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[ 青春ミステリ ]
少女には向かない職業
桜庭一樹 出版月: 2005年09月 平均: 5.50点 書評数: 10件

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東京創元社
2005年09月

東京創元社
2007年12月

No.10 6点 メルカトル 2023/01/08 22:38
あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した…あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから―。これは、ふたりの少女の凄絶な“闘い”の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。
『BOOK』データベースより。

13歳、それ以上でも以下でもない等身大の少女の姿が窺い知れます。陽気で元気な、時には涙を流す喜怒哀楽が激しい主人公で語り手の「あたし」大西葵。そしてもう一人の少女宮之下静香は影のある図書委員。二人の少女の個性、陽と陰、陰と陽が重なり合う時、何かが起こる。

葵のセンセーショナルな告白で始まる、この物語は大人達への挑戦とも取れる無謀な戦いの様相を呈します。序盤はごく普通の青春小説の様でもあり、少女の心模様が手に取るように分かる、なかなか筆達者ぶりを作者は見せつけてくれます。それがやがて不穏な空気を纏ってきて、二人の少女の出会いがとんでもない事件に発展します。
まあ面白いと言えば面白いんですが、ただやはり子供のする事、犯罪計画はかなり杜撰でトリックとかロジックとかを重視する読者にはお薦めできません。そういう細かい事を気にしなければ十分楽しめる良作であると思います。ミステリとしてよりも青春小説として評価したいですね。

No.9 7点 文生 2022/11/28 02:08
ラノベ作家としてデビューした著者初の一般向け作品。
女子中学生を主人公にし、彼女たちの重い現実をラノベ時代に培ったライトな語り口で描いているのが印象的です。その軽さによって救いのない物語に屈折した爽快感を付与し、やがて訪れるやるせいないラストを引き立てることに成功しています。ミステリとしての魅力は乏しいながらも殺人を絡めた思春期小説として秀逸。

No.8 7点 Tetchy 2018/02/23 23:15
地方のどこにでもある町に住む女子中学生2人、大西葵と宮乃下静香の、中学2年に体験した、青くほろ苦い殺人の物語。この2人はそれぞれの家庭に問題を抱えている。
美人でかつて東京で働いていた母親を持つ大西葵は学校ではいつも周囲を笑わせるムードメーカー的存在だが、父親を5歳の時に病気で亡くし、再婚した漁師の義父は1年前に足を悪くして以来、漁に出なくなり、毎日酒浸りの日々。もはや酒を飲むか、酒を買いに行くか、寝るかしかしない大男で狭心症を患っている。従って生計は母親の、漁港での干物づくりパートで賄っている。葵はこの義父がとても嫌いで死ねばいいのにと思っている。
宮乃下静香はその島の網元の老人の孫で従兄の浩一郎の3人暮らし。中学生になった頃から島に住み始め、それまでは祖父に勘当された母親の許で暮らしていたが、祖父がその行方を捜していたところを見つけられて引き取られることになった。彼女の母はその時既に亡くなっていたため、彼女のみ島に帰ることになった。そして浩一郎は祖父から嫌われており、なんとかなだめてその莫大な遺産を相続しようと画策している。そして遺言状が書き替えられ、遺産を相続することになった時こそ、自分が浩一郎に殺される番だと恐れている。

バイトで稼いだ小遣いをゲームに費やす大西葵、読書家でいつも鞄がパンパンに膨れ上がるほどの本を持ち歩いている、図書委員の宮乃下静香は作者本人の分身のように思える。桜庭氏がかなりの読書家であることが知られており、また別名義でゲームシナリオも書いていることから恐らくゲーム好きであろうことが窺える。
この2人のうち、語り手の大西葵を中心に物語は進むわけだが、これが何とも実に中学生らしい青さと清さを備え、あの頃の自分を思い出すかのようだった。

供だった小学生から、肉体的・精神的にも大人へと変わっていくこの年頃の複雑な心境、そして理解されたい一方で、大人を嫌う、愛憎入り混じった感情、そしてもう日常を生きるのに精一杯で我が子を表層的にしか捉えていない大人の無理解に対する憤りなどが織り交ぜられている。
少女たちの日常は虚構に満ちている。それは辛い現実から少しでも忘れたいからだ。そして少女たちは今日もセカイへ旅に出る。

中学生になった彼女たちはバイトして自由に使えるお金も増え、そして身体も大きく成長し、自転車でそれまで行けなかった距離も延々とこぎ続ける体力を持ち、それまで親の付き添い無しでは乗れなかった公共交通機関も、恐れることなく、乗れるようになる知識を備えている。それまでできなかったことがどんどん出来てくる彼女たちは世界がどんどん広がるのを実感し、万能感と無敵感を覚えていく。
一方で小学生までは一緒にゲームで遊んでいた男子もからだの発育と共に大人びていき、異性を意識し出して、これまでのように話しかけることが出来なくなる。特に女性の方が精神面の成長は早く、男性は遅いので、男子はいつものように話しかけるのに対し、女子はいつの間にかできた心のハードルを飛び越えて、決意を持って話さなければならないようだ。

こうでなければならないと小学生の頃に叩き込まれたルールを愚直なまでに守り、一方でそれを逸脱することに面白みを感じる、矛盾を内包した彼らは自分の行為で生じる矛盾を許せはするが、他人の矛盾行為は許せない。なぜなら万能感を手に入れた彼ら彼女らは自分こそが正義だと思うからだ。相手に合わせることを知りながらも、一方で自分の規範から外れた者を排除することを厭わない純粋であるがゆえに不器用な心の在り方が、全編に亘って語られる。

学校という基盤が少女たちをまた中学生に引き戻す。日常と非日常を繰り返す。それは非日常のダークサイドを日常の学校生活で浄化しているかのようだ。
学校生活という現実から逃れるためにゲームや読書と虚構世界の中を生きる彼女たちにとって殺人自体もまた虚構の出来事として捉えることで消化する。だからこそ宮乃下静香は古今東西の物語をヒントにした殺人シナリオを作り、大西葵は殺人をテレビで観たマジックとゲームに出てくる武器バトルアックスで実行する。それはどこか彼女たちにとって白昼夢の出来事。しかし違いは身体性、肉体性があること。
そして彼女たちの生身の身体が傷つき、血を流すとき、ゲームは終わりを告げる。虚構にいた彼女は現実を知り、そして法にその身を委ねることを決意したのだ。それは自分たちが生きようとする意志でもあった。世界に絶望した自分たちが血を流すことで生を意識したのだ。ゲームの世界ではHPという数値でしか見えなかった敵を斃すということ、傷を負うということが実際に血を流すことでリアルに繋がったのだ。
つまりそれは彼女たちが生きていたセカイからの脱却。本書は自分たちの障壁となる人物を排除することでリアルを体験し、そしてセカイから世界へ向き合うことを示した物語なのだ。

現実の厳しさに耐えるため、敢えて虚構に身を置き、それに淫することで自らの居場所と万能感を得た彼女たち。それは思春期を迎える我々全てが経験する通過儀礼のようなものだろう。
そこから脱け出して現実を知る者、未だに抜け出せず、虚構の主人公となろうと振る舞う者。今の世の大人は大きく分ければこの2種類に分かれているように思える。

彼女たちが認識した世界は実に苦いものだった。これはそんな少女たちの通過儀礼のお話。リアルを知った彼女たちは今後、一体どこへ向かうのだろうか。もし彼女たちが虚構に生きることを望んでいたのなら、確かにこの殺人計画は「少女には向かない職業」だ。

No.7 8点 風桜青紫 2016/01/25 20:16
主人公がなんかもう色々と笑えます。かわいいです。茶髪のツインテールというだけですでに面白いのですが、ドラクエやったり、ムシキングやったり、遊戯王で男子と盛り上がったり、セーブデータ消されて泣いたり、斧を買ったり、モップで同級生をぶちのめしたり、もうこんな(真の意味で)中二な女の子は好きにならざるを得ないです。その一方で、家庭環境はなんとも複雑で、野蛮なダメ親父にびびる毎日。本人が「こんなのそこら中で起きていることだ」と言うとおり、なんとも陳腐な不幸なんですが、だからこそ、主人公に共感してしまうわけです。父親は野蛮。母親は自分のことをぜんぜん見てくれない。愛に飢えてる! っていうか寂しい! そんな感情がなんとも野蛮な友情に結び付いていくわけです。だからこそ、おっさん刑事の存在が、なんとも暖かく感じられる。ああ、くそ、こういう大人がもっといれば……。しかし悲劇で終わってしまうものの、鬱な状態に落ち込むわけではないパワーが桜庭作品の魅力と思います。ファンシーさと野蛮さが入り交じったなかで、登場人物の情感をうまく描き出した魅力的な青春小説です。

No.6 3点 ボナンザ 2014/08/29 14:39
砂糖菓子や推定少女と並ぶ桜庭の少女もの。
桜庭版罪と罰といったところか。

No.5 5点 yoshi 2010/03/06 18:28
リーダビリティは高くすらすら読めた、楽しめたが、ミステリとしては物足りない。創元推理文庫ということでこちらのミステリ的期待値があがっていたせいもあるけれど。

No.4 6点 あるびれお 2009/06/13 05:09
桜庭一樹という作家は、世界を構築するのが上手いと思う。そして、いつの間にかその世界に引きずり込まれている。その引きずり込み方が暴力的であったり背後から忍び寄る感じだったりで作品の色合いがまったく変わる。後の「赤朽葉」のような、めくるめく読書体験ではなかったけど、十分に楽しませてもらった。

No.3 3点 江守森江 2009/05/24 20:19
少女の気持ちを察せない、どこにでも居るオジサンには向かない作品だった。
作者の初読みがこれなので次に手が出ていない。

No.2 6点 ロビン 2008/09/16 21:51
若者(自分もですけど)が書いた純文学っぽい口語体の文章で、登場人物もそれっぽいし、展開もそれっぽい。青春時代の陰のある人間関係や心理描写って、救いがないから読んでいてつらいなあ。
ラストにカトリーヌ・アルレーのある作品を参考にしていることが明かされて、それなりに仕掛けもあり、ミステリーしてる。
殺人を犯した女子中学生を描いたちょっと癖のある文学だと思えば、なかなか面白いかと。

No.1 4点 kowai 2008/05/31 22:39
読了後、作者が女性と知って納得、私的なミステリではないかも。少年少女の衝動的・打算的な青春ドラマを(?)犯罪劇として描くのは好きじゃないですね。狡猾な大人がやってこそ、解明されるべき悪となるのです。。。そのためのミステリ、そのための探偵。。。。あ~、正直、やつらの心理が理解できませんでした。少年期に読めればよかった作品、かな。


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