皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ホラー ] 怪談小説という名の小説怪談 |
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澤村伊智 | 出版月: 2022年06月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 3件 |
![]() 新潮社 2022年06月 |
![]() 新潮社 2025年05月 |
No.3 | 6点 | メルカトル | 2025/09/13 22:37 |
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”小説” ならではの企みに満ちた“怪談” 全7編。深夜、疾走する車内を戦慄させた「高速怪談」、呪われた大ヒットホラー映画「苦々陀の仮面」、禁忌を犯してしまった夫婦と「こうとげい」、正体不明の殺戮犯「うらみせんせい」、作者不明の恐怖譚「涸れ井戸の声」他。謎めいた語りが恐怖と驚愕を生み、奇妙で不穏な空気と意外な結末に嫌な汗が滲みだす。著者真髄の大どんでん返し恐怖短編集!
Amazon内容紹介より。 流石と云うか、これまで私が読んで来た怪談話とは一味も二味も違う出来の短編が多いです。ミステリ的仕掛けが施されているものもあり、その意味でも好感が持てます。全体的に怖いと思われる作品は少ないけれど、生理的にジワジワ染み込んでくる、嫌らしい感じがします。人間の持つ原始的な恐怖を揺さぶる何かがあります。 しかし、期待していた程ではなく惜しくもこの点数に落ち着きました。個人的には『こうとげい』と『笛を吹く家』が面白かったですね。ああ、他の作品も勿論一定のレベルに達した佳作と言えると思いますよ。ホラーと言っても多くの方に読まれるべき一冊ではないかと。飽くまで怪談ではなく小説として。 |
No.2 | 6点 | ぷちレコード | 2024/10/17 22:59 |
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夜の高速を走る車の中での怪談披露、散歩する親子が遭遇した奇妙な家屋、田舎町の奇妙な風習に、夕暮れの学校で起きる陰惨な事件。現代らしい怪談を語るシチュエーションと、語りに仕込まれた小さな違和感を回収する手際で読ませる。
物語が存在すること、そして語ることの意味を浮かび上がらせる趣向が目立つ。特に筆を折った先輩作家から知らされた、存在も定かではない読んではならない小説を語る「涸れ井戸の声」、ある夏の海辺の出来事を多人数の証言から再構成する「怪談怪談」の2編は、ホラーでもありミステリでもあり、そして物語を論じた小説でもある。 |
No.1 | 6点 | パメル | 2024/09/01 19:51 |
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深夜のドライブに同乗する男女が怪談話を披露し合う「高速怪談」は、語り終わった話が後になって、さらなる意味を露にしたりと目まぐるしいスピード感たっぷりの百物語。逃げ場の無い車内で徐々に不安に駆られていく描写がいい。
子育てをする夫婦が幽霊屋敷の存在に歪んだ思いを募らせる「笛を吹く家」は、いくつかの違和感ある描写が重苦しいまさかの真相。 大ヒットを記録したインディーズ系ホラー映画に関わった人間たちの辿る運命を多重な文体で綴った「苦々蛇の仮面」は、淡々とした無機質な怖さが増していく技巧派ぶりがそれぞれに堪能できる。 「こうとげい」は、新婚夫婦が旅先で遭遇する恐怖を緊迫感に満ちた逃走劇に仕立て上げたサスペンスホラー。ドロドロとした土着の恐怖を堪能できる。 学校の怪談と殺人鬼ホラーを組み合わせた「うらみせんせい」は、作者らしいどんでん返しにより、陰湿なホラーに仕上がっている。 「涸れ井戸の声」は、タイトルと同名の短編が登場する一編で、圧倒的に怖いらしいが誰もその存在を明らかに出来ない、いわゆる幻の小説を巡る不可思議な物語となっている。奇妙な怪談話の存在がいい味を出している。 「怪談怪談」は、子供たちの肝試し大会と著名な霊能者の行方を探る物語が並行して進みながら、怪談を語ることの意味に迫って作品集全体の幕を閉じる役割を果たす。怖いというより切ない気分になる。 怪談、ホラーの定番要素を様々な小説作法で再構築していく作者の力量に圧倒される一冊。 |