海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2895件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2895 6点 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 2025/10/16 04:27
(ネタバレなしです) 「天井のトランプ」(1980年)から「魔術城落成」(2000年)までの実に20年間に渡って書かれた曾我佳城(そがかじょう)シリーズの全22作の全集です。単品で読んでもそれなりに楽しめますが連作短編集としての趣向があるので、文庫版で1000ページに達しますけど全集版でまとめて読むことを勧めます。佳城は若くして引退した伝説の女性奇術師(舞台での活躍期間は2年足らずのようです)という設定で自身が奇術を披露する場面は意外と少なく、トリック以外の謎解きを重視した作品もあるなど多彩な本格派推理小説を楽しめます。個人的に面白かったのは奇術に対する間違った考えを指摘する「シンブルの味」(1980年)、テレビ番組の中での会話だけで進行する「白いハンカチーフ」(1981年)、トリックよりも動機が印象的な「剣の舞」(1984年)です。不思議な盗難事件が意外な犯罪につながる「ビルチューブ」(1982年)、舞台奇術が印象的な「虚像実像」(1985年)、手掛かりが印象的な「ミダス王の奇跡」(1990年)もなかなかの出来栄えです。シリーズ最終作となった「魔術城の落成」は賛否両論でしょう。壮大な舞台に比べて事件の真相が小ぢんまりした印象の作品で、個人的には最後の事件としてはやや期待外れです。

No.2894 5点 公爵さま、執事には負けません- リン・メッシーナ 2025/10/11 01:21
(ネタバレなしです) 2020年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第6作のコージー派の本格派推理小説で(作者はヒストリカル・コージーと説明しています)、コージブックス版で500ページを越す大作です。ベアトリスがシリーズ6作目にして早くも(?)行き遅れ令嬢を卒業しました。内気な性格が災いしていたという設定はシリーズ第2作の「公爵さま、いい質問です」(2008年)以降はやや鳴りを潜めていましたが、社会的立場が大きく変化した本書では再び内気な性格が顔を出しています。もっとも探偵能力を疑問視されては黙っていられないとばかりにまたまた殺人事件の謎解きに乗り出すのですけど。疑われまいと他の容疑者を犯人だと告発する容疑者たちの事情聴取場面はなかなか面白かったです。推理が暴走気味ではらはらさせますが、最後は謎解き伏線を巧妙に回収しての解決です。それにしても作品名こそ書いてはいませんが過去作品の犯人を何回もネタバレするのは(本書が初めてではありませんが)やはり感心できません。

No.2893 5点 亡者は囁く- 吉田恭教 2025/10/11 00:45
(ネタバレなしです) 2016年発表の槇野康平&東條有紀シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ第1作の「可視える(改題「凶眼の魔女」)」(2015年)と比べると全体的におとなしくなったような印象を受けました。槇野と東條の関係は非常に協力的になっているし、猟奇的事件を扱っていてもグロテスク描写は控えめです。オカルト要素も終盤にちょっとあるだけです。謎解きとしては犯人当ては捜査を後追いしていくうちに段々と判明して読者が推理する余地はあまりありません。人間関係が複雑に過ぎるように思います。突然踊りだして焼死するという不思議な謎が印象的でしたが、あんな複雑な仕掛けでそんなに上手く成立するのだろうかと疑問に感じました。

No.2892 5点 殺しのコスト- マーシャル・ジェボンズ 2025/10/06 15:54
(ネタバレなしです) マーシャル・ジェボンズは2人の米国人経済学者ウイリアム・ブレイト(1933-2011)とケネス・エルジンガ(生年不詳)の合同ペンネームで、マーシャルもジェボンズも実在した経済学者の名前を採ったものです。ハーバード大学の経済学部教授のヘンリー・スピアマンを探偵役にした本格派推理小説を全4作(最後の1作はブレイトの死後の2014年出版)発表しました。本書は1973年発表のシリーズ第1作です。スピアマン教授夫妻が休暇でヴァージン諸島のセント・ジョン島を訪れて事件に巻きこまれるという設定で、意外にも風景や衣装の描写に力を入れていてトラベル・ミステリー要素も濃厚です。とはいえスピアマン教授は人当たりはよさそうですが人々の「市場行動」を観察して楽しんだり、10章では愛を「相互依存的な効用関数」と定義づけしたりと学者意識の強さを隠せず、個人的にはちょっと離れていたいです(笑)。7章では早くもビンセント警部に「誰が犯人かを経済学理論を基に確信している」と宣言しています。本気にとらなかったのかビンセント警部はその場は犯人が誰かを聞いてくれませんが、後の推理説明場面で確かに謎解き伏線が既にあったことがわかります。経済用語が乱発されてはいますができるだけ読者に理解できるようにかなり気配りしており、それでも私には難解でしたけど経済学を推理に応用して謎解きする本格派としてユニークな作品です。なおハーベスト社版の巻末には「解説に代えて」と経済学者の長尾史郎(1941年生まれ)によるパスティーシュ短編が付いています。本書の事件の最中に「市当局が魚の売買を禁止して魚が買えなくて困っている」とスピアマン教授が相談を受けるという内容で、経済学的に分析していますが問題解決には乗り出さない(出せない)ところが学者らしい(失礼!)です(笑)。

No.2891 5点 人形島の殺人- 萩原麻里 2025/10/06 15:05
(ネタバレなしです) 2023年発表の呪殺島秘録シリーズ第3作の伝奇本格派推理小説です。主人公コンビの三嶋古陶里が謎めいた手紙を残して失踪し、語り手の秋津真白が彼女が向かったであろう呪殺島の壱六八(いろは)島へと乗り込むというプロットで、過去2作では第三者的な立場だったのに対して本書ではかなり事件の中心にいます。シリーズの設定として両者は児童養護施設で育った幼馴染で、自分の出自については明らかにされていませんでしたが本書ではそこに脚光を当ててシリーズの締め括りを意識したようなところがあります。人並由真さんのご講評で指摘されているように、エキセントリックな島の有力者一族を配置しているところは現代版横溝正史といった感もあります。推理による謎解きもありますが自白に頼ったところも多いところは本格派としては弱く、解決も強引です。前作の「巫女島の殺人」(2021年)はホラー要素が強く感じられましたが、本書はサイコスリラーの要素が強いように思います。

No.2890 6点 人盗り合戦- レックス・スタウト 2025/10/02 18:26
(ネタバレなしです) 1952年発表のネロ・ウルフシリーズ第15作の本格派推理小説です。英語原題は「Prisoner's Base」で、論創社版の巻末解説によると鬼ごっこタイプのゲームのことのようです。何とウルフの助手であるアーチー・グッドウインが依頼人になります。中編「死にそこねた死体」(1942年)(国内では「ネロ・ウルフの事件簿 アーチー・グッドウィン少佐編」(論創社版)で読めます)という前例はありますが、本書の依頼経緯は全く異なります。前半はやや地味ですが第10章で容疑者全員がウルフの事務所に集まってから最終章までは、これまで私が読んだシリーズ作品では最も劇的な展開だと思います(といっても私はシリーズ作品を半分少々程度しか読んでいないのですけど)。謎解き推理としては粗くて性急に解決したように思いますが、普段はひょうひょうとした感のアーチーにとって悔恨の事件であったことがよく伝わってくる物語として印象に残ります。どちらかというと対立的関係の警察にまでアーチーが協力を仰いでいるのもシリーズとしては異色ですがそれも納得でした。

No.2889 5点 天狗屋敷の殺人- 大神晃 2025/09/30 20:19
(ネタバレなしです) 大神晃(おおがみこう)(1994年生まれ)のデビュー作となる本格派推理小説で、某ミステリー賞の応募作を改訂して2024年に出版されました。なんでも屋店主の樋山忍とそのアルバイトの古賀鳴海を探偵コンビにしています(両名とも男性)。新潮文庫版の裏表紙で「横溝正史へのオマージュに満ちたミステリの怪作」と紹介されており、なるほど真相には横溝作品を連想させるような要素があります。トリックについては確実性に難ありかなと思いましたが、その欠点にもきちんと理由づけされていました。もっとも怪作と言うほどの異様さは感じられず、普通の本格派だと思います。語り手である古賀鳴海が女性にもてまくるという設定はもて経験のない私からすると全く共感できないキャラクターで(笑)、エピローグで樋山が「お前やっぱ最低だな!」と吐き捨てたのには大いに賛同です(爆)。なお最後は「七人ミサキ連続殺人事件」の予告編のように締め括られていますが、次作の「蜘蛛屋敷の殺人」(2025年)で扱われたのはこの事件ではありませんでした。

No.2888 8点 マーブル館殺人事件- アンソニー・ホロヴィッツ 2025/09/21 19:31
(ネタバレなしです) 2025年発表のスーザン・ライランドシリーズ第3作の本格派推理小説で創元推理文庫版が上下巻合せて750ページを越す大作です。「カササギ殺人事件」(2016年)のネタバレがあることが冒頭で告げられていますが(犯人名も明かしています)、そのネタバレが本書のプロットの中で大変重大な役割を果たしています。「カササギ殺人事件」を未読のままで本書を読むことも可能ですけど、ぜひとも先に読むことを勧めます。過去の2作ではアラン・コンウェイによる名探偵アティカス・ピュントシリーズの作品を作中作として挿入し、作中作の謎解きと現実世界の謎解きの2段構えを楽しめました。本書では別の作家がこのシリーズ続編を書くことになっており、まだ執筆中の作品原稿をフリーランス編集者のスーザンがチェックしていくという趣向がとても斬新です。果たして新作は無事完成できるのかという興味を絡ませつつ、作中作の謎解きと現実世界の謎解きも充実の内容です。巻末解説によると元々は「カササギ殺人事件」のみでシリーズ化は考えていなかったのを周囲の説得でさらに「ヨルガオ殺人事件」(2020年)と本書が追加で執筆されて三部作として完成されたはずなのですが、何とさらにシリーズ第4作も準備中とか。本書の締めくくりでスーザンがアティカス・ピュントとは手を切ると宣言してますが果たしてどうなるのか、わくわくが止まりません。

No.2887 6点 電報予告殺人事件- 岡本好貴 2025/09/14 02:35
(ネタバレなしです) 2025年に発表された、英国を舞台にした歴史本格派推理小説です。作中年代については明記されていませんが、第3章で登場人物が南北戦争が終結してから7年と回想しているので1872年頃と思われます。主人公を女性電信士にして謎解きありロマンスあり冒険ありと、どこかアガサ・クリスティーを連想させるような展開を楽しめました。当時の通信技術をプロットに活かしたのもユニークで、作者がよく研究していることが伺われます。興奮すると指や食器でモールス信号を叩く主人公がなかなか魅力的です。非常に丁寧に解説してはいますが使われたトリックに専門的知識が必要でちょっと難解なものがあるのが玉に瑕でしょうか。

No.2886 5点 私立探偵マニー・ムーン- リチャード・デミング 2025/09/11 17:19
(ネタバレなしです) 本書の新潮文庫版の巻末解説で詳細が紹介されている通り、リチャード・デミング(1915-1983)はアメリカン・ミステリ界のオールラウンド・プレーヤー。幅広いジャンルの作品を手掛け、SF作品にノンフィクション、児童向け作品に映像作品の小説版までも書いており、ゴーストライターとしても活躍しています。私立探偵マニー・ムーンシリーズは長編4作と中短編19作が残されています。ハードボイルドではありますが本格派推理小説の謎解きも楽しめると紹介されていたので、日本独自編集で第1作の「ファレスのナイフ」(1948年)から出版順に第7作の「支払いなくば死あるのみ」(1951年)まで収めた中編集の本書を読んでみました。短い作品でも80ページ以上、最長作品は150ページを越えています。ムーンは典型的なハードボイルドのタフガイ探偵で、片脚が義足ですが肉弾戦も銃撃戦もこなしており、本書で扱われている事件も暗黒街絡みが多いです。ハードボイルドならではの荒々しさもありますが描写は結構丁寧で重厚感もあります。私は本格派好きで謎解き推理を重視しているので「ファレスのナイフ」、「死人にポケットは要らない」(1949年)、「大物は若くして死す」(1949年)、「支払いなくば死あるのみ」が個人的には楽しめました。「ラスト・ショット」(1948年)は真相には不満もありますが麻薬中毒者の更生をサポートするムーンの奮闘ぶりが印象的です。

No.2885 6点 昨日の殺人- 太田忠司 2025/09/05 05:16
(ネタバレなしです) 1991年発表の殺人三部作の第3作となる本格派推理小説です。同年には狩野俊介シリーズや霞田兄妹シリーズが開始されてこの作者のミステリー作家活動は本格的になりますが、主人公が全部異なるためか目立ちにくいですけどこの殺人三部作もなかなかいい出来栄えだと思います。本書の主人公は父親を自動車事故で亡くした西田健一で(事故当時18歳)、自殺をほのめかすような手紙を受け取ったことから自殺の理由、またなぜ同乗していた伯母といとこを巻き添えにしたのかを調べるために父の出自である大塚家へ乗り込みます。「美奈の殺人」(1990年)に比べて本格派としての推理が充実しており、死体が消えて再出現したという謎も提示されますが人間ドラマを描くことにも注力しています。若干ではありますが青春小説としても進歩しています。個人的には三部作で1番気に入っています。ただ事件解決後に起こった(最後の)悲劇で、(例えるなら)自分の子供の身代わりに他人の子供を犠牲にするかのような行動を正当化しているのは納得できませんでした。

No.2884 5点 沈黙- アン・クリーヴス 2025/09/05 04:51
(ネタバレなしです) 2021年発表のマシュー・ヴェンシリーズ第2作の本格派推理小説です。ちなみに英語原題は「The Heron's Cry」で、どうしてこれを「沈黙」という日本語タイトルにしたのかはわかりません。ホームパーティーに参加したジェン・ラファティ部長刑事はそこで出会った男性から相談したいことがあると頼まれますが、彼は翌日殺されます。被害者は患者の立場で病院を調査する組織に所属しており、ある自殺事件について調べていたことがわかります。ハヤカワミステリ文庫版で550ページを越す厚さがあり、被害者の生前の足取り追跡と関係者の事情聴取を丹念に描いていますが39章でマシューが「進行している物事も、つながりも、動機も多すぎる」と愚痴っているように捜査の停滞感を長々と引きずる展開が重苦しいです。終盤は劇的に盛り上がりますけど。犯人の秘められた悪意が明らかになる逮捕後の事情聴取場面が印象的です。

No.2883 5点 思いあがりのエピローグ- 斎藤肇 2025/08/27 22:53
(ネタバレなしです) 1989年発表の思い三部作の第3作の本格派推理小説です。冒頭にエピローグAを配置し、巻末にエピローグBとエピローグCが配置されています。さらに作者あとがきが「あとがき(そのまえがき)」「他人の書いた小説」「あとがき(そのあとがき)」の三部構成されているという凝りようです。冒頭のエピローグAは別に後日談でもなく、普通にプロローグだとは思いますが内容は普通どころか実に衝撃的です。その後は連続殺人の謎解きになりますが謎解きの出来栄えよりも「名探偵を困らせる三つの方法」とか「悪の栄える三つの条件」とか「名探偵を維持するための条件」とか本格派推理小説を揶揄するような議論の方が印象に残ります。作者がまじめに書いたのかふざけて書いたのかわかりませんが、「犯人を納得させられない推理」「往生際の悪い犯人」「なしくずしの結末」と探偵役に自虐させて謎解きは締め括られます。ユニークな作品とは思いますが好き嫌いも大きく分かれそうな作品です。本書を読む場合には先に「思い通りにエンドマーク」(1988年)と「思いがけないアンコール」(1989年)を読了しておくことを勧めます。

No.2882 5点 死を望まれた男- ルース・レンデル 2025/08/27 20:29
(ネタバレなしです) 1969年発表のウェクスフォードシリーズ第4作の本格派推理小説です。英語原題は「The Best Man to Die」で、ベスト・マンについてはアガサ・クリスティーの「ヒッコリー・ロードの殺人」(1955年)でも説明されていますが結婚式の新郎の付き添い役を意味しています。電気工のジャックの結婚式でベスト・マンとなる予定だったトラック運転手のチャ-リーが殺されます。金回りのいいチャーリーの稼ぎに注目したウェクスフォード首席警部の捜査に対してジャックたちが労働者が金を持っていて何が悪いと反発したのには驚きました。英国の格差社会の一端を見せられたような気分になります(ウェクスフォードは中産階級側なんでしょうね)。今回のウェクスフォードは自分の所有物でない犬の散歩、担当外の交通事故の捜査、さらに終盤での思わぬトラブルと色々なことに巻き込まれています。事件の背後関係が複雑過ぎてやや読みにくい謎解きでしたが、現場実験しても真相に気づけなかったバーデンたちと実験に参加しないで気づいていたウェクスフォードとの対比が鮮やかです。

No.2881 6点 未亡記事- 佐野洋 2025/08/23 19:55
(ネタバレなしです) 「新聞社殺人事件」のサブタイトルを持つ1961年発表の本格派推理小説で、この作者らしく派手な展開はありませんが第9章以降の謎解き推理はなかなか力が入っています。新聞社の政治部長が急死したと家族から電話連絡が入ります。ところがその後の確認で家族はそんな連絡はしていないことがわかります。単なるいたずらかと思いきや、政治部長は線路で轢死体となって発見されます。遺体は頭部が頭蓋骨を粉砕され、手も潰されて指紋を確認できない状態でした。そして事件前に政治部長と会っていた男が失踪していることもわかります。主人公の新聞記者が探偵役ですが、社内の人間関係のもつれもあって「誰が犯人であってもいい」と何度も投げやり気味になるのが印象的です。幕切れも鮮やかです。

No.2880 4点 マギル卿最後の旅- F・W・クロフツ 2025/08/23 01:30
(ネタバレなしです) 1930年発表のフレンチシリーズ第6作の本格派推理小説です。北アイルランドで財を成したジョン・マギル卿は事業を息子のマルコムに譲ってロンドンに隠遁します。そのマギル卿から7年ぶりにベルファーストへ行くとマルコムへ連絡がありますがその後行方不明になってしまい、安否が気遣われます。警察が足取りを追跡するとマギル卿は鉄道、船、そして何と最後は徒歩で移動していたらしいことがわかります。事件はやがて殺人事件に発展し、フレンチが何度もイングランドと北アイルランドを往復しますのでこちらも冒頭の地図を何度も確認しました。某英国作家の1920年代の本格派に使われたトリックをもっと複雑にしたようなトリックが使われています。上手く扱えばミスリーディングとして効果的だったと思いますがクロフツらしく捜査描写が細か過ぎて謎解きのサスペンスは皆無に近く、自分で真相を当てようとする気にはなれません。真相が複雑過ぎるのも両刃の剣で、個人的には面白くない謎解きでした。

No.2879 3点 緑一色は殺しのサイン- 藤村正太 2025/08/21 19:16
(ネタバレなしです) 藤村正太(1924-1977)の亡くなった1977年に発表された「麻雀推理」の第4短編集です。7作が収められていますが、不動産会社勤務ながら情報集めでジャン荘に出入りする内にそちらの稼ぎの方が多くなった江守史郎が全作品の主人公です。どの作品でも女性雀士との対決が描かれており、エロ場面も豊富です。「伊豆路に散った嵌三索」は毒殺(未遂)事件があって本書で唯一一般的な謎解きをしていますが、それ以外は麻雀のいかさまトリックの謎解きに終始していて麻雀を理解していない読者だと全く楽しめません。「緑一色は殺しのサイン」も殺人はあるものの麻雀勝負の後日談的に発生しているだけの単なる添え物でした。

No.2878 6点 五人目のブルネット- E・S・ガードナー 2025/08/21 18:44
(ネタバレなしです) 1946年発表のペリー・メイスンシリーズ第28作の本格派推理小説です。ビジネス街と住宅街の間に伸びているアダムス街で車を走らせているメイスンは街角ごとに一様に黒っぽい服を着て首に毛皮を巻いているブルネットの女性たちが人待ち顔で立っているのに気づきます。夜の女の客引きではありませんよ(笑)。メイスンが尋ねると「冒険的な仕事」の求人広告に応募したと説明されます。陰謀の匂いがしますが全貌が明らかにならない内に殺人が発生します。めったに法廷に顔を出さないが地方検事局きっての切れ者と評価されるハリイ・ガリングがメイスンの敵役となります。求人広告の謎解きと殺人事件の謎解きが複雑に絡み合い、被告の危機だけでなくメイスンも事後従犯で告発されかねないという充実のプロットです。陪審長がメイスンを信頼していたのには随分と助けられましたね。

No.2877 5点 大聖堂の殺人 ~The Books~- 周木律 2025/08/18 09:33
(ネタバレなしです) 2019年発表の堂シリーズ第7作の本格派推理小説です。シリーズ最終作として書かれたためか講談社文庫版で600ページ近い大作です。北海道沖の本ヶ島で四重殺人事件が発生します。ある容疑者が自分が犯人だと自供し、人証と物証いずれも犯行状況と一致していて逮捕されます。しかし容疑者が鉄壁のアリバイを持っていることが発覚して無罪放免となります。そして事件発生から24年の歳月が流れた2002年、本ヶ島で再び惨劇が繰り返されるプロットです。このシリーズは数学に関する知識が散りばめられており、本書でも容疑者・被害者に数学者が揃っていますが数学的というより哲学的な印象を受けました。アリバイ崩しと殺害方法に関するトリックの謎解きを重視しています。トリックはとてつもなく大掛かりで、私の乏しい想像力では手に負えません。謎解きが一段落した後に冒険小説風な展開になるのが意外でした。makomakoさんのご講評で指摘されているように、犯行に使われたトリックを応用すればあの危機からの脱出はもっと容易だったのではと思いました。最終作としての演出は読者の好き嫌いが分かれそうで、個人的にはある人物の扱いに不満があります。

No.2876 6点 ミセス・ワンのティーハウスと謎の死体- ジェス・Q・スタント 2025/08/17 23:23
(ネタバレなしです) インドネシアの女性作家ジェス・Q・スタントが2023年に発表したコージー派の本格派推理小説で、舞台はサンフランシスコのチャイナタウンです。英語原題は「Vera Wong's Unsolicited Advice For Murderers」でこちらの方がハヤカワ文庫版の日本語タイトルよりも内容にふさわしいと思います。主人公のヴェラ・ワンが営むティーハウスで死体が発見され、警察の捜査に不満のヴェラがアマチュア探偵として殺人犯探しに乗り出します。ヴェラの推理と捜査はかなり強引で、容疑者たちを一堂に集めて「あなたたちのだれがマーシャル(被害者)を殺したの?」とずけずけと問い詰める始末です。ところが世話好きな(おせっかいでもある)彼女の性格はいつの間にか容疑者たちと良好な関係を築き上げていき、容疑者たちも読者が同情しやすいキャラクターとして丁寧に描かれていて、どのように解決するのかと読者をやきもきさせます。楽しさと哀しさを巧みにブレンドした物語はどこかクレイグ・ライスを彷彿させます。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2895件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(83)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(33)
レックス・スタウト(28)
A・A・フェア(28)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)