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[ サスペンス ]
毒薬の小壜
シャーロット・アームストロング 出版月: 1958年01月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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早川書房
1958年01月

早川書房
1977年10月

No.3 9点 人並由真 2020/06/19 18:02
(ネタバレなし)
 1955年のアメリカ。若い時は亡き父にかわって病身の母親と妹エセルの生活を支え、さらには大戦の騒乱を経て気がついたら55歳まで独身だった、今は小さな芸術大学に勤める国文科の教師ケネス(ケン)・ギブソン。彼は勤務先の先輩格の人物ジェイムズ老教授の葬儀に参列し、その忘れ形見であるひとり娘、32歳のローズマリー(ロージー)に出会う。晩年は精神がイカれたままこの世を去った父親の世話に追われて青春をすり減らしたローズマリーはほとんど世知も就職の経験などもなく、今後の生活が不安だった。とりたてて美人ではないが愛らしくて幸薄い彼女に強烈な保護願望を抱いたギブソンは、自分の孤独を癒してもらうという大義のもとに23歳年下の彼女に求婚。形ばかりの結婚生活を営むことで、彼女の今後の生活を支援しようとする。戸惑いながらもギブソンの提案を受け入れたローズマリー。やがて夫から妻への、そして妻から夫への想いは形ばかりでない本物に変わっていくが、そんなある日、劇的なできごとが。

 1956年のアメリカ作品。
 少年時代にはじめてポケミスという膨大な冊数の叢書の大河に出会った筆者は、パズラー三巨頭やハードボイルド三大家の諸作はともかく、あとはどのへんから読めばいいのかという迷いを、たぶんどっかのタイミングで感じたはずであった(具体的にはその辺の感覚は、もう詳しく覚えていないんだケドね。あまりに大昔のコトだから・汗)。
 そんなときに絶好のガイドとなったのが、中島河太郎の「推理小説の読み方」であり藤原宰太郎の「世界の名探偵50人」であり、そして古書店でかきあつめた「日本語版EQMM」のバックナンバーに連載されていた都筑道夫の(当時の)未訳の原書紹介記事「ぺえぱあ・ないふ」などであった。
 その最後の「ぺえぱあ~」の何回目かで、本当に面白そうに紹介されていたのが本作で、やがてすぐに、この作品が都筑の紹介から間もなく翻訳されてポケミスに入っていると確認。都内のどっかの大手書店(昔は、早川の倉庫から出てきた古いポケミスを優先的に仕入れる一部の有力店が都内にいくつかあった)の書棚でいそいそと購入した。が、例によって釣った魚に餌をやらないどころか生須の存在すら視界から消してしまう評者のこと。その後ウン十年、ずっと家内の蔵書の中で、積ん読のままであった(……)。
(その長い歳月の間に、80年代末~90年代初頭あたりからアームストロングの未訳作品の発掘・紹介なんか、とっくに定着していってるんだけどね・大汗) 

 というわけでようやっと読んだ本作ですが……これはいいです。この5~6年間に読んだ作品の私的お好みベスト3に入るのは確実で、このサイトに参加して初めて10点をつけようか本気で躊躇したくらい。
 どこがどういいかいくらでも言いたいんだけれど、実はポケミスの裏表紙のあらすじが意外なほど控えめなのね。前述のツヅキの名文ではほとんど3分の2くらいまでお話を語ってた記憶があるけれど、このポケミス版では3分の1くらいしか明かしてないんじゃないかしらん(というわけで今回の評者のレビュー冒頭のあらすじもそのポケミスに倣って、ほとんど序盤の延長までしか書いてない。)このポケミス版のあらすじを書いた当時の早川の編集者が、ネタバレはぎりぎりまで避けたい、とこの作品への礼節を守ったのだとしたら、その思いに今回のこちらもあえて沿いたいとも思う。

 それでも中味について可能な限りに言葉を選んでいうと、とにかく前半も後半もステキ。全編の文芸に常に<敷居の低い俗っぽさ>と<ある種の高潔さへの憧憬>その二極の対比が潜在し、その上で最後に作者は少しだけ照れながら、その一方をしっかりと選ぶ。そーゆー感じの作品である。

 まあ肌の合わない人にはほとんど引っかからないかもしれないけれど、評者はこういうミステリが、いやこういうミステリも、本気で大好きだ。
 なお読み終わって就寝前に「深夜の散歩」の福永武彦の、本書についての記述を読み返してみたけれど、ハヤカワ・ライブラリ版で最後の2行目、うん、これこそ正に我が意を得たり、という思いである。さすがわかっていらっしゃった(笑)。

No.2 8点 mini 2015/05/07 09:56
先日に英国王室ではウィリアム王子とキャサリン妃との間に第2子の長女が誕生しファーストネームがシャーロットに決まった
シャーロットという名前はハノーヴァー朝時代のジョージ3世の后で同名の娘も居て、現王室ウィンザー朝は名称が変わっただけでヴィクトリア女王由来のハノーヴァー朝の後継みたいなものだから縁の有る名前ではあるわけだ
でもジョージ3世や4世時代以降にシャーロットという名前は付けられておらず今回が久々の名前なのは、ジョージ3世在位にはアメリカに独立され晩年は精神を患い、摂政のジョージ4世は戦には強いが評判は悪く、大陸ではナポレオンが席巻し亡命したフランスのルイ王朝を匿うなど激動の時代だったので、縁起の悪い名前という潜在意識が王家にあったのだろうか
先に誕生した第1子の長男の名前がジョージ、第2子がシャーロット、縁起を担ぐなら世界的な激動の前兆でなければいいのだが

さてNHK朝ドラ女優は別にして(笑)、ミステリーの世界でシャーロットと言えば私は即座に3人の作家名を思い浮かべる、その内の2名はそのジャンルでは大物作家で、2人目のシャーロットについてはコージー派の既読作家ではあるが、既読で未書評な作が現在無いので今回は保留とさせていただこう
3人目のシャーロットは今現在は当サイトでも作家登録されていないマイナー作家なので、来年以降の生誕100周年の折にでも紹介させていただこう
やはり即座に思い浮かべる1人目のシャーロットと言えば、マーガレット・ミラーやヘレン・マクロイと並ぶアメリカ3大女流サスペンス作家の1人、シャーロット・アームストロングである
「毒薬の小壜」はアームストロングの最高傑作の1つで、これも代表作の1つ「疑われざるもの」や「ノックは無用」などと比べるとらしさが炸裂しており、古今東西の女流サスペンス小説中でも五指に入る傑作である
オーソドックスなサスペンス小説を求める向きには「疑われざるもの」の方が合うとは思うが、「毒薬の小壜」はアームストロングにしか書けない作だと思う
ただ両作共に早川文庫版が絶版で特に「疑われざるもの」は中古市場でも入手がやや難しい、早川は復刊すべきなのだが

No.1 4点 蟷螂の斧 2015/02/15 09:28
(東西ベスト76位)裏表紙より~『ギブソン氏は初老の学校教師として生活は安定し、礼儀正しく、上品だった。親子ほども年の離れたローズマリーも、小柄でおとなしく、気だてのいい女だった。二人は幸福な夫婦になった。しかし、突発した自動車事故が、彼の世界を粉々にした。妻の不倫が足の不自由な彼の心に重くのしかかってきたのだ。彼は自殺を決意、ひそかに毒薬の小壜を入手したが…アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞の心暖まるサスペンス。』~

前半は童話のような展開です。チャップリンの「街の灯」的な恋愛ものの印象。後半はドタバタ劇です。ミステリー的な要素はほとんど感じられなかったのでこの点数ですが、物語的にはつまらないというわけではありません。ただ、ミステリー作品として、MWA受賞していること、東西ミステリーにランクインしていることが不思議な感じがします。解説には「善意のサスペンス」、東西ミステリーの”うんちく”には『これは「現実主義」という名の絶望と闘う希望の物語なのだ。』とありますが、よくわかりませんでした(笑)。


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