皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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糸色女少さん |
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平均点: 6.41点 | 書評数: 175件 |
No.175 | 6点 | バイオスフィア不動産- 周藤蓮 | 2024/12/03 21:42 |
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内部で資源とエネルギーの全てが完結し、なお且つ住民が望むあらゆるものを生成できる設備も備えた「バイオスフィアⅢ型建築」の普及により、人類はみな自発的引きこもりとなった。そんな状況下でも、ごくごくわずかながら働いている人たちがいる。それは誰か。バイオスフィアを管理する不動産会社の新米クレーム処理係、ユキオとアレイだ。景観問題、異臭騒ぎ、隣人トラブルなど。発想は奇想天外だが、ミステリとしてのファインプレー精神が貫かれた全5話。 |
No.174 | 5点 | 花と機械とゲシタルト- 山野浩一 | 2024/11/12 21:26 |
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「我」と呼ばれる仮想存在のゲシュタルトに自我を預けた患者たちが運営する反精神病院では、従来の支配型病院とは違う穏やかな暮らしが営まれていた。しかし、「我」の幻覚は次第に巨大化し、現実を侵食し始める。
精神病理学の知見を生かし、作者の考える内宇宙という思考世界を丹念に描き出す。冬の深まりとともに幻覚と現実が乖離してゆく終末の景色が印象的。 |
No.173 | 6点 | 第二開国- 藤井太洋 | 2024/10/27 21:35 |
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奄美大島の地元スーパーの話が一気に世界的課題の解決へと繋がる気宇壮大な夢物語。その一方で、今にも叶えられそうな説得力を備えている。
鍵となるのは一隻の外洋クルーズ船。二つの船体を繋いだ双胴船で総トン数、五十万二千。陸上で言えば地上十七階、地下二階のビルに相当する。こんなに大きな船なのに、乗客数は過去最大のクルーズ船より少なく、船室が雰囲気も旅客向けとは異なる。大きな謎を巡って、島にUターンした昇雄太をはじめとする同窓生男女が交錯する。インターネット世代の紡ぐチャレンジングな夢を、経済的、技術的知識を存分に駆使して描きだした郷土SF. |
No.172 | 7点 | 王の眠る丘- 牧野修 | 2024/10/04 22:14 |
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東洋風の異世界を舞台に繰り広げられる少年の成長と復讐の物語。
戌児の暮らす町は、黄武神皇の警司長・襤褄の率いる軍隊によって焼き払われた。復讐のためには、厳重に守られた黄武神皇の都・天武に入らねばならない。そのためには、馬奴という獣を駆って大陸を横断する超長距離レース、大耐久馬奴走に参加し、ゴールまで完走しなくてはならない。 命懸けのレースに挑んで、復讐を成し遂げるという単純にして強靭なストーリー。それを支えるのは、主人公・戌児だけでなく、仲間や競争相手といった人物描写の密度、さらにはレースの過程で繰り広げられる死闘の荒々しい描写がある。そうした要素に支えられて疾走する物語のゴールもまた鮮烈で熱気に満ちている。 |
No.171 | 8点 | 蒼いくちづけ- 神林長平 | 2024/10/04 22:03 |
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月の都市で、テレパスの少女ルシアが裏切られて死んだ。彼女の抱いた激しい憎悪、地球にも届くほどの強い残留思念が、やがて周囲に災いをもたらす。テレパスの関わる事件を扱う無限心理警察の刑事OZは月へと向かう。彼女の魂を救うために。
テレパス同士のコミュニケーションについて語りつつ、そこから現実認識の変容という作者らしいテーマに踏み込まない。あくまでも事件の解決を中心に据えた、ストレートなSFミステリである。 怨霊を鎮めるようなホラーめいた物語を、SFの枠組みで描いてみせる。刑事の心情を綴る文体にも、クライマックスのOZの所作にも、ロマンティシズムが溢れ出る。短い中に、緊張と悲哀を込めた作品だ。優しさの滲む結末も忘れ難い。 |
No.170 | 5点 | 殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官- 大倉崇裕 | 2024/09/14 21:48 |
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一九五四年以来たびたび怪獣に襲われ、怪獣対策先進国となっている日本が舞台。怪獣省の予報官を話の中心に据えつつ、怪獣出現に伴う騒動の中で起きる事件を描く。
謎解きはもちろん、怪獣省と警視庁という二つの組織の力関係に警察小説的要素が仕込まれているのも面白い。怪獣の特徴を利用した撃退法や死体の処理といった、怪獣もの定番の読みどころも充実。特撮ネタもあちこちに仕込まれている。 |
No.169 | 5点 | 疫神記- チャック・ウェンディグ | 2024/09/14 21:40 |
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舞台は現代で、巨大な彗星が地球を横切った翌朝、アメリカの各地で不可解な行動に出る人々が現れ始める。彼らは突如夢遊病のように歩きだし、話しかけても反応を返さない。夢遊者と呼ばれるようになった彼らは次第に数を増していくが、なぜそんな状態になってしまったのか。
感染症か、化学物質の汚染が関係しているのか。そうした数々の疑問を解き明かす米政府の対策チームの物語とともに、夢遊者となってしまった家族とともに歩き続ける父娘、この事態を予見していた未来予測AIの「ブラックスワン」の活躍など、多様な視点からこの事象を描き出していく。上巻の中盤まではテンポが悪いのだが、上巻の終盤からは怒涛の伏線回収が行われノンストップ。 |
No.168 | 8点 | 天涯の砦- 小川一水 | 2024/08/24 21:52 |
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高軌道宇宙ステーション望天で起こった爆破事故によって、閉鎖環境下に閉じ込められてしまった十人のサバイバルを描き出す、ハードSF&サスペンス。
酸素は限られ、内部に生存者がいることさえも伝えられない極限状況下。その上、生存者は偏屈な医者、エゴイストの女、変わり者の制御環境科学者と癖のある者ばかりで、中には今回の事件の関係者と思われる人物もいる。 度重なる気密破戒によって環境は悪化し、一人また一人と死者が増える中、空気に食料、宇宙服をかき集め、通信手段を模索していった過程を、科学的にほぼ正確に描いていく。二十一世紀末が舞台で、未来の宇宙建造物や、月社会と地球社会の対立といった側面も書き込まれていて、サスペンスだけでなくSF的にも素晴らしい。 |
No.167 | 7点 | 猫のゆりかご- カート・ヴォネガット | 2024/08/24 21:42 |
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舞台はカリブ海に浮かぶ「ボノコン教」が流行したサン・ロレンゾ共和国に移動しつつ、ジョーナと博士の子供たちとの騒動は続く。作者のシュールで社会風刺に満ちた喜劇作家という側面が前面に出た物語である。
宗教と科学というテーマを描きつつも、社会に対する風刺やナンセンスな小道具によって笑わせる。特に架空の主教「ボノコン教」の細部の設定については、彼のセンスがふんだんに盛り込まれ、シュールながら惹かれてしまう。 本書は後続の作品にもしばしば見え隠れする「この世に真実なんてない」という皮肉を、最初に打ち出した作品と言えるのではないか。内容にもモチーフにしても、作者らしさが詰め込まれている。 |
No.166 | 7点 | スラップスティック- カート・ヴォネガット | 2024/08/04 21:43 |
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突然重力が強くなり、謎の疫病が蔓延し、アメリカ合衆国は分裂してミシガン国王やオクラホマ公爵らが跋扈し、紛争すら起こる。タイトル通り、滅茶苦茶になった世界でのドタバタを描く一方で、人間の常にあるべき姿を人工的な拡大家族に求めた。血縁のない人々を一つの集団に帰属させ、そこで小さな民主主義社会を作り、それらの集合体として社会全体を形成し、些細なことにも真剣に取り組めるような制度を整える。
疫病と分断、そして戦争。本作で描かれた世界の情勢は非常に過酷であると同時に、今日の現実の情勢にも酷似している。物語をそのまま現実に安易に敷衍することは憚れるが、作者が説いた理想、そしてその根底にある優しさは忘れてはならない。 |
No.165 | 6点 | 蜂の物語- ラリーン・ポール | 2024/07/12 22:08 |
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蜂社会を絶対的な教理で管理された王国として描く蜂小説。果樹園の巣で清掃を担当する最下層の働き蜂・フローラ七一七。しかし彼女は他の仲間と異なって口を利くことが出来た。規格外として警察蜂に殺されかけたところを巫女の蜂に救われ、実験台となる。
リアルな蜂の生態をカースト社会に落とし込み、綿密に描く。女王にしか許されないはずの母性を持ってしまったフローラの運命は波乱万丈。人間社会を皮肉るディストピア小説でもあり、女王をめぐる蜂たちの宮廷陰謀劇でもある。 |
No.164 | 6点 | 蛇の言葉を話した男- アンドルス・キヴィラフク | 2024/07/12 22:01 |
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語り手のレーメットは、キリスト教世界に逆らい森で暮らす孤独な男。動物たちを従わせる「蛇の言葉」を話せる最後の人間でもあった。
文明と自然の対立、滅びゆく野性という構図は王道。 その中で、舌をキノコのように腫らして習得する蛇の言葉、睦み合うクマと人間の娘、猿人が育てた巨大なシラミなどが奇想がディテールと臭いを伴って立ち上がる。森を見せるビジョンは力強い。 |
No.163 | 6点 | 鏡の中の世界- 小松左京 | 2024/06/25 22:00 |
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古くからの民話や習俗と現代文明のずれを扱ったものが比較的多いが、単純に発想を逆転させたものから、悪魔との契約もの、オリンピックなどのネタまで、多彩な題材をそろえて飽きさせることが無い。
中では、夏の情緒が漂う怪談「夏の終り」、モンティパイソンの殺人ジョークを思わせる「牛の首」、戦争をやめようとしない大人に子供が最後通告を突きつける「見すてられた人々」などが出色の出来。 |
No.162 | 5点 | 沈黙- ドン・デリーロ | 2024/06/25 21:54 |
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原因不明の大停電が起こった混乱を描き出すサスペンス。
ただ停電するだけではなく、通信機器も軒並み使用不可となり、スーパーボウルを観戦していた夫婦や、旅先からの帰路の飛行機で停電に遭遇し不時着した人々など、複数の視点から謎めいた状況を描き出していく。 中国人の仕業だという人物もいれば、太陽のフレアの結果だという人物もいる。何かの意外な真実が明らかになったりするわけではないが、現代の漠然とした不安を写し取っている。 |
No.161 | 7点 | 完璧な涙- 神林長平 | 2024/05/30 21:31 |
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感情を持たない宥現は、砂漠で魔姫という女生と出会い、発掘された無人戦車に追われる。あえて分類するなら時間SFだろうが、「過去と未来」という観念を具体化し、「現在」を挟んで争わせるというアクロバティックなアイデアはいかにも神林SFらしい。
作者の初期に描かれた「主観時間」という観念を「感情」と結びつけてあらためて規定し、「時間が感情に基づく主観であれば、他者との時間との共有とは?」という問い掛けが通じ「自己と他者」、そしてコミュニケーションについての思索が展開される。 自身が死者であると自覚する人々、兵器の機動にまつわるテクニカルタームの用い方など、作者の他作品と共通するアイデアや語り口が惜しみなく投入されている。 |
No.160 | 8点 | 六つの航跡- ムア・ラファティ | 2024/05/11 21:18 |
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二四九三年、宇宙船ドルミーレ号の内部で、六人のクローンが目覚めた。彼らは自分たちの前世代にあたるクローンの無残な姿を見て驚愕する。前世代のクローンのうち、四人は殺害され、一人は縊死、残る一人は瀕死の状態。そして乗船以降二十五年間のクローンたちの記憶は失われており、しかも船を管理するAIは停止し、クローン再生は不可能になっていた。
密閉された宇宙船を舞台としたSFがミステリと結びつくクローズド・サークルものになるのは理の当然だが、本書の場合、クローンである登場人物全員が冒頭の時点で死んでおり、別の意味では生きているというSFならではの設定が目を引く。 六人のうち誰が殺人犯なのかを考えれば、縊死状態で発見された人物が最も怪しいのだが、もちろんそう単純な話ではない。では誰がという謎にいくつもの疑問点が付随し、クローンたちの疑心暗鬼に拍車をかける。しかも記憶が失われている以上、たとえ彼らが内心で自分は犯人ではないと考えていても、そうである保証はないのだ。内心で自分の無実を語っている登場人物は基本的に犯人ではない、というミステリのフェアプレイのルールを逆手に取った展開と言える。 そして、六人がなぜドルミーレ号に乗せられたのかをめぐるミッシングリンクが明かされ、過去のシーンも挿入されることで、彼らがそれぞれ抱えた秘密が次第に暴かれてゆく。複雑かつ壮大に絡まりつつあった因果の糸がほぐされる過程は、あのエピソードがここにつながるのかというサプライズとカタルシスの連続で圧倒的に面白い。 |
No.159 | 6点 | 完璧な夏の日- ラヴィ・ティドハー | 2024/04/20 21:25 |
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不老の宿命に呪縛された特殊能力者たちがバトルを繰り広げる、第二次世界大戦から今世紀に至るまでの「もうひとつの世界史」。
アメリカン・コミック的な設定のもとで展開されるル・カレ風の国際謀略に、戦いの中で翻弄される恋愛と友情の行方を絡めた物語は、緊迫感と切なさが拮抗していた忘れ難い魅力を放つ。 イスラエル出身の作家でないと書けないかもしれない、アイヒマン裁判のパロディ的エピソードには度肝を抜かれた。 |
No.158 | 5点 | たまご猫- 皆川博子 | 2024/03/28 21:31 |
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表題作では、主人公が有能な姉の不可解な自死の原因を探りつつ、姉の夫や旧友と会話を重ね、その足跡をたどる。
それに象徴されるように作中では、しばしば家族・血族の絆が隠されていたはずの過去を引きずり出し、作品世界に影を落とす。姉と弟、叔母と姪、夫と妻、母と娘、義兄と義妹、どの関係も危うさを孕み、時に切なく美しく、時に醜悪に描かれる。さらには、死さえ絶望ではなく、生を凌駕する希望と化すことも。 どこかほの暗い展開は先が読めず、最後のページに至るまで、ミステリか恐怖小説か幻想譚か判断がつかない。 |
No.157 | 7点 | 渚にて- ネビル・シュート | 2024/03/06 21:17 |
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全面核戦争により北半球は一瞬で滅亡、無事だった南半球にも放射能が南下していく。数ケ月後、オーストラリア南端にも最後の荷が迫っていた。
夢だったカーレースに挑む科学者、ギリギリまで現実から目を背け庭作りに勤しむ女、亡くなった家族への土産を探すアメリカ人艦長。 SFとしては動きがないが、今読んでもなお、核戦争の恐怖を身近に感じさせる。 |
No.156 | 7点 | さなぎ- ジョン・ウインダム | 2024/02/14 21:47 |
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舞台は<試練>後の中世風の村社会。ミュータントを忌み嫌い、些細な変異でも追放される社会に生まれたテレパシー能力を持つ主人公は、仲間がいることを隠して成人したが、強力なテレパシー能力を持つ妹が生まれたことから事態が発覚し、捕らえようとする村人たちから逃亡する。
息詰まるような破滅後の暮らしを鮮やかに描いたこの作品は、テレパシーを描いた小説としても一流である。また、ウィンダムの特徴である「生き残るのは誰か?」というテーマはここにも盛り込まれている。 |