皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.448 | 6点 | またまた二人で泥棒を -ラッフルズとバニー(2)- E・W・ホーナング | 2013/03/05 09:55 |
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先日1日に論創社からJ・K・バングズの「ラッフルズ・ホームズの冒険」が刊行された
J・K・バングズを御存じ無い方も居られようが、ホームズ・パロディをかなり早い時期に書いた作家の1人で、クイーン編アンソロジー「ホームズの災難(下巻)」にも2篇採用されており断片的に紹介はされていた バングズには天国でホームズが活躍するシリーズも有るが、もう1つの代表的シリーズが”父が探偵で祖父が怪盗”という人物設定の「ラッフルズ・ホームズ」である 探偵の父と怪盗の祖父とは?名前から一目瞭然!全然捻りの無いストレートな命名だなぁ(笑) 「ラッフルズ」の作者ホーナングの妻はドイルの妹で、つまりラッフルズとホームズの作者は義兄弟同士だからこんな人物設定を思い付いたんだろう さてそうなると便乗企画はラッフルズでしょうね 第1巻目の最終話で一旦退場したはずのラッフルズ、見事に復活!となるわけだが、空き家で復活するホームズのような劇的じゃないのがいかにもラッフルズっぽいね 当サイトでおっさんさんも書評中で指摘しておられますが、復活してからのラッフルズが髪が白くなったりで急に老けてしまったのには驚いた 第1巻目での”青春怪盗ミステリー(そんなジャンル有るのか?)”的な初々しさが失われた代わりに、第2巻ではベテラン怪盗風に変化しているのが笑える ただしラッフルズがプロっぽくなった割にバニーのアマチュアっぽさは相変らずだが でも相棒バニーも精神的には成長しており、おっさんさんの御指摘通りやはりこれラッフルズとバニーの成長物語・友情物語と捉えるのが正解なんでしょうね、そう考えると俄然面白くなってきた また第1巻に比べて、単なる怪盗譚から逸脱している短編が多いのも面白かった |
No.447 | 6点 | バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル | 2013/03/04 09:58 |
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先月27日に創元文庫から「バスカヴィル家の犬」の新訳版が刊行された、まぁ他社から新訳が次々に出ている現状では創元の旧訳版は古かったからね、新訳は遅かったくらいだよね
今更だがドイル長編の中での「バスカヴィル家」の特徴は、前2作のような2部形式構成を採用していない点である また怪しげな館が舞台だったりオカルト伝説を雰囲気作りに使用したりと、現代の本格読者に好まれそうなガジェットが目立つ 一方で謎解き面で見ると、犯人の意外性などは重要視されていない、犯人の意外性云々だけで言うなら例えば「緋色の研究」などの方が意外なくらいだ 「緋色の研究」「四人の書名」は後半が過去の因縁話なのでドイルの伝奇小説・冒険小説面が出ているように思われがちだが、表面的には当時の大都会ロンドンで起きた三面記事的事件に過ぎず単に海外での因縁話がロンドンに影を落としているだけなのだ また何と言っても初期2作には犯人逮捕場面など前半部だけなら短編的な切れ味が有るが、そういう点では「バスカヴィル家」は話自体が短編形式では書ききれなくて長編で書かれたのも納得だ 刊行年的には初期2作が「ホームズの冒険」以前に書かれているのに対して、「バスカヴィル家」は「回想」と「生還」の間に書かれている ホームズ短編連作で一躍名を上げた以前と以後に書かれたものとの相違なんだろうな、やはり書かれた時期への考察は重要なんだなと思った そして「バスカヴィル家」のロマン性を見るとドイルの本質はやはり伝奇ロマンス作家なんだと思わずにいられない |
No.446 | 4点 | 桃のデザートには隠し味- リヴィア・J・ウォッシュバーン | 2013/03/01 09:57 |
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* ”桃の節句”も近いからね(^_^;) *
と言っても、桃の節句の”桃”というのは花を愛でる桃なんだけど、ここでは食べる実の方ね、そもそも本来の節句は旧暦なので花の時期そのものがズレているんだが グルメ系コージー派 コージー派の主人公は案外と若い女性ではなくてアラフォーだったりそれもバツイチだったりとかが一般的に多いんだけど、このシリーズの主役は退職した元教師でそこそこ高齢なのが特徴だ 料理の方もプロじゃなくて料理コンテストに応募するのが生甲斐のアマチュア、て言うか登場人物全体に何らかの職業プロが少なくてアマチュア的立場の人が多い 私の印象なんだが、本格派しか読まないタイプの読者って、何て言うのかなその道のプロの世界の薀蓄みたいな要素を嫌う傾向があるんだよな その点で、プロ職業上の薀蓄を持ち込まないこの作家は本格オンリーな読者受けし易い気がする また少々あざといが、どんでん返しにこだわった謎解き面でも、コージー派作品に対して古典本格の視点で評価する読者やコージー派に偏見を持つような読者にもに合いそうな感じである 逆に言えばコージー派視点で言えば、私はレスリー・メイヤーとかダイアン・デヴィッドソンとかの方が好きだなぁ |
No.445 | 6点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2013/02/27 09:59 |
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本日27日に創元文庫からD・M・ディヴァイン「跡形なく沈む」が刊行となる
ディヴァインの出版上の最終作は「ウォリス家の殺人」だが、「ウォリス家」は作者の死後に刊行されたもので実際の執筆はもっと早くて生前はお蔵入りになってたとも言われている、つまり実質的な最終作は今回出る「跡形なく沈む」であろうと思われる 「跡形なく沈む」が実質的最終作ならばデビュー作が「兄の殺人者」である 私が今は無き教養文庫でディヴァインを初めて読んだのもこれだった、現在のような人気作家になる以前で”このミス”で高評価だったのが理由だが、当時は一部のマニアしか知らぬ存在だったのになぁ、後に創元文庫から復刊されるとはねえ これを読んだ時はびっくりした、初めての作家だったのでどんな風に仕掛けてくるのか得体が知れなかったからね あぁこういう風にくる作家なのね、と知ってから「ロイストン事件」や「五番目のコード」を読むと、案外と仕掛けが見えちゃってガッカリした プロットが複雑なのは作者の特徴であって決してデビュー作だからが理由ではない、なぜなら「ロイストン事件」なんかもっとゴチャついていて整理されてないし てなわけでその作家の初めての作なので印象が強烈で、ちょっと採点は甘いかも知れない それと私は解決編で容疑者全員を一堂に集めて探偵役が謎解きを披露という、クリスティがよく使う解決場面の演出が基本嫌いなのだが、この作品ではその手法が効果的だった 「五番目のコード」が仕掛けがはっきりしていて慣れたすれからし読者なら容易に見破れる作なのに対して、「兄の殺人者」は慣れた読者だと変に考え過ぎてしまい、かえって素直な初心者の方が見破れるかも知れない |
No.444 | 1点 | 四十面相クリークの事件簿- トマス・W・ハンシュー | 2013/02/25 09:55 |
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本日発売の早川ミステリマガジン4月号の特集は、”「シャーロック」 とそのライヴァルたち”、BBCドラマの主演俳優来日記念との連動企画なんだろう
そこで便乗企画として”ホームズのライヴァルたち”の中から1つ 以前からホームズのライヴァルたちという分野に関してよく出版社にリクエストされる顔触れが有ってだね、特にダンセイニのリンリー氏ものとこの四十面相クリークなどはその筆頭だろう 四十面相クリークの場合はは乱歩の例の怪人の原型だからという理由も有るんだろうけどね この両者にはある共通点が有るんだけど皆様お解りでしょうか? それはですね、アンソロジーで断片的に読める短編が有って、まぁ上記の顔触れだと「二便のソース」と「ライオンの微笑」がそれだね この両作は作中のトリックに特色が合って、他のシリーズ短編も読んでみたいという思惑からリクエストするんだろうと推測する つまりですね、この両者をリクエストしてた読者層ってのは、トリックにしか興味の無いタイプの読者が多いと思われるんだよな 私はこの風潮が気に入らないんだけど、じゃぁお前は何をリクエストするんだ?と言われそうだからそれはまた後で でこの『四十面相クリーク』だが、これが酷い代物でして その前に、四十面相クリークは怪盗なのに何でホームズのライヴァルなのかというと、改心して警察に協力するわけだ ところが序盤の怪盗シーンの方は面白いのに、探偵役に転身すると全く駄目、何しろトリックが鍵を握る話が多いのに、そのトリックがつまらないからだ ミステリーの原則に、未知の毒薬とかを使用しちゃいけない、みたいなのが有るが、まさにそれ使っているんだもんな 冒険ロマンス的要素も盛り込まれているが、これも読んでて恥ずかしくなるレベル カーは四十面相クリークのファンだったらしく、なるほどカー作品の冒険ロマンス要素の源泉はこれだったのかも、しかしカーの冒険ロマンス調の作には時々つまらないのが有るが、こんなのに影響されたのが良くなかったんじゃねえの?(笑) デビューは怪盗ルパンの方が先だが、怪盗から探偵役に転身というパターンはむしろ四十面相クリークの方が早かったんじゃないかなぁ、ルパンの方がクリークに影響を受けたと思われるが、でもルパンが探偵役の連作短編集『八点鐘』の方が数段マシな気がする 結論として『四十面相クリーク』は、私が読んだホームズのライヴァルたちの中で最もつまらなかった こんなのを優先するのなら、論創社や創元など各出版社には次に挙げるライヴァルを選んで欲しいものだ L・T・ミード&ハリファックスの「医学探偵ハリファックス博士」 マクドネル・ボドキンの「親指探偵ポール・ベック」 アーサー・B・リーヴの「科学者探偵クレイグ・ケネディ」 マクハーグ&ボルマーの「心理分析探偵ルーサー・トラント」 F・テニスン・ジェシーの「霊感探偵ソランジュ」 オクティヴァス・ロイ・コーエンの「はったり探偵ジム・ハンヴィ」 etc |
No.443 | 4点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2013/02/21 09:56 |
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本日21日に創元文庫から「ベンスン殺人事件」の新訳版が刊行される、創元では3年前の「僧正」に続いて日暮雅通氏による久し振りのヴァン・ダイン新訳切り替えである
好き嫌いは分かれようが旧訳の井上勇訳は嫌いじゃなかったんだけどね、まぁ古いからね仕方ないよね さて「ベンスン」の私の点数が低いのはミステリー的に出来が悪いからで、これは否定しようが無いから仕方ないのだが、でも実は私は「ベンスン」は擁護したい作なのだ そのポイントは心理的探偵法への擁護なのである 某超有名掲示板で某有名固定ハンドルの方が居られてだね、あっ、あの悪名高きお方じゃなくて大量に読後感想文書いておられるもう1人のほうね、でさその方の初期の感想にこんなのがった 作品名は忘れたが、”心理的探偵法は合わない、やはり物証じゃなければ”、みたいな事を書いていた その方だけじゃなくてもさ、探偵役が心理的に犯人を指摘すると、”それだと裁判で有罪には持ち込めない”、みたいな事を言う人がよく居る しかし私はこれらの意見には真っ向から反対の立場なのだ そもそも探偵役が裁判で有罪とするに足る証拠を提出しなければならない必要性が有るのだろうか? ”犯人を絞り込む”、という事と、”裁判で有罪にする”、とは全く別次元の問題だ、後者の担当は検事である 検事が探偵役ならともかく、探偵役は犯人を指摘したら後は検事に引き渡せばいいのであって、裁判に勝てるかどうかは検事の仕事である そしてだ裁判で有罪の証拠で大きいのが”DNA鑑定”である、細かなロジックなんかよりDNA鑑定一発で決まりって事件もある そう言うとミステリー小説に於いてDNA鑑定や科学的分析を持ち込んだら味気無いと言う人が必ず出てくるんだ しかし如何につまらなかろうが、裁判で勝つには科学的分析を挙げる方が手っ取り早いのである さてそう考えるとだ、探偵役が犯人を指摘する段階においては、心理的だろうが物証的だろうがどっちでもいいわけだ、探偵役の推理を裁判で使うわけじゃないんだから だから私はヴァン・ダインの心理的推理法が駄目だとは思わないのである 今では本国でも忘れられた作家ヴァン・ダインだが、本格長編黄金時代の幕開けに貢献した作家の1人として、従来の探偵法とは一味違う手法で独自性を主張しようとした意気込み自体は買えると私は思うのだよな ヴァン・ダイン作品では探偵役・地方検事・警部とのトリオで捜査する割には、裁判にならない結末が多い 一方クイーンは探偵役クイーン君が裁判で推理を披露する作品が有ったりするのだが、そう言えば父親の警視は登場するけど重要な検事役って居ないよな、例外的なあの1作は除いてね(笑) なんかさぁ、クイーンよりヴァン・ダインの方が現代ミステリーにも通ずる新しさを内蔵してた気もするんだよなぁ |
No.442 | 7点 | バレンタインは雪あそび- レスリー・メイヤー | 2013/02/14 09:58 |
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* 季節だからね(^_^;) *
ドメスティック系コージー派として、ジル・チャーチルの主婦探偵ジェーンシリーズを継ぐレスリー・メイヤーの主婦探偵ルーシー・ストーンの第5作目 このシリーズ、ジェーンシリーズよりも生活描写にリアリティが感じられて私は好きなシリーズである、コージー派には珍しいちょっと効かせた社会派スパイスも良い シリーズ第1作「メールオーダーはできません」はやや謎解き部分が弱かったし、前作「ハロウィーンに完璧なかぼちゃ」では謎解き部分の出来は一番上だがプロットがごちゃついていて整理されてない印象が有った しかしこの「バレンタインは雪あそび」はその辺の総合バランスが取れていて、犯人の意外性が乏しい弱点以外は読んだシリーズ中では最も出来が良いように思えた |
No.441 | 8点 | 緋色の記憶- トマス・H・クック | 2013/02/08 10:04 |
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明後日10日に早川からトマス・H・クック「キャサリン・カーの終わりなき旅」が刊行予定
クックと言えば文春文庫のイメージだったが、版権が早川に移っての2作目ということか クックの”記憶シリーズ”は原題に”記憶”が付くのはシリーズ第1作目の「死の記憶」くらいで、文春が勝手に題名を統一しているだけだ シリーズ第2作「夏草の記憶」の原題は直訳すれば”心臓破りの丘”だし、この第3作「緋色の記憶」にしても原題は単純に”チャタム校事件”と味気ない しかしこの「緋色の記憶」は、記憶シリーズ以前の初期作から徐々に評価が高まり候補には挙げられながらなかなか賞を取れなかったクックがついにMWA賞を受賞した代表作とのことだ うん、前作「夏草の記憶」では候補止まりだったが次の「緋色」で受賞したのは肯ける 「夏草」でもあるサプライズが有るのだが、あざとい割には大きな効果を挙げていないように感じた しかし「緋色」では物語自体は終盤までは単調な恋愛話だが、かえってその単調さが終盤のサプライズを効果的にしている さらにこれは日本の読者から見てだが、「夏草」では舞台であるアメリカ南部の土着の風土や歴史的背景がテーマと密接に関わっており、これが日本人にはちょっと分り難いテーマなのもマイナス要因だった しかし「緋色」では、舞台のアメリカ北東部の寒そうな風景が雰囲気の盛り上げに一役買っているものの、それがテーマと大きく絡んではおらずテーマ自体が普遍的なので、日本人が読んでも分り難いという事は無い、文句無くお薦めの作品である |
No.440 | 6点 | ケープコッドの悲劇- P・A・テイラー | 2013/02/05 09:56 |
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某超有名掲示板でロジャー・スカーレット「白魔」の新訳復刊を待っているという書き込みが最近有ったが、今の海外古典のファンってそうなんだよなぁ
今では本国でも忘れ去られたような作家や残った未訳作ををやれ復刊しろ翻訳しろとかうるさいくせに、本来ならミステリーの歴史上重要な作家なのに誰もリクエストもしないで不当に無視されている作家も数多い フィービ・アトウッド・テイラーもそんな1人である 刊行前の論創社のTwitterでもテイラーの話題なんて出版関係者以外全然出てなかったしなぁ テイラーはヘイクラフトやクイーンの名作リスト表にも名前が載っていて、黄金時代アメリカン本格を語る際には落とせない作家の1人である にもかかわらず、スチュアート・パーマーと並んで誰もリクエストしたがらない不当な扱いを受けてる作家の代表格で、本来ならとっくに翻訳されていてしかるべき作家だった パーマーはコージーっぽいという意見も他のネット上で見たが、どちらかと言えばユーモアミステリーの先駆者としてクレイグ・ライスなんかに通ずる系譜だと私は思う コージーっぽさならこのテイラーの方がコージーな雰囲気を持っていて、テイラーを先駆として黄金時代後期のレスリー・フォードを経由してマクラウドで現代コージー派が成立したんじゃないかなぁ でも「ケープコッド」は書かれたのがまだクイーンもカーもデビューした頃の1931年の作なので、いかにもなアメリカン本格黄金時代らしさも持ち合わせている、ちなみにパーマーのデビュー作「ペンギンは知っていた」も同じ1931年なんだよねえ 探偵役のアゼイ・メイヨも味が有って、いかにもこの時期の本格黄金時代風だ ちなみに私は犯人を当ててしまった、完全に直感なんだけど中途で何となく自分が作家だったらこの人物を犯人に設定するけどと思ったらその通りだった それにしても日本の海外古典マニアって、テイラー、パーマー、レスリー・フォードみたいな作風の作家達には目を向けないんだよなぁ、誰もリクエストしないし、各出版社頑張って欲しいよ スカーレットみたいなどうでもいいマイナー作家はともかく、C・D・キングやアフォードみたいな作風だけが翻訳すべき作家じゃないのだが、日本の海外古典本格ファンってのは、よくよくお屋敷もの館ものと不可能興味とトリックしか求めてないんだなとガッカリしてしまう ところで論創社の全集も101巻目となりカバーデザインが変わったが、新しい装丁はセンスが有って良いねえ、ロゴマークも旧タイプの素人臭かったエンブレムと違って新しいロゴマークの方が断然良い |
No.439 | 8点 | 見知らぬ顔- アン・ペリー | 2013/02/01 09:57 |
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先日29日に同じ創元文庫からマクロイ「小鬼の市」と同時発売でアン・ペリー「護りと裏切り」が刊行された
どうせ注目はマクロイだけに集まっちゃうんだろうけど、あの記憶喪失探偵モンク警部シリーズが今になって刊行されたのにはちょっと驚いた、見捨てたわけじゃなかったんだな創元 現代英国ミステリーは歴史ミステリーの宝庫である、例の森事典で森英俊氏が”英国歴史ミステリー御三家”と呼ぶエリス・ピーターズ、ポール・ドハティ、リンゼイ・デイヴィスの3人に加えて、それらに次ぐアランナ・ナイト、そしてこのアン・ペリーの2人を加えた5人衆が森事典で紹介されている ただしこの中でリンゼイ・デイヴィスだけは本格じゃないので森事典の本格派編じゃなくて姉妹編の方に載っている 上記の5名に加え最近創元が精力的に紹介しているピーター・トレメインを加えて英国歴史ミステリー六歌仙ってところか、あと1人入れれば七福神だな(笑) アン・ペリーには作者を代表するもう1つのシリーズであるピット警部シリーズが集英社文庫から2冊、そしてモンク警部シリーズが創元文庫から2冊出ただけでずっと翻訳が止まったままだった 地味な作風だしそもそも日本の読者に歴史ミステリーというのがあまり受けなかったのが原因なのかなぁ、だから今回モンク警部シリーズの3作目が今頃になって翻訳刊行となったのは意外だった そのシリーズ第1作目が「見知らぬ顔」である、題名の由来はもちろん探偵役のモンク警部が記憶喪失である事から来ている この設定が物語の中で最大限の効果を挙げており、単なる奇を衒った探偵役とは全く違う傑作である 地味ながらなかなか読ませるし、地味好きな私としては嗜好にかなり合う作品である |
No.438 | 7点 | ひとりで歩く女- ヘレン・マクロイ | 2013/01/29 09:55 |
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本日、創元文庫からヘレン・マクロイ「小鬼の市」が刊行される
これは「家蠅とカナリア」の翌年に書かれており、マクロイが楷書体な本格から行書あるいは草書体風のサスペンス色を取り入れた作風に変化する過渡期の作とのことだ 戦後に「暗い鏡の中に」などサスペンス風本格に完全移行する前段階での最初の時期らしく、御馴染みの探偵役ウィリング博士と、後に単独出演となるウリサール警察署長との競演というのが珍しい ウィリング博士は作風が変化した戦後作にも何作かは引き続いて主役を務めることにはなるのだが、マクロイが方向性を見定めようとして迷ってた時期なんだろうかね さて「小鬼の市」ではウィリング博士と競演したウリサール署長が、単独出演として再登場するのが「ひとりで歩く女」である 過渡期の作らしく、まず異色なのは事件が起きて捜査してという普通の本格のパターンを採っておらず、前半などはある女性の視点を通した一人称サスペンス小説そのもののような設定になっている事だ 一人称の手記というと読者はどうしても叙述トリックを疑ってしまうが、マクロイは流石だなと思うのは、序盤で手記の執筆者に、”この手記を読まれる方はわざとこれを書いたのでは?とお疑いになるかもしれませんが”、みたいな事を書かせている つまり作者は読者側の疑いなど先刻承知なのだ この為、読者からすると単純な叙述トリックかどうか疑心暗鬼に陥ってしまい、叙述トリックに見せかけたトリックなのかと裏の裏を読もうとするが、さらにそれすら作者の罠なのではないかとも思えてくる 「ひとりで歩く女」の優れているところは、最初から”この手記は怪しいわよね”と書いた人物自身に言わせているところで、すれからしな読者ほど作者の意図が見抜けなくなってしまうところで、書かれた時代を考えるとやはりマクロイってのは時代の先端を行ってたなぁと思わざるを得ない |
No.437 | 6点 | 007/わたしを愛したスパイ- イアン・フレミング | 2013/01/25 09:56 |
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先日22日に常盤新平氏が亡くなった、謹んで御冥福をお祈りいたします
常盤新平と言えば早川ミスマガの前身日本版EQMMの3代目編集長として知られている、ちなみに初代は泣く子も黙る都筑道夫、2代目が生島治郎である 編集者としての常盤新平は、現在の早川NV文庫の前身ハヤカワノヴェルズを立ち上げたりニューヨーカー短編集の編纂など、ミステリーの枠を広げた業績が光る、ちなみにノヴェルズの第一弾が当時の新鋭スパイ小説ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」だった EQMM元編集長という肩書きにしては、早川書房退社後の評論などの著作活動に於いてもミステリー関連の著作が少ないのが特徴だ 後継の4代目編集長が狭い意味でミステリーの鬼的な各務三郎だっただけに、常盤新平は言わば異色の編集長だったのだ、ちなみに現編集長は女性の方なんだよね 本日発売の早川ミステリマガジン3月号の特集は、”わたしの愛した007” 昨年末に日本封切り公開となった007新作映画「スカイフォール」への便乗企画だろう、007映画も含めた識者アンケート記事が目玉かな さて特集記事の名前の元ネタがフレミングの「007/わたしを愛したスパイ」である この作はシリーズ随一の異色作で、視点となる主人公をボンドではなく失恋の傷心旅行中に事件に巻き込まれる若い女性に設定し、その女性から見たボンド像として描いているのだ ただしこの作、内容的にシリーズ映画向きじゃ無いから、同名の映画では全く別物に変えていて、ロジャー・ムーア主演の中では最高傑作とも言われている ちなみに(今回はこのフレーズが多いな‥苦笑)、歴代の映画の中で個人的に高評価なのはティモシー・ダルトン主演の「リビング・デイライツ」だな、題名は短編から採ってるんだけど ちなみに(またか)、ボンドガールで好きなのは「死ぬのは奴らだ」に出演のジェーン・シーモアかなぁ ついでに余談だが「わたしを愛したスパイ」でクールなボンドガールを演じたバーバラ・バックの現夫は元ビートルズのリンゴ・スターだってのは知らなかったな |
No.436 | 6点 | 掏替えられた顔- E・S・ガードナー | 2013/01/22 09:57 |
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昨年に引き続いての私的読書テーマ、”船上ミステリーを漁る”の1冊
そう言えば前作「カナリヤの爪」のラストで、これから船旅に出発という場面が有ったなぁ ペリー・メイスンのシリーズで船上ミステリーというのは珍しいが、ただちょっとこれは純然たる船上ミステリーとは言い難いな たしかに前半では、メイスン一行がハワイ旅行からの帰途中に船上で事件は起こるのだが、後半ではカリフォルニア州に着いちゃうんだよね つまり前半は船上、後半は本拠地に帰っていつものシリーズらしい展開になる 後半では秘書デラに関したサスペンスも盛り込まれているんだけど、総合すればいつものガードナー節で特に異色作と言う感じはしなかったなぁ 数多いシリーズ作の中でこの作品を読んだのは、例の森事典でシリーズ中でも秀逸だと書かれていたからだ 題名の由来は、別に首無し死体の首がすり替えられたわけじゃなくて、写真の中の顔が替えられてただけなんだけどね 別に変装トリックとかじゃないから安心してください(笑)、昨今は変装トリックをやたらと忌み嫌い読者も居るようだからね 森事典ではすごい傑作みたいに解説されてたけど、う~ん、いつも通りの水準なんじゃないかなぁ、まぁ一部しかシリーズ作品読んでないんで水準のばらつき度が分からないんだけどね(微笑) |
No.435 | 7点 | ゴーリキー・パーク- マーティン・クルーズ・スミス | 2013/01/15 09:57 |
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冬のモスクワ市内ゴーリキー・パーク、雪の下から男女3人の射殺死体が見つかる、死体から顔と指が切り取られていて身元を隠そうとしたようだ
人民警察のレンコ主任捜査官が捜査を始めるとある女性と出会う・・・ 昨年に引き続き私的マイブームの1つ、”スミス姓の作家を漁る”の一環 旧ソ連が舞台という事で、これもスミス姓の作家だが後のこのミス話題作トム・ロブ・スミス「チャイルド44」の先駆的作品がこのマーティン・クルーズ・スミスの「ゴーリキー・パーク」である 名作との噂は前々から聞いていたので私としては「チャイルド44」の前哨戦に是非読んでおきたかった作品だ 文庫上巻の前半は私好みのゆったりとした捜査小説そのものなのだが、下巻の後半に入ると物語・舞台は一変し、当初からは想像出来ない方向へと向かう おそらくはこの定型を外した不思議なプロットが魅力なのだろう、CWA賞受賞もそうした要素が評価されたのではないかな ジャンル投票に於いては他にしっくりくるジャンルが無いので仕方なく警察小説に投票したが、全編通して見ると厳密には警察小説とは言い難く、さりとて”諜報情報小説”というのもちょっと違うようなほとんどジャンル分類不能な話である |
No.434 | 7点 | 納骨堂の奥に- シャーロット・マクラウド | 2013/01/08 10:00 |
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コージー派の元祖シャーロット・マクラウドには2つのシリーズが有って、1つは言うまでもなく農業大学構内を舞台にした”シャンディ教授”シリーズだが、もう1つの作者を代表するシリーズが若きヒロイン”セーラ・ケリング”のシリーズである
当サイトでジャンル投票システム導入の際、私は本格とコージー派の分離を提言主張したのだがその真意は次の通りだ 私はコージー派に対して、カーやクリスティなどの古典本格黄金時代の作品群と同じ視点・基準で採点するのは良くないと思っている だって書かれた時代も全然違うしコージー派作家側も古典本格とは異なった視点で書いているわけだし、伏線の回収がどうだのロジックで犯人を指摘しているかどうかなどという基準で採点していたらコージー派作品は全部4~5点になっちゃうしね(笑) コージー派は独自の基準で採点することによって、あくまでもコージー派の枠内で10点もあれば1点もあるという考え方である したがってジャンル投票に於いて、コージー派作品にはなるべく良い意味で本格ではなくコージー派のレッテルを貼るようにしている、それは本格とは異なる基準で採点する為だ ところがセーラ・ケリングもの第1作目「納骨堂の奥に」だけは本格にジャンル投票した、だってこれコージー派作品とは言えないもん 全編に渡って暗くほろ苦い話の連続で、これが能天気なシャンディ教授シリーズと同じ作者が書いたものとは思えない セーラ・ケリングシリーズは2作目以降は普通のコージー派っぽくなっていくらしいのだが、第1作目だけは異色である いったいこの第1作、シリーズの導入編として初期設定を整えるだけの為に書かれたのか、それとも当初は単発ノンシリーズとして書かれたものを好評によりシリーズ化したのか、判断に迷うところだ 「納骨堂の奥に」には素晴らしい秘密文書の隠し場所トリックが含まれており、実は採点として8点位付けようかと思ったのだが、ジャンルを考えると迷ったのだ コージー派にジャンル投票してしまうとコージー派ならではの魅力には乏しいし、そうかと言って本格だけで見るとやはり7点くらいかなぁという感じだし でも両ジャンルのボーダーライン上の作品として見たら8点はいけますよ、その位この設定を存分に活かしたコージー派らしい文書隠蔽トリックには驚いた、あっ、そうなるとやはりコージー派にジャンル投票すべきだったか(苦笑) |
No.433 | 7点 | 納骨堂の多すぎた死体- エリス・ピーターズ | 2013/01/08 09:56 |
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昨年2012年が生誕100周年の作家は数多くて生年に関しては当たり年って感じだったが、今年2013年と来年に生誕100周年を迎える作家は非常に少なく2年続けての少数派となりそうだ
今年の私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第1弾はエリス・ピーターズだ エリス・ピーターズと言えば言うまでも無く”修道士カドフェル”だが、カドフェルシリーズを書き出す以前の作者を代表するもう1つのシリーズがフェルス一家シリーズだ しかしカドフェルが軌道に乗るとフェルス一家シリーズは永遠に中断したままになってしまったのである、これは大変に残念なことだと今回初めてフェルス一家シリーズを読んで思った 何と言っても登場人物達が活き活きと活写されているのが良い、この人物描写の見事さは後のカドフェルシリーズを彷彿とされる、まぁ晴天下のフェルス一家、曇天下のカドフェルという雰囲気の違いは有るが、個人的にはカドフェルのちょっと暗い雰囲気の方が好きなんだけどね しかし上記で述べた活き活きした登場人物、謎解き面での見事さ、総合的に見てフェルス一家も全く遜色ない 強いて注文を付ければ、納骨堂と海岸線など周辺の地理的位置関係が若干分り難いので、略地図を付けてくれるとより良かったかな |
No.432 | 6点 | 死体が多すぎる- エリス・ピーターズ | 2013/01/08 09:55 |
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* これは過去に書評済だが一旦削除して再登録(^_^;)
今年はエリス・ピーターズ生誕100周年である 修道士カドフェルシリーズ第2作 はっきり言って本格としての魅力は薄く、ひたすら物語に浸るという読み方が正しいシリーズで、作者も謎にこだわることなく、どんどんと物語を進めていく こういった話の進めかたが苦手で謎の吟味に頁数を割いて欲しいタイプの本格主義読者には全く合わないが、物語中心の本格というのもありだと思う、これが作者の持ち味なんだろう シリーズ第1作「聖女の遺骨求む」は後続の作品群とはやや異質なので最初に読むならこの第2作「死体が多すぎる」から入門するのがベストな選択 後のライヴァルであり盟友のヒュー・べリンガーが初登場でもあるし ただし第2作目以降の作では、スティーヴン王と女帝モードとの12世紀イングランド内乱という歴史的背景は基礎知識として持っている必要がある、まぁこの辺は解説に概要が書かれているが ところで死体が多過ぎる謎は帰結であって発端なのは逆だ、みたいな事を言う書評も某有名掲示板で見た事が有るが全く賛成出来ない そんな事を言うのは、チェスタトンの某有名な短編ネタの発想であろうが、それは視点を間違えている 死体が多過ぎるのは真相ネタでは決してなく、あくまでもカドフェルが事件に関わるきっかけだからこれでいいのだ |
No.431 | 5点 | このミステリーがすごい!2013年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/12/31 09:51 |
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座談会も復活して昨年版に比べたら読み応えは多少有ったかな
初めて巻末書き下ろし短編というのを試しに1作読んでみた、作者はこのサイトでもたまに書評が上がる中山七里 さり気ない伏線とかそこそこ面白かったよ、それにしても”中山七里”って、岐阜県の恵那地方あたりにそんな名所が有ったような 記事はまぁまぁだったが今年のランキングは正直盛り上がらないなぁ、昨年度にはフォン・シーラッハ「犯罪」とかちょっと食指が動くのが有ったんだけど、今年は読みたいと感じるのが無い 強いて言えばkanamoriさんも書評されていた5位のデュレンマット「失脚/巫女の死」かなぁ、デュレンマットと言えば昔に早川文庫から長編が出ていたはず 例年に比べて今年度のランキングは全体的に小粒と言うか、この1作的な大物感に欠けている印象 それと過去のランクイン作家が20位までだとかなりを占め、良く言えば手馴れて堅実、悪く言えば新鮮味に欠けたランキングだ さてと恒例の”我が社の隠し玉”いくか 小学館: イチ推しはギリアン・フリンとベリンダ・バウアーか、小学館文庫自体が話題になっていないのが可哀想 講談社: ハリー・ポッター以外のJ・K・ローリングはまぁ別格として、コーンウェル、コナリーと毎度御馴染み路線、ゴダードのは新作? 扶桑社: タイプミスするとたまに”負傷者”になるんだ(苦笑) スティーヴン・ハンターとか予定されてるが、やはり一番の注目は扶桑社版異色作家短篇集のミニ全集、ラインナップが知りてえなぁ それより扶桑社よ、リチャード・ニーリイの新刊はどうしたんじゃ?、別に読みたい作家じゃないが書評のタイミング待ってたんだぞ!、延期かよ 集英社: 話題性は地味だけど、CWA受賞作とか意外と良い仕事してるやんけ フィンランド、イタリア、スペインと国際色も豊か 光文社: 昨今はミステリー出版社と言うより、一般文学の”古典新訳文庫”の方が目立っているよな(笑)、来年はブラックウッドか でもブラックウッドは創元文庫から既に名作選が出ているしなぁ、私の希望としてはレ・ファニュ「サイラス伯父」なんか新訳で出してくれたら即買いますよ 東京創元社: アイスランド、スウェーデン、フィンランドと引き続き北欧ブーム、ドイツもね でもそれよりオーストリアのホームズことバルドウィン・グロルラー「ダゴベルト探偵」がついに登場か さらに藤原編集室の企画でE・C・R・ロラックの最高傑作との噂が有る「悪魔と警視庁(仮題)」も衝撃的 原書房: かつては不可能犯罪マニア御用達出版社のイメージだったが、今ではコージー専門文庫を出すなど、良い意味で守備範囲を広げたねぇ、竹田ランダムハウスがアレだからね 国書刊行会: 今年はバトラー「ファイロ・ガッブ」とか良い仕事してくれたんだが、来年は休止なの? 新潮社: 慎重に安定作家だけでなく、話題作も出してくれる新潮社、ミステリー専門出版社以外では文春や角川と並んで貢献度は高い 来年は北朝鮮が舞台の作だとか、イアン・ランキンの新シリーズとか、あとオッ!と思ったのがジェイムズ・M・ケインの幻の・・って気になる 竹田ランダムハウスジャパン: ここ生きてるの? だって倒・・・ 論創社: 正直言って今年出たのにはあまり魅力的なのが無かっただけに、一転して来年はスゲえ~ことになりそう、 待ち焦がれたフィービ・アトウッド・テイラー「コッド岬」がついに読めるのか デ・ラ・トーレ、パーマー&ライス、ホワイトチャーチなども待ち遠しいが、えっ!と思ったのがドロシー・ボワーズ 同じドロシーで第2のセイヤーズとも言われるドロシー・ボワーズに目を付けるとは、やるな論創、名前だけは知っていたが本来は創元あたりが目を付けそうな作家だと思う TwitterでアフォードやABC3部作とかリクエストしてる連中の嗜好とはズレているな、社内内部企画なのかな? 早川書房: 一昨年来ポケミスが絶好調だけに大きな路線変更は無いようだ、ノンシリーズが文庫では既刊だったルへインがポケミス初登場くらいかな TVドラマの小説版「キリング」ってそんな話題になってんの? 文藝春秋: 文春てさ、重厚感と小粋さとを併せ持った独特の社風が有るよな 一方ではS・キング、ディーヴァーと相変らずの大物路線 しかし一番気になるのは、後味の悪い厭ミス短編だけを集めた超不快アンソロジーだ、2月頃に刊行予定だがこれは絶対・・多分買う ヴィレッジブックス: アイルランド路線、出版社同士の契約でもしたのかな? 角川書店: トリは今年も角川、わざと回答遅らせて狙ってるな(笑) 角川もドイツか、それと昨年から妙にSFミステリーに力入れてるが編集者替わった? 以上来年も面白そうな新刊を期待したい では皆様、来年も良いお年を |
No.430 | 8点 | 八百万の死にざま- ローレンス・ブロック | 2012/12/27 09:56 |
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発売中の早川ミステリマガジン2月号の特集は、”あの探偵を追いかけて”
特定はしていないが特集の主旨から見て、今年久々に刊行された私立探偵マット・スカダーを想定しているんだろう ”このミス”でもローレンス・ブロックの来日記念インタヴュー記事が設けられており、ミスマガも特集組んだというところだろうね 私は体質的にアルコールが駄目なので当然ながらアル中の話が苦手だから、ブロックの他のシリーズは試しに1冊づつ読んでみたが、スカダーものだけは手を出さずにいた しかし読んでみると禁酒治療中との事で酒を飲むシーンは少ない、なんだ、これだったらもっと早く読んでおくんだった 飲酒シーンならジェイムズ・クラムリーなどの方が断然多い、クラムリーだけはどうも肌に合わない しかし「八百万の死にざま」ではブロック特有の軽さも手伝ってすらすらと読めた 一方で逆に軽さに対しては読む前は危惧も有った 何たって天才肌小説職人ローレンス・ブロック、器用に何でも書けちゃうだけにハードボイルドを書いても小手先の職人的上手さだけで書いたんじゃないかという不安が有ったのだ ところが不安は払拭された、ちゃんと魂を込めたハードボイルドになっているではないか、これは評価出来る そりゃさ、4~50年代のハードボイルドと比べれば、70年代ネオ・ハードボイルド旋風の後の80年代になって書かれただけに空気感が軽いのは否めない、でも決して小手先芸では無いと思う あるガイド本では、ただ楽しんで読むだけならスカダーものより泥棒バーニイ・ローデンバーの方が良いという意見が有ったが、いやそうでもないなぁ 泥棒バーニイシリーズはいかにもブロックの作風そのまま過ぎる、根っからのハードボイルド作家とは言えないブロックが意識してハードボイルドを書いたみたいな感じが逆に成功していると思う ちなみに八百万とはニューヨーク市の人口の意味である |
No.429 | 5点 | クリスマス・キャロル- チャールズ・ディケンズ | 2012/12/25 09:46 |
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* 季節だからね(^_^;) *
今年はディケンズ生誕200周年、生誕200周年と時期を組合わせたらこれしかないでしょう 「エドウィン・ドルード」と違って流石にこれはミステリーかどうかは微妙なところだ、いわゆる奇談の類でもない、まぁ一種の教訓小説とでも言うのだろうか 何が教訓かと言うと、ケチンボ爺さんが幽霊の導きで心を入れ換えるお話である 多分だが書かれた時代には貴族階級にも守銭奴が居て、それを暗に批判したのかも知れない 一応幽霊は登場するが”ホラー”では無い、ここでの幽霊は読者を怖がらせるのが目的ではなくて、一種の案内役みたいなものだからね、したがってジャンル的には”ファンタジー”で合ってると思う |