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[ SF/ファンタジー ]
夢みる宝石
シオドア・スタージョン 出版月: 1979年10月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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早川書房
1979年10月

早川書房
1979年10月

早川書房
2006年02月

筑摩書房
2023年10月

No.1 8点 2020/08/19 03:30
 不思議で複雑な輝きを放つ目を持つパンチの人形、ジャンキーと一緒に孤児院から、判事に立候補したアーマンド・ブルーイットに養子としてひきとられたホーティ少年。だがそこに愛は無く、アーマンドに折檻され左手の指を三本失ったホーティはそのまま家から逃れると、たまたま町を訪れていたカーニヴァルの小人たちに拾われる。彼は一座の花形である小人のジーナの妹・キドーとして、そのままカーニヴァルに受け入れられることになった。
 ジーナに導かれ、彼女独自の教育を受けて生まれてはじめて世界の一部となったホーティ。白痴の一寸法師に鰐男ソーラム、双頭の蛇や毛のない兎、踊り子や火食い芸人。彼を取り巻き千篇一律のごとく過ぎ去る興奮と神秘のシーズン。だが"奇妙な人間たち(ストレンジ・ピープル)"ばかりを集めたカーニヴァルのボス、〈人食い〉ことピエール・モネートルは、人類のすべてを憎むと同時にある邪悪な企みを抱いていた。そして彼はその望みを叶える為に不思議な能力を持つ水晶、宇宙から地球へ漂流してきた生きている宝石を集めていた。そう、ちょうどジャンキーの目に嵌めこまれていたような美しい石を――
 1950年に発表された異色のSF作家、シオドア・スタージョンの処女長篇。「水晶が夢みるとき、土の塊から花や昆虫が、小鳥や犬が、そして人間が生まれる」とカバー裏の紹介にある通り、ジーナの教育によって膨大な知識を得た水晶人(クリスタライン)ホーティと、邪な目的のために彼を操ろうとする〈人食い〉、故郷の町でただひとり優しくしてくれた少女ケイ・ハローウェル、そしてケイを脅迫し彼女を愛人に加えようとするホーティの元義父ブルーイット遺言検認判事。〈人食い〉とホーティの対決を軸にして各々の運命が絡み合い、グロテスクな美しさを持つストーリーが進行していきます。
 ジーナがホーティに与えた数々の本の中にレイ・ブラッドベリの『火星年代記』がありますが、文庫版あとがきではそのブラッドベリ自身、「息苦しいほどの嫉妬心に駆られてスタージョンを眺めていた」ことが記されています。文章の流麗さ、比喩の美しさに加えて時に目眩を、また転じては嘔吐すら抱かせる感覚的な文体は、ハードボイルドの雄、レイモンド・チャンドラー位しか比肩するものはいません。
 そのようなスタージョンの特質が端的に現れたのが物語の中盤、成長したホーティがブルーイット判事に報復する場面でしょう。イギリス版〈アーゴシイ〉に掲載された短篇出世作「ビアンカの手」や「考え方」「死ね、名演奏家、死ね」に見られるような、異様な思考形態が読者を戦慄させます。ストーリー自体は感動を呼ぶものでありながら、一方で読者を輾転反側させるのがこの著者の魅力。王道ながらそれに留まらぬ異質さも併せ持っています。
 フレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』と合本で世界SF全集に収録されていた程の作品ながら、現在は絶版状態。古書価も徐々に上がっているようです。再版してほしいけど今のハヤカワではまず無理かな。しばらく古書漁りもやってないんで現時点での難度がどのくらいかは分かりませんが、たまたま目に付いたら確保しておく事をお勧めします。


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シオドア・スタージョン
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