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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
女狐
栗本薫 出版月: 1981年07月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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講談社
1981年07月

講談社
1983年11月

No.1 7点 おっさん 2012/01/17 09:51
1970年代後半から80年代初めに、光文社のカッパ・ノベルスから、エラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)を選者にした『日本傑作推理12選』というシリーズが刊行されており、これを若き日の筆者は愛読していました。
日本の予選委員が傑作と判断した、1970年以降の短編を英訳してアメリカに送り、クイーンのお眼鏡にかなった12篇を本にするという形式で、三冊目まで刊行されました。
その『第3集』に収録されていたのが、栗本薫の「商腹勘兵衛(あきないばらかんべえ)」。当時、一読して、よくこういう時代ものをチョイスしたなあ、と、クイーン以前に予選委員の見識に感心したおぼえがあります。

本書は、その「商腹勘兵衛」を含む8篇を収めた、1981年(昭和56年)の時代小説短編集。通読するのは、今回が初めてです。
ミステリを意図した作品集ではないものの、うち幾篇かは、広義の犯罪小説にカテゴライズできるものなので――そして出来も悪くないので(というか、グダグダ加減の目立つ長編より、むしろ小説としての完成度は高い)、紹介してみることにしました。
収録作は――
①女狐②お滝殺し③あぶな絵の女④赤猫の女⑤蝮の恋⑥商腹勘兵衛⑦微笑む女⑧心中面影橋

アブナイ女と関係したばかりに、人生を踏み外し、行きつく先は(無理)心中――というパターンのお話が三作あるのですが、その“旅路の果て”に至るルートはみな異なり、クライマックスのニュアンスも、きちんと違えて書き分けられています。さながら心中見本市w
なかでも、男と女の心理の変化がストーリーの方向性を著しく変転させ、予断を許さない⑧は、秀作。

そうした心中ものにヒネリを加えた③が、本書でいちばんストレートに“ミステリ”していますが、逆に謎解きのマズさも目につき、作者の資質が“解明の物語”に無いことをしめしています。

謎を設定して解き明かすのではなく、“何か”を隠し――隠しごとの片鱗すら見せず読者をミスリードし、結末近くで大きなオドロキを演出する、そうした技巧で成功したのが、最初にも触れた⑥ということになります。
何のことだろう、と思わせるタイトル、「どうだ。腹を切らんか」という印象的な一言で始まる導入部、殉死の予約勧誘という状況設定の面白さ、そしてヒロインとなる萌えキャラ、小説の構造上の仕掛け――栗本薫としても会心の出来ではなかったかと思います。ポオやドイルではなく、O・ヘンリーやモーパッサンの水脈に通じる一品。

重くて暗い、死の匂いに満ちた、栗本ワールドの一面を代表する作品集と言えるでしょう。
その芸風が好みかどうかと言われると躊躇しますが・・・全体に、文章表現にも工夫が見られ、作者が早々にこの路線を放棄して、伝奇と<お役者捕物帖>に行っちゃったのは、残念な気がします。
推察するに――書くのに手間と時間がかかるので、メンドくさくなったんだろうなあ。嗚呼w


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