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夢野久作全集 8
ちくま文庫 夢野久作全集
夢野久作 出版月: 1992年01月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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筑摩書房
1992年01月

No.1 8点 クリスティ再読 2019/07/01 22:56
友人が出てる芝居を見に行ったのだが、そこで演じられていたのが夢野久作原作で「少女地獄」「狂人は笑う」を軸にアレンジしたものだった...ちょうど手元にあったので、本作を取り上げることにする。こんなこともあるもんだ。
ちくま文庫の全集である。8巻のキーワードは収録作のタイトルを眺めれば一目瞭然、狂気と地獄である。しかしね、夢野の狂気と地獄は、それ自身ヒロイズムと結びついているようにも思うのだ。狂気に囚われて、地獄に落ちていくプロセスが、モダン日本を象徴するような英雄的な行為にいつしか変貌していくさま....これを描き切ったのが連作長編「少女地獄」だと思う。これが圧巻。
「少女地獄」は「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三本立てで、すべて年若い女性がほぼ自爆的に自分たちを踏みつけにする男性(社会)に復讐する話である。この中でもやはり病的な虚言癖の少女を描いた「何んでも無い」が傑出している。きっかけは自分をよく見せたいちょっとした虚栄心に過ぎない。その虚栄を維持するだけでは足りず、少女は嘘に嘘を重ね、その虚構はつめどもなく膨れ上がり、収拾不能になる....いつでも少女は嘘のエスカレーションから降りようと思えば降りれた。しかし、少女は常に賭け金を吊り上げるのだ。この無謀な姿が実に英雄的なのだ。だから少女の嘘に騙された人々も、この偉観に讃嘆の思いが強くなって、少女を恨む気持ちを不思議と持てないようなものである。評者もこの姫草ユリ子に惚れる、ユニークな造形が本当に素晴らしい。
あとは「ドグラマグラ」の原形みたいな「一足お先に」にシュールな幻想性があって面白い。幻肢痛を一歩進めて切断された片足に本人が取り憑かれて、勝手に人殺しをするような幻想味がいい(と評者読めるんだがなあ...)。「瓶詰地獄」はまあ、ミステリじゃない、といえばミステリじゃないけどねえ、けど読んどかないと話にならないし。


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