皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.285 | 4点 | 幸運の脚- E・S・ガードナー | 2010/04/26 21:39 |
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ペリー・メイスンのシリーズ第3作は、毎度お馴染みの法廷シーンがありません。裁判にまで至らず、事件は解決してしまいます。レギュラーになるバーガー検事もまだ登場していない時期です。
事件そのものは、メイスンが今回もかなり強引に法律的にすれすれのことをやってくれたりして、なかなか楽しめましたが、解決には不満がありました。 メイスンがその人物が怪しいと考えた理由は納得できますし、犯人の殺人実行経緯も偶然が過ぎるとは思いますが、まあ可能でしょう。しかし、犯人のさまざまな行動の理由がさっぱり理解できませんし、説明もまともにつけられていません。なにしろ殺人動機自体あいまいで、いつ殺意を固めたのかも不明なままです。最後になってどうにもすっきりできない作品でした。 |
No.284 | 5点 | 化人幻戯- 江戸川乱歩 | 2010/04/23 23:42 |
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ミステリー三昧さんの言われるように最後はさすがに乱歩らしさ炸裂ですが、以前の通俗長編の八方破れなおもしろさに比べると、全体的に見てずいぶんおとなしくまとまっています。なにしろ地味派代表のクロフツの名前が挙げられたりしているくらいです。
密室についてはトリックがどうというより、ただ密室状況の概略が説明されただけの段階で、明智の解説が始まってしまうのが物足りません。それこそクロフツのように綿密な部屋の調査と、発見された事実からの推理、検証を書いていけば、それなりのものになると思うのですが。まあ、それでは明智ものにはならないでしょうね。明智にあっさり解かせるための密室という感じもします。 その明智と大河原夫妻とは面識があるのかどうかという点で、これは伏線かなと思ったところがあるのですが、どうやら作者の単なるうっかりミスだったようで。 |
No.283 | 7点 | ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター | 2010/04/19 21:38 |
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推理というか仮説をしつこく組み立てては壊していくことを繰り返すのが有名なモース警部シリーズですが、まだ第1作ということだからでしょう、本作ではそれほどではありません。実際にモース警部らしい仮説が始まるのは、全体の1/3を過ぎて彼が脚立から落ちる事故で2、3日動けなくなってしまってからです。要するに事故によるアームチェア・ディテクティヴ強制で、デクスター流が開始されたわけですね。
全体的には捜査側からの視点だけでなく、重要な事件関係者だと最初からわかる書き方で別の登場人物の視点をところどころに挿入する思わせぶりな構成になっています。 最終的な解決も、本作ではクリスティーなどにつながる案外オーソドックスな意外性が用意されています。モース警部の恋愛まで取り入れられるストーリーは、次作よりは一般向けと言えると思います。 |
No.282 | 5点 | メグレ再出馬- ジョルジュ・シムノン | 2010/04/17 12:24 |
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メグレ・シリーズの中でも、ちょうど転換期にあたる作品です。本作発表後、シムノンは一時メグレものを中断し、『倫敦からきた男』や『仕立て屋の恋』等犯罪を絡めた純文学を書くようになります。
内容的にも、シリーズ中断作(終了のつもりだった?)らしく、メグレ退職後の事件となっています。刑事になったものの、悪賢い悪党どもの罠にかかって殺人の罪を着せられそうになった甥のために、田舎暮らしをしていたメグレが再出馬することになります。 最初から事件の黒幕はわかっていて、その人物をどうやって追い詰めていくかということでは、『男の首』にも似たところがあると言えるでしょうが、悪役は犯罪のプロ、一方のメグレは警察を引退してしまっているというところが、大きな違いを生んでいます。悪役の人物像を最後の対決で見せていくところが、うーん、採点としてはこんなものかなというところ。 |
No.281 | 8点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2010/04/14 22:10 |
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最初の『DL2号機事件』の無茶なロジック(現実には意図的行為と偶然とを混同したこんな発想あり得ません)には、よくもこんなバカなこと考えるものだなと思いました。次の空中密室『右腕山上空』も既に書き上げていたそうですが、変てこな方をデビュー作に選ぶのですから、作者のひねくれぶりはたいしたものです。事件解決後の締めくくりがまたこの人らしい目のつけどころです。
第2作からは、もっとまともなミステリが続きます。どれもおもしろいのですが、強いて言えば『G線上の鼬』がトリックと推理がきれいにつながっていて、私的ベストでしょうか。『掘出された童話』の暗号作成の困難さも、こんな面倒なことを実行するのはこの作者だけだろうという感じです。 ▽の老婦人は、作者が作者だけに、単なるひょうたんつぎ(手塚治虫の)的存在とは思えないですよね。 |
No.280 | 4点 | 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー | 2010/04/12 21:37 |
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プロローグの後、最初のうちは中東の某国国王の死と彼の所持する宝石の数々の行方にまつわる話で、冒険スパイもの的な感じです。そこから一転、イギリスの名門女子校での殺人事件という古典的なミステリになってきて、後半ポアロがついに登場すると、後はもう解決に向かってまっしぐらです。
途中で校長が「この学校は型どおりの学校ではなかったけれど、そうかと言って、型破りを誇りにしてきた学校でもなかったのよ」と言うところがありますが、これはクリスティーの目指すところでもあったと思えます。まあ、今回は伝統と革新の二要素の融合がそれほどうまくいっているとは思えません。真犯人隠匿方法などずうずうしい手ですが、意外性のすっきり度は低めです。ポアロの謎解き段階に入ってからの展開のご都合主義もちょっと甘すぎる感じがしました。 |
No.279 | 5点 | 通り魔- エド・マクベイン | 2010/04/10 12:43 |
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フレデリック・ダネイは来日した時、マクベインの小説作法に対して、1つの長編の中でいくつかの話を並行して書いて、各々別の結末をつける安易な構成だと批判的な意見だったそうですが、本作を読むとなるほどと思えます。
たとえば別の分署で起こった猫の連続盗難事件の話のオチは、バカミスと言うかボケミスと言うか、個人的には笑えました。しかしその事件をなぜ本作の中で語るのかと言えば、大都会ではそんな事件も起こるから付け加えたのだ、というだけでしょう。メイン・ストーリーにからんでこないのです。訳者あとがきでは寄せ鍋という言葉が使われていましたが、むしろさまざまな小料理の取り合わせという感じがします。その中で気に入ったのはクリング巡査の恋愛話でした。 文章はところどころでしゃれた表現を連ねているのですが、チャンドラーやアイリッシュのように文章が雰囲気を決定づけるという感じではなく、ただ気取っているだけに思えるのが難点です。 |
No.278 | 6点 | アムステルダム運河殺人事件- 松本清張 | 2010/04/05 22:17 |
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外国を舞台にして日本人が殺される中編2編が収められています。
『アムステルダム運河殺人事件』は現実のバラバラ殺人事件に取材したものだそうです。首無し死体テーマですが、首と手首を切り落とした理由がなかなか意外で、松本清張には珍しく純粋な謎解きが楽しめます。途中で、やはり現実の事件をモデルにしたポーの『マリー・ロジェの謎』をかなり長々と解説までしているところからしても、作者がこの推理の着眼点には自信があったことがうかがえます。 『セント・アンドリュースの事件』はゴルフ発祥の地と言われるスコットランドの町での事件。これも謎解き中心の作品ですが、その地への旅行計画から話は始まり、なかなか事件が起こりません。トリックは悪くないのですが、もっと短くてもよかったかなと思えました。 |
No.277 | 7点 | 可愛い悪魔- ジョルジュ・シムノン | 2010/04/02 21:37 |
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本作もハヤカワ・ミステリのシリーズから出ていたので評価対象にしていますが、ミステリ度は非常に希薄です。それでもあえて評価対象とした以上、ミステリ度がどうであれひとつの作品そのもの(エンタテインメントあるいは芸術)として評価すれば、この点数になります。
主人公悪徳辣腕弁護士(ペリー・メイスンのような意味で)の一人称覚書スタイルで書かれた作品です。しかし裁判でのスリリングなかけひきもありませんし、最後に起こる殺人にしても、その結末に向かっての伏線を張った収束感はありません。それでも、弁護士の独白の味わいには、何とも言えないうまみがあるのです。 発表2年後の1958年に映画化され、本のタイトルも映画邦題のままです。原題は「もしもの場合」「緊急時のために」といったような意味合い。 映画版は見ていないのですが、可愛い悪魔という言葉が似合うブリジット・バルドーとは、原作から受けるイヴェットの印象はかなり違い、むしろみすぼらしい感じがします。弁護士も自分でガマガエルみたいだと言うのですから、ジャン・ギャバンのかっこよさはありません。しかし、そこが味なんですねぇ。 |
No.276 | 8点 | 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2010/03/30 21:32 |
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「本格派」的な観点からすれば、確かに厳しい評価もあるでしょう。
まあ「僧正」には意味がありましたが、マザー・グースの詩にあわせた見立て殺人に、明確な理由はないのですから。結局最後にヴァンスに解説されて、ああそうだったのかと感心するようなところは全くないとさえ言えます。さらに各殺人の犯行過程も、それほど巧妙とは思えません。 それにもかかわらず、個人的にはこの犯人の思考経路、納得できるのです。第21章での犯人の心理分析は、ヴァン・ダインの薀蓄披露の中でも、ミステリ要素との融合が特にうまくいっているものではないでしょうか。ヴァンスがある人物を容疑圏外に置く理由もうなずけます。 なお、事件解明後の最後数ページはクイーンの某有名作との類似を指摘できるでしょう。クイーンは本作のこの部分に不満があったのかどうか、暗示的できれいな形にまとめていますが。 |
No.275 | 7点 | 狼は天使の匂い- デイヴィッド・グーディス | 2010/03/26 21:51 |
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フランス映画界で人気のグーディス。原尞の解説で、映画は本作を元にジャプリゾが脚本を書いたものだと知ったのですが、グーディスとジャプリゾが私の頭の中でごっちゃになっていたところがあったということは、以前にそのことをどこかで読んでいたのかもしれません。クレマン監督による映画は見ていないのですが、映画粗筋を読むと、登場人物設定を除き全く別物になっています。
小説は、完全に主役の青年ハートの視点から書かれていて、彼の心理描写がたっぷりあるのが特徴です。彼の目から見られた犯罪者一味のボス、チャーリーがなかなか魅力的に描かれています。ハートが警察に追われることになった殺人の顛末が最後近くになって回想の形で明かされますが、ちょっとした意外性がありました。 原題"Black Friday"(13日の金曜日)からもうかがわれるなんとも暗い結末が余韻を残します。ただ犬の問題だけは、説明を安易に放棄してしまっているとしか思えませんでした。 |
No.274 | 8点 | 陰獣- 江戸川乱歩 | 2010/03/23 22:13 |
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本作に登場する謎の男の名前は平田一郎、一方乱歩の本名は平井太郎ですから、そこからしてもね。
『屋根裏の遊戯』を中心に、最後には『パノラマ国』だの『一銭銅貨』だの、大江春泥作とされる小説のタイトルが挙げられていて、自己パロディ色が強い作品です。もちろんユーモア・ミステリではないのですが。乱歩自身は、その春泥と作中の「私」こと寒川の理知的な両面を持った作家と言えるでしょうから、そのあたりの自己分析も興味深いところです。 リドル・ストーリーといっても、まず筋道の通った解決をつけた後、本当にそれがすべての真相だったのかどうか、不安を感じたまま終わるというだけですから、ちょっと中途半端な気がしなくもありません。ただ、小山田氏の死因についての説明は筋は通っていても根拠薄弱なので、それをカバーしているとも言えそうです。 |
No.273 | 7点 | ヘラクレスの冒険- アガサ・クリスティー | 2010/03/19 21:45 |
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ポアロのファースト・ネームはHercules、フランス語ではHを発音しないので、エルキュールになるわけです(たとえば『レ・ミゼラブル』のユーゴーの綴りはHugo)。
ヘラクレスの12の難業になぞらえた事件をそろえた連作短編集で、ギリシャ神話との結びつけのほとんどは無理やりなこじつけですが、内容的にはバラエティに富んでいて、なかなか充実しています。特に気に入ったのを挙げると… 『ステュムバロスの鳥』は1ヶ所いくらなんでも無茶なところはありますが、非常に巧妙に組み立てられています。『クレタ島の雄牛』は発端がポアロに依頼するような事件と思えない点を除けば、すべての要素が最後にきれいに収束していきます。『アウゲイアス王の大牛舎』でのポアロの大胆な策略もなかなか見事。たいしたことのない謎解きよりその後の幕切れが印象的な『ヘスペリスたちのりんご』も意外に好きですね。 |
No.272 | 5点 | メグレと優雅な泥棒- ジョルジュ・シムノン | 2010/03/17 21:52 |
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パリ郊外、ブローニュの森で発見された優雅な泥棒(原題によれば怠惰な泥棒ですが)キュアンデの死体。メグレは連続強盗事件の捜査指揮を執っている最中だった、という導入部です。
こういう書き出しだと、普通その2つの事件がどうつながってくるかというところが興味の中心になりますが、そのような展開を期待していると肩すかしを食います。本作では結局2つの事件は交わることなく、それぞれの決着を見ることになるのです。 一方は殺人者が司法の手間をはぶいてくれたと言われんばかりの扱いをされる泥棒殺し、もう片方はマスコミで大きく取り上げられる強盗事件、その両極とも言える2つの事件を対比させ、泥棒殺しにおける被害者の風変わりな性格や人情味の方により興味を引かれるメグレ警視の視点を描くのが、作者の狙いです。 その狙いはわかりますし、地味(滋味)と派手の描き分けもさすがの手際ではありますが、後は好みの問題で、この点数ということで… |
No.271 | 7点 | 出口のない部屋- 岸田るり子 | 2010/03/14 20:37 |
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前作が鮎川哲也賞を受賞した密室ものだというので、オーソドックスな謎解きミステリを想像していたのですが、これは…
構成がまず、プロローグのレベル、作中作の出口のない部屋のレベル、そしてその部屋に集められた3人の人物の過去の事件のレベル、と3段階に分かれ、中盤まではミステリらしくなく、むしろじっくり型サイコホラー系を思わせます。 3人の人物の話がどうまとめられてくるのか。そしてプロローグとどうつながるか。3人目の話からそれが見え始め、2/3を過ぎるあたりからは話の展開も一気にミステリになります。まあ、個々の殺人トリックはどうということもありませんし、推理で謎が解かれるわけでもありません。構成の妙と人間心理の描き方で読ませる作品です。しかしエピローグはやっぱりホラーっぽいところがあるなあ。 プロローグを過ぎた後、すぐにある奇妙な点に気づいたのですが、読み終わって考えてみるとやはりそれが意味を持っていましたね。 |
No.270 | 7点 | 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー | 2010/03/11 21:09 |
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「ところで殺したのは誰なんだ?」
この質問には、こう聞き返したいですね。「どの殺しのことだい?」 いや、実際のところ、本作ではずいぶん人が殺されますが、その一人はマーロウによって撃ち殺されるのです(警察では不問にしますが、正当防衛とは言えない状況です)。チャンドラー自身にさえ答えられなかった(!)のは、運転手の死の真相だそうです。 いくつもの事件がごちゃごちゃからみあっているわけですが、それらの事件に一貫した連続性がないのは、ハメットの小説構成(たとえば『血の収穫』)を思わせるところがあります。しかしチャンドラーには、ハメットほど様々な要素を自然な形でまとめ上げる全体的なバランス感覚がないことは否定できません。 それにもかかわらず、読後の満足度が高いのは、個々の場面にインパクトを与える叙情性ある文章力ゆえとしか言いようがないでしょう。 翻訳は有名映画評論家の双葉十三郎ですが、会話部分に多少気になるところはありました。ところで、氏は映画『三つ数えろ』をどう評しているんでしょうか。 |
No.269 | 3点 | 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン | 2010/03/09 21:06 |
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プロットはやはり主にダネイが考えたのでしょうが、実際の執筆はエイヴラム・デイヴィッドスンの手になる、骨折のため入院中のエラリーがベッド・ディテクティヴにチャレンジする作品です。しかしその結果は…
三角関係のそれぞれの辺を構成する登場人物たちに順番に容疑がかかっていくという発想自体は、悪くないとは思うのです。しかし、最初の容疑者はともかく、その後もただむやみに逮捕を繰り返していくだけのクイーン警視の捜査ぶりは乱暴すぎます。 それに、こういう展開ならば最後にもっと鮮やかな意外性ある解決(たとえばクリスティーのようなタイプの)を用意してくれないとすっきりできません。エラリーを登場させないで、最後までデインの視点を中心にして構成していった方がよかったのではないかという気がします。 |
No.268 | 7点 | 模倣の殺意- 中町信 | 2010/03/06 14:58 |
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創元版が出る以前、『新人賞殺人事件』として出版されていたのを借りて読んだ作品です。
創元版の解説にも書かれているとおり、当時は各章の最初に載せられていたのは日付だけではなく、それが明白な伏線になっていたのです。その伏線には早い段階で気づいたのですが、それでもカットバックを最終的にどうまとめるのか気になり、おもしろく読めました。また、その伏線自体に作者が目をつけたところにも感心したものです。鮎川哲也による書評で、「書き誤りではないかと考えざるを得ない」ところがあるとされていたのも、この点でしょう。創元版で削除されたのは、現在では露骨過ぎるからでしょうね。 しかし、たとえ全体的な仕掛けを考慮に入れなくても、アリバイや思い違いによる手がかりだけでも、それなりのミステリのアイディアと言っていいぐらいではないでしょうか。 |
No.267 | 6点 | オランダの犯罪- ジョルジュ・シムノン | 2010/03/04 20:51 |
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今回の舞台であるオランダの東北部海沿いの町デルフザイルは、シムノンがヨーロッパを周遊していた船上で最初のメグレものを書き始めた場所でもあります。オランダらしく運河が町中を流れ、船乗りたちがたむろする、初期メグレものらしい土地です。ただし季節は5月で穏やかな陽気なので、これもおなじみの霧雨や吹雪はありません。メグレを通して語られる町の第一印象は静けさです。
異国でフランス人の犯罪学者が殺人事件の容疑者になってしまい、司法警察に誰かの派遣が要請され、メグレが出かけていくことになるのです。 メグレが心理的なことではなく具体的な証拠によって捜査を進めるべきだと語るところがあるのですが、皮肉まじりではあるにせよ、メグレがこんなことを言うなんて珍しいことです。珍しいと言えば、最後に彼が関係者たちの前でクイーンみたいに厳密ではないにしても消去法推理を披露するのもそうですね。 |
No.266 | 6点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2010/02/28 08:46 |
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第2長編「ゴルフ場殺人事件」と同じ頃書かれていた14作品を集めた短編集で、すべてヘイスティングズの一人称形式です。
あと数ページ長くした方がよかったんじゃないか、と思われるような作品が特に前半かなりあると思いました。解決の意外性はだいたいクリスティーらしくきれいに決まっているのですが、推理に至る流れがあわただしく感じられ、アイディア自体よりそのまとめ方が若干弱いのです。 『エジプト墳墓の謎』では後年の『ナイルに死す』と違い、船に弱いポアロがエジプト旅行でさんざんな目にあうところが笑えました。ただしこの作品、謎解き的にはたいしたことはありません。 最後のポアロがベルギー時代の失敗談を語る『チョコレートの箱』は、たぶんこのタイプの手がかりの初めての例ではないでしょうか。最初読んだ時には感心したものでした。他には『〈西部の星〉盗難事件』『総理大臣の失踪』あたりがよくできていると思います。 |