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[ 短編集(分類不能) ] 夢野久作全集 8 ちくま文庫 夢野久作全集 |
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夢野久作 | 出版月: 1992年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 2件 |
![]() 筑摩書房 1992年01月 |
No.2 | 8点 | 斎藤警部 | 2024/12/14 02:26 |
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瓶詰地獄
完璧作。 厳粛な公文書に始まり、いたいけな「第三の瓶」で締める構成の妙。 近過去のクライマックス「第一の瓶」、中過去クライマックスの激烈な敷衍たる「第二の瓶」を経てたどり着いた「第三の瓶」に宿る得も言われぬ可愛らしさは幼い者を愛でる気持ちを自然と起こさせ、ひいてはこの「三本の瓶」が描き出す情景の言外には強靭な親子の情愛(特に親から子らへ)が沁み渡っており、決して兄妹間の審美的な悲劇というだけでは済まされない重みを叩きつけている。 とは言うものの、やはり中心に来るのは兄妹が南方の孤島で味わった天国と地獄の風景。 親の側もその可能性を危惧していたものか。 夫婦間で話題にしたものだろうか。 一足お先に 右脚を切断したばかりで入院中のインテリ元ハードル選手には可愛い妹がいる。 同室でやはり片脚切断の豪快男の妻は今にも逃げ出しそうだとか。 同じ入院患者でも「特等室」におわします年増で美貌の男爵夫人は宝石蒐集狂。 ちょっと謎めいてハンサムな副病院長。 これら登場人物の中で深夜の殺人事件が起こる。 壮絶な反転に次ぐ反転の末、このいっけん明るいエンディングは・・・・ 狂人は笑う (以下二篇連作) ・青ネクタイ 病院にて軽いき〇がい独白だが、自分がきち〇いな様な気が本当にして来る。 怖い文章だ。 作品より文章が怖い。 ・崑崙茶 病院にて(?)深みのあるきちが〇独白は天空を駈けるが如しで自然と身体が宙に浮く。 終結だけ、萎んで基盤たる怖さを失ったか、と思いきや。。。。 もう数段も深みが増しやがった。 キチガイ地獄 どぎつい題名の割に地獄ってほどの事も。。。 あったじゃねえか。 こりゃ怖いわ。 きっついわ。 ラストの追い上げこそ凄まじき! 復讐 若い医長と婚約中のヒロインは、彼女が幼い頃に謎の死を遂げた父親の仇を取るまでは結婚しないと言う。 安楽椅子探偵は医長と気の合う長期入院患者。 怖いヒロインと恐ろしい結末。 冗談に殺す 前半と後半とクキリと分かれ、カチリと構成された物悲しいお話。 頭のおかしい人が頭のおかしい犯罪を犯し、意外なものから追い詰められる!! 頭のおかしさ加減は表題が中身を少し上回るかも。 木魂(すだま) 幼い頃から体が弱く、頭の中の数学世界に淫して来た男は、長じて尋常小学校教員となり、妻を病で亡くし、息子を事故で失った。 ■■の才能の意味にさえ気付かないまま逝った息子への痛々しい愛情吐露が響き渡る幻覚ストーリー。 背景には "鉄路" がある。 少女地獄 (以下三篇連作) ・何んでも無い これほど読了直後に冒頭から読み返させる中篇もなかなかない。 特にこの “ 遺書” ・・ 奇矯な行いで医学界(のごく一部?!)を搔き乱した若い娘に関する最終報告は、たった一通の書簡の中で成された。 残響音の巨大な幻へと向かう喪失感は、しまそうの「眩暈」を彷彿とさせた。 こんな変わったクライムノヴェルもあったものだ。 タイトルの意味は読了間際に分かった。 ・殺人リレー 田舎住まいでバス車掌に憧れる若い娘へ、都会の先輩から忠告の手紙が何通も届く。 「◯◯の◯◯」 と 「◯◯ある◯◯」 とが折り重なって物語を締め付けに掛かったような一遍。 書簡の中で書簡が踊った。 タイトルの意味に込められた重さと洒脱さが、何とも言えねえ。 ・火星の女 惨酷だ。。。。 禅とは何だ! 高等女学校にて、人間焦土のような焼死体が発見された。 その謎を追うように異様な事件が群発する。 さてみなさん、こんな鮮烈無比な復讐の旋風跋扈を、誰が責任深く語れますか!? 恒久平和へ向けたような演説には、それは欺瞞だと弾劾一方では行きかねる熱さと吸引力があった。 あな、意外な違和感投擲(と思えば瞬殺捕球)やら、純物理トリックもあった。 色んな意味でザ・ビートルズの “アイ・アム・ザ・ウォルラス” を拡張展開したような怖るべきシーンがあった。 最後の伏字群は、◯◯◯による犯罪防止のためなのか。 口を使うのが得意なんだなぁ。。 って別にエロい話じゃないけどさ。 胸像にかこつけた◯◯トリックにはちょっと笑っちまったな。 しかし、最後のカタカナ四文字なァ、どういう気持ちなんだよ。 とにかく、凄まじさが薫るほど凄まじい話。 最後の三連作は本当に強力です。 通しテーマは清水を掬うように明瞭ですが、ここでは触れません。(明瞭なのでしょうか) 三作とも、作品全体が手紙や新聞記事だけで構成されています。 むかし 「地獄少女」 というアニメがありましたが、「少女地獄」 との繋がりは無いようです。(無いのでしょうか) 本当に夢Qさんは頭がおかしいです。 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2019/07/01 22:56 |
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友人が出てる芝居を見に行ったのだが、そこで演じられていたのが夢野久作原作で「少女地獄」「狂人は笑う」を軸にアレンジしたものだった...ちょうど手元にあったので、本作を取り上げることにする。こんなこともあるもんだ。
ちくま文庫の全集である。8巻のキーワードは収録作のタイトルを眺めれば一目瞭然、狂気と地獄である。しかしね、夢野の狂気と地獄は、それ自身ヒロイズムと結びついているようにも思うのだ。狂気に囚われて、地獄に落ちていくプロセスが、モダン日本を象徴するような英雄的な行為にいつしか変貌していくさま....これを描き切ったのが連作長編「少女地獄」だと思う。これが圧巻。 「少女地獄」は「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三本立てで、すべて年若い女性がほぼ自爆的に自分たちを踏みつけにする男性(社会)に復讐する話である。この中でもやはり病的な虚言癖の少女を描いた「何んでも無い」が傑出している。きっかけは自分をよく見せたいちょっとした虚栄心に過ぎない。その虚栄を維持するだけでは足りず、少女は嘘に嘘を重ね、その虚構はつめどもなく膨れ上がり、収拾不能になる....いつでも少女は嘘のエスカレーションから降りようと思えば降りれた。しかし、少女は常に賭け金を吊り上げるのだ。この無謀な姿が実に英雄的なのだ。だから少女の嘘に騙された人々も、この偉観に讃嘆の思いが強くなって、少女を恨む気持ちを不思議と持てないようなものである。評者もこの姫草ユリ子に惚れる、ユニークな造形が本当に素晴らしい。 あとは「ドグラマグラ」の原形みたいな「一足お先に」にシュールな幻想性があって面白い。幻肢痛を一歩進めて切断された片足に本人が取り憑かれて、勝手に人殺しをするような幻想味がいい(と評者読めるんだがなあ...)。「瓶詰地獄」はまあ、ミステリじゃない、といえばミステリじゃないけどねえ、けど読んどかないと話にならないし。 |