海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ クライム/倒叙 ]
ガラスの独房
パトリシア・ハイスミス 出版月: 1996年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


扶桑社
1996年12月

No.1 7点 tider-tiger 2023/06/29 23:14
~建築技師フィリップ・カーターは横領の罪を着せられて投獄された。弁護士や妻の尽力で再審のわずかな希望が残るものの、刑務所で経験する不条理の数々はカーターの人間観、人生観に少しずつ暗い影を落としていくのであった。

1964年アメリカ。前半はカーターの獄中記、後半は釈放されてからのゴニョゴニョといったところ。エンタメとしてはいまいち盛り上がりに欠けるきらいもあるが、非常に堅実な作りでリーダビリティは高く、完成度も高い。
名作とまでは言わないが、力作。後の世で粗製乱造されていくある種の類型的な人格について、そのような人格が形成されていく過程を納得がいくようにきちんと描き切っている。

交換殺人だのストーカーだの新しいテーマやアイデアを盛り込みつつ、エンタメとしてはあまり読者の期待通りには書かない作家だが、本作もさほど派手な展開はない。
ただ、劇的なところもあるにはある。本作のカーター氏はリプリーのような人間的な愛嬌はないけれど、リプリーなどよりはるかにまともであった。そんなカーター氏の変容が出来事だけではなく、彼の思考までをも丁寧に追って描かれていく。気が付くと世界は劇的に変化している。
カーターは悪いのか、悪くはないのか、よくわからない。すごく嫌な奴に見えるその他の登場人物たちも冷静に考えるとごくごく普通の人のようにも思えてしまう。読者を不安定な世界に転がしていくハイスミスの手腕はどんどん冴えてきている。
ラストはまあ相変わらず賛否両論ありそうだが、自分はけっこう好き。

サスペンスなのかクライムノベルなのか迷うところだが、クライムとした。タイトル『ガラスの独房』は最終的に主人公が置かれる状況を指しているのだろうか。


キーワードから探す
パトリシア・ハイスミス
2017年05月
リプリーをまねた少年
平均:3.00 / 書評数:1
2015年12月
キャロル
平均:5.00 / 書評数:1
2005年03月
目には見えない何か
平均:5.00 / 書評数:1
2003年12月
死者と踊るリプリー
平均:5.00 / 書評数:1
2000年12月
生者たちのゲーム
平均:7.00 / 書評数:1
1997年12月
変身の恐怖
平均:6.00 / 書評数:1
1996年12月
ガラスの独房
平均:7.00 / 書評数:1
1996年08月
スモールgの夜
平均:4.00 / 書評数:1
1993年09月
贋作
平均:6.67 / 書評数:3
1993年01月
女嫌いのための小品集
平均:4.00 / 書評数:1
1992年07月
アメリカの友人
平均:6.67 / 書評数:3
1992年02月
孤独の街角
平均:8.00 / 書評数:1
1991年10月
水の墓碑銘
平均:7.33 / 書評数:3
1991年08月
ふくろうの叫び
平均:7.33 / 書評数:3
1991年06月
妻を殺したかった男
平均:7.00 / 書評数:2
1990年06月
11の物語
平均:6.40 / 書評数:10
1988年07月
殺意の迷宮
平均:7.00 / 書評数:2
1985年07月
プードルの身代金
平均:7.00 / 書評数:2
1972年02月
見知らぬ乗客
平均:5.67 / 書評数:3
1971年01月
太陽がいっぱい
平均:6.38 / 書評数:8
1966年01月
慈悲の猶予
平均:7.33 / 書評数:3