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[ 日常の謎 ]
戦場のコックたち
深緑野分 出版月: 2015年08月 平均: 7.25点 書評数: 8件

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東京創元社
2015年08月

東京創元社
2019年08月

No.8 6点 パメル 2022/05/04 08:19
空挺部隊に所属する兵士兼コックのティムは、頭脳明晰なエドたちコック兵仲間と、ノルマンディー上陸作戦に参加する。フランスの村を解放したティムは、なぜかパラシュートを大量に集めている兵士がいるのを知る。エドの協力で謎を解いたティムは、ものすごく不味い粉末卵六百箱が消えた、拳銃自殺した夫婦の手が拳銃を握れない形になっていた。前線に銃剣で人を刺すような音を出す幽霊が現れるなどの謎にも挑む。
伏線を丁寧に回収しながら、戦場という特殊な状況でしか成立しないトリックを作った手腕は鮮やかで、特に動機の意外性には驚かされた。命が使い捨てにされる前線で、命をつなぐ料理を作るコックが、日常の小さな謎や数人が死んだ事件を推理する矛盾を通して、戦争の悲劇に迫ったところも見事である。
作中の事件は、差別、正義の欺瞞、憎しみの連鎖を生む戦争の実態も暴いていく。解決が難しい問題を前に悩み考えるティムの姿は、思考と論理だけが社会をより良く出来ることを示しているように思えてならない。

No.7 7点 メルカトル 2021/07/03 22:41
合衆国陸軍の特技兵、19歳のティムはノルマンディー降下作戦で初陣を果たす。軍隊では軽んじられがちなコックの仕事は、戦闘に参加しながら炊事をこなすというハードなものだった。個性豊かな仲間たちと支え合いながら、ティムは戦地で見つけたささやかな謎を解き明かすことを心の慰めとするが。戦場という非日常における「日常の謎」を描き読書人の絶賛を浴びた著者の初長編。
『BOOK』データベースより。

第二次世界大戦に於ける連合軍のノルマンディー上陸作戦、マーケット・ガーデン作戦に空挺師団として参加した合衆国のコックたちの活躍を描いた戦争小説。読後確かな達成感みたいなものはありましたが、日常の謎を扱ったミステリとしては弱いかなと思いました。謎はそれなりに魅力的ですが、真相は呆気ないもので意外性に欠けます。ただ一兵士から見た戦況や戦争の真実の姿にはリアリティがあり、よく描かれていると思います。目の前で人が死んでいく現実を当たり前の様に描写して、それが却って絵空事ではないリアルさを醸し出しています。決して反戦を訴える訳でもなく、あくまで当事者として一つ一つの戦時下ならではの出来事を淡々とした筆致で当たり前の日常として捉えます。

一つ文章に難癖を付けるとすれば、舞台転換が上手く出来ていないように感じたところでしょうか。いつの間にか話が進んでいるのに、あれ?となりました。まあ私だけでしょうけど。
映画『遠すぎた橋』や『フルメタルジャケット』(ベトナム戦争だけど)を思い描きながら読んでいたので、映像的に想像し易かったですね。

No.6 8点 zuso 2021/04/01 00:10
謎解きの出来もさることながら、死と隣り合わせの戦場だけでしか成立しないトリックや真相を介して、極限状況ならではの皮肉な人の運命や、正義という言葉の裏にある欺瞞や矛盾までも剔出してみせるところが素晴らしい。

No.5 7点 ぷちレコード 2020/03/05 20:01
日常は日常でも「戦場の日常」ミステリというのが相応しい本作。
情勢を動かすような大きな事件ではないにしても、戦争という特殊な状況下にある以上、現代の我々の日常との隔絶は感じずにはいられない。それゆえに没入できないということは全くなく、かえって想像力を持って読むことが出来た。
一章ずつ読めば決して長くはないし、通読したからこそのサプライズプレゼントが待っている。

No.4 9点 sophia 2019/01/24 18:20
まず作者の世界の歴史や軍事への造詣の深さに参りました。タイトルやあらすじからもっとコミカルなものを想像していましたが、どの事件も陰惨ですね。そりゃそうですよね、戦争小説ですから。その戦争小説がミステリーと上手く融合しています。解かれた謎が次の戦場へと繋がって物語を構築していき、読者は次第に引き込まれていく。感受性豊かながらも弱さや醜さを抱える主人公の、仲間たちに支えられての成長物語でもあります。「コック」という設定はそれほど関係ありませんでしたが。

No.3 7点 まさむね 2016/05/21 20:40
 タイトル&表紙のイラスト、さらには「戦場という非日常における日常の謎」という触れ込みから、もっと「コック」の役割が大きいのかと思いきや、実際は「戦場」という舞台設定の意義の方が大きいですね。
 第二次世界大戦の史実を活かしながら、戦争と人間性について、決して重々しくはなく、しかしながら考えさせる内容、学園モノとは一味違う青春小説としての側面、伏線の配置も含めて考え抜かれた構成などなど、盛りだくさんの感想を抱きました。前半は冗長な印象も受けたのですが、読みどころは中盤以降でグイグイ読まされましたよ。

No.2 6点 2016/04/25 11:54
日常の謎の連作短編集。
日常といっても舞台は戦場なので、特殊な日常です。作者は日本の女性作家です。

登場人物は、語り手の新米コック・ティムや探偵役のリーダー・エドたちコックグループを含む若手兵士たちです。
料理場が舞台というわけではなく、コックたちは他の兵士と同様、パラシュートで戦地へ赴いたり、銃撃戦に遭遇したりと始終危険と隣り合わせです。
戦闘シーンのページも多く割かれていて、死者は続出します。
謎解き対象が戦闘の合間に発生する日常の謎というところは面白い。戦争物らしくなく、描写が明るく、いきいきとしているのは特徴です。アイデア勝ちですが、ただそれだけではなさそうです。
兵士どうしの友情も綴ってあり、青春小説として楽しめるという点で高評価できます。というよりも、これがメインです。

でも、欲張りすぎかな。
青春戦争小説として読めば、物語に入りこみすぎて自身の謎解きがおろそかになるし、推理に夢中になれば、物語の面白さが消えてしまいそうだし、できれば別々の小説として書いてほしかったなあ。歳のせいで、同時並行処理は無理なのかw

No.1 8点 kanamori 2016/01/23 12:25
特技兵(コック)としてノルマンディ上陸作戦に参加した19歳の新兵ティムは、個性的なコック仲間とともに、戦場や基地で次々と奇妙な事件に遭遇する。その謎を解くのは、いつも沈着冷静なリーダーのエドだったが--------。

2013年に”ミステリーズ!新人賞”佳作入選作「オーブランの少女」を表題にした短編集でデビューした作者による、連作形式の初の長編作品です。昨年の”このミス”国内2位、直木賞候補(惜しくも落選)、さらには本屋大賞の候補と、デビュー2作目にして早くもブレイクした感がありますね。
よく言われているように、戦場という非日常の世界を背景にした”日常の謎”というのが本書のウリです。ミステリ部分だけを取り上げて見れば、さほど傑出しているとは思いませんが、それでも伏線を効かせた、戦場ならではの”ホワイ”が非常に魅力的な作品です。
誇り高き料理人だった祖母のレシピを崇める主人公の「僕」こと、ティムの語り口は、いかにも創元の”日常の謎”らしいライトなものなので、戦況が激化し仲間たちが退場してゆくシリアスな戦争小説には、最初は合わないように思えたのですが、終幕が近づくにつれ、これが効いてきます。青春小説としても素晴らしいです。


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