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十二ヶ月 栗本薫バラエティ劇場
栗本薫 出版月: 1985年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1985年12月

No.1 7点 おっさん 2011/05/31 16:44
昭和57年(1982)に、栗本薫が「小説新潮」誌上に、毎月ジャンルの異なる短編を読み切り連載したものを、翌58年(’83)に単行本化したものです。各篇に著者のコメント付き。
内容は――

一月/犬の眼<心理ミステリー> 二月/おせん<時代小説> 三月/保証人<社会ミステリー> 四月/紅<芸道小説> 五月/夜が明けたら<風俗小説> 六月/忘れないで<SF小説> 七月/公園通り探偵団<青春小説> 八月/離魂病の女<捕物帖> 九月/嘘は罪<都会派恋愛小説> 十月/ガンクラブ・チェックの男<本格推理> 十一月/五来さんのこと<私小説> 十二月/時の封土<ヒロイック・ファンタジイ>

ジャンルわけが、いささか苦しいものも混じっていますが、現代ものから時代ものへ、ときにシリアス、ときにコミカル、作品にあわせて文体を変えていく作者の技術には、舌を巻きます。リーダビリティは天下一品。ひと頃の栗本薫が、あふれんばかりの才能に満ちた、小説の達人であったことを示す、絶好のショーケースです。
と、そこまで褒めておいてなんですが、収録作品中、ミステリ系の短編は、必ずしもベストではないw
<お役者捕物帖>の幻の第一作である「離魂病の女」は、密室殺人を扱っているのですが、トリックも謎解きも杜撰で、探偵役のユニークネスしか残りませんし、伊集院大介がダイイング・メッセージに挑む「ガンクラブ・チェックの男」は、ひねりを利かせているも、その可能性を、シロウトに指摘されるまで警察が考慮しないとは、信じがたい。捜査会議とか、してるのかいな?
名探偵ものでない、謎解け型のミステリのほうが、短編らしい味わいで成功しています。
子供を殺された男が妻への疑惑をつのらせていく、サスペンス調の「犬の眼」は、急転直下のクライマックスが呆気ないものの、闇の中に一筋の明かりがさしてくる幕切れが印象的。
新聞の三面に載った「区役所の戸籍係孤独の死」――先輩デスクの示唆を受けた雑誌記者が、その“自殺”を洗っていくと思いがけず浮かび上がって来たものは・・・という「保証人」は、松本清張ふうの“社会派”ではありません。そうではなく、事件を通して“社会”の片隅で生きる人々のドラマを描き出す、およそこの著者らしからぬ、しみじみ路線。しかし、意外に手掛り(小道具)にも留意されていて、これは拾い物です。
タイトルと裏腹に、まったく探偵ものではないのですが、『ぼくらの時代』でおなじみの(?)薫クンが語り手をつとめる「公園通り探偵団」は、デビュー当時の著者を愛する向き(いま、どれだけいるかな・・・)は必読。栗本薫版「ローマの休日」です。お伽噺を成立させる、文章のマジックを堪能あれ。

この調子で全部コメントしたいところですが、あとはもう、完全にミステリじゃないからなあ。
ベタな思い出ばなしに、強烈に感情移入させる「「夜が明けたら」の語りのテクニック。近親者の死を扱って、メメント・モリの想いに駆られる「五来さんのこと」の静謐な感動(著者の没後に読み返すと、なおさら、ね)・・・うん、やはりサイトが違うw
トリを飾る「時の封土」についてだけ、最後に触れておくと、これはかの<グイン・サーガ>の外伝。長大なシリーズに手をつけかねている人(かくいう筆者がそうw)でも、スンナリ楽しめます。異空間に迷い込んだ主人公が、ピンチに立たされるも協力者を得て敵を退け、帰還する――というありがちなホネに、いかに肉付けして盛り上げるか、そしてラストのセンテンスで余韻を残すか。お手本のような出来栄え。いや、面白うございました。


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