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[ サスペンス ]
夢を喰う女
シャーロット・アームストロング 出版月: 不明 平均: 5.00点 書評数: 1件

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No.1 5点 人並由真 2025/04/13 06:54
(ネタバレなし)
 たぶん1950年代の前半。「私」こと34歳の女性で、ニューヨーク市立女学校の演劇部教師オリヴィア(オリー)・ハドスンは、先の事件を想起する。オリヴィアの大叔父(祖母の義弟)で土地の名士である77歳のジョン・ポール・マーカスは、裏社会と非合法な繋がりがあった52歳のレイモンド・バンカーマンの実情を告発し、そのバンカーマンから逆恨みを受けていた。バンカーマンは報復の参謀として、業界で<やらかした>ため仕事のない劇作家ケント・ショーを雇い、何か画策していた。そんななか、オリヴィアの腐れ縁の友人で、マーカスの孫(つまりオリヴィアの従弟)チャーリー・アイヴズの元妻でもあった女優コーラ・ステファニーに異変が起きた? 意識を失った彼女はその間、フロリダで貴婦人ジョーゼフィン・クレーンに会っていたという!? そしてジョーゼフィン当人もまた、自分はその時刻にコーラに会っていたようだ? と言い出した。

 1955年のアメリカ作品。
 弾十六さんによれば国会図書館の電子書籍で旧クライムクラブはみんな読めるそうだが、同叢書には昔から思い入れがあるので、古書価のやや安い状況を狙って購読した(もちろんそれでも定価の十倍以上のプレミア……)。とはいえ、少し痛んではいるが帯付き、函付き、さらにアンケート葉書に栞、スリップ付きの完本だから不満はない。その辺のゼータク感は図書館のレンタル電子書籍では味わえない(苦笑)。つーわけで、旧クライムクラブに関しては、自分はたぶん最後まで紙の本で読みます(笑)。

 とはいえ、作品の中身が素直に楽しめたかというと、う~ん。

 マーカスに逆恨みの報復を仕掛けて来る悪党の謀略を大枠に、その前提のなかでそこにどう絡むのか? ドッペルゲンガーめいた同時二重存在の謎と、さらにはおよぞ通常の常識ではありえない遠隔透視の謎が語られる。

 それで(あんまり書けないのだが)その謎の解法というか、怪異のメカニズムが、一方は早々に明かされ、さらにそこから物語が進むのだが、もう一方は……(中略)。
 小説として最終的に決着させるには、あの作品やらかの作品みたいな方向に持っていってもそれはそれでアリだとは思うが(まあ、それで格段、面白くなるとも思えないものの)、一人称主人公をふくむ登場人物たちがツッコミもしなければ深掘りもしないのはちょっとね。

 実はあらすじではまだ名前も出してないキーパーソンがもう一人いるのだが、その辺の作劇上の運用を踏まえて、作者がトリッキィなことをしたかったのはなんとなくわかるんだけど、こちらの気になった箇所に登場人物がシンクロして必要最低限はドタバタしてくれないので、なんかイマイチ、隔靴搔痒な感じのストーリーである。劇中人物の思惟に沿って話が進んでいくのは理解できるのだが、おいおいいつになったら、アッチの方向に気を向けてくれるんだ? と思いながら終わってしまった。最後まで読んで結局(以下略)。

 植草の解説(昔「雨降りだから~」で一二回読んでるハズだが、改めて今回、本文の読後に読み直す)によると、当時のアメリカにはまた霊媒ブームなども起きており、その影響もあったというから、原書刊行時の母国の読者はくだんの部分がとにもかくにもナチュラルにスムーズに受け入れられたのかもしれんが、その辺の文化事情とまったく関係ない今のこっちにはちょっとね。

 つーわけで、割と昔っから期待していたトラの子の一冊だったんだけど、お楽しみミステリとしてはちょっとファールっぽい。
 で、翻訳の印象は、丁寧なんだとは思うし、言葉がことさらそんなに古くなってる感じもしないんだけど、なんかそれなりに疲れた感じもあった。やっぱどっか、読みにくかったのかもしれない。
 アームストロング作品のなかでは、これは特に、ちょっとほかの人の感想を聞いてみたい方の一冊ではあるかもね。


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シャーロット・アームストロング
2010年04月
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不明
夢を喰う女
平均:5.00 / 書評数:1