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こうさん
平均点: 6.29点 書評数: 649件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.169 5点 消えた娘- クレイ・レイノルズ 2008/08/02 02:25
 滞在先の町の広場のベンチで18歳の娘が主人公である母親の目の前の店にアイスクリームを買いにいったがいつまでたっても店から出てこない、という発端から始まるサスペンスです。
 滞在先の広場のベンチ前から店に入る娘を見ていた主人公がその町にとどまりひたすら娘を待っているという単純な話ではありますが主人公の狂気が面白いです。
 客観的にみるとどうやって娘が誰にも見られずに店から出たかの論理的説明は全くありませんが前半部分の謎の提示だけでも十分です。いわゆる「前半名作」だと思います。
 長さも短くて手頃だと思います。 

No.168 6点 死角に消えた殺人者- 天藤真 2008/08/02 02:11
 全く個人的つながりのない4人を乗せた自動車の転落事故から始まる設定は良いと思いますが直観的なヒロインの視点で語られる作品なのでどうものめりこめませんでした。
 そのため犯人、犯人の動機など一ひねりがあり水準作だと思いますが、採点が低めになっています。

No.167 6点 天使の耳- 東野圭吾 2008/08/02 02:00
 交通事故を扱った作品集でどれも小振りだと思いますがよくできていると思います。
 「分離帯」は結末が予想しやすいと思いますが、個人的には気にいっています。

No.166 2点 耳をふさいで夜を走る- 石持浅海 2008/08/02 01:53
一応倒叙形式の連続殺人を扱っていますがついに本格色がなくなってしまいました。
 作品中の「覚醒」がいわゆるSFではないためどの程度のものか読者に伝わりづらくリアリティがなかったです。そのため犯人の殺人の動機も納得しにくいです。
 また結局ほとんどのメインキャストが死んでしまうわけですが主人公の計画は途中で狂ってしまうのにもかかわらず続けようとする意図がわからないです。うまくいってもどうみても疑われるのは主人公しかありえないと思います。
 作風の今までとの違いは理解できましたが作者の狙いがよくわかりませんでした。

No.165 8点 症例A- 多島斗志之 2008/07/24 02:05
 厳密にはミステリとはいえないかもしれませんが非常に気に入っている作品です。
 いわゆる精神疾患を扱ったものですがサイコサスペンスではなく境界性人格障害、解離性同一性障害をテーマにした作品です。
 精神科医を主人公として担当患者の少女の診察を通じて診断してゆく苦悩、また同僚の女性臨床心理士との交流が丁寧に描かれています。
 安易に多重人格患者を犯人とするサイコパス物とは一線を画す骨太な作品です。500ページ以上と長いですしこれらの病気の説明が描かれている部分が長いので全く興味がない方には向かないかもしれません。
 美術館員のある人物の追跡のストーリーがありこれがメインストーリーにつながり、また真相がわかるきっかけなども巧いと思いますが、全くサイドストーリーがなくても十分通用する作品だと思います。
 多島斗志之は毎回テーマが全く違いますがどれも作品の構成が丁寧で読み物として面白いものが多いです。殺人事件を扱っているものはそれほど多くはありませんが主人公がなんらかの謎を追跡してゆく物が多くこの作品も含めどれもお薦めです。

No.164 7点 毒薬の輪舞- 泡坂妻夫 2008/07/24 01:45
 精神病院を舞台にしたミステリで登場人物、作風はまさに泡坂ワールドとしか言いようのない物で楽しめます。
 ただリアリティは他作品以上に乏しいのと殺人事件の真相が理論上はともかく実際うまくいくかどうか、という点が難点でしょうか。
 トリック(?)の雰囲気(?)としては乱れからくりを連想させます。 

No.163 6点 開けっぱなしの密室- 岡嶋二人 2008/07/24 01:38
 いかにも岡島二人らしい作品が集まっています。どこにでもいそうな青年~壮年が主人公もしくは(倒叙では)犯人として描かれております。いずれも大掛かりなトリック、ひねりはありませんがさっと読めます。 

No.162 6点 アイルランドの薔薇- 石持浅海 2008/07/24 01:33
石持浅海第一長編はアイルランドの宿屋で起こる殺人事件を扱っています。中身は宿屋の住人のみが容疑者となる実質上クローズドサークル物(厳密には違いますが)です。
 ひねりはないですが昔ながらの本格をアイルランドのテロ組織を登場させ成立させています。
 第一長編から設定がいかにも石持作品らしい設定ですが他作品よりも殺人動機は納得しやすい作品でしょう。
 その後の作品よりも本格に忠実な仕上がりだと思いますのであまりひねりや驚きはありませんが気に入っています。

No.161 7点 ミレイの囚人- 土屋隆夫 2008/07/22 01:04
 土屋隆夫は非常に寡作家ですがどれをとってもはずれがない作家の一人だと思います。まだ現役なのが凄いとしかいえないくらい御高齢のはずですが、不安な産声を読んだときもまだ本格作品を書こうとしている熱意が凄いと思いましたがそれから10年経ってこの本が出てびっくりした覚えがあります。
 推理作家の主人公が第一章でかつて家庭教師をしていた精神に病をもつミレイにあったがそのまま監禁されてしまう。
 そこで視点が変わり第二章でホスト殺人事件の経過が描かれ、第三章で主人公が救出され、という展開です。
 容疑者は作品中一人しかおらず、その犯人がどのように犯行に及んだのか、どうして殺人を行ったのかという動機が最後に明らかにされるスタイルが土屋作品では多いですがこの作品でも踏襲されています。
 見所となる犯人のトリックは一つですが個人的に初めて読んだトリックですので、作者の年齢を考えるとトリック考案する姿勢に感動しました。(トリック自体はアンフェアかもしれませんし小粒ですが)
 作品としての出来は全盛期の物や不安な産声よりも少し落ちると思いますし、どちらかというと最後の真相となる手記を読まないとわからない類のものですが、作品の骨格はしっかりしていると思います。また最後に少年犯罪法についても触れられており、また前例はありますが一種、本自体への仕掛けもあり水準作だと思います。

No.160 5点 夢の10セント銀貨- ジャック・フィニイ 2008/07/22 00:34
 ハヤカワ文庫から出ていた小説ですがミステリというよりもファンタジーノベルなのかも知れません。佐藤圭氏の「100冊の徹夜本」という海外のマイナーな作品ばかりを集めたガイド本で推薦され読んだ作品です。
 職場でうだつのあがらない、妻ともうまくいっていない男性が主人公で魔法のコインを手に入れるとそれがパラレルワールドへの入場券(?)となっていてその世界では主人公は非常に優秀で家には美しい妻がいて、こちらの世界でも本当の妻と会い、というありがちなストーリーです。
 ミステリ的展開はありませんので興味は最後どのように話がまとまるか、という点ですが、あまりににもありきたりの結末でした。ただその結末に至る直前の部分にあまりにもばかばかしいというか滑稽としかいいようがない場面がありそこが楽しめれば評価が上がるかもしれません。

No.159 4点 黒い森の記憶- 赤川次郎 2008/07/22 00:16
これも初期のサスペンスです。かつては名外科だった老人が森のはずれの山荘でひっそり隠棲生活を送り娘夫婦を含め他人と2年以上交流を絶っている。その周辺で連続婦女暴行殺人が起こりそれに前後して奇妙なプレゼントが老人に届けられてゆく、というストーリーです。
 ストーリー上サスペンスの盛り上げは悪くありませんが、難点はとにかく死人が多いことです。しかも殺人の動機は犯人から説明されないとわからない類のものです。一応謎は全て最後に提示されますが論理的手がかりはなく読者は勘で予想するしかありません。最後に一ひねりありますが、そこには伏線があり最後の部分は推理できますが。(というより素直に推理すればそれが正解となります)
 サスペンスストーリーとしてなら評価は上がるのでしょうがミステリ的評価としてはさほど高くない作品と思います。

No.158 4点 温かな手- 石持浅海 2008/07/22 00:04
これも石持作品らしい変な設定の作品です。ギンちゃん(兄)、ムーちゃん(妹)と呼ばれる人間のエネルギーを吸収する兄弟の知的生命体がそれぞれ一人の人間(ギンちゃんが女性、ムーちゃんが男性)と共同生活を送っており、その周囲で起こる殺人事件の真相を彼らが探偵役として解き明かすスタイルです。ロジックは楽しめる作品が多いですが、少しこじつけの様なものもあります。特に「酬い」のストーリーは少々ロジックが決め付けに近いかな、と思いました。
 最後の短編で兄弟とその同居している人間4人で合流するのですがラストは予想通りの展開でした。
 作者は意図的に普通ではない状況設定での本格を目指しているのでしょうが、もっと普通の設定で書いてもらいたいと思ってしまいます。

No.157 4点 七日間の身代金- 岡嶋二人 2008/07/10 23:04
 展開がスピーディなサスペンスから途中から密室殺人になり首尾一貫していない所があまり好きではありません。若いカップルを探偵役にして青春ミステリ的狙いもあるのでしょうが、真相が暗すぎてマッチしていない気がします。(あまりに暗すぎるので意図的にこのカップルを配置したのかもしれませんが)犯人は疑わしい人が一人しかいないので簡単にわかるのは作風からも別に構いませんが、この狂人の書かれ方は読んでいて気持ちのいい物ではありませんでした。
 読みやすいのでしょうがあまり楽しめなかった印象です。

No.156 5点 11文字の殺人- 東野圭吾 2008/07/10 22:52
 元々のタイトルの「無人島より殺意をこめて」の方がまだ良かったのでは、と思います。
 東野作品らしく読みやすいのは事実ですが他の力作に比べると少々落ちる印象です。

No.155 6点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー- 東野圭吾 2008/07/10 22:46
倒叙形式の殺人、死体受け渡しの計画という趣向もそれが一転する所も気にいっていますが、結果的にその後の展開は少しぐだぐだな感じでした。共感できない登場人物ばかりなのは作風上止むを得ないのでしょうが、作品の舞台を考えると結構安易にどんどん殺されてゆく所はあまり好きではありません。何人かは死ななくてもストーリー上問題ない気がしました。

No.154 10点 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン 2008/07/06 23:59
 パトリック・クェンティンは岡島二人の様に共作作家ですがこれはホイーラー単独作品です。
 主人公は出版社勤務で社長の婿で、その生活空間に失踪した前妻があらわれて起こるサスペンスです。
 人物描写は丁寧に描かれ味わい深い作風で個人的には好きな作家です。ある人物(犯人とは限りませんが)の本当の姿がストーリーが進むにつれて露わになってくる、というのが特徴でこの作品でも巧く書かれています。
 「わが子は殺人者」共似ている所はありますが、いずれも面白いです。
 難点は本格ミステリではなく、殺人が起き犯人もいますが犯人のみに殺人が可能だったわけではなくそういうロジカルな説明はされない点ですが個人的には本格ではなくても非常に好きな作家です。
 尚わが子は殺人者で法月綸太郎氏が解説していますがとても素晴らしい内容です。法月氏のある作品はおそらくこの「二人の妻をもつ男」の一部をモチーフとしていると思いますので法月ファンであれば読んで損はないと思います。最後まで読めば類似に気がつくと思います。 
パトリック・クェンティンの再良作であり敬意を表して10点に変更しました。

No.153 10点 さむけ- ロス・マクドナルド 2008/07/06 23:33
 私立探偵リュウ・アーチャーを主人公とした作品ですが作風もハードボイルドというよりほとんど本格ミステリといってよい作品だと思います。サプライズエンディング系と言ってよい衝撃がありました。
 新婚旅行初日に妻が失踪した男が依頼人で捜索の過程で簡単に妻は見つかるが夫の元に戻ることを拒否、数日後発見されたときは半狂乱で血まみれになり殺人容疑者にされて、というストーリーが最初の100ページ程度で書かれ、そこから話が展開してゆきます。
 私立探偵とはいえ作中の謎を考え、解いていくスタイルなので本格ミステリの名探偵と変わりません。逆に純粋なハードボイルド好きには面白みはないかもしれません。
 容疑者とされた人物もヒロインというわけでもなく主人公がみる周りの一人物として淡々と描写されているのが特徴です。その主人公本人の描写も淡々としておりそういう意味では影が薄いかもしれません。
 犯人は1960年代の作品であることを踏まえれば非常に意外な人物でした。後発作品で類型のものがありますし新本格作品にもあるかもしれませんが40年以上前の作品であることを踏まえれば衝撃的だったと思います。
 ロスマク作品はいわゆる家族というか血筋がキーポイントになっている作品が多いため何作か読んでいると見当がつきやすいですが個人的にはこの作品とウィチャリー家の女がベストです。
 犯人は結局何人も殺しますが、そこまでばれずにすむものかどうか、また私立探偵にみな素直に証言するわけですが医者が守秘義務を越えて患者の話をする場面もありいくらアメリカの話でもおかしいかな、と思う所もありますが犯人像の部分だけでも最高です。おそらく後発例はあっても先例はないと思われます。

No.152 5点 煙で描いた肖像画- ビル・S・バリンジャー 2008/07/06 23:06
 主要登場人物はわずか2人で事務所を引き継いだ私立探偵ダニーがファイルの中の写真の女性を気に入り、追跡してゆく章とその女性クラッシーの半生の章が交互にくるカットバック方式のサスペンスです。
 この2人が交錯する最後までのストーリーは面白いですが、謎があるわけではなくサスペンスとしての盛り上がりがメインと思われます。ラストは腰砕けな感じでした。 

No.151 7点 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 2008/07/06 22:58
 デビュー作である「DL2号機事件」は泡坂作品で見られるチェスタトン風ロジックが見られますが作品集全体で言えば後の作品ほどその特長が見られないと思います。
 「右腕山上空」のトリックも実現性は低いと思います。
 シリーズキャラクターは配していますが個人的にはまあまあといった感じです。  

No.150 8点 天使が消えていく- 夏樹静子 2008/07/05 01:42
 夏樹静子第一長編です。ある犯人によるトリック(?)のバリエーションとしては最高だと思います。(クリスティや国内作家の古典などで読んだ方にはすくわかるかと思います)
 殺人事件自体、あるいは犯人自体も主眼ではなく伏線の張られた犯人によるトリックが主眼でしょう。(伏線も作品の最後で提示されますが初読時は気付きませんでした)
 タイトルも秀逸でこれ以外ありえないと思います。

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こうさん
ひとこと
 私の採点で10点は単なる好みです。10~20年前の初読時の印象で不当に高いのもありますが気にしないでください。トリックものは古臭くても昔初めて触れたトリックだったら高得点の傾向が高いです。
 ガイド...
好きな作家
泡坂妻夫、有栖川有栖、東野圭吾、岡島二人、梶龍雄 
採点傾向
平均点: 6.29点   採点数: 649件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(60)
有栖川有栖(32)
岡嶋二人(24)
折原一(22)
連城三紀彦(20)
泡坂妻夫(19)
石持浅海(17)
梶龍雄(17)
法月綸太郎(12)
アガサ・クリスティー(11)