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ミステリの祭典

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平均点:5.91点 書評数:108件

プロフィール| 書評

No.48 4点 崖の家
トム・サヴェージ
(2022/09/06 16:18登録)
物語は、ニューヨーク州ロングアイランドで、郵便配達夫が主婦の惨殺死体と血に染まったナイフを握りしめた少女を発見するところから始まる。
出だしは悪くない。ダイアナとアダムの謎めいた行動も、ヒッチコックのサスペンス映画のようで、胸を高鳴らせてくれる。だがそれも初めのうちだけで、話が盛り上がるべきはずの中盤あたりからは、どうにも退屈を禁じ得なくなってしまう。
ダイアナとアダムの描き方はいかにも類型的だし、ケイトはあまりにも脳天気のため、いつまでたってもサスペンスが盛り上がってこない。期待されたラストにしても、驚愕の真相というにはほど遠く、たいていの読者は途中で予測がついてしまうだろう。


No.47 5点 炎の翼
チャールズ・トッド
(2022/09/06 16:07登録)
ラトリッジ警部シリーズ第二作。幻想的な伝説が伝わる地を舞台に選び、関係者が霊の気配を感じたり、霊能者を名乗る老婆が登場する。
一族の歴史を調べていくうちに、過去に多くの人間が謎めいた最期を遂げていることが判明し、長い年月をかけた一族皆殺し計画ではないかという疑惑が湧き上がってくるくだりのデモーニッシュな感触には背筋が凍る。当事者の大部分がすでに死んでいるという難事件に主人公を挑ませたあたりにも、作者の野心と才気が感じられる。


No.46 5点 十三人目の審判
ジョン・T・レスクワ
(2022/09/06 15:56登録)
ディズマス・ハーディを主人公にした第三作「物的証拠」の続編。前作後半で地方検事補から弁護士に転じたハーディが虐待問題に挑む。
意表を突くストーリーの展開と法廷場面の面白さ、さらに犯人捜し的興味も加わって最後まで飽きさせない。
ただ登場人物のディテールにこだわりすぎて、サスペンスを削ぐ結果にもなっている。枝葉を刈り取ってストレートなストーリーにしたら、もっと迫力ある裁判小説になったのではないだろうか。


No.45 5点 死人街道
ジョー・R・ランズデール
(2022/09/06 15:46登録)
迫りくるゾンビとの戦いがラストで派手に繰り広げられる中編「死屍の町」をはじめ、ウェスタンとSF怪奇ファンタジーが融合した五つの物語が収録されている。
もっとも「死屍の町」は、ジェビダイアが訪れた町で福音を伝える集会を開こうとするなど、静かなトーンで始まっていく。南北戦争の記憶、射撃の教えを乞う少年、教会の部屋に積みあがった銃器と弾薬の箱の山など、西部劇らしい舞台やエピソードが並ぶ一方、聖書の黙示録、生ける屍、インディアンの呪いといった要素が加わり、じわじわと盛り上がる。
ただホラーとウェスタンを合体させ、B旧活劇に仕立てただけでなく、随所にスパイスを効かせ、素材そのものの良さを引き出し、旨味たっぷりの物語をこしらえている。


No.44 4点 喪失
ジョディ・マーサー
(2022/09/06 15:35登録)
目が覚めたら記憶を喪失していた、自分が誰だかわからない、そばには血の付いた衣服、事件の匂いが濃厚だ、こういった設定のミステリはよくある。
本書は、ヒロインがあれやこれや試行錯誤を重ね、一歩一歩もどかしく、じりじりしながら自分を探していく。そのプロセスの細やかな描写は、説得力があり魅力的。惜しむらくは、後半部分のタッチが荒くなり、結末を急ぎすぎたことにより説明不足で釈然としないところか。


No.43 6点 密告
真保裕一
(2022/08/09 16:18登録)
かつて射撃競技のオリンピック候補だった警察官の萱野。彼には、同じく有力候補だった同僚の矢木沢の不祥事をリークした過去があり、しかも矢木沢の妻を結婚前から慕っていて、いまだ結婚したいという願望を捨てきれない。そんな萱野が皮肉なことに、上司の矢木沢と地元業者の癒着をマスコミに密告したという噂を流されて調査を進めていくと、予想外な真相が見えてくる。
一人の男が捜査中に抱く、罪の償いと過去の清算と愛の獲得という願い。組織対人間の暗部に目を据えて、男のはかない夢を情感豊かに謳いあげている。まことに渋い緊密度高い人間ドラマであり、ラストシーンの哀切さは、いつまでも心に残る。


No.42 5点 スタジアム 虹の事件簿
青井夏海
(2022/08/09 16:07登録)
東海レインボーズというプロ野球球団の試合が行われているスタジアムで謎が解かれるという、洒落た設定の連作短編集。
探偵役を務めるのは、レインボーズのオーナーだった夫が没したため、後を引き継いだ虹森多佳子。彼女は全くの野球音痴なので、野球のルールなど細かく説明しなくてはいけないのだが、それが後で謎解きにも絡んでくるという趣向。
万年最下位だったレインボーズが優勝へ向かう過程を同時に読むことができる。


No.41 8点 サクリファイス
近藤史恵
(2022/08/09 15:58登録)
ロードレースというマイナーなスポーツの世界。全く知らない自分でも、このスポーツの熱を面白さを十分に味わせてくれた。トップでゴールするのではなく、誰かのため、チームのために走ることの楽しさ、爽快さ。自己犠牲とは、犠牲ではあるが、そのことによって得られる満足を求める生き方もありだと考えつつ、ストーリーのスピードで一気読み。
青春小説として読んでも、ミステリ小説として読んでも楽しめる。ラスト、主人公の目線で見ていた世界が一転し、衝撃的な事実に感動するだろう。


No.40 5点 あでやかな落日
逢坂剛
(2022/08/09 15:49登録)
相変わらず、緩急に富む会話、キャラクターを印象付けるワイズクラック、微妙な距離を保ちながら対象を浮き彫りにする観察力、そこから生まれるユーモア。
派手なアクションや死体などは出さなくても、確かな人物描写と巧緻なプロットで読ませる。


No.39 5点 甘美なる誘拐
平居紀一
(2022/08/09 15:41登録)
真二と悠人は、弱小暴力団の組員見習い。そんな見習いヤクザの日々と、地上げ屋に嫌がらせを受ける自動車部品店の父娘の窮地、関係なさそうな複数の物語が並走し、やがて宗教団体の教祖の孫娘を誘拐する物語へと収束する。
複数のストーリーを走らせながら、仕掛けを施して中盤以降に次々と炸裂させて、爽快な驚きを提示する。それを支えるコミカルな描写も魅力的。


No.38 5点 クメールの瞳
斉藤詠一
(2022/08/09 15:32登録)
カンボジアに栄えたクメール王国の秘宝をめぐる争奪戦を描いている。主人公たちの探索を描く現代パートと並行して、19世紀のインドシナ半島から戊辰戦争の日本へ。そしてある秘宝をめぐる過去の断片が語られる。それぞれの断片は、現代の探索が進むにつれて互いに繋がって、やがて大きな絵が浮かび上がる。
現代パートは、こじんまりとした話ではある。しかし、過去のエピソードを絡めることにより、時間の広がりを見せて、スケールの小ささを感じさせない。
荒唐無稽な大風呂敷を広げながらも、物語の展開そのものは安定していて、バランスの取れた作品として楽しめる。


No.37 5点 二十面相 暁に死す
辻真先
(2022/08/09 15:22登録)
前作よりも冒険とアクションの比重が高くなっているが、大掛かりな仕掛けに変装による入れ替わり、地下の追跡劇と、原点を彷彿させる要素でいっぱい。
そして、単に原点に忠実なパスティーシュにとどまっていない。当時の鉄道事情の盲点を突いたトリックに、さらには乱歩が描くことのなかった小林幼年のほのかな恋も描かている。
原点の空気をたっぷり詰め込みながら、作者らしい味わいも堪能できる。


No.36 6点 空想クラブ
逸木裕
(2022/08/09 15:13登録)
吉見駿は、祖父から特殊な能力を授けられた中学生。ある日、「空想クラブ」というグループを作った仲間たちの一人である真夜が溺死した。だが葬儀の帰り、駿は河川敷で真夜の姿を目撃する。彼女は死の瞬間にある謎が気にかかったせいで成仏できず、その場にとどまっているらしい。
駿は、「空想クラブ」の元仲間たちに声をかけ、真夜のために謎を解こうとするのだが、彼らにもそれぞれ事情があり、非協力的な態度を示す者もいる。また駿も、自分が果たして真夜の成仏を望んでいるのか、自身に問いかけざるを得なくなる局面に突き当たる。しかし、それらの障壁は、登場人物ひとりひとりが救いに到達するプロセスでもある。ファンタジー性の強い異色作だが、テーマ性とストーリー性の融合という点で完成度が高い。


No.35 6点 騙る
黒川博行
(2022/08/09 15:01登録)
登場人物の軽快な語りで成り立つ物語。関西の骨董業界で繰り広げられる、油断ならない駆け引きを描いた6編を収録。
物語の中心にあるのは、骨董の真贋とそれをめぐって動く金。他人を出し抜いて儲けたいという精神と、美術品の専門家としての矜持が、時には同じ人物に同居している。一筋縄ではいかない人々が、騙し騙される攻防を繰り広げる。
駆け引きを描き出す、軽妙な会話と語り口が楽しさを醸し出す。骨董にかかわる人々のしたたかさが小気味よい。


No.34 7点 雪に撃つ
佐々木譲
(2022/08/09 14:51登録)
雪まつりを迎えて観光客で賑わう札幌の街で、警官たちが遭遇する複数の事件が同時に進行する。盗まれた自動車、釧路から家出した少女、住宅街での発砲事件。互いに何の関係もなさそうな事件が、やがて一つに繋がっていく。
派手な要素は無く、主人公たちが事態を解決しようと奔走する過程が語られる。抑制された静かな物語だが、登場人物たちの心情はしっかり描かれ、苦難に巻き込まれた人々にかける言葉も心に残る。


No.33 6点 オイディプス症候群
笠井潔
(2022/08/09 14:41登録)
七〇年代後半、ギリシャの孤島に集まった男女十二人が次々に殺される。奇病オイディプス症候群をめぐる謎とギリシャ神話への言及、そして宿敵の国際テロリストの影が絡み合う難事件に、ナディアと矢吹駆コンビが挑む。
お約束の、駆の独断的な現象学的直感は健在だが、あまり鼻につかない。推理小説の成立のネタに単純な権力論が展開され、モデルを知る人は楽しく読めるだろう。


No.32 5点 パレード
吉田修一
(2022/08/09 14:31登録)
男三人、女二人の五人が、2LDKで共同生活をしている。皆それぞれ、悩みがあるが隠し装うことで、また自分を演じることで、日常は破綻なく過ぎていく。その心地よさとユーモアが、この底流としてある。
ところが、突如亀裂が入る。隠されていたものが噴出する。平穏に見えた日常が途端に苦み走ったものになる。でもそこで物語は終わらない。瞬時に日常はまた、この奥深さを覆うのだ。そして平坦さがさらに広がってゆく予感、その不気味さと平穏さが読み手に残る。


No.31 6点 新世界より
貴志祐介
(2022/08/09 14:19登録)
SFとしては古典的なパターンで、黄金時代のSFを彷彿させるアイデアを波乱万丈活劇の中にうまく埋め込んであるから、SFに馴染みがない人でも大丈夫。
上巻が少年物の冒険小説。サマーキャンプですごいものを発見し、事件に巻き込まれる話と並行して、この世界の謎が少しずつ明らかになってくる。下巻は語り手が大人になってからの話だが、上巻のいろいろな出来事が伏線になって、クライマックスの怒涛の展開につながる。


No.30 5点 ZERO
麻生幾
(2022/08/09 14:09登録)
中国の大物スパイを巡って一人の警察官を公安警察の極秘組織(ZERO)が衝突する。それは日中にまたがる四十五年間の歴史の闇を探る戦いの始まりであり、やがて日本政府、中国政府、警察、海上自衛隊の思惑が複雑に絡み、一触即発の危機を迎える。
サスペンス豊かに、鋭くテーマを問い、いくつものドラマで心を揺さぶる。いささか作りすぎの部分もあるが、読みどころ満載の娯楽作。


No.29 7点 いくさの底
古処誠二
(2022/07/19 15:45登録)
第二次大戦中期のビルマの山村を舞台にしている。賀川少尉率いる警備隊がその村に配属された夜、何者かが少尉を殺害した。事件はごく限られた関係者以外には伏せられることになったが、そのためかえって疑心暗鬼が拡大する。犯人は敵である重慶軍か、村の住民か、それとも隊の内部にいるのか。
本書には激しい戦闘シーンはなく、村人たちは少なくとも表面上は日本軍に友好的である。重慶軍の襲撃の危機に晒されているとはいえ、登場する日本軍の兵士たちは凪のような状況にいる。しかし戦闘そのものは起きていなくても、戦争とは多くの人間ドラマが絶えず交錯するものだ。本書ではそれを、日本軍と現地の住人との交流として表現される。そこに突如投げ込まれる殺人事件という変事。だがそれは、この場所、このタイミングでしか起こり得ない出来事であったことが結末に至り明らかとなる。
謎解きの構成が、戦争小説としてのテーマと完璧に結びついている点といい、抑えた筆致が醸し出す不穏な緊張感といい完成度の高いミステリといえる。

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