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[ SF/ファンタジー ]
虐殺器官
伊藤計劃 出版月: 2007年06月 平均: 6.55点 書評数: 11件

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早川書房
2007年06月

早川書房
2010年02月

早川書房
2014年08月

No.11 9点 麝香福郎 2022/02/08 20:19
舞台は「9・11」以降の「もうひとつの近未来」。テロとの戦いの末、先進諸国からは危険が一掃されたが、その一方で、地球上のそれ以外の地域では、必ずしも原因が定かではない虐殺や内戦が急増していた。米軍情報部に所属するシェパード大尉は、その謎の背後に見え隠れするジョン・ポールと呼ばれる男の存在を知り、彼の追跡を開始するのだが。
現実の国際情勢から論理的な推論を組み立てた、極めてリアルなSFであり、強烈な謎を焦点に置いた独創的なミステリであり、冒険小説や戦争小説、ポリティカル・フィクション等の要素もあり、そして暗殺のプロでありながらナイーブな内面を抱え持つシェパード大尉の瑞々しくも哀切な青春小説でもある。
世界中を飛び回るスケールの大きさと、内省的なテーマを深く掘り下げていく筆致が、作者らしい独特なバランスで結び付けられている。骨太でありながら繊細、大胆にして精妙。「小説」というものには、何が可能なのか、ということを徹底的に問い詰めた傑作。

No.10 8点 じきる 2021/08/11 22:20
鬱々とした空気と程よい衒学のテイスト。現代の社会と人間の問題を浮き彫りにしつつも、エンタメとしての面白さも十分です。
ジョン・ポールの動機とラストのクラヴィスの選択にはミステリ的なサプライズもあって良かった。

No.9 6点 レッドキング 2020/06/06 15:47
近未来SFにして、世界各地に凄惨な虐殺戦争を巻き起こす謎の人物ジョン・ポールのホワイダニットミステリ。自分の手は汚すことなく、地域一帯に殺戮を生じさせる人物へのフーダニット興味は早々と解消してしまい、一番肝心なハウダニットは信じられないような「大言壮語」で終わる。ミステリとしては致命的、SFとしても大いに物足りない。※本来3点・・・ただ、ジョン・ポールの「WHY」、大いに身に染みたので、大いに点数おまけ加算。

No.8 8点 小原庄助 2020/02/28 10:06
アメリカ同時多発テロ後、個人認証システムが普及した先進国でテロがなくなる一方、発展途上国では内戦や虐殺が急増。主人公は、そんなあながち「もしもの話」だと思えない、あり得そうな世界で、虐殺を止めるために現地指導者のもとに送り込まれる米軍暗殺部隊員。やがて、繰り返しその標的となりながら捕らえられない謎の男が浮上する。虐殺発生地を先取りし世界を転々とする男、ジョン・ポール。まるで彼が虐殺を振りまいているかのように。
脳医学的処置による痛覚や倫理観の調整、人工筋肉といった軍事を中心とするSF的技術、言語や意識・「虐殺器官」という表題に関わる人間への考察、さらに世界全体を俯瞰し、シュミレーションする規模の大きな世界観。さまざまな要素が豊富に盛り込まれ、読み応えたっぷりだが、しかしこの物語は、意外なほどに「内省的」だ。「ぼく」という一人称で描かれ、主人公の母への執着・精神的な未熟さが強調され続け、そしてラストの衝撃的な展開へと急転直下していく。
人間の存在に関わるテーマや世界全体を巻き込んだ戦争・虐殺といった非常に大きなスケールで語られる本作が、主人公というたった一人のちっぽけな人間によって語られ、そしてその一人が世界を変える。そのアンバランスさが、しかし「人間」や「戦争」というものも、一人一人の人間の存在によって引き起こされているということを思い出させてくれる。

No.7 9点 糸色女少 2020/01/12 10:46
「9・11以後」に正面から挑む、恐ろしいほどアクチュアルな近未来SF活劇。
時は二十一世紀半ば。主役は、暗殺を専門とする米情報軍事特殊検索群i分遣隊のシュパード大尉。心理操作とハイテク装備によって優秀な殺戮機械となり、紛争地域へと潜入して任務を遂行する。やがて、各地で激増する民族虐殺を背後から操る米国人の存在が浮上。大尉はその創作と暗殺を命じられるが・・・。
押井守「機動警察パトレイバー2」の世界でコッポラの「地獄の黙示録」を再演したと言えば当たらずといえども遠からずか。作戦行動用に感情を鈍麻させた「ぼく」の一人称が、グローバリズムの波に洗われる戦場の残虐を淡々と語り、テロ、環境破壊、貧困など、現代社会の問題が恐ろしく冷徹に分析される。
プロットの核になるのはSF的なアイデアだが、むしろホワイダニットの意外性とそれを正面から引き受ける結末が重い衝撃を与える。現在進行形の新しいリアルを描く傑作だ。

No.6 7点 ボンボン 2017/10/08 12:58
これは近未来SFではなく、現代を映した社会派。恐ろしいディストピアだけど、そのまま地球の日常とも言えるかも。
何といっても、一人称の語り口の効果がすごい。米軍特殊部隊の大尉にして思春期の子どものようにナイーブな青年の内面をたどるという、絶妙な力加減。未成熟な口調で思索を続ける真面目さと、平坦な乾いた口調で最後の選択を淡々と語る薄ら寒さが際立つ。
最後の選択は、全てを見極めた上での熱意ある決断なのか、それとも絶望の果ての狂気なのか。いずれにしてもあの口調とのギャップがいい。
終わりに向けた話の組み立ても見事だし、どの登場人物も主人公に与える影響が意味深く、とてもよく出来ているので読みやすく分かりやすい。それって大事なことだと思う。

No.5 7点 アイス・コーヒー 2014/11/19 19:27
9.11以降の“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国で情報監視社会が構築され平和が保たれつつあったのに対し、紛争地域では理不尽な虐殺が急増していたのだ。
この不可解な事象の原因がジョン・ポールなる一人の男だと発見したアメリカ政府は、暗殺のためにクラヴィス・シェパードら特殊部隊を派遣する。

日本SF界に多大な影響を与えた伊藤計劃のデビュー作。ミリタリー・サスペンスのかたちをとって描かれているため、果たしてミステリなのかと問われると微妙だ。ジョン・ポールの虐殺の方法や、その動機などはミステリらしき部分もあるが過度の期待をしすぎず、あくまでSFとして読み始めることをお勧めする。
平和かつ調和が保たれた世界を描く「ハーモニー」とは正反対に、本作ではとにかく近未来の戦争が描かれる。戦争を商業化したPMC、兵士の意識を極度にコントロールする精神治療、暗殺を繰り返す大国。変化する戦争の概念を冷静に指摘する描写は興味深い。
また、増大する「罪」と失われた「贖罪」が暴走していく世界観も率直に楽しめた。結末に至るまでのシナリオはかなり精緻に組み立てられている。
伊藤作品はその単純すぎる構図が批判の的となるが、単純思考な私には面白く感じられた。やはり早逝が悔やまれる。

No.4 3点 ayulifeman 2014/08/17 16:39
外国の設定のお話しはやっぱり駄目でした。
最後まで読み切れなかったです。
近未来的設定はすんなり入ってきたんだけど。。。
あまり面白くなかった。

No.3 6点 mohicant 2013/08/05 10:46
 SFにおける名作中の名作。心が揺さぶられた。ミステリーとしてはイマイチ。

No.2 5点 isurrender 2012/02/17 23:55
優れたSF作品は、ミステリとしても優れていることが多い
でも、この作品に関して言えば、SFとしては面白かったがミステリとしてはさほど評価できないかな

No.1 4点 ムラ 2011/02/18 02:03
以前から気になってた小説に、これもミステリ!!!という帯の煽りが相まって衝動的に購入。
虐殺の文法とは、罪とは進化とはなんぞやを語る小説という印象。
途中まではいいんだけど(それでも繰り返しが多くて冗長的な部分もあったが)、最後ドタバタと物語を畳むような感じで不満でした。
隣人を愛する進化とか、個として集団を守る進化論とかは面白かったのに、結局主人公が罪を背負うという偽善的な安心感を得るために、みんなに罪をばら撒いただけと言うセオリー的なオチになってしまった。
この世は綺麗ごとばかりで出来ていないんだよ! ってのはもう溢れんばかりにあるからもうちょっと味がほしいところ。
虐殺の文法も予想できたので意外性が足りず。予想道理でも納得できる道筋があればいいのだけどそれも足りないように思えた。
ジョン・ポールはいいキャラしてたんですけどね。さいごあんなりあっさり主人公が仲間を殺すのはいただけ無いです。


伊藤計劃
2010年03月
屍者の帝国
平均:7.00 / 書評数:1
2008年12月
ハーモニー
平均:7.00 / 書評数:5
2007年06月
虐殺器官
平均:6.55 / 書評数:11