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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1505件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.31 4点 引き潮の魔女- ジョン・ディクスン・カー 2015/07/24 23:53
歴史ミステリと言っても、これくらい新しい時代(1907年)になると、それらしい雰囲気はほとんど感じられません。カー自身が生まれた直後の時代設定ですからね。タイトルからも窺える足跡トリックがメインです。その前に地下室からの人間消失の謎もありますが、こっちはがっかりな真相でした。その地下室の方に対する、不可能に見せかける理由の欠如という問題点は、足跡トリックの方にもある程度当てはまります。
不満点は他にもあります。登場人物たちが好き勝手なことを言い合って話がうまく噛み合わず、それでわけがわからなくなっているようなところがあるのです。3人のうち誰が名探偵役なのかはっきりさせない構成も成功していると思えません。また最後の推理は、その人物に殺人動機があったことの論理的な指摘にとどまっていて、犯人であることを示す明確な手がかりが不足しています。犯人の設定自体はいいと思うのですが。

No.30 6点 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー 2015/04/12 14:14
密室トリックの説明に不備があることがよく話題にされる作品です。翻訳の問題なのか、原文も間違っているのか、議論もあるようです。
しかし個人的には、ずいぶん以前に読んだ時にそのことには全く気づかず、すんなり納得できてしまっていました。原理がシンプルで、実行手順も明確なため、細かい用語の使い方は気にならなかったのでしょう。今回読み返してみると、説明自体には1ヶ所問題点があるのですが、実際の事件の設定ではその見方に対する対処ができています。
そんなわけで密室は覚えやすいトリックなのですが、それ以外は記憶に残っていませんでした。しかし再読で、フーダニットとしては他の方々も書かれているように、かなりのものだと再認識しました。体育館での理由不明な「いたずら」やある人物が何を見たのかの謎にもうまく説明をつけていますし、人物関係的な意味での犯人の設定も意外性を生み出していると思います。

No.29 5点 剣の八- ジョン・ディクスン・カー 2014/11/30 14:12
カーを原書で初めて読みました。結果感じたのは、文章表現が凝りすぎているということ。「馬から落馬」的な不要な形容が多く、また、「家庭的シーンが進行中であった(was in progress)」(第9章)とか、「彼女は…肖像画に指を突き刺した(stabbed a finger)」(第11章)とか、原文に忠実に翻訳すれば、批判をあびそうな言い回しも見受けられます。さらに英和辞書に「格式語」なる註が附される単語が高頻度にて使用され…といったわけで、かなりうんざりさせられました。
内容的には、皆さんのご指摘どおり、探偵役(もどき)が多すぎるとは思いますが、それほど悪いとは思いませんでした。個人的にはカーを必ずしも不可能犯罪だけの作家とは思わない(『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』等も不可能性を前面には出していません)ので、謎の訪問者の正体や犯人指摘の根拠には、普通に感心しました。ただし、タロット・カードを犯人があえて残した理由が不明なのはいただけません。

No.28 6点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2014/08/03 15:16
フェル博士初登場の本作は、カーにとって一つの節目となる作品だと思われます。といっても直前の『毒のたわむれ』は読んでいないのですが。
初期バンコランものでは衝撃的な現象がこけおどしに過ぎず、トリックやロジックにいいかげんなところがあったのですが、後の作品では怪奇性は保持しながらも結末の意外性、合理性をむしろ重視するようになります。本作でも廃れた監獄の不気味な雰囲気はたっぷりですが、一家に伝わる肝試し的儀式の手順を犯人が殺人トリックに利用し、さらに偶然を組み合わせることで不可能性を強調しているところなど、論理的整合性を重視して、解決はなかなか鮮やかです。そんな事件を捜査するフェル博士の磊落でユーモラスな人柄設定(本作ではこれまた楽しい性格のフェル夫人も登場)は、対比効果を考えてのことでしょう。
ラスト、犯人が供述書を書いた後の行動(というより不行動)が、なかなか印象的でした。

No.27 6点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2013/12/02 23:29
miniさんの意見に賛成。miniさんは、カーに対する評価は私と近いと書かれていたことがありましたが、ホントにそうなんですね…
この評価になったのは、写真の件から始まる怪しげな雰囲気に加え、何と言ってもその雰囲気があるからこそのごく短い最終章のさりげなさが好きだからです。新聞が床に落ちてめくれ…なんて、この感覚がいいのです。この部分は、説明すればするほどバカバカしくなってしまいます。そのいい例が本作の最終章を意識したという高木彬光の某作品。
最終章がなくて、謎解き要素だけに関して言うならばその高木作品の方がむしろよくできているぐらいです。墓場からの死体消失トリック説明は、そんなものかというところでした。またもう一つの魔術的現象は、まず部屋周辺の見取図があるべきですし、カー自身が以前に書いた某作品のネタの使い回し、しかもその作品に比べて工夫が足りないとしか思えないのです。

No.26 7点 囁く影- ジョン・ディクスン・カー 2012/06/12 20:42
その終戦直後の雷雨の日、なぜか殺人クラブには正規会員が誰も来ていなかった。ゲスト3人のみが集まり、数年前に起こった密室殺人の顛末が語られる…
カーの作品を読むと、普通の密室がいかにも魅力的に思えてくるから不思議です。久々に再読した本作でも、章の区切り方とかちょっとした情景描写で、期待を高めてくれるのです。ただし、6割を過ぎたあたりから最初の不気味な雰囲気が薄れ、普通の都会派サスペンス展開になっているのが、ちょっと残念です。
全体的な構造としては、偶然の重なりが新たな事件を引き起こす元になるところ、安易とまでは言えませんが、やはりご都合主義ではあります。ただし終戦直後という時代背景を生かした骨組みは、横溝正史の有名作との共通点も感じさせますが、悪くありません。
第2の事件-殺人未遂の方法も理由も分からないという謎に対する解決もうまく考えられています。またいつものカーとは違ったロマンス味付けも印象に残ります。

No.25 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2010/06/24 21:21
ケレン味たっぷりな展開は、みなさん認めるとおり最初からいかにもカーです。というより、本作や次作『絞首台の謎』のこけおどし的猟奇性は、後の作品ではむしろ薄まり、正統的な怪奇性に変わってきます。
全体的な構造はおもしろかったのですが、偶然の使い方が説得力に欠けるのが難点です。メインの密室トリックにしても偶然うまくいったというところがあるのです。運が少し悪ければ致命的目撃者があったはずで、殺人計画と偶然との組み合わせ方としては『白い僧院の殺人』等の巧みさにはほど遠いと思います。また、ある出来事が起こるために必要な偶発的条件を考えれば、密室殺人が起こる前から犯人の見当はついてしまうとも言えます。
ところで、最終章「勝利のとき」とは、誰の勝利なのでしょうか。バンコラン? それとも真犯人?

No.24 5点 パリから来た紳士- ジョン・ディクスン・カー 2010/02/25 21:42
歴史もの(といっても19世紀中頃の話ですが)の『パリから来た紳士』は『妖魔の森の家』と並ぶカーの短編最高傑作と言われています。最終行のサプライズが高評価の主要因でしょうが、この点についてはもちろん気のきいた終わり方ではあるのですが盲点という感じではなく、また作品内部で完結したフェアプレイがあるわけでもないので、個人的にはそれほどまでとは思えませんでした。
その他の作品の中では、『ことわざ殺人事件』が銃殺トリックも緻密で、まとまりよく仕上がった佳作という感じで気に入っています。一方『見えぬ手の殺人』『とり違えた問題』の殺害方法の特殊性はあまり好きになれません。最後の中編『奇蹟を解く男』はそれなりにおもしろいのですが、小ネタの寄せ集めという印象はぬぐえませんでした。

No.23 5点 死時計- ジョン・ディクスン・カー 2009/11/02 22:02
超自然的な怪奇趣味はないのですが、覗き見のシーンなどかなり異様な雰囲気に包まれていて幻惑的なところがいかにもカーらしい作品です。
一方、フェル博士が、もしそうだったら偶然過ぎると言うところがあるのですが、そこは偶然をうまく利用することが多いカーとしては珍しいかな、という気もします。
凶器が時計の長針という意外なものであるにもかかわらず、それが結局特別重要な意味を持っていなかったのは少々不満でした。また、普通ミステリの中で使うべきではないと言われている「あるもの」が利用されているのは、まあひねくれ者のカーなのでとりあえず個人的には何とか許容範囲内かな、とは思うのですが。
Tetchyさんが指摘されているアンフェアな記述、原文ではどうなっているのか、ちと気になるところですね。

No.22 7点 不可能犯罪捜査課- ジョン・ディクスン・カー 2009/07/11 19:53
不可能犯罪捜査課シリーズ中では、やはり『銀色のカーテン』が最も鮮やかに決まっていると思います。『空中の足跡』のトリックは、長編『テニス・コートの謎』の中でも途中で可能性が議論される方法ですが、ミステリらしいまさに逆転の発想です。『新透明人間』は奇術「スフィンクス」の有名トリックを利用して不思議さを演出していますが、いくら何でものミスは不要でしょう。
それより、シリーズの後に収録されている作品群がおもしろいのです。『二つの死』も不気味な雰囲気充分でしたし、何と言っても適法殺人という着想の『もう一人の絞刑吏』、さらにほとんどホラーの『めくら頭巾』の2編が傑作だと思います。

No.21 8点 妖魔の森の家- ジョン・ディクスン・カー 2009/06/11 20:58
『ある密室』は、読者には推理のしようがないあまりに専門的な知識を利用したトリックです(というより『連続殺人事件』のカーだけに、本当にそんなことがあるのかいなと疑ってしまいます)が、それ以外は文句なしの表題作をはじめ粒ぞろいの中短編集だと思います。
『第三の銃弾』はクイーンによるダイジェスト版の翻訳だそうですが、初読当時はそんなことは全く知らず、凝りまくった謎とその鮮やかな解決には非常に感心しました。
『軽率だった夜盗』は後に長編化されていますが、この元の短編の方がまとまりよく仕上がっています。

No.20 4点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2009/03/13 22:25
久々に登場するバンコランは、しかし以前のようなおしゃれなところが全くなくなり、かといってフェル博士やH・M卿ほどのあくの強さも感じられません。
タイトル(原題直訳:4つの偽凶器)はチェスタトンを意識したと言われていますが、現場に凶器らしきものがいくつも転がっているというだけでは、カーにしては特に魅力的な謎とは思えません。現場に残された手がかりをつなぎ合わせていくのはミステリの常道であり、本作ではそれらの手がかりがたまたますべて凶器になるものだったというわけです。
実際の凶器は、犯人自身にさえも意外なものだったというオチになっていますが、専門的な知識が必要となるので、一応の伏線があるとはいえ、一般読者が真相を見破ることは不可能でしょう。
最後のカードゲームはなかなか興味深かったのですが、偶然の扱いもすっきりとは言えず、全体的にはいまひとつ冴えない感じでした。

No.19 6点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2009/03/07 14:33
論理性という点では、フォン・アルンハイム男爵が間違っていることを示す手がかりは確かにありますし、特に指紋の問題はその時代ならではの着眼点だと感心しました。
しかし、本作の魅力は何と言っても、火に包まれた被害者が城壁から墜落する印象的な情景から始まる、ゴシック・ロマンを思わせるトーンでしょう。秘密の通路が出てくるなどとここで書いても、全然ネタばらしにはならないようなスタイルの作品です。

No.18 8点 ビロードの悪魔- ジョン・ディクスン・カー 2009/02/28 12:45
本書が書かれた1950年台初頭は、ミステリ界でもおなじみアシモフ等のハードSFが隆盛してきた時代でもありますが、これはカー流のミステリ的要素を充分取り入れた時代劇冒険SFという感じです。
時間旅行SFにつきもののタイム・パラドックスについては、精神的なタイム・トラベルなのでほとんど問題になりませんが、現代残っている歴史資料との整合性については、ちょっと拍子抜けでした。後はもう、これもおなじみ現代生活とのギャップも描きながらの、剣劇アドベンチャーの世界どっぷりです。悪魔との契約となると、怖い結末が待っているのではないかと気になりますが、それにどう決着をつけるのかも見所です。
なんだか、SF的観点からのみの評になってしまいました。

No.17 5点 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー 2009/01/30 21:22
船上での果てしないばか騒ぎがすべてを覆い尽くしている作品だと言ってもいいと思いますが、カーのコメディ・センスに対する好き嫌いにとどまらない悪評の理由もわかります。人間消失の謎のからくりはむしろ失望するようなものでしたし、それと関連する謎の犯罪者の正体も、悪くはないという程度です。フェル博士は、推理作家モーガンから事件の顛末を聞いて鍵を並べ立てていきますが、その鍵をつなぎあわせての推理は、結局それほど鮮やかとも思えません。
とはいえ、個人的には、カーの他の10冊分くらいの笑いをつめこんだ船酔いしそうなプロットは、まあまあ楽しめてしまいました。

No.16 7点 九つの答- ジョン・ディクスン・カー 2009/01/21 19:57
同時期にカーが書いていた歴史ものと似たテイストが感じられる、シリーズ外作品です。現代(1952発表作)が舞台のはずなのですが、いつのまにか時代も定かでない異世界の冒険活劇世界にはまりこんでしまったような感覚を味わわせてくれます。また、カーの歴史趣味も重要なファクターとして出てきます。
話が展開していく途中で、ミステリを読みなれた読者が思いつきそうなこと(?)を、八つの間違った答として注釈を挿入し、事件解決後に置かれた九つ目では、アンフェアな記述があるという主張は間違った答であるとしています。しかし、これは訳し方の問題だそうですが、実際にはアンフェアなところがあります。人称代名詞などを不自然にならないように訳すのは難しいのでしょうが。個人的には、本書の持ち味が冒険小説的なこともあり、厳密にフェアかどうかはあまり気になりませんでした。

No.15 9点 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー 2009/01/12 12:06
カーに限らず、犯人以外の登場人物が事件を複雑化するミステリはかなりの数にのぼると思いますが、この作品では特に、被害者が犯人と共同して読者を騙しにかかってきます。要するに被害者が考え出したトリックを犯人がうまく利用したということなのですが、それが実に巧妙にできているのです。
犯行を証明する決定的証拠は、読者には全く予想しようのないものですが、その証拠がなければ推理が成り立たないわけではありませんし、フェル博士の名前が出てくるところがユーモラスでもあります。緻密に構成されたパズル小説が好きな人にとっては満足のいく作品だと思いますが、派手な展開を期待する人向きではありません。

No.14 5点 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー 2009/01/07 22:55
中心にあるアイディア(でしょう、これは)は非常にすぐれていると思うのですが、使い方を誤って惜しくも傑作になり損ねた作品ではないでしょうか。その部分の書き方が何となく不自然さを感じさせますし、ストーリー展開もいまひとつです。背後に悪魔信仰を持ってきているのですから、もう少し不気味な雰囲気作りをして、短期間のうちに、また小説の中でももっと早い段階で第2の事件を起こしてくれればよかったかもしれないと思います。この第2の事件の毒殺トリックは、あまり感心しませんでした。

No.13 5点 テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/29 12:48
この足跡のない殺人を実現する方法について、ああでもないこうでもないと仮説を立てた挙句、最後に明かされるトリックは、確かに怒り出す人がいても仕方がないものだと思います。何といっても、被害者をある意味で罠にかけるための口実が、あまりにもいいかげんなのです。
ただ、そのトリックを使うことによって生じる犯人の意外性は、なかなかのものです。また、第2の殺人の手順の方は、ごく単純なアイディアではありますが、ちょっとした勘違いを利用していて悪くありません。

No.12 5点 仮面劇場の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/26 20:54
似た殺人方法のトリックをカーは以前にも使ったことがあります。しかし、読んでいる間は、トリックについては何となく想像はついたのですが、類似作があることには気づきませんでした。全く別のシチュエーションで、かなりうまく扱われていると思います。犯人と動機もなかなか意外でしたが、アリバイ工作はちょっといただけません。
しかし、『月明かりの闇』にしてもこれにしても、カーの晩年作の長大化(無駄に長いとまでは言いませんが)は、横溝正史の晩年となんとなく重なる感じがしますね。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1505件
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