皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ サスペンス ] 疑われざる者 |
|||
---|---|---|---|
シャーロット・アームストロング | 出版月: 1956年09月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1956年09月 |
早川書房 1982年05月 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | 2020/03/24 02:39 |
---|---|---|---|
(ネタバレなし)
当年60歳代でニューヨークの社交界の名士でもある、元舞台監督の名優ルーサー・グランディスン(グランディ)。その秘書である25歳のジェーン・モイニハンは、すこし前に自殺した従姉妹でもある女性ロザリーン・ライトの後任として今の仕事に就いた。だがジェーンはある日、グランディがロザリーンを自殺に見せかけて殺したのだとの確信を得る。しかし証拠はなく社会的に有名なグランディを即告発することはできないと考えたジェーンは、甥ながら年上の青年フランシス(フラン)・モイニハンに、グランディの尻尾を掴むための協力を要請した。が、ジェーンがフランとの連携を固める間にも、グランディは自分の同居人で彼が後見する二人の若い娘、美貌のアルシア・コノヴァ・キーンと、莫大な遺産の相続人マチルダ(ティル)・フレイジャに、次の魔手を伸ばそうとしていた。フランは、旅先で海難事故に遭ったマチルダに接触。グランディの悪事を暴くため(またマチルダの財産を守るため)、夫婦の関係を偽装してくれと願い出るが……。 1946年のアメリカ作品。1945年の「サタデー・イブニング・ポスト」誌に連載された長編で、終戦ほやほやの時節の作品である(マクロイの『逃げる幻』とかと同じ頃か)。 男子フラン、女子のジェーンとマチルダの三人の主人公がトリオを結成して「疑われざる」殺人者グランディに挑む……というシフトが早々に固まるかと思いきや、自分の義理の父のようなグランディを盲信するマチルダは初対面のフランを信用せず、なかなか協力関係が成立しない。もちろんこれはこれでリアリティがある。 しかし本作のストーリーテリングとして唸ったのは、予めフランの方もマチルダが自分を信用しないでグランディ当人に「あの人と夫婦なんてウソよ」と告げ口する事態まで先読みし、フラン自身からグランディに接近して「実はマチルダは僕との結婚直後、突発的な記憶喪失になってしまっているんです」と予防策を張っておく展開。リアリティとかアクチュアリティとかから言えば、かなりトンデモな作劇だが、お話としてはこの主人公の奇策に妙な説得力があり、読者側としても「ここはひとつ、この展開につきあっていこう」と思わされてしまう(笑)。さすがはアームストロング、うまいものだ。 後半の展開はいささかパターンに流れるが、それでも終盤のサスペンスは先のminiさんのレビュー通り、頁をめくる手がまどろっこしい。ここでは詳しく書かないが、ある登場人物のキャラクター設定もサスペンスを煽る上ですごく活かされている。 ヒッチコックが映画化していたらかなり面白いものができただろうなあ、いや、あまり付け加えるものがなくて映像化の意味もなかったかもなあ。その意味じゃ『裏窓』の原作が、コンセプトのみ借款したウールリッチの短編だったのは改めて理解できるなあ、とも思ったりした。 50年代のクラシックサスペンスという時代色は(良い面でも悪い面でも)あるんだけど、手慣れた職人作家の実力を感じる佳作~秀作。評点は0.5点くらいオマケ。 ■最後にひとつだけ文句。今回はポケミスで読んだけど、11頁では死んだと言われているバディという完全なモブキャラが、終盤の225ページでは「生きていてハワイにいっている」ことになっている!? 特に作中で、最初の方でも後の方でもウソをつく理由もないし。作者か訳者、どっちかの凡ミスか? どなたか原書を持っていたら、調べてください。 |
No.1 | 7点 | mini | 2010/04/29 09:48 |
---|---|---|---|
昨日は創元文庫からアームストロング後期の未訳作「風船を売る男」が刊行された
既に忘れられた作家と思っていたから、復刊や新訳とかじゃなくて今になって未訳作を出すとは驚いた 作者の真骨頂はどうやら2系統あるようで 一つは傑作「毒薬の小壜」のように、ある物をキーアイテムにそれに絡む様々な人間模様を描くパターンで、未読だが粗筋などを見るに後期の「始まりはギフトショップ」などがこの系統だろう もう一つがこの「疑われざる者」のような、悪人と思われる人物から狙われているらしい人物を別の人が助けようと奮闘するパターンで、やはり未読だが「疑われざる者」の逆ヴァージョン「見えない蜘蛛の巣」や中期の代表作「サムシング・ブルー」などがこの系統に属すると思われる 「疑われざる者」は作者初期の代表作にして、サスペンス小説の初代女王みたいな存在たらしめた出世作である はっきりとした悪人が登場するのを読者に周知しフーダニット的に隠すわけじゃないし、しかも前半だけだと退屈な展開に、これ本当に名作かいな?と思ったが、読み終わってみれば流石はアームストロングだった 読者側に推察させるような謎らしい謎もないのに、それでいて十分に面白いといういかにもアームストロングらしさ炸裂の展開である 特に終盤のサスペンスの盛り上げはもう読み進むのを止められないほど ただちょっと不満もあって、後半は完全にある女性登場人部の視点で話が進むのだが、これだったら最初から終始この女性を中心に語るべきだったのはないだろうか 前半は誰の視点が中心なのか曖昧で、特に第1部2部と分けて章立てしてるのでもなく、唐突に途中から特定の女性視点だけに絞って語られるのはちょっと違和感が有った |