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[ クライム/倒叙 ]
またまた二人で泥棒を -ラッフルズとバニー(2)
怪盗ラッフルズ
E・W・ホーナング 出版月: 2005年01月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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論創社
2005年01月

No.3 7点 弾十六 2021/01/13 19:18
単行本1901年出版。初出は一作を除き米国月刊誌スクリブナーズ誌。連載タイトルはMore Adventures of the Amateur Cracksman、イラストはF. C. Yohn。なお掲載各号は無料でWeb公開あり(合本なので広告抜きが残念)。英国での雑誌連載は無かったようだ。
短篇集The Black Mask (Grant Richards 1901)にはNarrator’s Noteと題する短い前書きあり。米国版Raffles: Further Adventures of the Amateur Cracksman(Scribner’s 1901)に基づくGutenbergの原文にはこのNoteが無いので、米国版には元々付いていない可能性あり。この翻訳に前書きは欠けているが、米国版が底本なのか。
『二人で泥棒を』の書評を読んでいただいた方にはご承知の通りのオモシロ翻訳は相変わらずだが、日本語が変なところ、辻褄が合わないところは大抵やらかしているのだから、編集の欠落が主たる要因。論創さんは是非まともな翻訳で出し直して欲しい。(私は本書をおっさん様の素晴らしい書評で知り、とても読みたくなって、全三冊を買った。話のムードだけは概ねわかる明るい翻訳文だが、細かく検討するとちょっと変テコ、では済まされないところが続々と… まあお陰でクリケットの知識を得ることが出来たし、英語の勉強にもなったし、物語自体も面白かったし、で私としては十分楽しんでお釣りが来る読書体験だったのだが、これじゃあ一般読者とホーナングが可哀想。)
私がラッフルズ・シリーズを好きなのは、振り回されるバニーのいじらしい姿、ということに尽きる。Volunteered Slaveryってこういうことか?(多分、違う)
以下、雑誌イラストと注釈が豊富なWebサイトRaffles ReduxからのネタはReduxと表示。短篇集収録順と初出順は一致。
例によって少しずつトリビア&翻訳へのイチャモンを追記してゆきます。
(1)No Sinecure (初出: Scribner’s Magazine 1901-01)「手間のかかる病人」: 評価6点
バレバレな話だけど、この翻訳ではバニーがより一層盆暗だと思われちゃう。実際は、そこまで酷くないのでトリビアで汚名を濯いでおこう。
なおReduxによるとMr Maturinはオスカー・ワイルドの親族で、ワイルドがバニー同様、自分の経験の手記をDaily Chronicleに発表(1897ごろ?)していることから、ラッフルズのモデルとしてワイルドとホーナングの共通の友人(文人でクリケット上手で同性愛擁護者のGeorge Cecil Ives)が該当するという説や、ラッフルズとバニーの関係性をワイルドとダグラスになぞらえる説があるようだ。でも『二人で泥棒を』にあまりそんな感じは無いと思う。まー私はワイルドのことはほとんど知らないのだが…
ドイルの妹コニーがホーナングの妻。ホーナングの長男アーサー・オスカーの名はドイルとワイルドに由来。ドイルとワイルドの関係はリピンコット誌の『四つの署名』と『ドリアン・グレイの肖像』でお馴染み。だんだんワイルドを読みたくなってきた…
1897年5月のこと、と冒頭に日付あり。英国消費者物価指数基準1897/2020(130.83倍)£1=18389円。
p8 どんな人の顔より青ざめていて、ものを言う以外には開きっぱなしの唇の間から常に歯が見えていた(had the whitest face that I have ever seen, and his teeth gleamed out through the dusk as though the withered lips no longer met about them)♠️このwhite faceは「白い頭(髪)」の意味か?『二人で泥棒を』p199のトリビア参照。ここで表現してるのは「暗闇の中で歯の辺りだけが(ブラインドの隙間からの光で)輝いて見えた」という情景だろう。顔のほかの部分はあまり見えていなかった、という状況のはず。試訳「見たこともないほど真っ白な頭で、暗闇の中で歯だけが照らされ、カサカサの唇がその周りに存在していないように見えた。」ここでキメておかないと次のマッチ・シーンが全然生きてこない。
p9 大学には行っていないのだな(you weren’t at either University)♠️ReduxによるとeitherはOxfordかCambridgeか、という意味だという。他の大学は全く眼中に無し。
p9 金を稼ぎました(I came in for money)♠️ 『二人で泥棒を』p3と同じ誤り。come in forは「相続する」
p11 自分のウイケットを倒すという失策(than throw my own wicket away)♠️この場合wicketは「打席」というような意味。試訳「自分の打席を無駄にする(=アウトになる)くらいなら」ここを「失策」と訳したらしっくりこないよね?(ぼんやり通じるけど)
p12 これは隠しようがなかった(there was no trick about that)♠️試訳「細工を施しているわけではなかった」
p12 ぼくとの強力な結びつきを持ち得た悪漢(the dear rascal who had cost me every tie I valued but the tie between us two)♠️試訳「ぼくから貴重な全ての人間関係(ぼくと彼との関係以外)を奪った親愛なる悪党」少し難しい英文だと変調子。
p13 われわれみたいな高貴な人種にとっては欧州随一の楽園(the European paradise for such as our noble selves)♠️Reduxによると当時のヨーロッパでナポリは同性愛が咎められることのない地として有名だった、という。
p13 アウトにならない限り、とにかくウイケットを倒さずにはいられない(It’s the kind of wicket you don’t get out on, unless you get yourself out)♠️試訳「自分でミスしない限り、アウトにならずに打席が続く」訳文は意味不明。ウイケットを倒す=アウトなのだが…
p15 水に対するヒステリー患者(a hypochondriac of the first water)♠️試訳「最重度の心気症」成句を調べない訳者。医学用語も間違ってる。
p15 ウイケットを守らせたら相当なものだろう(will go far if he keeps on the wicket)♠️試訳「ウイケットを守り通せば(打席を続けられたら)、かなり儲かる(得点出来る)だろう」ウイケットを守るのは打者、なので翻訳はぼんやり合ってるが… なお料金は原文では一晩1ギニー(=19308円)。
p18 ケルナー・レストラン(Kellner’s)♠️Reduxによるとワイルドが贔屓にしていたKettner’s(現存している)。
p21 馬上の銅像を金ぴかに塗る(equestrian statue with the gilt stirrups and fixings)♠️Reduxによると1895に設置されたOnslow Ford作のField-Marshal Lord Strathnairnの銅像。原文では「鎧と装具が」金ピカ。Webに現在の写真があったが全体が青銅色に見える。
p24 五十五ポンドはしますな… 五十ギニー(=52.5ポンド)では安い(Forty-five pounds ... and it would be cheap at fifty guineas)♠️見間違い? 試訳「45ポンド(でお売りしました)… 50ギニーでも安いくらいでしたが」45ポンドは83万円。こうじゃないとチグハグ。(後段で、安く売ってもらった、と言っている)
(2021-1-13記載)
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(2)A Jubilee Present (初出: Scribner’s Magazine 1901-02)「女王陛下への贈り物」: 評価6点
大きなオモシロ訳は無さそう。手口がいかにもラッフルズ流で、面白い。
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(3)The Fate of Faustina (初出: Scribner’s Magazine 1901-03)「ファウスティーナの運命」: 評価6点
Reduxによるとホーナングは妻と共に1897年11月、妹を尋ねてイタリアに行き、1899まで滞在している。さらに1900年以降、イタリアに再び行っている。その体験がうかがわれる話。
歌はナポリ方言のようだ。Reduxでも英訳していないので、私もパス。実は有名な歌なのかも。
p62 楽園を追われたイブかい?(My poor Eve!)♠️何故、これをバニーのセリフだと考えたんだろう。
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(4)The Last Laugh (初出: Scribner’s Magazine 1901-04)「最後の笑い」: 評価5点
活劇。残念ながら筋立てが安易すぎる。
p103 毒薬(iced poison)♠️Reduxによると「アイスクリーム」のこと。当時ガラス瓶に入れて売られていて、洗浄不十分で食中毒が発生し、ロンドンでは1899年に禁止となった。
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(5)To Catch a Thief (初出: Scribner’s Magazine 1901-05)「泥棒が泥棒を捕まえる」: 評価7点
これはなかなかの作品。Reduxによると発表時の結末は違っていた。(ホーナングは雑誌発表後に、ちょこっと直しを入れることがあるが、ここまでの変更は他にないという) 残念ながら、クライマックス・シーンの翻訳(p141)はああ勘違い。Reduxで原文を読んでもよく分からん、という人は、英Wiki “To Catch a Thief (short story)”のPlot概略を読むと良い。(私もそれで間違いだと理解しました)
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(6)An Old Flame (初出: Scribner’s Magazine 1901-06)「焼けぼっくいに——」: 評価6点
なんだか変テコな話だが、翻訳のせいだけではないようだ。Reduxによるとこの女には著名人のモデルがある。
p145 その広場には名前などないのだが(The square shall be nameless)♠️冒頭から珍妙な作文。その広場の名前は言わないでおこう…という意味。shallとかwouldとか難しいよね。続く文章は「ピカデリーから真西にしばらく行くと左側に見え、御者に2シリング払うとお礼を言われる距離」という感じ。
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(7)The Wrong House (初出: Scribner’s Magazine 1901-09)「間違えた家」: 評価6点
ちょっとコントっぽい話。人が集まった時のいたたまれない感じが好き。
p180 手がしびれてしまった!(My hand’s held!)♠️愕然とするような間違い。ネタバレになるので試訳しないが、単純なセリフ。訳者には情景が全く見えていない。
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(8)The Knees of the Gods (短篇集The Black Mask, Richards 1901)「神々の膝に」: 評価6点
on the knees of the godsで「人力が及ばない」の意味。英国にとって不名誉な戦いとなったボーア戦争(第二次)を擁護したのがドイル(1900年)。戦争はその後ゲリラ戦となり1902年に終結した。本篇発表当時は継続中。
愛国心と当時の英国軍の感じをよく表している作品だと思う。バニーの兵隊ぶりも、いかにもな感じで良い。
p205 君がウイケット守備をやってくれるなら、その間にぼく自身の手でボウルアウトに持っていくことが出来る(I’m mad-keen on bowling him out with my own unaided hand—though I may ask you to take the wicket)♠️試訳「ぼくは自分の腕で助けを借りずに彼を仕留めたいと切望している。君に(捕球を)頼んでアウトを取ることになるかも知れないが」

No.2 6点 mini 2013/03/05 09:55
先日1日に論創社からJ・K・バングズの「ラッフルズ・ホームズの冒険」が刊行された
J・K・バングズを御存じ無い方も居られようが、ホームズ・パロディをかなり早い時期に書いた作家の1人で、クイーン編アンソロジー「ホームズの災難(下巻)」にも2篇採用されており断片的に紹介はされていた
バングズには天国でホームズが活躍するシリーズも有るが、もう1つの代表的シリーズが”父が探偵で祖父が怪盗”という人物設定の「ラッフルズ・ホームズ」である
探偵の父と怪盗の祖父とは?名前から一目瞭然!全然捻りの無いストレートな命名だなぁ(笑)
「ラッフルズ」の作者ホーナングの妻はドイルの妹で、つまりラッフルズとホームズの作者は義兄弟同士だからこんな人物設定を思い付いたんだろう

さてそうなると便乗企画はラッフルズでしょうね
第1巻目の最終話で一旦退場したはずのラッフルズ、見事に復活!となるわけだが、空き家で復活するホームズのような劇的じゃないのがいかにもラッフルズっぽいね
当サイトでおっさんさんも書評中で指摘しておられますが、復活してからのラッフルズが髪が白くなったりで急に老けてしまったのには驚いた
第1巻目での”青春怪盗ミステリー(そんなジャンル有るのか?)”的な初々しさが失われた代わりに、第2巻ではベテラン怪盗風に変化しているのが笑える
ただしラッフルズがプロっぽくなった割にバニーのアマチュアっぽさは相変らずだが
でも相棒バニーも精神的には成長しており、おっさんさんの御指摘通りやはりこれラッフルズとバニーの成長物語・友情物語と捉えるのが正解なんでしょうね、そう考えると俄然面白くなってきた
また第1巻に比べて、単なる怪盗譚から逸脱している短編が多いのも面白かった

No.1 7点 おっさん 2012/01/31 11:41
ラッフルズもの第二短編集 The Black Mask (1901)の翻訳です。
前作で、永遠の別れを遂げたかに見えた怪盗紳士ラッフルズと、語り手バニーのコンビが、意外なカタチで復活。またまた冒険の幕が開くことに・・・

収録作は――
1.手間のかかる病人 2.女王陛下への贈り物 3.ファウスティーナの運命 4.最後の笑い 5.泥棒が泥棒を捕まえる 6.焼けぼっくいに―― 7.間違えた家 8.神々の膝に

前作の最終話「皇帝への贈り物」は、義兄ドイルの「最後の事件」のエコーを感じさせましたが、本書の巻頭を飾る1は、逆にホームズの“生還”を描く「空き家の冒険」(1903年発表)に、多大の影響を与えたのではないかと思います。
ただ、さきにラッフルズ、バニーのコンビが復活、と記しましたが、セカンド・シーズン開幕にともなう設定の変更と、二人の関係性の変化があり、作品のトーンは微妙に異なります。
青年期の溌剌としていたラッフルズに翳りが生じ、良くも悪くも、老成したセミプロという印象が強まるのに反比例して、従来、振り回される一方だったバニーが、(泥棒稼業と言う名の)青春真っただ中のような覚醒を始めます。
シリーズ短編の積み重ねでホーナングが描き出すのは、「時は流れる」ということ。昔をいまになすよしもがな。前作以上に哀切なラストが待ち受ける8は、その意味で象徴的です。
ああ、このシリーズを栗本薫に読ませてやりたかった・・・

ぶっちゃけ、いまの日本で、このラッフルズとバニーの、二人三脚の冒険譚を素直に楽しめるのは、おそらくミステリ・マニア層ではないと思います。
じゃ、どの層かって?
ライトノベルの読者層ですよ。
うん、論創社は売りかたを間違ったw

3は、イタリア滞在中のロマンスを、ラッフルズが回想する話で、泥棒とはまったく関係ありません。ミステリを期待したら裏切られます。でもこれは、要するにシリーズの“外伝”なのですよ。叙情と叙景にすぐれた、良いエピソードです。そして、それをここに挿入するセンスを、筆者は愛します。
集中のお気に入りは、“死んだはず”のラッフルズを彷彿させる手口の、ライヴァルが登場する、5ですね。スリリングな対決が迎える驚天動地の結末。怒ってはいけませんw

――でもさあ、ここはミステリ系サイトなわけ。ミステリとしての面白みが無いシリーズを、いくら持ち上げられてもねえ・・・と、ご不満のアナタ。
そんなアナタのために予告しておきます。
実質、ラッフルズ・シリーズは本書で一応の幕を閉じ、残るは拾遺集的な一冊だけですが、じつにE・W・ホーナングはそこで、自身のミステリ作家としてのトップ・フォームを示します。


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E・W・ホーナング
2005年03月
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2005年01月
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2004年11月
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