皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ ホラー ] 渦まく谺 |
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リチャード・マシスン | 出版月: 1959年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1959年01月 |
No.2 | 7点 | ROM大臣 | 2021/10/25 14:28 |
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予知能力、テレパシー、そして幻視と主人公が獲得した能力が多彩すぎる気もするが、むしろ異常な能力を得た彼が陥る孤独、地獄の描写にこそ読みどころがある。自分の能力をだれにも信じてもらえないのではという不安、妻が自分を狂人だと思い込んでいるのではという疑惑、自分がよく知っている人間の死を予知してしまうやるせなさが、読者を地獄めぐりに巻き込んでいく。
黒衣の女の正体をめぐる謎解きにはミステリ的な仕掛けが用意されており、ミステリファン、超常ホラー派、サイコ派のいずれもが楽しめるつくりになっている。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2021/02/18 03:01 |
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(ネタバレなし)
「私」こと、カリフォーニア(本文表記)にある航空会社の宣伝部員で27歳のトム・ウォレイスは、身重の妻アン、幼い長男リチャードとともに、職場近くの住宅街で平穏な日々を送っていた。ある夏の日、アンの弟でカリフォーニア大学で心理学を学ぶ青年フィルが来訪。近所のホームパーティの場でフィルは一同の前でトムに催眠術をかけ、トムの心の奥に眠っていた少年時代の記憶を呼び起こした。それだけなら良かったが、帰宅したトムは自宅の中に立つ謎の見知らぬ黒衣の女性と対面。しかもその女性の姿は半透明で、向こうが透けていた……。そしてその時を機会に、トムは未来の予知や他人の思考の読解が可能なようになる。さらに……。 1958年のアメリカ作品。 この作品に関する話題でちょっと長くなるが、かのミステリ評論家アンソニー・バウチャーは、1950~60年代に毎年、その年の傑作長編を1ダース強、選定(日本語の記事では「スリラー小説ベスト13」とか紹介されている企画)。 そのベスト作品の一覧は現在もどこかのミステリファンのwebサイトとかでもリファレンスできるかもしれないが、いつだったか、かなり前のミステリマガジン誌上で、この<バウチャーが選んだ、毎年のベスト作品、その総リスト>を、翻訳のあるなしの注釈つきで掲載したことがあったと記憶している。 そのリスト記事内では当然のごとく錚々たる歴代作の名がならび、さらに未訳の書名や評者がまだ未読のタイトルも多数列挙されたが、そんななかで気に留まった作品のひとつがこのマシスンの『渦まく谺』(邦訳の作者名はリチャード・マティスン表記)だった。 というのは、これがポケミスではなくハヤカワポケットSF(初期のハヤカワ・ファンタジイ)の叢書の方に入っていたからで、リスト記事を初見時「はてSFミステリだろうか? どんな内容だろう?」と、相応の興味をそそられたのを覚えている。 それでその時(ミステリマガジンのリスト記事を見たとき)は、結局そのままで終わったが、のちのちの2010年代半ばになって、評者がまたミステリファンとして無数の未読の旧刊を漁るようになると、そのことがふと思い出されてきた。 それで相場より安い古書を探し、数年前にヤフオクで入手。今日になってついに読んでみた。まあそんな流れである。 実際の本作の内容は、SFというよりホラーらしい? という気配を事前に感じていたが、現物の雰囲気は、のちの60年代後半~70年代に定着するモダンホラー小説の先駆。 冒頭から登場する脇役フィル青年や、主人公トムの友人で、当時にしてちょっと異端の(?)心理科学学者アラン・ポーターを介して、人間の脳の眠っている部分に宿る潜在的な能力などの話題にも接近。そんな一方で物語が進むにつれて、主人公のウォレイス一家の周辺には実態の見定まらない怪異が加速度的に続発するようになる。 うん、疑似科学の導入で恐怖と怪奇の事象に切り込んでいくこの物語の流れは、たしかにモダンホラーだね。 幽霊「黒衣の女性」の怪異と謎もさながら、中盤でリチャードの世話にきた子守娘ドロシーの不穏な描写とか、かなりコワイし、この辺はのちの『地獄の家』そのほかの作品に通じてゆく怪奇作家マシスンの本領発揮の感。 ただ、それでもやはりこれは、(やや)狭義のミステリというよりはホラーだよな、サスペンス要素は豊富だけれど、これをほかの諸作と並べてその年のベストミステリに選んだのは、バウチャーがミステリのみならずSFジャンルにも造詣が深く、そっちの方も一冊くらい入れておこう、というくらいの感じだったんだろうな、……と、全体の4分の3くらいまで思いながら読んでいたが……あー……(中略)。 当然ながら、ココであんまり詳しくは絶対に言えないが、たしかに(中略)。 そんなに大騒ぎするほどの大傑作という訳では決してないが、(中略)タイプの作品として、予想以上に楽しめた一冊ではあった。 50年代の新古典のひとつという前提はあるものの、現代でも相応に幅広い裾野の読者に受け入れられるんじゃないかと思う作品ではある。 少年時代~若き日のキングやクーンツたちもたぶんきっと読んでるんだろうね? もし語ってもらえるなら(あるいはすでにどっかで言及しているんなら)そこら辺の後続世代の大御所たちの本作へのファーストインプレッションを、是非ともうかがってみたいモンである。 |