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[ サスペンス ]
きみの血を
シオドア・スタージョン 出版月: 1971年01月 平均: 7.25点 書評数: 4件

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早川書房
1971年01月

早川書房
2003年01月

No.4 7点 2019/03/08 16:43
 東京郊外の米軍駐屯地で検閲に従事していたある中尉は、一通の手紙を読み終えはたと当惑した。三行ばかりの記述に何か引っかかるものを感じたのだ。彼は友人である軍医部の少佐のところに手紙を持ち込み、少佐は翌日、手紙を書いた兵隊を呼びにやらせた。
 その無口な大男――ジョージ・スミスは、自分がなぜ呼び出されたのかちっとも知ってはいなかった。何気ない質問に答えるジョージだったが、手紙に気付いた彼の顔は骨のように白くなり、小さな汗のつぶが満面に吹き出した。その直後、ジョージは手に持ったグラスを握りつぶし、少佐に襲い掛かろうとした!
 MPに拘束されたジョージはアメリカ本国に送還され、陸軍神経精神病院に入院することとなる。彼の診察担当者フィリップ・アウターブリッジ軍曹は責任者アルバート・ウィリアムズ大佐に掛け合い、本格的にジョージの秘密に迫ろうとする。
 1961年発表。風間賢二氏の解説によるとこの頃のアメリカはフリーセックス運動が開始されフロイトづいていたそうで、ミステリ分野においてもそのテの作品が山ほど刊行されています。その流れを受けて精神分析の手法を用い、現代に吸血鬼を復活させようと試みたのが本書でしょうか。書簡の往復や告白文を並べた構成も、元祖ドラキュラを思わせます。
 ジョージ・スミス自身が語る幼少年期の物語はこの作者らしい孤独感に満ちており、現実世界に対する違和感は他の著作同様、ここにおいても通奏低音のように響いています。勿論リサーチも行き届いており、叙述トリックめいた省略以外にも細部までキッチリ暗喩が施されています。
 かなり緻密に作られていますが、どちらかと言えばスタージョンらしくないタイプの作品なので評価が分かれるでしょう。巻末に並べて挙げられているシャーリイ・ジャクスン「山荘綺談」の方が、モダンホラーとしては好みです。

No.3 7点 クリスティ再読 2017/01/04 16:39
「盤面の敵」を読んだのでついでに本作。即物的吸血鬼小説である。エーヴェルスの「吸血鬼」をサイコホラー寄りにしてシンプルにした感じ。エーヴェルスのもそうだけど、吸血鬼モノからロマンのケープを剥ぐと、怖くならないのが大きな弱点。けどその代わりひんやりした気色の悪さが出る。
本作の吸血鬼も、東京郊外(横田だろうね...)の基地にいたGIが、上官暴行で精神科医による診断を受けるところで話が始まる。で、その精神科医と上官との手紙のやり取り、精神科医によるGIのカルテ、GI自身による生い立ちの記などのドキュメントによる構成になっている。この構成が秀逸。ちょっとした叙述トリックみたいに読める個所があるし、一種の枠組み小説になっていて、一番外枠の記述がちょっとした二人称小説というか、メタな記述になっているというちょい実験小説風な凝った構成。本作どう見てもネタはミステリじゃないけども、ミステリ的興味は強くあって、ポケミスから最初出たのも納得である。
で、怖いというか、何というか、微妙な気分にさせられるのは最後の外枠の記述(あくまで結末の提案なんだけどもね)で、このGIは「全治したとして退院が許可され」「結婚し、彼のおばの農場を継ぎ、二人は森に近い農場で穏やかな日を送っています」。吸血鬼が治るんだよ...面白いな。

No.2 6点 蟷螂の斧 2015/08/24 14:16
兵士・ジョージが書いた手紙、その中身を問いただされると、彼は態度を急変し異常な行動に・・・。「手紙の中身」と「異常な行動」の二つの謎が提示され、物語は展開します。しかし、内容は手記であり、その書き手が誰か分からないし、信頼もできそうにない・・・。
ミステリーとしての構成は面白いし、どんでん返しも好みで高評価です。しかし、あまり後味が良くない。読書Mではこのような意見はなかったが、これは好みの問題で致し方ないといったところ(苦笑)。

No.1 9点 tider-tiger 2015/08/02 12:32
軍属のジョージ・スミスが恋人に宛てて書いた手紙を検閲した上官はその内容に不穏なものを感じてジョージを呼び出した。ところが、手紙について問い質そうとした上官にジョージは突然襲いかかってしまう。
軍医のフィルはこのジョージを診察するよう依頼される。診察というのは要するになんでもいいから病名(精神病)を付けて、ジョージを軍から放り出せるようにしてくれということ。
フィルはジョージに自分の半生を綴った手記を作成させます。一見するととてもよくできた手記のように思えますが、フィルはこの手記は不完全であるとみなします。なにか重要なことが省かれている。隠されている。フィルは漠然とした不安を覚える。この男を社会に戻して良いのだろうか?
ジョージ・スミスが恋人に宛てて書いた手紙にはなにが書いてあったのだろうか? 

前半はジョージの暗く惨めな半生を綴った手記が中心となります。精神科医フィルの感じた漠然とした不安を読者も共有することとなるでしょう。この手記は読ませるのですが、読んでいる最中には本当の凄さがなかなかわからない。
後半はフィルがジョージの秘密を解いていきます。謎解きは唐突になされますが、ヒントはあちこちに散りばめられておりました。仄めかしのうまさは抜群です。
文庫版の解説を書いている人が普通の小説じゃないかと思ったけど、もう一度読んでみて驚いた、みたいなことを言ってましたが、読めば読むほどに凄さを感じる作品です。

ダメな点
序章と終章で変なメタ構造になっていますが、あれはいらない。
精神分析の部分は少々古臭い。それから、ロールシャッハテストにおけるジョージの反応が直接的過ぎますね。

偏愛する作家ですが、万人受けするとは言い難い。
いちおう短編の名手とされているので入門は短編集『一角獣、多角獣』がお薦め。


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シオドア・スタージョン
2005年06月
輝く断片
平均:4.50 / 書評数:2
2003年12月
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2003年07月
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きみの血を
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