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[ サスペンス ]
妻を殺したかった男
パトリシア・ハイスミス 出版月: 1991年06月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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河出書房新社
1991年06月

No.2 6点 レッドキング 2024/03/20 22:32
パトリシア・ハイスミス第三作。原題は「粗忽の人」。気分の起伏が激しい男が捕われる空想上の妻殺しと「憤怒」という大罪。現実の殺人者や偏執狂刑事と演じられる・・まるでラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ、ポルフィーリーの関係の様な・・共振と嫌悪、嗜虐と自虐の悲喜劇が、カフカやディクスン・カーレベルのグロテスクなシュール劇へと飛翔して・・すげえなあ、パトリシア・ハイスミス。点数オマケ。

No.1 8点 人並由真 2021/01/30 07:24
(ネタバレなし)
 1950年代初めのニューヨーク。40歳の書店主メルキオール・J・キンメルは、不倫妻のヘレンを謀殺。用意しておいたアリバイで嫌疑を逃れた。やがて離れた場で、30歳の弁護士ウォルター・スタックハウスが、4年間の結婚生活の果てに、協調性のないメンヘラ気味の共働きの妻クララに愛想をつかす。クララは離婚を求めるウォルターを牽制するように自殺未遂を繰り返し、さらには夫と周囲の女性エルスペス(エリー)・プライエスとの関係まで不当に勘ぐった。そんななか、キンメル事件の報道記事に接して、夫が妻を殺したと半ば確信したウォルターは、自分自身も同様にクララを殺す妄想にふけった。そして……。

 1954年のアメリカ作品。
『見知らぬ乗客』『キャロル』に続く、ハイスミスの第三長編。
 裏表紙の謳い文句「初期の傑作長編」に、偽りのない完成度。3~4時間でイッキ読み必至、正に巻を措く能わずのハイテンションストーリーだが、同時に人間の愚かさ、弱さ、怖さ、奇妙なゆかしさ、そういったもろもろの情感もてんこ盛り……なんだ、いつもの(フツーに出来のいい時の)ハイスミスだね。やっぱりこの人は、凡百の作家とはケタが違う。

 特に今回は、この作品の数年後に(中略)で書かれる、ミステリ史に残るあの大名作に大きな影響を与えていたんじゃないか? とも思える(あまり詳しくは言えないが)。

 さらには本作以降のハイスミス自身の諸作の原型となったような、そんな趣の文芸ポイントもいくつも覗く。これもあまり詳しくは言えないな。

 実を言うと、後半~終盤の展開で、いささかストーリー先行、登場人物が<物語の定型の駒のように>動いちゃってる印象の部分もあった。だけど一方で、そういうキャラクターたちの行動の道筋には、やはり真っ当なリアリティも感じさせられるので、この作品の弱点ともいえない。
 巻末で、解説担当の宮脇孝雄が<本作は1954年の作品ながら、内容的には(翻訳刊行されたリアルタイム当時1991年の)現在の作品と思って読んでもまったく違和感はない>という主旨の文言を述べているが、これにまったく同感。
 いや2021年現在の作品としても(作中の風俗や技術的な叙述を別にすれば)その普遍性ゆえにちっとも古びてない、とも思う。たぶん、この作品のポイントとなる人の心の微妙な綾って、時代の推移で変化していくものでもないだろうから。

 あー、夜中に読み始めて、もう朝である。
 正に<夜明けの睡魔>の一冊であった(汗・眠)。


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