年)と共通していますが、第19章の最後でのキャロラスのせりふはインパクト大です。某英国女性作家の1980年代の本格派作品を彷彿させるどんでん返しの真相説明も非常に印象的です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2849件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)