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[ 警察小説 ]
双頭の蛇
栗本薫 出版月: 1986年12月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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講談社
1986年12月

講談社
1989年12月

No.1 5点 おっさん 2011/03/30 12:05
息抜きに読む、栗本薫。
講談社の<推理特別書き下ろしシリーズ>の第1期分として、1986年12月に上下巻で刊行された、ノン・シリーズ長編です。
余談ながら、この叢書の1期は中味が濃かった。
『そして扉が閉ざされた』『異邦の騎士』『伝説なき地』・・・とラインナップの一端を振り返るだけで、ため息が。
じつは当時、栗本薫の本書は、ひとりだけ上下巻だし(なんちゅーワガママな作者や)、内容も地味でつまらなそうなのでスルーしてました。ファンだったのにw *
今回、積ん読の講談社文庫・上下巻にて読了した次第。

問題をおこして地方に左遷された、はみだし刑事・沖竜介。新しい赴任地・平野は、旧弊で閉鎖的な町だった。保守派と改革派が対立するなか、一人の新聞記者が殺される。わが道を行く沖は、捜査班をはずされる羽目になるも、事件の核心に迫り・・・

主人公の名前は、『行き止まりの挽歌』(レヴュー済み。破綻しまくりながらラストだけは傑作の、栗本流ノワール)の梶竜介と一字違い。あれほど凶暴ではありませんが・・・脳内で姉妹作認定。
エラリー・クイーンの「ライツヴィル」を意識して考えた(「文庫版あとがき」)という、平野の町は、丁寧にうまく書けています。かの『災厄の町』が、町全体で、他所者や失敗したものを追いこんでいったように・・・「白血球が外部から入って来た菌を食っちまう」ような、生命ある町(共同体)を、著者は描ききります。800枚を費やして。
ハイ、ミステリとしては冗長ですw

事件の中心にいるのは、名家の御曹司。もちろん美形。カリスマ。でもって腹黒(いちおう、イマイチな作品タイトルが象徴している人物)。
彼に想いを寄せられているのが、「美少女の眼」をもつ、平野署のシャイな若手刑事。人気者。御曹司のアリバイの証人となる。
そしてストーリーは後半、動機の謎をはらみながら、沖による御曹司のアリバイ崩しへ収斂していく・・・
元祖・腐女子の入魂の警察小説をくらえ!

で、と。
アリバイ・トリックなんですがねえ。辻褄を合わせるのに精一杯で、ツッコミどころは満載。ここでは、ひとつだけ。
証人は刑事でしょ? 当然、あとで死体の○○○を見るでしょ? 気づかれると思わないの、大丈夫なの?
「文庫版あとがき」を読むと、本作は、著者がデビュー前に趣味的に書いていて未完成だった長編に手を加え、完結させたもののようです。ファンへ向けた、習作のお蔵出しと考えれば、それなりに読めるし、まあアリか(しかし、それをメジャー出版社の書き下ろし企画でやるか、普通w)。

*追記
講談社の<推理特別書き下ろし>の第1期では、船戸与一の『伝説なき地』も上下巻でしたね、思い出しました。こちらは力作感がヒシヒシ伝わって来ましたが、単に好みの問題でパスし、今日にいたっています。


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