皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1490件 |
No.270 | 7点 | 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー | 2010/03/11 21:09 |
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「ところで殺したのは誰なんだ?」
この質問には、こう聞き返したいですね。「どの殺しのことだい?」 いや、実際のところ、本作ではずいぶん人が殺されますが、その一人はマーロウによって撃ち殺されるのです(警察では不問にしますが、正当防衛とは言えない状況です)。チャンドラー自身にさえ答えられなかった(!)のは、運転手の死の真相だそうです。 いくつもの事件がごちゃごちゃからみあっているわけですが、それらの事件に一貫した連続性がないのは、ハメットの小説構成(たとえば『血の収穫』)を思わせるところがあります。しかしチャンドラーには、ハメットほど様々な要素を自然な形でまとめ上げる全体的なバランス感覚がないことは否定できません。 それにもかかわらず、読後の満足度が高いのは、個々の場面にインパクトを与える叙情性ある文章力ゆえとしか言いようがないでしょう。 翻訳は有名映画評論家の双葉十三郎ですが、会話部分に多少気になるところはありました。ところで、氏は映画『三つ数えろ』をどう評しているんでしょうか。 |
No.269 | 3点 | 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン | 2010/03/09 21:06 |
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プロットはやはり主にダネイが考えたのでしょうが、実際の執筆はエイヴラム・デイヴィッドスンの手になる、骨折のため入院中のエラリーがベッド・ディテクティヴにチャレンジする作品です。しかしその結果は…
三角関係のそれぞれの辺を構成する登場人物たちに順番に容疑がかかっていくという発想自体は、悪くないとは思うのです。しかし、最初の容疑者はともかく、その後もただむやみに逮捕を繰り返していくだけのクイーン警視の捜査ぶりは乱暴すぎます。 それに、こういう展開ならば最後にもっと鮮やかな意外性ある解決(たとえばクリスティーのようなタイプの)を用意してくれないとすっきりできません。エラリーを登場させないで、最後までデインの視点を中心にして構成していった方がよかったのではないかという気がします。 |
No.268 | 7点 | 模倣の殺意- 中町信 | 2010/03/06 14:58 |
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創元版が出る以前、『新人賞殺人事件』として出版されていたのを借りて読んだ作品です。
創元版の解説にも書かれているとおり、当時は各章の最初に載せられていたのは日付だけではなく、それが明白な伏線になっていたのです。その伏線には早い段階で気づいたのですが、それでもカットバックを最終的にどうまとめるのか気になり、おもしろく読めました。また、その伏線自体に作者が目をつけたところにも感心したものです。鮎川哲也による書評で、「書き誤りではないかと考えざるを得ない」ところがあるとされていたのも、この点でしょう。創元版で削除されたのは、現在では露骨過ぎるからでしょうね。 しかし、たとえ全体的な仕掛けを考慮に入れなくても、アリバイや思い違いによる手がかりだけでも、それなりのミステリのアイディアと言っていいぐらいではないでしょうか。 |
No.267 | 6点 | オランダの犯罪- ジョルジュ・シムノン | 2010/03/04 20:51 |
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今回の舞台であるオランダの東北部海沿いの町デルフザイルは、シムノンがヨーロッパを周遊していた船上で最初のメグレものを書き始めた場所でもあります。オランダらしく運河が町中を流れ、船乗りたちがたむろする、初期メグレものらしい土地です。ただし季節は5月で穏やかな陽気なので、これもおなじみの霧雨や吹雪はありません。メグレを通して語られる町の第一印象は静けさです。
異国でフランス人の犯罪学者が殺人事件の容疑者になってしまい、司法警察に誰かの派遣が要請され、メグレが出かけていくことになるのです。 メグレが心理的なことではなく具体的な証拠によって捜査を進めるべきだと語るところがあるのですが、皮肉まじりではあるにせよ、メグレがこんなことを言うなんて珍しいことです。珍しいと言えば、最後に彼が関係者たちの前でクイーンみたいに厳密ではないにしても消去法推理を披露するのもそうですね。 |
No.266 | 6点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2010/02/28 08:46 |
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第2長編「ゴルフ場殺人事件」と同じ頃書かれていた14作品を集めた短編集で、すべてヘイスティングズの一人称形式です。
あと数ページ長くした方がよかったんじゃないか、と思われるような作品が特に前半かなりあると思いました。解決の意外性はだいたいクリスティーらしくきれいに決まっているのですが、推理に至る流れがあわただしく感じられ、アイディア自体よりそのまとめ方が若干弱いのです。 『エジプト墳墓の謎』では後年の『ナイルに死す』と違い、船に弱いポアロがエジプト旅行でさんざんな目にあうところが笑えました。ただしこの作品、謎解き的にはたいしたことはありません。 最後のポアロがベルギー時代の失敗談を語る『チョコレートの箱』は、たぶんこのタイプの手がかりの初めての例ではないでしょうか。最初読んだ時には感心したものでした。他には『〈西部の星〉盗難事件』『総理大臣の失踪』あたりがよくできていると思います。 |
No.265 | 5点 | パリから来た紳士- ジョン・ディクスン・カー | 2010/02/25 21:42 |
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歴史もの(といっても19世紀中頃の話ですが)の『パリから来た紳士』は『妖魔の森の家』と並ぶカーの短編最高傑作と言われています。最終行のサプライズが高評価の主要因でしょうが、この点についてはもちろん気のきいた終わり方ではあるのですが盲点という感じではなく、また作品内部で完結したフェアプレイがあるわけでもないので、個人的にはそれほどまでとは思えませんでした。
その他の作品の中では、『ことわざ殺人事件』が銃殺トリックも緻密で、まとまりよく仕上がった佳作という感じで気に入っています。一方『見えぬ手の殺人』『とり違えた問題』の殺害方法の特殊性はあまり好きになれません。最後の中編『奇蹟を解く男』はそれなりにおもしろいのですが、小ネタの寄せ集めという印象はぬぐえませんでした。 |
No.264 | 8点 | 黒い福音- 松本清張 | 2010/02/22 21:30 |
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作者の代表作の一つとされる作品ではありますが、今回再読してみて、意外なほどのおもしろさを感じました。
現実に昭和34年に起こったスチュワーデス殺人事件をモデルに、キリスト教会の暗部を暴き出した本作は2部構成になっています。全体の6割を占める第1部では、第二次世界大戦直後、砂糖の闇販売に手を染めたことから犯罪の深みにはまっていく教会の状況が描かれていきます。第1部後半はほとんど、途中から登場する若い神父の視点になります。視点をいつの間にかその神父に持っていく手際も巧みで、殺人に至る心理サスペンスが見事。 第2部では一転して、スチュワーデスの死体発見から警察の調査が中心になります。容疑者が単に外国人というだけでなく聖職者であるからこそ、当時の警察の神経の使い方も並ではありません。 第2の精液など実際の事件の手がかりにあまりに忠実すぎて、作者の想像した「真相」に矛盾点が出てきているところは少々気になりますが、それでも特に第1部の迫力には圧倒されました。 |
No.263 | 8点 | 興奮- ディック・フランシス | 2010/02/18 21:07 |
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2月14日に死去した競馬ミステリの巨匠、実は競馬に興味がないこともあって、本作を20年以上前に読んだっきりでした。今回久々の再読です。
冒頭オーストラリアで牧場を営む主人公が、突然イギリス競馬界の潜入捜査を依頼されます。それで一晩考えた末に引き受ける決意を固めるところを、「常識が負けた。」という1文で表現するなど、上手いものだと思いました。アメリカ産ハードボイルドからの影響も感じられます。一応イギリス冒険小説の伝統につながるとされてはいるようですが。 レース途中で馬をタイトルどおり異常に「興奮」させながら、薬物使用の痕跡が全くないというのがメインの謎で、知的サスペンスもあります。終盤で主人公が危機に陥る原因も、意外なところが伏線になっていたりして、構成が本当にしっかりできている作品です。 |
No.262 | 4点 | メグレを射った男- ジョルジュ・シムノン | 2010/02/15 22:13 |
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原題直訳は『ベルジュラックの狂人』、その地の近くに気楽な出張に行ったメグレが撃たれて、大けがを負ってしまうところから始まる事件です。
メグレが連続殺人の犯人と誤解されてしまったり、ホテルのベッドに寝たままのメグレが、退職してその地に住んでいる元同僚やメグレ夫人をこきつかって事件の情報を収集したりと、普段の落ち着いたメグレとは一味違う皮肉めいたユーモアがある作品です。訳文のせいもあるでしょうが、同時期の他の作品より文章も軽い感じがします。 軽いのはいいのですが、最後の解決まで普段の落ち着きを欠いているように思われるところは不満です。メグレの推理は裏づけにとぼしく、説得力があまりありません。1979年に河出書房から出版されるまで、初期メグレものの中では唯一翻訳が出ていなかった理由も理解できる失敗作だと思います。 |
No.261 | 7点 | 虚構の空路- 森村誠一 | 2010/02/12 21:30 |
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冒頭に示される轢き逃げ事件と二つの殺人。この二つ目の殺人で浮かんできた容疑者には、犯行当時パリへ向かう飛行機の中にいたアリバイがあったというのが、スケールの大きさを感じさせます。
原理的には列車ものでもよく使われるアリバイ・トリックを基本としていますが、国際便であるがゆえのパスポートや搭乗手続の問題がからんできて、列車を乗り換えたりするように簡単にいかないところが巧妙に考えられています。 その偽アリバイも図解入りでていねいに解明された後になって、二つの殺人に轢き逃げ事件がやっとからんできます。それで事件は決着を見るのですが、この展開と偶然の扱いは嫌う人もいるでしょうね。 |
No.260 | 5点 | ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー | 2010/02/09 21:06 |
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ポアロもの第2作は、送られてきた事件依頼状から始まり、ポアロが出向いて行った時にはすでに依頼人は殺されていたという、いかにもな書き出しです。進んでいた時計、花壇の足跡、落ちていた手紙、ドアと鍵の問題等、手がかりを矢継ぎ早に出してくるのも、典型的な古典派ミステリという展開です。ちょっとパターンにはまりすぎているような気もしますが。
本作最大のトリックは、実は3/4ぐらいまでで明かされてしまいます。で、その後はというと『アクロイド』どころか『スタイルズ』に比べても特筆すべきアイディアがありませんし、犯人を特定する論拠も弱く、最後の謎解き部分があまり印象に残らないのです。第2の死体が出現した経緯も説明されないままです。まあ、将来のヘイスティングズ夫人が大活躍するサスペンス場面はちょっとした見どころと言えるでしょうか。 |
No.259 | 5点 | ゴッドウルフの行方- ロバート・B・パーカー | 2010/02/06 09:15 |
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ハメット研究で博士号をとった人気作家ということで以前から気になっていたパーカーですが、今年1月18日に亡くなったのを期に、スペンサー・シリーズをまずはこの第1作からと思い、初めて読んでみました。
正直言って本作を読んだ限りでは、大学構内や学生たちの描写など、ハメット(やチャンドラー)の短い文章による的確な表現に比べると細々と書き込みすぎていて、ちょっと鬱陶しい感じがしました。スペンサーの軽口も、最初のうち度が過ぎていて鼻につきます。後半はそうでもなかったのですが。 チャンドラーのまねと批判されたこともあったそうですが、それは気になりませんでした。新人作家なら、巨匠からの影響は当然でしょう。プロットはチャンドラーよりすっきりしています。すっきりしすぎて、タイトルのゴッドウルフ写本(中世の貴重文献)の行方にしてもあっけなく、『長いお別れ』等に比べてもひねりがなさすぎるのが少々不満です。 |
No.258 | 9点 | 飢餓海峡- 水上勉 | 2010/02/03 22:05 |
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水上勉がミステリを離れる間際に書いた大長編、久々の再読ですが、長さ以上の読みごたえを感じました。
今回図書館で借りた中央公論社の水上勉全集では、作者自身が解説に「犯人を出しておいたのだから、もう推理小説としては落第だと思っていた」と書いています。しかし、やはりこれは推理小説(ミステリ)でしょう。本作の大部分は、刑事たちが地道に事件を追っていく過程です。すでに聞き込みで判明したことが捜査会議で再度語られるなど、無駄とも思える重複はありますが、大きなうねりのような話の流れは、迫力が感じられます。その途中に、犯人に出会った娼婦の視点から書かれた部分がところどころ挿入されているのです。 昭和22年の強盗放火殺人事件に始まり、その事件が迷宮入りになった後、10年後に起こった殺人事件。この部分は殺し自体が描写されますが、ここだけはヒッチコック風な省略法を使った方がよかったかなと思います。ここまでで半分くらいで、警察はすぐに犯人の目星をつけてしまい、後は犯人の過去をたどり証拠をつかむための捜査になってきます。後半は犯人の性格に外側から迫っていく構成なわけです。 読み終えて何とも言えない気持ちにさせられる傑作です。 |
No.257 | 6点 | 霧の港のメグレ- ジョルジュ・シムノン | 2010/01/30 21:01 |
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初期メグレものの中では長めの作品で、章立てもいつもより少し多めの13章になっています。
タイトルどおりというか、より正確には夜霧、それも濃霧に包まれた港が舞台です。港のあるのは北フランスで時期は10月末。 その霧の中、メグレは自ら一晩中張り込みを続けたり、手足を縛られて波止場に放置されてしまったりと、今回の事件ではかなり散々な目にあいます。おまけにパリから助っ人に呼び寄せたリュカ刑事まで出し抜かれて。 事件に何らかの関係がありそうな人物たちは半ばあたりまでで出揃います(一人正体不明の人物がいますが)。パズラーではないので、単なるレッド・へリング人物はいません。ところがみんな嘘をついたり黙秘したり、リュカが途中で弱気になるほどです。舞台や事件の裏の扱いなど、全体的に『黄色い犬』との共通点を感じさせる作品でもあります。 |
No.256 | 6点 | 過去からの弔鐘- ローレンス・ブロック | 2010/01/27 20:36 |
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アル中探偵マット・スカダー・シリーズの第1作です。と言っても、本作を読んだ限りでは中毒になるほど酒に溺れているわけではありません。マーロウなどに比べると確かに摂取量はかなり多いですけれど、飲むべきでない時には飲まない自制心は完全に保っています。それよりアメリカン・ハードボイルド系の一人称形式作品としては、主役が私立探偵の免許を持っていないことの方が珍しいように思えます。
そのようなスカダーにもかかわらず殺人事件の捜査依頼を受ける状況設定は、なかなかうまく考えられています。丹念な捜査過程は、むしろ古典的なミステリに近い感じもします。まあ最後の暗い真相は簡単に予測がつくのですが、複雑な謎解きを期待すべきタイプではありませんから、それはいいでしょう。いいのですがそれでも、この原題はあまりに露骨すぎます。とはいえ、完全に意味を変えてしまった邦題はピンときません。 |
No.255 | 7点 | まっ白な嘘- フレドリック・ブラウン | 2010/01/24 12:06 |
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SFも得意とする短編の名手ということで、解説にも名前の出てくる星新一みたいな、ストンと落とすアイディア・ストーリー集だと思い込んでいるとがっかりするかもしれません。古典的なパズラーに近いものもあれば、人情話あり、心理サスペンスあり、渋いハードボイルド風ありと、様々なタイプの17作を集めた楽しい短編集です。表題作を含め、ダジャレ的な話のまとめ方がかなりありますが。
方法より理由に驚かされる足跡トリックの『笑う肉屋』から始まり、音に関する命題をショート・ショートに仕立てた傑作『叫べ、沈黙よ』、タイトルも内容もアイリッシュを思わせる『闇の女』、大ぼら話のオチを論理でまとめた『史上で最も偉大な詩』、最後にやってくれますねえの『うしろを見るな』(必ずしも最後に読まなければならないとは思いませんが)などが印象に残りました。 |
No.254 | 7点 | 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 | 2010/01/20 21:30 |
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残り1/4を切ってから、それまでにもちらちら顔を出していた鬼貫警部がやっと自ら乗り出して、犯人の2つのアリバイを崩していきます。
巻半ばで第2の殺人が起こってから、犯人の目星がつくわけですが、実はこの犯人の最初の登場は何となく唐突感があります。小説構成としては最初から怪しい気もするのですが、事件の全体像がわかってみると、犯人の思惑はなるほどと思わせられます。 巧みな偽アリバイ(と密室)を考え出した犯人も最初の殺人を含め、いくつかミスをしています。しかし、それらのミス発見からさらに調査や推理を積み重ねていくことにより、徐々に核心に迫っていくのが鮎川ミステリの醍醐味です。 ただ第2の殺人では、死体が適当な時期に発見されるかどうかが定かではないという点、犯人の計画が偶然に頼ってしまっています。まあ何とかして、いい時期にその場所に警察の注意を引き付けるという手もあったとは思いますが。 |
No.253 | 4点 | 複数の時計- アガサ・クリスティー | 2010/01/17 20:24 |
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これほどポアロの登場シーンが少ない作品は他にないでしょう。ミス・マープルものだと、そういうタイプもあるのですが。
犯人の意外性についてはクリスティーらしい企みがありますし、スパイものとの融合も悪くありません。しかし、スパイ部分であまりにも偶然すぎるところがあるのが気になりましたし、何と言ってもタイトルの複数の時計の意味はいただけません。途中、ポアロの口を通して語られるミステリ評の中に、伏線があると言えないことはないのですが。 ところでこのポアロによるミステリ評、ドイル、ルブラン、ルルー等大先輩作家は実際の作品を挙げて論じていますが、クリスティーと同世代以降の作家は、別の箇所でディクスン・カーの名前が出てくるくらいで、他はオリヴァー夫人を始め架空の名前になっています(たぶん)。シリル・クェインというのは、クロフツがモデルでしょうけど。 |
No.252 | 6点 | メグレと深夜の十字路- ジョルジュ・シムノン | 2010/01/14 21:04 |
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初期メグレものといえば、雰囲気重視の落着いた人情話という印象が強いと思います。しかし、本作の事件はコメリオ予審判事が解決できるかどうか心配するほど奇妙なもので、さらにその後の展開もシムノンにしては驚くほど派手なのです。メグレが拳銃を撃ちまくったり容疑者を何度も殴りつけるなんて、中期以降のより警察小説っぽくなった作品を含めても、めったにないことです。アクション、ハードボイルド系が好きな人に受けそうなぐらいのテンポの良さで、快適に読ませてくれます。
まあ、本作の真相はそういった荒っぽいものであったわけですが、、そのような事件でもやはり印象的な人物たちが登場し、ラスト2ページほどで描かれる事件解決約3ヵ月後の後日談にはしみじみさせるところがあるのは、あいかわらずです。 |
No.251 | 7点 | 血みどろ砂絵- 都筑道夫 | 2010/01/11 23:40 |
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粋な江戸っ子ミステリ作家といえば、泡坂妻夫とこの作者の二人できまり。
名探偵砂絵かきのセンセーを中心とするなめくじ長屋の連中が活躍する時代物ミステリ連作の第1集です。冒頭2~3行目から「長さが七十八間、つまり百四十二めーとる弱」と、外来語をひらがな表記しながら現代の読者にも親切に説明してくれる語り口が軽妙です。 岡っ引きや同心が活躍する捕物帳でないのも、いかにも都筑道夫らしいひねくれた設定です。 話は後年の「退職刑事」シリーズ等とも通じるロジック中心の謎解きですが、時代劇ならではのトリックも利用されたりしていて、楽しめます。と思っていたら、『いのしし屋敷』では推理は緻密ながらむしろハードボイルド的な筋立てになっていたり(作者はチャンドラーも好きだったそうですし)と、目先を変える工夫もあります。 |