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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.65 5点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2022/07/01 23:14
つかみの部分は視覚的なインパクトが強烈ですし、その後消えた死体の謎、死体が見つかってからは被害者は誰かの問題と、事件は手際よく進んでいきますし、体調不良なミス・マープルに替わって家族に探りを入れていくルーシーがなかなか魅力的です。真相の意外性がまたかなりのものです。
と、ほめる所も多いのですが、死体隠匿方法の中途半端さ等、論理性には問題があります。また、読んだハヤカワミステリ文庫版では翻訳者(大門一男)がパズラーを得意とする人でないせいかもしれませんが、砒素を使った殺人手順の説明が、犯人の計画を理解した翻訳になっていないと思えます。クリスティー文庫版をちょっと確認したところ、わかりやすく訳してくれていました。しかしそれでも、犯人の計画は砒素混入の後事態がどうなるか運任せでしかありません。
なお、作中で言及される「リトル・パドックス事件」は『予告殺人』のことです。

No.64 7点 NかMか- アガサ・クリスティー 2021/08/07 08:24
第一章はなんだか粗筋だけみたいで、クリスティーにしてはなんだこれ、という感じだったのですが、第二章以降では《無憂荘》の人々の個性も明確になってきて、おもしろ味が出てきます。1941年発表作で、ナチスのスパイを探し出す話ですから、この作者の他のスパイ小説ほど荒唐無稽ではありません。まあ、こういうタイプの作品はリアリティがあればいいというものでもないのですが。
死んだ諜報部員のダイイング・メッセージであるタイトルの言葉は、男女どちらなのかわからなかったからこそ ”or” ではないのかと思ったのですが、その問題点は結局無視されていました。それ以外にも、あの人物は結局外で何をしていたのかとか、あの人物はどうやって《無憂荘》を見つけたのかとか、細かい点では疑問が解消されないままという不満もあるのですが、全体的にはパズラー系を上回るほど意外性を散りばめた作品で、楽しめました。

No.63 6点 七つの時計- アガサ・クリスティー 2020/03/17 22:53
本作にも叙述トリックが仕組まれていることは、訳者あとがきなどで最初からわかっていたのですが、ナンバー7の正体には驚かされました。途中である登場人物に、セブン・ダイヤルズ組織について「なにもかも小説で百ぺんも読まされたことばかりだ」と言わせて、笑わせてくれるのですが、このオチには完全に騙されました。窃盗未遂事件の真相は見当がついても、それと組織との関係がうまく結びつかないままだったのです。
ただ、最初の死亡事件でマントルピースの上に並べられていた7つの目覚し時計の意味は、拍子抜けですし、上記ナンバー7の件も、意外ではあるものの、訳者あとがきにある「気持ちよくだまされた」という感じにそれほどならないところはあります。
なお、『チムニーズ館の秘密』の続編とも言われますが、話は全く別で連続性がなく、どっちを先に読んでもかまわないと思います。こっちの方がバトル警視が名探偵らしいです。

No.62 7点 チムニーズ館の秘密- アガサ・クリスティー 2017/09/07 23:31
久々に読んだクリスティーは、バトル警視初登場の冒険スリラーです。まあバトル警視はほとんどの作品で脇役なんですが、特に本作では口数も少なく、いつの間にか主人公たちのそばに立っているなんて、影みたいな存在です。で、最後にはある人物についての調査も既に済ませてしまっていることがわかったりして。
本作では、あるパターンの技巧が何重にも仕掛けられています。同じ手をこれほど繰り返し使っている作品は、クリスティーに限らず珍しいのではないでしょうか。最後の一つには、明かされる直前には気づいたのですが、よくもまあここまでと呆れてしまいます。また、ミカエル王子殺害犯人の設定は、アンフェアと非難されないようにした構成が巧みです。クライマックス、主人公危機一髪のシーンは、考えてみれば無理があるのですが、驚かされました。
というわけで、個人的にはかなり気に入った作品でした。

No.61 5点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2015/01/12 12:06
ミス・マープルものなのに、ジャンルとしては本格ではなく警察小説としてしまいました。
実際のところ、本作で中心となる事件は謎のグループによる多発する強盗事件で、途中には列車強盗の顛末が、強奪後の犯罪グループの動きまで含めて描かれているのです。そしてその事件を追っているのは、もちろんセント・メアリー・ミードに住む老婦人ではなく警視庁。上司からもおやじさんと呼ばれているデイビー主任警部が中心となって活躍します。
全体の7割ぐらいでやっと殺人が発生するのですが、どう見てもこの殺人、強盗団とは直接の関係はないのです。つまり2つの事件を並行して描くパターン、しかも強盗団事件だけでなくその殺人事件の真相も、ミス・マープルだけでなくデイビー主任警部も見破ってしまっているのです。というわけで、採点も警察小説としての点数です。

No.60 6点 死への旅- アガサ・クリスティー 2013/09/30 23:45
『葬儀を終えて』『ポケットにライ麦を』等ほとんどがポアロ、ミス・マープルものだった時期にしては珍しい、ノン・シリーズのエスピオナージュです。
ヒロインは人生に絶望して自殺をしようとしていたところを、スパイになることを勧められるという、どう考えても無茶な設定で始まり、どうなることかと危ぶまれたのですが、その後はなかなかおもしろくできていました。もちろんアンブラーやル・カレみたいなシリアス派ではなく、嘘っぽさが楽しい娯楽スパイです。ほとんど最後までは、いかにもなパターンの「意外性」連続で、黒幕だのある登場人物の正体だの、やっぱりねという感じで、にやにやしながら気楽に読んでいったのですが…
最後の最後に、クリスティーらしいとんでもない意外な結末を付け加えてくれていました。しかも、パズラー系のフェアさとまでは言えなくても一応伏線は張ってあるのです。

No.59 6点 死の猟犬- アガサ・クリスティー 2012/07/28 11:57
戯曲化、映画化(ビリー・ワイルダー監督の『情婦』)で有名な『検察側の証人』の原作は、30数ページ程度の短編です。全体的な構成はさすがですが、短くまとめすぎていてどんでん返しがあわただしくなり、物足らないような気もします。
収録作のうちこの作品を除く他の11編すべてが超常現象がらみということでも、クリスティー短編の中でも特に有名なこの作品は、集中で目立つ存在になっています。まあ他の作品も、超常現象と言っても中にはディクスン・カーのような見せかけだけのタイプもありますが。
多重人格(短編集発表が1933年ですよ!)に対するある解釈『第四の男』、現象から予測はすぐつくものの、最後のひねりがうまい『ラジオ』、痛快とも言える『青い壺の秘密』あたりがよくできていると思います。ただ個人的には、完全に幽霊ホラー系の『ランプ』が怖さと哀しさをあわせ備えていて、一番好きな作品です。

No.58 6点 クリスマス・プディングの冒険- アガサ・クリスティー 2012/04/15 13:16
中編3編、短編3編からなる作品集で、その内5編がポアロものです。
表題作は長い割に謎解き的には特にどうということもないのですが、いかにもクリスマス・ストーリーらしい楽しい作品で、ポアロの計略が笑えます。
『スペイン櫃の秘密』は某短編を倍ぐらいの長さに書き直したものですが、膨らませ方が中途半端だと感じました。おもしろいアイディアなので、もっと長くして、人間性を描きこめばよかったのに、と思えます。
『負け犬』は最も長い作品で、地味ではあるもののかなり好印象を持ちました。ただし、この作品には謎解き内容以外で、非常に不満な点があります。どこがということを明かせば、完全にネタバレになってしまいますが。
後に続く短い3編については、内容に共通点があることにびっくりしました。クリスティーはなぜこれらを1冊の中にまとめたのでしょうか。ミス・マープルものの『グリーンショウ氏の安房宮』はいくら何でも無理があります。

No.57 6点 死人の鏡- アガサ・クリスティー 2012/01/08 11:34
本サイトに登録されている他の短編集に合わせて、ハヤカワ版を対象にしていますが、実際には収録4編どれも創元版で読んでいます。どちらの版もすべてポアロもの。違いは、ハヤカワ版『砂にかかれた三角形』の代わりに創元版には『負け犬』が入っていることです。
その長めの短編『~三角形』は、某長編の人間関係・動機の元ネタです。その長編とは違い、アイディアをこの動機の意外性だけに絞り、ポアロの人間観察が冴えるきれいにまとまった秀作です。
他の3編はすべて、逆に以前に書かれた短編を引き伸ばした中編です。『厩舎街(ミューズ)の殺人』は、被害者の性別を変え、新たな手がかりを加えているぐらいですが、中編化が最もうまくいっていると思えました。『謎の盗難事件』はもっと短くてもいいでしょう。
表題作はトリックはそのままで、犯人の設定と動機を変更しています。これは短編の方が、冒頭部分と事件依頼内容の点でうまくまとまっている感じで、ひょっとしたらこの中編の方が先に書かれたのかもしれません。

No.56 7点 黄色いアイリス- アガサ・クリスティー 2011/10/25 20:54
全9編中ポアロが5編ですが、そのうち3編が、訳者あとがきにも書いてあるように他作品の原型(前後がはっきりしないものもありますが)です。『二度目のゴング』には中編版(別題)がありますし、表題作はノン・シリーズ長編の原型として知られています。『バグダッドの大櫃の謎』は、倍ぐらいの長さにした『スペイン櫃の秘密』というほとんど同じ話があります。いずれにせよ、他の2編も含め、佳作ぞろいという感じ。
パーカー・パインの2編は、宝石盗難事件解明の仕事を依頼され、旅行中に人間関係の悩み相談を受けるという、『パーカー・パイン登場』収録作とは逆パターンになっています。
短い『ミス・マープルの思い出話』は蓋然性のツメが甘いところが気になりました。
ホラー系の『仄暗い鏡の中に』はパズラー作家らしい鏡像利用アイディアや伏線もいいのですが、特に決着のつけ方が気に入りました。

No.55 6点 第三の女- アガサ・クリスティー 2011/06/18 17:36
自分が誰かを殺したらしい、ということでポアロに相談に来た娘は、しかしポアロが年寄りすぎると言って、詳しいことを話さず立ち去ってしまいます。このポアロが年寄りすぎるという理由には何か特別の意味があるのかと疑ったのですが、それは考えすぎで、単に「被害者を探せ」シチュエーション作りのためでした。
誰がどこでいつ殺されたのか不明な状況を持続させる展開は、ちょっとご都合主義なところもありますが、謎の提示段取はなかなか魅力的です。ビートルズ以降世代の若者ファッションも取り入れながら、ポアロとオリヴァー夫人が調査していくストーリーは、退屈という人もいるようですが、個人的には楽しめました。
最後には、作者晩年のポアロものの中では珍しくかなり鮮やかな大技を見せてくれます。ただ手がかりをはっきり示しすぎて、読者にもポアロと同じように推理できてしまうのが難点でしょうか。もっと読者に対して不親切でもよかったと思います。

No.54 5点 教会で死んだ男- アガサ・クリスティー 2011/03/23 23:07
全13編中11編は、以前創元版の『ポワロの事件簿2』『クリスティ短編全集4(砂に書かれた三角形)』で読んだことのあるポアロものです。『戦勝記念舞踏会事件』『プリマス行き急行列車』等は、トリック自体は鮮やかで悪くないのですが、犯人がそのような方法を使うメリットがあまりないのが不満な作品です。なお『プリマス~』のトリックは後にメリット面を改善して長編に仕立て直されています。『クラブのキング』(ちょっといんちきな感じもしますが)、『スズメ蜂の巣』(殺人阻止というのが珍しい)はどちらもなかなかいい話。しかし『マーケット・べイジングの怪事件』が最もよくできていると思います。これはトリックはそのままで小説としてのふくらみを持たせ、中編『厩舎街の殺人』として書き直されています。
怪奇ものの『洋裁店の人形』はまあまあですが、最後のミス・マープル登場の表題作『教会で死んだ男』は、原題にもなっているダイイング・メッセージが結局ほとんど意味不明ですし、トリック的にもどうも冴えません。

No.53 7点 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー 2011/01/27 21:37
歴史(時代劇)ミステリを書く作家はかなりいます。しかし、古代エジプトが舞台のフーダニットとなると、考古学者マローワン教授の夫人であるこの人をおいて他にないでしょう。冒頭に置かれた「作者のことば」の中で、古代エジプトの農事歴を説明したりして、本格的に時代考証しています。ただ"兄"、"妹"という言葉の意味についての説明は、ひょっとして叙述トリックで混乱させるつもりかと思っていたら、そうではありませんでした。
それにしても、全体の1/3ぐらい過ぎてやっと殺人が起こったと思ったら、後は次から次へと立て続けの連続殺人。登場人物はあっという間に減っていきます。犯人の設定はいかにもクリスティーらしいので、意外性があると言うべきかないと言うべきか迷うところです。ただ、家族全体を襲う悲惨な事件に、これでどう最後をまとめるのかと思っていたら、これもこの作者らしい恋愛感情をからめて、ラスト2~3ページはうまく決着をつけてくれていました。
ポアロの時代だったら通用しないトリックや無理のある殺意も使われていますが、古代なら問題ありません。

No.52 6点 カーテン- アガサ・クリスティー 2010/12/21 20:50
死後出版の予定を変更して、死の直前に発表した作者の思いはどんなものだったのでしょうか。
本作に対するユニークな論評としては、西村京太郎の『名探偵に乾杯』がありますが、西村氏も言っているように、この犯罪者はポアロ最後の対戦相手としてはそれほどと思えません。まあ、なかなか始末に困る人物ではありますが。それよりクリスティーらしい意外性ということでは、意外な人物のある何気ない行為が関与する毒殺事件の真相が最も記憶に残ります。
ラストについては、う~む、やっぱりそうなってしまうんですね。まあ、やはりこれは老いたポアロの倫理観によるけじめだろうと思います。謎解きミステリとしてのアイディアでは、西村氏も挙げている他の巨匠のあの作品の方がすぐれているでしょうけれど、『スリーピング・マーダー』みたいないつものクリスティーとは違うこところを見せてくれたこれはこれでいいと思います。

No.51 7点 愛の探偵たち- アガサ・クリスティー 2010/11/20 13:38
最初に収められているのは、演劇有名作『ねずみとり』の原作『三匹の盲目のねずみ』です。短編集は1950年に出版されていて、戯曲化されたのは1952年だそうですから、小説が先であることは間違いないのですが、再読して感じたのが、最初から完全に舞台化を意識しているな、ということでした。特に真相が暴かれる部分など、マザー・グースの歌のピアノ演奏、多少無理してまでの舞台の固定など、いかにも演劇的です。真相は単純でむしろ平凡ですが、小説の文章や映画のカットバック映像等でていねいに説明しなければ理解できないような複雑なトリックや論理は、演劇には向きません。
ミス・マープルもの『管理人事件』は再読して、後期某長編の元ネタはこれだったのかと気づきました。
クィン氏の『愛の探偵たち』は30年代の某長編と同じアイディアです。道化亭に言及されていることから『謎のクィン氏』の第4作になるはずだったと思われます。雰囲気があまりクィン氏ものらしくないので、連作短編集としてまとめる時にはぶいて長編に仕立て直したのでしょうか。

No.50 7点 スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー 2010/10/17 12:11
同じように死後発表を予定して書かれた作品でも、いかにもという感じの『カーテン』と異なり、最後だからといって他のミス・マープルものと特に異なる点はありません。
ほぼ同時期に書かれたらしい『五匹の子豚』と対比してみた方がいいでしょう。どちらも十数年昔の殺人を調査する話ですが、ポアロの登場する『五匹の子豚』がひたすら地味な作品でそこがよかったのに対して、こちらは怪談めいた冒頭、新たに起こる殺人など変化をつけてストーリーの盛り上げにも気を配っています。特に最後の「猿の前肢」の意味がわかるところは、サスペンス映画をも髣髴とさせて印象的。ただ結末の意外性という点では、本作はちょっとパターン化にはまりすぎているかなとも思えます。
作者の長編の中でミス・マープルものの割合が増えるのは、本作執筆後であることを考えると、シリーズの中ではむしろ初期に属すると位置づけられそうです。

No.49 5点 ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー 2010/08/22 19:54
現在の少女殺人事件から過去に起こった殺人を追跡調査していくというパターンです。まあ過去の殺人と言っても、まだ3年も経っていない程度ですので、『五匹の子豚』や『スリーピング・マーダー』みたいなことはありません。いくつかの未解決事件のうちどれが現在の殺人の元になっているのかというところが興味の中心。一方現在の事件も、1件だけにとどまりません。
半分も読まないうち、犯人の見当だけはポアロが最後に解説する手がかりからついてしまったのですが、事件の全貌はなかなか見えてきません。最初に殺される少女が殺人事件を見たことがあるといった言葉の本当の意味は意外でしたし、その過去の殺人も後から全体構成を振り返ってみるとひねってあることがわかります。
しかし、結末は何か今ひとつすっきりしないのです。ポアロの推理根拠に薄弱なところがあるからでしょうか。

No.48 6点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2010/08/01 20:58
4~5点ならともかくminiさんの非常に低い評価に驚いてAmazonをチェックしてみたら、意外に評価が真っ二つに分かれている作品なんですね。個人的には乱歩ほどではないにしても、むしろ擁護派。
「殺人お知らせ申し上げます」という広告が地方新聞に載るという始まりがなかなか楽しいですし、なぜそんな殺人計画にしたのか、また殺人動機は何かという中心問題に対する答もすっきりできています。
ただし第2の殺人発生時点までで、ミステリをちょっと読みなれた人なら動機は不明でも、この展開なら犯人はこの人物だと完全に確信できてしまうところが弱点と言えるでしょう(「小説構造上」から推測可能という意味では読者はミス・マープルよりはるかに有利です)。また、2重のレッド・へリングもこの構成ではほとんど不発です。
最初の殺人だけの中編にまとめていれば、本当に代表的傑作にもなり得たという気がするのですが。

No.47 7点 おしどり探偵- アガサ・クリスティー 2010/07/10 21:38
トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が活躍する軽いタッチの連作短編集。1タイトル1ストーリーと決まっていなくて、全体の連続性が強いという構成や、スパイ冒険ものの要素がかなりあるところは、本作の2年前に発表されたポアロもの『ビッグ4』との共通点も感じられます。しかし、こういうタイプならポアロよりこの夫妻の方が似合っていて、出来ばえもこちらの方が上です。
また、二人がミステリ中の名探偵をまねながら事件を解決していくというパロディ作でもあります。ホームズやブラウン神父、隅の老人、フレンチ警部あたりは有名ですが、現代日本ではほとんど知られていない探偵もかなり出てきます。その点、パロディとしては機能していないところもありますが、ミステリ(あるいはサスペンス)としては楽しめます。最後の『16号だった男』で取り上げられるのは、作者自身のポアロ(それも『ビッグ4』を引き合いに出しながら)。

No.46 7点 忘られぬ死- アガサ・クリスティー 2010/06/12 11:30
ノン・シリーズ作品ですが、ポアロが登場する某短編を長編に仕立て直したものです。
元の短編では第2の事件から話を始めていましたが、本作の前半では、過去の事件から第2の事件発生までが、関係者たちそれぞれの回想を主軸に語られていきます。登場人物それぞれの内面に立ち入りながらスムーズに過去の事件の顛末を示してくれる手際は、鮮やかなものです。この部分を読み返してみれば、真相すれすれの書き方がされていることがわかります。このような展開なら、確かにポアロは出てこない方がいいかもしれません。
犯行方法のアイディアは元の短編どおりですが、犯人設定の変更や巧みな偶然の導入は、長編化のお手本と言える出来です。ただ、犯行計画の必然性がちょっと弱くなってしまったのが欠点でしょうか。
なお、『ひらいたトランプ』『ナイルに死す』ではポアロと一緒に活躍したレイス大佐も半ばになって登場します。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(110)
アガサ・クリスティー(65)
エラリイ・クイーン(53)
松本清張(32)
ジョン・ディクスン・カー(31)
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