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[ 本格/新本格 ]
潮首岬に郭公の鳴く
函館物語シリーズ
平石貴樹 出版月: 2019年10月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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光文社
2019年10月

光文社文庫
2022年10月

No.5 6点 2020/10/16 13:12
 函館で有名な岩倉家の美人三姉妹の三女が行方不明になった。海岸で見つかった遺留品の中には、血糊のついた鷹のブロンズ像。凶器と思われたこの置き物は、姉妹の家にあったものだった。祖父は何かを思い出したかのように、芭蕉の短冊額を全部持って来させると、自らは二月ほど前に受け取った脅迫文を取り出した。三女の遺体が見つかっても、犯人の手掛かりは得られないまま、事件は新たな展開をみせる――。驚愕の傑作誕生!!
 両親をテロで失い、カトリック神父の叔父に引き取られたフランス人少年ジャン・ピエール・プラットが、作者の生まれ故郷・函館を舞台に数々の難事件に挑む新シリーズ第1弾。2019年10月刊。平石氏といえばアメリカ文学者にして東京大学名誉教授という異色の経歴と、新本格台頭前の不毛な時期に発表されたクイーンばりの本格パズラー『だれもがポオを愛していた』の充実ぶりが注目されましたが、対する本書も横溝正史『獄門島』を本歌取りした見立て殺人ものとして話題になりました。
 とはいえ内容的には執拗というかむしろ地味。松尾芭蕉の俳句に合わせ、次々三姉妹を狙った犯行が繰り返される反面ビジュアル要素は薄く、語り手となる湯ノ川署警部補・舟見俊介の私生活を差し挟みながら、淡々と捜査の過程が描かれます。前述のように作風的にはエラリー・クイーンに近いので、ストーリーテラーとしての才能が要求される横溝テイストとは相性が悪いですね。トリックもプロットも丁寧なだけに、作品的にかなり損してます。我慢して読んでいくとそれが分かるのですが。
 オマージュとしての読後感は予想以上。丁寧に"踏んだ"上で、元ネタを巧みに移し替えています。事件が全て収束したのち犯人が秘めていた情念を告白するシーンは本作のハイライト。横溝とはまた違った遣る瀬無さを感じさせるラストです。
 本来なら7点クラスの出来ですが、題材がキャッチーな割にはそれを活かせていないので6.5点。ただし、良いものを読ませて貰った満足感は十二分にあります。

No.4 7点 まさむね 2020/01/14 22:22
 精緻に組み上げられた正統派の本格作品といった印象。確かに、登場人物が多く、しかも何やら裏(の関係)がありそうな人物ばかりなので、度々「振り返り」をしながら読み進めざるを得ない面もあったのですが、最終的には「だからこその面白味」があったのも事実。終盤の絵解きは読みごたえがあり、正直、真相にも驚かされました。「松谷警部シリーズ」に比して本格度数も高く、作者の「北海道愛」が示されている辺りにも好感。終盤に浮かび上がってくるタイトルも印象的です。

No.3 7点 人並由真 2020/01/10 04:24
(ネタバレなし)
 本サイトをふくめてwebのあちこちで「読むのがシンドイ」と風評の一冊だが、自分の場合は、いつものように登場人物メモを取りながら頁をめくっていたら、普通にほぼまったくストレスなどなく、手に取ってから半日で読み終わっていた。
 一見生硬に見える? 叙述も、昭和の国産ミステリを100冊も読んでいれば、いくらでも出会いそうなレベルのものに思えるし(私見では、初期の土屋隆夫の長編作品みたいな歯応えであった)。

 登場人物は確かに多めだが(メモをもとにカウントしたら、名前の出てくるキャラクターだけで43人以上)、一方でそんな多数の登場人物のメモを作り、人物関係を整理しながら読み進めていくのが加速度的に楽しくなる、その種の探求作業的な快感を与えてくれた作品でもあった(これってRPGでのマッピングとかによく似た楽しさかもしれない)。

 ……で、自慢しますが、途中のここだという伏線にピンと来て、事件の概要と真犯人、どちらも真相の露見前に見事、正解でした(笑~さすがに提示された謎やトリックの全ては見破れませんでしたが・汗~)。
 しかしそれでも十分に面白かった。技巧的、というよりはすごく直球的で正統的な作りの謎解きパズラーだと思う。
 でもって終盤の犯人の独白には『獄門島』ではない、また別の横溝作品の影を感じた。もちろんココでは、それ以上は決して言いませんが。

No.2 6点 HORNET 2020/01/02 19:10
 芭蕉の句になぞらえて美女三姉妹が次々殺されていくという、明らかに「獄門島」の本歌取りを意図した作品。
 文章自体は読みやすいのだが、何しろ登場人物(=容疑者)が多くて、いとこやらなんやらの親族関係も複雑で、把握しながら読み進めるのに苦心した。
 要所要所で散りばめられる謎も割と細かくたくさんあり、それらが収束していくラストは素晴らしかったが、そこに行きつくまで事件の背景や構図をたくさん吸収していかなくてはならず、最後はとにかく真相を読んでしまいたい、という気持ちだった。
 純粋な本格ミステリとしては十分に楽しめた。

No.1 5点 nukkam 2019/11/25 21:01
(ネタバレなしです) 2019年発表の函館物語シリーズ第1作の本格派推理小説です。松尾芭蕉の俳句に見立てたような連続殺人事件が起きることから横溝正史の某作品を連想される読者もおられるようですが、読みやすさという点では横溝作品とは雲泥の差です。20人近い容疑者たちの人間関係が非常に複雑で、しかも人物の描き分けが上手くないのですから誰が誰やら大混乱です。アリバイを地道に調べていますがアリバイが成立しても共犯者トリックまで疑っているのですから、アリバイがあろうがなかろうがもうどうでもいいやと投げやりになってしまいます。真相説明はしっかりした推理を披露しているだけでなく横溝正史風を意識したようなところもあって印象的ですが、そこに至るまでのプロット展開にもっと読者の謎解き興味をかきたてる工夫が欲しいところです。


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