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ミステリの祭典

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弾十六さんの登録情報
平均点:6.14点 書評数:534件

プロフィール| 書評

No.314 5点 アリ・ババの呪文
ドロシー・L・セイヤーズ
(2020/07/07 02:19登録)
日本オリジナル編集(1954年、日本出版協同株式会社) 編者は翻訳者の黒沼 健だと思われる。「異色探偵小説選集④」となっているシリーズの一冊。中央公論社版『アリ・ババの呪文』(1936年)から2篇削除し、4篇追加(*で表示)。
部屋を整理してたら見つけました。100円で入手した紙質の悪い古書。でもモンタギュー・エッグがまとめて読めるのは、今のところこの本だけです。
収録7作目「バッド君の霊感」(これは中公版の題。本書の訳題「緑色の頭髪」は当初訳者がつけたもので中公編集者に変えられたから今回戻した、というのだが、どーゆーこと? 全く困った人だ。『新青年読本』によると雑誌掲載時(昭和8年10月増大号)も「バツド君の霊感」感覚がオカシイのは訳者だけのようだ)を原文と比べて読んでみたところ、都築道夫が忌避したような新青年式の翻訳で、面倒なところはパス、意が通じれば良しで、原文からちょっと離れても気にしない自由調。日本語としては読みやすいんだけど、ところどころ大丈夫?な感じ。大意は通じるが、雰囲気がスカスカになっています。創元さん、セイヤーズ探偵小説全集の完結をお願いしますよ!(少なくともピーター卿全集は完成させて欲しい…)
初出はいつものようにFictionMags Index(FMI)調べ。原題はAga-search.comの情報を元に、原書短篇集のものを採用。カッコ付き数字は本書の収録順、ここでは初出順に並べ替えています。ピーター卿シリーズには創元①②として創元文庫版『ピーター卿の事件簿』の番号を表示。黒丸数字は作品が収録されている原書短篇集❶= Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928、❷= Hangman’s Holiday, Gollancz 1933、❸= In the Teeth of the Evidence, Gollancz 1939を示しています。

⑺ The Inspiration of Mr. Budd (初出: Detective Story Magazine 1925-11-21, as “Mr. Budd’s Inspiration”)❸「緑色の頭髪」: 評価6点
ノンシリーズ。TVシリーズOrson Welles' Great Mysteries(1973)の第15話として放映されている。タイトルは原題と同じ。日本では1977年テレビ朝日系で『オーソン・ウェルズ劇場』第10話「理髪師の第六感」として放送されたようだ。(私はたぶん未見。ただし有名なCMを見た記憶がぼんやりあるから外国ミステリ・ドラマ大好きだった私はこのシリーズを観てたか?)
なかなか良く出来た話ですが(緊張と弛緩のユーモア感が良い)、翻訳タイトルで台無し。読むときには忘れること!って無理な注文… FMIにより上記の米国Pulp誌初出(今回、調べてて気付いたのだが、この雑誌の1925-5-30号から5回分載でCloud of Witnessが連載されている。単行本出版1926年なのでこれが初出?掲載タイトルはGuilty Witnesses。単行本ではおかしなことになってる事件発生の日付と曜日が、連載時にどう記されていたのか、非常に気になる)としたが、英国雑誌(当時セイヤーズを掲載してたPearson’sなど)の初出の可能性もありそう。FMIには1920年代のPearson’s情報がほとんど無い。有名な雑誌なのに…
p130 五◯◯磅♣️英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)で£1=8086円。500ポンドは404万円。
p130 顔色稍々黒味を帯び銀鼠色の頭髪を有す。髭、鬚、眼とも灰色(complexion rather dark; hair silver-grey and abundant, may dye same; full grey moustache and beard, may now be clean-shaven; eyes light grey, rather close-set)♣️翻訳の調子を見ていただくため、少々長く引用。手配書の人物描写なのだが、後の方で木霊のように響く重要表現”dye same”を含め、”clean-shaven”、”close-set”はばっさり削除。文章は引き締まるけど、忠実とはとても言えない。全篇、こんな感じの翻訳です。浅黒警察として注目は、まず肌の色に言及していること。そして頭髪、口髭、あご鬚、目の色の順。単独で出てくるdarkを「浅黒い肌」と解釈するのも一理ある、という例証か。(まー私は単独のdarkはfairの対義語と考えてますが…) こういう触れ書きの容貌描写に決まった順番ってあるのだろうか?
p132 七志六片(seven-and-sixpence)♣️シリング、ペンスの漢字表現。毛髪染めの値段。3032円。原文では前段で「9ペンスの客、いやチップ込みで1シリングにはなるか」と踏む描写があるのだが、この翻訳ではばっさりカット。散髪代(場末の理容店という設定)が9ペンス(=303円)とは随分安い感じ。2020年英国の記事では安い店で平均£5(=661円)だという。1940年米国では35セント(=690円)という情報あり。
(2020-7-7記載)

⑵ The Abominable History of the Man with Copper Fingers (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-1「銅指男」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫の書評を参照願います。

(12)* The Vindictive Story of the Footstep That Ran (初出: Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-7「嗤う蛩音」
ピーター卿もの。創元未収録。HMM1984年1月号の書評を参照願います。

⑷ The Bibulous Business of a Matter of Taste (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-8「二人のピーター卿」
ピーター卿もの。創元②収録。創元文庫の書評を参照願います。

⑴ The Adventurous Exploit of the Cave of Ali Baba (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-12「アリ・ババの呪文」: 評価6点
ピーター卿もの。創元未収録。直近の翻訳は『嶋中文庫 グレート・ミステリーズ12: 伯母殺人事件・疑惑』(2005)に収録されたもの。
冒頭にはワクワクするが、急に安っぽいスリラー調になっちゃう。セクストン・ブレイク大好きなセイヤーズなので致し方ないところ。話の展開は結構面白い。
p7 鳶色の頭髪… 濃い目の山羊髭(with brown hair … a strong, brown beard)♣️こちらの人物描写では頭髪、髭の順
p8 五十万磅♣️英国消費者物価指数基準1928/2020(63.24倍)で£1=8356円。 50万ポンドは41億円。37歳(1928年1月時点)のピーター卿の資産。
p14 二年の歳月♣️この設定だとピーター卿不在期間は1927年12月から1930年1月まで。確かに第4作『ベローナ・クラブ』と第5作『毒』の間には、そのぐらいの空白がある。
p17 拳銃(ピストル)(a revolver)♣️ここは英国伝統のブルドッグ・リボルバーで。(←個人の妄想です)
p18 蓄音機から洩れるジャズのメロデイ(A gramophone in one corner blared out a jazz tune)♣️当時BBC放送で活躍してたFred Elizaldeを聴くとニューオリンズ風のジャズ。ここでかかってるレコードは米国のものだろうか。
p28 臀ポケットから自動拳銃(オートマテツク)を取出すと…(took an automatic from his hip-pocket)♣️尻ポケットに収まるサイズの小型ピストル。ブローニングFN1910の38口径仕様を持たせたい。(←個人の妄想です)
(2020-7-7記載)

⑶ The Man Who Knew How (初出: Harper’s Bazaar 1932-02)❷「殺人第一課」
ノンシリーズ。

⑹ The Fountain Plays (初出: Harper’s Bazaar 1932-12)❷「噴水の戯れ」
ノンシリーズ。

⑸ The Poisoned Dow '08 (初出: The Passing Show 1933-02-25, as “The Poisoned Port”)❷「エッグ君の鼻」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの。シリーズは全11作。最後の1作を除き、全て週刊誌The Passing Show掲載(最初の6話は毎週連続掲載。この雑誌、表紙絵が英国版Saturday Evening Postといった感じで当時の英国風景を見事に描いてて好き)。最初を飾るのがこの作品だが、主人公に華がなく、話もパッとしない。いつもうんざりさせられる古典などの引用が無いのが良いところか。エッグ君は酒のセールスマンという設定。セイヤーズはお酒大好きだったんでしょうね。偶然なんですが先日馴染みのイタリア料理屋で食べてたら目の前にDow’s Fine Ruby Portの瓶が!早速試してみたら、しっかり葡萄味ですが甘々〜でした。
p101 (ダウ)葡萄酒でしたら私の手で六ダースほど納めましたが…(the Dow ’08. I made the sale myself. Six dozen at 192s. a dozen.)♣️「ダウ1908年もの」「1ダース192シリングで」という大事な情報は削除。1本16シリング(=7614円、1933年英国物価指数基準72.04倍) もちろんこっちはVintage Port、私の飲んだ年代すら入ってない普及品とは違う… Dowのホームページによると1908年ものは"Light, Delicately Flavoured Wines" Declared by all producers, 1908 was a great vintage with light, delicately flavoured wines.ということらしい。
(2020-7-7記載)

(11)* Sleuths on the Scent (初出: The Passing Show 1933-03-04)❷「香水の戯れ」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第2話。第1話同様、パッとしない話。
p203 「大瓶(large bottle)の方を… 僅か三シリング六ペンスで—」「それじゃ原料の酒精税(the duty on the spirit)にも足らんでしょう」♣️3s.6d.=1666円。香水の大瓶の相場を当時の広告から拾うとYardleyが21シリング、No.4711が30シリングくらいか。
p203 三十五歳、中肉中背で頭髪はブロンド。青目勝ち、短い口髭(age thirty-five, medium height, medium build, fair hair, small moustache, grey or blue eyes, full face, fresh colour)♣️ラジオで流れた指名手配の容貌描写。翻訳では最後の「丸顔、明るい肌色」をカット。
p205 モリス(Morris)を運転して来た男… ひょっとするとオースチンかウォルスレー(Austin or Wolseley)であったかも♣️この宿には、モリスの男が4人もいた。国民車なんだね。ところでこのくだり、この翻訳では「素人の」証言は当てにならない、という書き方だが、原文では「若い女(メイド)の言ってることだから」車種は当てにならない、となっている。
(2020-7-7記載)

⑽* Maher-Shalal-Hashbaz (初出: The Passing Show 1933-04-01)❷「メール・シャラール・ハッシュバッス」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第6話。何故かAga-searchさんちではエッグものに入れていない。この作品から考えてセイヤーズさんが猫好きじゃないのは間違いないと思います。タイトルはイザヤの二番目の息子の名。聖書中で最も長い名前、という称号があるらしい。
p187 ミイコ♣️原文ではpussとかkitty。猫撫で声でネコを呼ぶときの言い方。
p189 十シリング♣️4759円。この値段で人が集まるかなあ。まあ何処かで捕まえて持ってくれば良いが…
p191 なんでも跳びついてはすぐに毀すので(because he ‘make haste to the spoil.’)メール・シャラール・ハッシュバッスという名をつけた♣️イザヤ書8:1に出てくる名前。ヘブライ語で "Hurry to the spoils!" or "He has made haste to the plunder!"という意味らしい。この翻訳では訳注とか説明は全く無い。
p192 電車賃… 半クラウン♣️2s.6d.=1190円。
(2020-7-7記載)

⑻ The Image in the Mirror (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「鏡に映った影」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。

⑼ The Queen's Square (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「白いクイーン」
ピーター卿もの。創元②収録。 FMIでは初出1932(雑誌等の言及なし)。コピーライトがそういう表記なのか。短篇集収録前に何処かに発表されてた可能性あり。創元文庫で読む予定。

(13)* The Incredible Elopement of Lord Peter Wimsey (初出: Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「妖魔遁走曲」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。


No.313 6点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ
R・オースティン・フリーマン
(2020/07/05 06:04登録)
第2短篇集『歌う白骨』(1912)のほぼ全篇4作(未収録は「オスカー・ブロズキー」だけ)とソーンダイク初短篇(1908)を含む第1短篇集(1909)からの3作に1924年発表の1作で合計8作収録。
7月4日はソーンダイク博士の誕生日(藤原編集室ネタ)。フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集企画記念。予行演習のため創元の1、2を読んでます。なんと言っても挿絵完全収録というのが良い。あらためてWEB「海外クラシック・ミステリ探訪記」を読んだら、博士の初出情報や雑誌に掲載されたイラストがたくさん載ってるんですね。是非、短編全集には初出を記載したフリーマン全著作リストもお願いしたいところです。
以下、初出はS・フチガミさん情報によるもの。時々FMIを参照しています。

⑴A Case of Premeditation (米初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)「計画殺人事件」評価6点
倒叙ソーンダイクもの。冒頭から素晴らしい作品。犯行前に犯人が色々なものを揃えるのですが、何故それを、が示されないのが面白い。警察犬を無茶苦茶批判してるけど、それは使いようじゃないの?と思いました。作者は犬嫌いか。これがフリーマンによる倒叙作品の初登場。執筆も実は先?(オスカー ブロズキーはPearson’s 1910-12初出)
p16 年200ポンド♠️消費者物価指数基準1910/2018で114.4倍、現在価値322万円。
p17 チェンバー百科事典(Chambers’s Encyclopaedia)♠️10巻本の百科事典。初版1868年完成。1908年には改訂版(第5版?)が出ています。
p19 半クラウン銀貨(half-a-crown)♠️エドワード7世の銀貨(1902-1910)は重さ14.1g、直径32mm。半クラウン=2シリング6ペンス=0.125ポンド、現在価値2010円。なお1ペニー銅貨は同時期のものだと重さ9.4g、直径30mm、現在価値67円。半クラウンで4ペンスのお釣りなのでここでの買い物は1742円相当。
(2018-12-31記載)

⑵The Echo of a Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 挿絵H. M. Brock, as “Death on the Girdler”)「歌う白骨」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。偶然の犯行なので手がかりが豊富、博士には赤子の手を捻る程度の事件。
p65 リカルヴァ沿岸警備所の双子塔(the twin towers of Reculver)♠️海沿いの聖メアリ教会に12世紀に加えられたtwin towersで有名。原文に「沿岸警備所」はありません。
(2019-1-6記載)

⑶A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「おちぶれた紳士のロマンス」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。かつての素晴らしき日々への感傷、からの暗転が唐突。結末もちょっとどうかなあ。
p121 親しくしている弁護士さんの言い草ではないけれど「名前になんか、なんの意味も」ない(as our dear W. S. remarks, 'What's in a name—')♠️残念じゃがWriter to the Signetでは無い。沙翁Romeo and Julietteじゃのう…
p133 イエール鍵(Yale latch-key)♠️1844年、米国人Linus Yale Jr(1821-1868)の発明。
p150 郵便局の人名簿(Post Office Directory)♠️英国ではstreet別、commercial(商売)別、trade(職業)別、court(貴人・公人)別などの名簿を郵便局が発行していたらしい。
p161 オランダ時計の文字盤みたいに表情がなかった(devoid of expression as the face of a Dutch clock)♠️オランダ製はシームレスに針が動くのかも。花のセリに使われるDutch clockは針が急がしく動くらしいので違うと思う。(2020-3-9追記) Dutch Clockとは盤面に贅沢な彫刻などない普通の振り子時計、とDickens関係のWebページに書いてありました。
(2020-3-8記載)

⑷The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 挿絵H. M. Brock, as “The Scarred Finger”)「前科者」評価4点
かなり手間のかかるトリック。倒叙として構成してみれば、作者も不自然だと気づくはずなのに… ソーンダイクの推理もパッとせず、警視が間抜け過ぎるのも面白くない。
p169 舌を見ただけで… 当てるバクダードの占い女(the wise woman of Bagdad… by merely looking at his tongue)♠️面白そうな話だが、調べつかず。有名な占い師なのか。
p189 昔話の狐と鳥(the old story of the fox and the crow): イソップ童話より。
p189 きみは、ぼくに一生けんめいしゃべらせておいて、自分は耳を楽しませながら(the old story of the fox and the crow; you 'bid me discourse,' and while I 'enchant thine ear,')♠️Shakespeare “Venus and Adonis”(1593)より。作曲家Henry Bishop(1786-1855)がこの詩をもとにBid me discourse(1822)という曲を作っている。
p202 ハンカチの隅にゴムのスタンプで(printed in marking-ink with a rubber stamp)♠️新しく買った半ダースのハンカチに奥さんが名前を入れた(p202)。洗濯屋に出している、というから紛れないための工夫なのか。(他の衣類にも名前を入れるのだろうか?)
(2020-4-3記載)

⑸The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」評価5点
現場のコンパートメントは通路が無いタイプなので、列車が動いている時は密室状態、だから最後に降りた者が犯人なのは確実、という話なのだが、当時は当たり前で説明無用の前提条件が現在の人間にはわかりにくい。(20世紀初頭から通路ありのCorridor coachが導入され始めたようだ) 本篇の解決がそーゆーことなら、物理的にはこーゆー現場の状況にはならないような気がします。(室内中央に戻る可能性はかなり低いと思う)
p217 干し草を燃やす(set a rick on fire)♠️このrickは交換後の「枕木」ではないか?保線の話に干し草が出てくるのが不思議なのだが… (その後に家畜の話題が出てきて話が繋がってるように見えるが、本来、保線工事の話)
p223『ゲインズボローの肖像に描かれたデボンシャーの公爵夫人』(Duchess of Devonshire in Gainsborough's portrait)♠️ゲインズバラが描いた「デヴォンシャー公爵夫人の肖像」(1787?) 大きな帽子の有名な絵。
(2020-3-8記載)

⑹The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-?? 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」評価6点
ジャーヴィスとアンスティ揃い踏みなのが楽しい。アンスティは反抗的な性格のようだ。謎の解決はフリーマンらしくて良い。(読者もジャーヴィスも置いてけぼりだが…)
p237 救急車を(ambulance)♠️ロンドンで最初の救急自動車は1904年。救急用連絡ポストが市内数カ所に設置され、電信でセンターに知らせる仕組みだったようだ。(1907 ambulance city london policeで検索)
p237 患者に変化が♠️ここら辺の描写は医者ならでは。
p238 ポーク・パイ(Pork-pie)♠️英国伝統の甘くないパイ。冷やで食べるのが良いらしい。ここの感じでは普通に製品として販売されていたのか。
p239 呼鈴のボタンの列(a row of brass bell-handles)♠️がオルガンのストップみたいに見える… と言うので画像を探したら本当にそんなのがあった。https://www.flickriver.com/photos/stonerabroad/6372235067/ 翻訳では「押した」となっているが原文ではpulledとあるので、このタイプなんだろう。
p239 赤毛型の典型的なユダヤ人(a very typical Jew of the red-haired type)♠️調べると欧米で「赤毛」はユダヤ人の属性という偏見があったらしい。だから「にんじん」や「赤毛のアン」なのか?とすると「赤毛連盟」はPC的にヤバいのか?
p253 夕食の駅弁を買ったり(furnish ourselves with dinner-baskets)… 駅弁の冷えた鶏肉(cold fowl from the basket)♠️「駅弁」というから、そーゆー商品があった?と思ったら自分たちで食べ物をバスケットに詰め込んだ… という意味だろう。(駅弁というのも、おそらく日本独自のものではないでしょうか。ヨーロッパの大きな鉄道駅には、テイクアウト可能なサンドイッチ等を販売する様々な店舗が並んでいますが「テイクアウト用に最初からパッケージされたもの=弁当」は、まず見たことがないのです。〜“EKIBEN”は英語になるか? 2018.09.26 WEB「鉄道チャンネル」)
p253 いらいらした口調で… 「もう七分も遅れている!」(exclaimed irritably. "Seven minutes behind time already!")♠️列車の遅れ7分でこれ。やはり昔は結構定刻どおりだったのでは?
p260 あらゆる銀器に良心的な反感(a conscientious objection to plate of all kinds)♠️ソーンダイク博士の感想。贅沢を象徴してるから?
(2020-7-4記載)

⑺The Aluminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」評価6点
立派な密室殺人なんだから、もっと盛り上げて良いのに。サスペンスが全く無い。筋立てが直線的過ぎるんだよなあ。
p274 「入浴」という神聖な儀式(The sacred rite of the "tub")♠️たまたまwikiにあった雑誌版(McClure’s 1910-7)を見たらmy bathとあっさり表現。単行本時に洒落た文章に直したようだ。
p286 不潔な猿を肩に乗せた男が手回しオルガンを持って... 神聖な曲とコミック・ソングの—『ロック・オブ・エイジス』『ビル・ベイリー』『クジュス・アニマル』『オーヴァー・ザ・ガーデンウォール』などを、ごちゃまぜに... 『ウェイト・ティル・ザ・クラウド・ロール・バイ』を演奏しはじめ…(there was a barrel-organ, with a mangy-looking monkey on it... Kept mixing up sacred tunes and comic songs: 'Rock of Ages,' 'Bill Bailey,' 'Cujus Animal,' and 'Over the Garden Wall.' ... started playing, 'Wait till the Clouds roll by.')♠️McClure版ではWait till the Clouds roll byのくだりは無い。沢山の曲名が出てきて嬉しいねぇ。調べたら大体判明したので満足です。
①Rock of AgesはHymn. 詞Augustus Montague Toplady(1763), メロディは数種あるが、英国では"Redhead 76", also called Petra, by Richard Redheadが普通(英Wiki)。
②Bill Baileyは1902年作詞作曲Hughie Cannon(米国人)のBill Bailey, Won't You Please.... Come Home?だろう。英Wikiに(Won't You Come Home) Bill Baileyの項目あり。
③Cujus AnimalはRossiniのStabat mater(1841)第二楽章Cujus animam(テノール独唱)のことか。
④Over the Garden Wallは作詞Harry Hunter、作曲G. D. Fox、1879年出版のmusic-hall piece。
⑤Wait till the Clouds roll byは作詞H. J. Fulmer、作曲J. T. Wood、1881年出版のポピュラーラヴソング。
p288 サドラー基金賞の最高賞がもらえるぞ(They are worthy of Sadler's Wells in its prime)♠️基金賞では見当たらず。1683年リチャード・サドラーが見つけた、薬効のある井戸のほとりのミュージックハウスが起源の由緒ある劇場名だと思われる。日本語Wiki「サドラーズウェルズ劇場」参照。本作の頃はすっかり落ちぶれたボロ劇場だったようだ。スケートリンクや映画館に改装されたというのもこの頃か。全盛期のサドラーズウェルズ劇場みたいに古いネタ(あるいは素晴らしいネタ)、というニュアンス?
p291 約2万ポンド♠️全財産。英国消費者物価指数基準1908/2020(121.09倍)で£1=15999円。2万ポンドは3億2千万円。
p294 小柄で、色白で、痩せぎすで、髭をきれいに剃って(he is rather short, fair, thin, and clean-shaven)♠️浅黒警察出動!「金髪で」
p295 お礼に一ソヴリン♠️探しものの謝礼。=£1なので15999円。当時のソヴリン金貨はエドワード七世、純金、8グラム、直径22mm。
p296 空中ごま(デイアボロ)(diabolo)… その玩具は、往復する紐から外れ(the shuttle missed the string)♠️英wikiに項目あり。ああ、アレね。日本では流行ってないと思う。
p297 背が高く、痩せていて、色黒で(was tall and thin, dark)♠️浅黒警察ふたたび出動!「黒髪で」
p299 この前の四季支払日(クオーター・デイ)に来たばかりで—六週間ほど前から♠️英国(イングランド&ウェールズ)ではLady Day(3/25)、Misdummer Day(6/24)、Michaelmas(9/29)、Christmas(12/25)で、スコットランドやアイルランドでは別の日が指定されている(英Wiki)。微妙にズレてるのがなにか伝統っぽい。本作は「夏の陽光(p278)」とあるので約6週間前が6/24、つまり8月上旬の事件。
p299 半ソブリン♠️御者への駄賃。8000円。当時の半ソヴリン金貨はエドワード七世、純金、4グラム、直径19mm。
p300 フランス製の小型武器—1870年の悲劇の形見—の廃物(obsolete French small-arms—relics of the tragedy of 1870)♠️ small armsとは「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」のこと。定訳は「小火器」。1870年の悲劇とは自信満々の仏軍があっさり敗れた普仏戦争のこと。
p305 どの部分をみても『イギリスの製作者が作ったもの』であることは明白(there is plainly written all over it 'British mechanic.')♠️その後の説明を聞いても明白だとは思えないが… まーお国自慢の一種かな。
p309 ドレイパー社製の変色性インク(Draper's dichroic ink)♠️Bewley & Draper社(Dublin)の黒インク。1886年の広告には“The Best Black Ink Known — Draper’s Ink (Dichroïc)“とある。dichroicは漆黒性と高輝度を併せ持った、という意味での「二色性」か。1891年の広告ではturns at once jet blackと表現してるので「変色性」で良いのか。
p310 インクを入れた石の壜(a stone bottle)♠️Stone wareの訳語は「炻器(せっき)」。半磁器や焼締めとも呼ばれ、日本では備前・常滑・信楽・伊賀焼きに見られる」ものらしい。ヴィクトリア朝に流行したようだ。
(2020-7-4記載; 2020-7-8追記)

(8)A Mystery of the Sand-Hills (初出Pearson’s Magazine 1924-12; 米初出Flynn’s 1924-11-29 as “Little Grains of Sand”)「砂丘の秘密」評価5点
Flynn’sは有名な米国パルプ誌Detective Fiction Weeklyの前身。
ひた隠しにする依頼人にズバリと失踪者の特徴を言い当てる場面だけが楽しい物語。あまりに読者に手がかりが隠されているので面白い話として成立しません。御託宣をははぁと聞くだけ。
p318 背の高い、髭をきれいに剃った、色の黒い男だった (Tall, clean-shaven, dark fellow)♠️しつこいようですがdarkな髪の色だと思うのです。
p328『クランプス』というゲーム(the game of "Clump")♠️Webにclumpsという指定人数の塊を作る子供用ゲームの動画がありましたが… George Ellsworth Johnson著 Education by plays and games(1907)にYes, No, I don’t knowのいずれかで答える推測ゲームClumpsの項あり。源平戦で、推測が当たったら相手方から一人奪い、最後に人数が多い方のグループが勝ち、というゲームのようです。(kindle版を手に入れましたが、OCRの精度が低くてちょっと読みにくい…)
p333 狐狩りの猟犬♠️ここでは大活躍してます。「犬嫌い」ではないらしい。⑴参照。
(2019-8-31記載)

以上で全巻終了。全体を通して捻りが無い感じ。ミスディレクションというかアッチに振ってからの〜意外な解決、というテクニックを使わないのがシリーズの物足りなさですね。ソーンダイク博士のキャラもおんなじで、欠点の無いハンサムキャラじゃ、可愛げ全く無しです。これで超美人だが超性格の悪い恋人or妻が登場すれば面白かろうに… まあでも第二巻も楽しみです。もちろんフチガミ全集も。1冊5000円じゃ収まらないのかな?
あれ?弾十六得意のネタを書いてない…と思われた方もいるのでは?でもアレ書いちゃうとムニャムニャじゃないですか…なので以下、ちょっとぼかして銃関係のトリビアを書きます。
「ライフル銃」は、名称が作品中にバッチリ明記してあるので、興味がある人は各自でwikiを調べてくださいね。この銃にはwikiにある通り皮肉なエピソードがあって銃世界でも結構有名です。
「消音器(a compressed-air attachment)」が出てくる作品があるのですがマキシムの特許は1909年3月。となると作中年代の方が先になっちゃって整合性が取れないかも。手作りのオリジナルと考えれば良いでしょうか… 22口径(5.7mm)程度の小口径なら結構効果は高いようですが… 最後の方で「強力で大きな消音ライフル(a large and powerful compressed-air rifle)」とあるので犯人は空気銃に改造した、という設定なのかも。こっちの解釈なら博士が「いかなる爆発の痕跡も残さないために[attachmentを使った](prevent any traces of the explosive)」という発言とも合致します。フチガミさま、いかがでしょうか?
「携帯便利な武器—大口径のデリンジャー型ピストル(a more portable weapon—a large-bore Derringer pistol)」も登場します。お馴染み41口径レミントンダブル(1866)ですね。口径は大きいんですが、弾は寸詰まりで火薬量が少なく銃身も短いのでパワーはそんなにありません。
(2020-7-8記載)


No.312 4点 推理小説の誤訳
事典・ガイド
(2020/07/02 04:30登録)
誤訳の指摘って、昔『翻訳の世界』で別宮先生が欠陥翻訳を大胆に連載されていたのだが、する側もされる側も労多くて益少ない行為です。まあ大人が他人を非難するって大変な行為であることは社会人になったらわかるよね?学生気分が抜けて無い青年ならともかく、分別ある大人なら普通は面倒くさいことになるからしないもの。(別宮先生も最初は他多数の評者が欠陥翻訳を切るという企画だったのだが、結局他の評者は途中で辞めちゃった) だからこーゆー評論風文章も顔を晒してなんてとても私には出来ません。
そういう意味では貴重な本なんだけど、本書の感じは弱いものいじめに見える。大体、実名を出す必要ある?まあ早川や創元は今となっては翻訳大手なんだけど、戦後のドサクサでミステリ翻訳に手を出した翻訳業界の新興出版社だし、ミスの内容も翻訳後の日本語をちゃんと編集が読んでいれば、変テコだとわかるレベル。数だって1ページ数箇所なら誤訳の欠陥商品だが、単行本全体で100以下なら立派なもの。それに早川も創元も編集者も翻訳者もそのほとんどは英語の専門家じゃないからねえ。(まあプロなら言い訳出来ないだろうが…)
大体、この著者の時折混ぜるふざけた調子が不愉快。本気で誤訳を指摘したいなら、あんたの本業の法律業界のをやれば良い。(飛田さんの立派な新書『アメリカ合衆国憲法を英語で読む』は、法律の専門では無いが…と断りながらも、従来の大学のセンセーの翻訳の間違いを真摯に指摘しています。もちろん訳者名は明記していません。まあ著書名や出版社は明記してるので調べればわかるのですが、これがマナーでしょう)
以上はともかくとして、日本人が間違いやすい英語の本としては(現在でも多分)非常に有益。英語の辞書や授業で習った一般的な語意に引きずられたり、慣用句を知らなかったり、特殊知識が無かったり、と言った原因がほとんどです。
私が浅黒警察としてこだわってるdarkも記載されていますよ。この著者は「黒髪」でも不満で「ブリュネット」が正解だと言う。それ日本語じゃ無いよ…
文庫にもなったので売れたんでしょうね。(最近私が誤訳を知ったケースで『ボートの三人男』の有名なサブタイトル「犬は勘定に入れません」があった。河出古典の良い仕事。でもドスト亀山はかなり問題があるらしい。検証ページを見たことがあるだけですが…)


No.311 9点 デロリンマン
ジョージ秋山
(2020/07/02 01:32登録)
これミステリか?と言われると、アレなんですが、時期が時期なんで許してください。(PKD『アンドロ羊』が現時点で海外3位のサイトですから…)
初出は少年ジャンプ1969年。私は徳間コミック文庫(1995年8月)で読みました。ジャンプ版と少年マガジン版(1975年から連載)が収められているのですが、いずれも最後まで収録されていないようです。(今、調べたらWikiに書かれてるラストと違うので…)
現在はkindle版も出てるので(収録内容不明)簡単に入手出来ますが、当時は古本屋を探してやっと入手した記憶があります。じいちゃんちで多分叔父が買ってた少年マガジンで1エピソードだけ読んだのが最初で、強烈な印象を受けました。(むしろトラウマか)
偽善を告発する心のなかの他人オロカメンは、それからずっと私に住みついています。
正義とか美醜とか、テーマがダイレクトに突き刺さります。子どもに読ませるとひねくれる確率はかなり高いのでは?(いや捻くれ者の素質が無いと心に響かないか… じゃあ捻くれ者発見機として使えますね)


No.310 7点 バティニョールの爺さん
エミール・ガボリオ
(2020/06/30 00:40登録)
フチガミ先生の素晴らしいソーンダイク短編全集が出るらしい、と遅まきながら藤原編集室のページで知って、アマゾンで予約しようかな?と思って検索したら、謎の「牟野素人」さんの存在を知りました。ガボリオやソーンダイク博士の翻訳をkindleで廉価に販売されていて、進行中の翻訳はWEB「エミール・ガボリオ ライブラリ」に連載されておられます。現在はソーンダイクものの未訳長篇「もの言わぬ証人」後半を訳出中。
これは貴重!でも翻訳の質(私が言う資格は… まー気にしないで)はどうか?そんな訳で試しに短篇『バティニョールの爺さん』を買ってみました。参照したテキストは仏語Le Petit Vieux des Batignolles (1884 E. Dentu, Paris, 10e édition)と英語The Little Old Man of Batignolles (1886 Vizetelly, London)、恐ろしいことにこの二冊は無料でWebに転がっています… 正直、非常にありがたい事なんですが、これで良いのか?ちょっと文化の行く末が心配です。(なお『クイーンの定員1』文庫版収録の松村喜雄訳は残念ながら未入手で参照出来てません…)
結論から言うとちょっと辞書に引きずられすぎで生硬い感じはあるものの、実直な翻訳。変に慣れ崩した感じが無いのが良いですね。大学のフランス語の授業を思い出しました…(遠い目)
ガボリオの長篇を精力的に翻訳されており、この価格で長篇も読めるのは非常にお得だと思います。是非この調子で現在手に入りにくい作品を翻訳していただきたいものです。
さて、この『バティニョールの爺さん』、仏wikiには何の説明も無く1870年発表、と書かれています。色々探すとWeb上のガボリオ著作リストで一番詳しいのがロシア製のhttp://rraymond.narod.ru/rf-gaboriau-bib-fru.htm。≪Mémoires d’un agent de la Sureté : Le petit vieux des Batignolles≫ publié sous le pseudonyme de J.-B.-Casimir Godeuil. - Le Petit Journal : 7 juillet – 19 juillet 1870、とありました。つまり初出は登場人物の「ゴドゥイユ」名義だった訳ですね。(13回連載?だが単行本は12章) 実は短篇集にはプチ・ジュルナル紙編集部の前書きとゴドゥイユの前説があって、編集部前書きには「謎の原稿が我が編集部持ち込まれたが名義の「ゴドゥイユ」は正体不明で所在不明… 内容が良いので掲載する」という如何にもな設定。ゴドゥイユの前説は「先日、犯罪者が判決を受けた時に、警察の実力を先に知ってたら正直に暮らしていた、と嘆くのを聞いて、我が回想録が犯罪防止に役立てば… 犯罪は上手に隠しても必ず露見する!」というもの。これ、英訳には短篇『バティニョールの爺さん』の中に収録されていますが、仏オリジナル短篇集では小説の外についてて、短篇集全体の前書きの扱い。(しかし短篇集の他の作品にはゴドゥイユは登場しない) なので英訳本の取扱いが良いですね。
ロシア製著作リストでは当初連作の予定で、作者自身が続く作品としてUn Tripot clandesitn. – Disparu. – Le Portefeuille rouge. – La Mie de pain. – Les Diamants d'une femme honnête — La Cachetteというタイトルを挙げているという。(結局、発表されなかったようだ)
訳者さんは「実際に書かれたのはかなり初期ではないかと推測… 全体として、素描という感じがする」とおっしゃっていますが、素人の手記という設定なので手慣れてない感じをワザと出したのかも。
まあこーゆー細けえところは別として、面白い、興味深い作品です。
何たって(いつもと異なり粗筋を紹介しますが)
医学校を卒業したばかりの医者、23歳の私、アパートの隣人が奇妙。時間が不定期、勲章をぶら下げたりゅうとした格好だったりボロボロの服だったりして怪しい。ある夜中、血だらけで私の部屋に飛び込んできて治療を求めてきた。それで付き合いが深くなったが秘密を明かしてくれない。管理人も知ってるみたいだが教えてくれない。だがある日、私は冒険の同伴を許された。現場には指で書いた血のメッセージ!殺人事件だ!彼は探偵(刑事)だったのだ!
ドイルは無意識にパクっちゃったのかなあ…
この作品、とてもワクワク感があります。この後の展開も結構楽しい。(微笑ましい)
ガボリオやるじゃん!という感じです。今『ルルージュ事件』を読んでますが、大デュマの殺人事件版と言った感じで非常に流れが良い。
ところで『緋色』の先行作品として、この作品が挙げられていないような感じがするんですが(Stephen Knight著Towards Sherlock Holmes(2017)に本作への言及あり)私が知らないだけでしょうか?ドイルと言えばみっちょんさんのサイトを参照してる私なんですが、ホームズとタバレ爺(といっても五十代)の共通点が挙げられているだけのようです。
以下トリビア。フランス語は英語よりさらに読めないし、量も読んでないのでかなり怪しい事をあらかじめお断りしておきます。(翻訳の感じを知っていただくために長めに引用しています)
p2/1325 二十三歳のときであった---ムシュー・ル・プランス通りとラシーヌ通りが交差する辺りに住んでいた(j’avais vingt-trois ans – je demeurais rue Monsieur-le-Prince, presque au coin de la rue Racine)♣️いずれも実在の通り。パリ六区Odéon地区。パリ第五大学(医学部?)があるようだ。学生街なのかも。rue Monsieur-le-Princeは1851年4月命名、rue Racineは1835年以降か。(いずれも仏wiki情報)とするとこの話は1850年代なのか。
p2 二十三歳のときであった---ムシュー・ル・プランス通りとラシーヌ通りが交差する辺りに住んでいた(j’avais vingt-trois ans – je demeurais rue Monsieur-le-Prince, presque au coin de la rue Racine)♣️いずれも実在の通り。パリ六区Odéon地区。パリ第五大学(医学部?)があるようだ。学生街なのかも。rue Monsieur-le-Princeは1851年4月命名、rue Racineは1835年以降か。(いずれも仏wiki情報)とするとこの話は1850年代なのか。
p2 家具付きの部屋が賄い付きで月三十フランだった。今なら優に百フランはすることだろう(trente francs par mois, service compris, une chambre meublée qui en vaudrait bien cent aujourd’hui)♣️金基準1850/1903(1.01倍)、仏消費者物価指数基準1903/2020(2666.79倍)で合計2693.5倍。当時の1フラン=€4.11=1709円。月30フランは51270円。これが作品発表時1870には2673.2倍なのでインフレ率は1%程度。19世紀のインフレ率はあまり高くないようだが、家賃だけ急上昇したものか。パリ地区の人口は1836年100万人、1851年128万人、1872年185万人で急拡大している。(2022-2-25追記: ふと計算をやり直して見たら、ユーロ円換算時に大間違いをしている。1フラン=€4.11なら当時493円。なんで間違ったんだろう… なので30フラン=14790円)
p66 殆ど毎日アブサンを飲む時間になると、彼はルロワのカフェに来て私とドミノゲームをしたものだ(presque tous les jours, au moment de l’absinthe, il venait me rejoindre au café Leroy, et nous faisions une partie de dominos)♣️「アブサンの時間」って何?と思ったら「仕事を終え疲れきった労働者達が安価な逃げ道(アブサン)を求めてカフェなどに集う時間(午後5時からの数時間)は「緑の時刻 (Heure Verte)」と呼び習わす」(アブサンの凄いWEBページから。情熱に圧倒されます…)ということらしい。
p66 七月のある夜、金曜日の五時きっかりのことであったが、彼がダブル・シックスで私をこてんぱんに負かしていた最中(un certain soir du mois de juillet, un vendredi, sur les cinq heures, il était en train de me battre à plein double-six)♣️このsurはaboutのはず。ドミノの札は仏語でも英語表現なんだね。(特殊技の通称なのかも)
p92 オデオン広場で… バティニョールまで… 急いでやってくれ!御者は、その遠さに悪態を並べた(aux Batignolles... et, bon train! La longueur de la course arracha au cocher un chapelet de jurons)♣️距離にして5kmほど。最初、近すぎるので文句を言った風に受け取った私は近場タクシーのイメージ強すぎか。
p100 嗅ぎタバコの癖♣️キャラ付けの工夫だが、あまり効果を上げていない。
p151 血で書かれているMONIS…という文字♣️ダイイング・メッセージの嚆矢…なのかな?専門家の公式見解をよく知りません。
p186 パトリ紙の夕刊(un journal du soir, la Patrie)♣️1841創刊の日刊新聞。基調は第二帝政支持のようだ。
p196 特別な能力♣️今『ルルージュ事件』を読んでますが同じ能力のキャラがいた。
p223 カタロニア地方で使われる恐ろしいナイフであろう。掌ほど幅が広く、諸刃でしかも針のように尖った先端を持つ、あのナイフである……(un de ces redoutables couteaux catalans, larges comme la main, qui coupent des deux côtés et qui sont aussi pointus qu’une aiguille…)♣️カタラン・ナイフというのが定訳?特殊な形のフォールディング式でデザインが素敵だが、傷口からわかるかなあ… 当時流行してたのか。
p399 ピゴローさんとおっしゃいます。ですが、専らアンテノールと呼ばれておいででした。なんでも昔やっておられた商売の関係でそう呼ばれるようになったのだとか(Il s’appelait Pigoreau... mais il était surtout connu sous le nom d’Anténor, qu’il avait pris autrefois, comme étant plus en rapport avec son commerce)♣️Anténorはギリシャ神話でトロイの貴族らしい。理髪師関係ではないようだ。なんかフランス人って「あだ名」で呼ぶのに抵抗が薄い感じ。(←個人の感想です)
p407 理髪師(coiffeur)♣️「パリじゅうの別嬪さんたちの髪を…」と書いてるから「美容師」が適当か。英訳はhairdresser。
p407 百万フラン(pour un million)♣️具体的な金額というわけではなく「百万長者」みたいな用法か。17億円。(2022-2-25追記: 修正後の換算だと4億9300万円)
p486 スピッツ(ポメラニアン?)… 昔の運転手がよく飼っていたようなやつで、身体は真っ黒で耳の上に白い斑点がついていて、プルトンって名前(C’est un loulou, comme les conducteurs en avaient autrefois, tout noir, avec une tache blanche au-dessus de l’oreille ; on l’appelle Pluton)♣️翻訳文中に?をつける律儀な訳者。ただこの書き方だと訳注っぽくない。conducteurは時代的に(自動車の)運転手では無い。ポメラニアンは昔馬車の番犬としてダルメシアンと双璧、というのを知って(loulou de Poméranie—the good old loulou of the stagecoachと表現した本あり。the horse’s friendとあるので馬の護衛のようだ)「馭者」で間違いない。残念ながら英訳はHe’s a watch dog... quite black, with just one white spot... で済ませて犬種の言及なし。Plutonは冥王ハデスのこと。真っ黒からの連想だろう。
p603 使った拳銃(le revolver qui vous a servi)♣️時代的にパーカッション式かピンファイア式の廻転式拳銃と思われるが、デリンジャーのような廻転式じゃない拳銃も仏語ではrevolver。なので「拳銃」で正解。1850年代なら米国製コルト、ベルギー製ルフォーショーあたりか。
p862 青いダマス織のカーテン(rideaux de damas bleu)♣️ダマスカス地方発祥の「ダマスク織」が一般的。
p862 金髪の若い女… というより、正真正銘の金髪の若い女(une jeune femme blonde..., ou plutôt... une jeune femme très blonde) ♣️trèsは強調表現だが「実に綺麗な」という感じ?英訳はa young woman, with fair hair and blue eyes。北欧系ブロンド、という含意か。
p1133 なかなか化けるのが上手いものだ!(Jolie toilette d’instruction!) ♣️ toiletteはドレスの意味。instructionの意味が私にはよくわからない。「化ける」だと非難の意味が強すぎるような気がする。英訳はShe’s a clever wench.... she means to excite the magistrate’s compassion and sympathy(賢いヤツだ… 判事の同情を引こうとしている。instructionを「判事対策」と解して、やや説明調に訳している。なるほど... 一理ありますね)
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(2020-07-04追記)
そういえばBNF(Biblioteque Nationale de France フランス国立図書館)のWEBでは古い新聞を無料公開してたなあ、と思い出し、検索すると連載当該号がちゃんとありました。かなり明瞭な印面で、しかも無料でPDFダウンロードができちゃう…なんて素晴らしい!
そこで発見したのですが、連載1回目(1870年7月7日)は編集長Thomas Grimmの「明日から始まるよ!」と言う原稿入手の経緯を綴った予告だけの掲載。物語自体は7/8から章の数どおり12回連載です。Mémoires d’un agent de la Sureté(警視庁の密偵の回想)と言うシリーズ企画が明確な紙面づくり(『バティニョール』の連載ではMémoires d’un agent de la Sureté(1)と表記されている。続話のタイトルを紹介してるのは編集長でした…)なのですが、連載最後の7月19日の編集部後書きには「戦争が始まり今日で第一話の完結なので、いったんシリーズ連載は中止。事情が許せばすぐに再開します」普仏戦争が始まって、それどころじゃなくなったんですね。
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(2020-7-18追記)
『クイーンの定員1』文庫版収録の松村喜雄訳をやっと読めました!図書館で読んだので、以下は記憶に頼ったものです。
まず原書Dentu版は機構本で松村さんは苦労して手に入れた、と前書きにあった… 現在では初出本も初出の新聞さえ誰でも入手出来ると知ったら松村さん、喜んでくれるかな?
編集部の前説(私は誤読してたようだ。最後の方でプチ・ジュルナル紙に作者ゴドゥイユ氏が名乗り出て、無事連載開始となったことになってる)、作者の前書き、いずれもちゃんと翻訳してて良い。
p66 二倍のシックス♣️私は上でdouble-sixをフランスでも英語で書く、としたが、この綴り、フランス語(ドゥーブル・スィス)も同じじゃん!恥ずかしい… double-sixはドミノ牌セットのことなので「ドミノでコテンパンに」が正訳か。
p186 夕刊紙のパトリ♣️こちらが正解。BNFでも見てみた。1850年だと1部2スー(=85円)。「欧米の新聞は朝刊紙、夕刊紙いずれかの単独発行であり、アメリカではむしろ夕刊紙のほうが圧倒的に多い。」(ニッポニカより) 日本の朝夕刊セットは珍しいんですね…
p486 むく犬… 羊飼いが飼ってたような…♣️確かに羊飼いは羊をconduire(率いる)人だがconducteurと呼ばれるのかなあ。確かにloulouは語源「狼っ子」で特定の犬種を指すものではないようだが…
p862 ここはさらっと「金髪の若い女」と流してた。(冗長な繰り返し無し)
p1133 作法通りの服装♣️ああinstructionを作法ととったのね。こっちの方が正解かも。


No.309 6点 ぬれ手で粟
A・A・フェア
(2020/06/28 03:54登録)
クール&ラム第25話。1964年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
保険会社からニセ被害者を暴く依頼、アリゾナの牧場でレジャーを楽しむラム君、ちゃんと馬に乗れる男です。持ち前の勤勉さで真相を突き止めます。筋はあまり複雑ではありませんが大胆な犯行にちょっとビックリ。
なお、編集部Nによるあとがきで、メイスン物への献辞日本人第一号 小片重男教授のいきさつが詳しく書かれています。
(2017年7月16日記載)


No.308 5点 不安な遺産相続人
E・S・ガードナー
(2020/06/28 03:43登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第74話。1964年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
冒頭からの文章の感じが変です。いつもと違う。病院と屋敷と空港。メイスン登場は第3章の後半から。予審が開かれ判事の秤が新聞ダネに。モールテッド・ミルク(malted milk)を飲む元秘書。ミセスではなくミスと名乗れば秘書になりやすい。メイスンの工作はちょっとやりすぎ。予審再び、バーガーは不出馬、最初のDAが再登板。全体的に筋が弱い感じです。自動車は2-4年前の型のオールズモビルが登場。
(2017年5月20日記載)


No.307 5点 つかみそこねた幸運
E・S・ガードナー
(2020/06/28 03:36登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第73話。1964年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
晩餐会で注目を浴びる美しいデラ。評判が良いドレイクの仕出し屋稼業。ドレイクのコーヒーの好みは砂糖とクリームたっぷり。久しぶりのホルコム(1959年1月刊「恐ろしい玩具」以来)でも活躍は無し。バーガーはメイスンの非行を見つけ締め上げます。法廷シーンは予審、冒頭からバーガーはメイスンを厳しく告発。レッドフィールドの証言をきっかけに、メイスンはバーガーとトラッグを引き連れ仲良く現場を再捜索。最後はメイスンがバーガーに逆捩じを食らわせて幕。全体的に薄い味付けです。
銃は38口径レヴォルヴァ、スミス・アンド・ウエッソン製が登場、詳細不明。
巻末には、1964年11月に虎の門の晩翠軒で開かれた日本探偵作家協会主催のガードナーを囲む会の記録あり(署名「N」による)
(2017年5月20日記載)


No.306 5点 向うみずな離婚者
E・S・ガードナー
(2020/06/28 03:27登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第72話。1964年2月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
ハンドバッグを置いていなくなった黒眼鏡の女。デラのランチタイムは12:15-12:45、ガーティは12:45-13:30。意外にもメイスン事務所のセキュリティが甘い。パイロットはラスヴェガス経済とロサンジェルス経済との密接な関係を語ります。関係者全員が黒眼鏡をかける場面がシュール。裁判は予審、後半でバーガー御大が登場しますが、例によって得点を稼げず沈没。最後はトラッグが締めます。プロット自体が単純なので解決も難しくはないのですが不満な出来です。
銃は2丁、同一型式の38口径レヴォルヴァー スミス・アンド・ウェッスン6連発、シリアルC48809とC232721が登場。このシリアルはいずれもKフレームfixed sight1948-1952年製を示し、該当銃はMilitary&Police(M10)です。シリアルC48809はメイスンシリーズ4回目、C232721は2回目の登場。
(2017年5月17日記載)


No.305 6点 恋におちた伯母
E・S・ガードナー
(2020/06/27 21:26登録)
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第71話。1963年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
事務所に迷い込んだボタンいんこのつがい。ドレイクの料金は1日50ドル(プラス必要経費) メイスンの弱点はエレベーターの中の会話。法廷は予審、地元の検事をいじめ、若い弁護士を助けるメイスン。判事も味方につけ反対尋問やり放題で真相に至ります。解決は鮮やかで、パズルのピースが上手くはまります。
(2017年5月18日記載)


No.304 4点 脅迫された継娘
E・S・ガードナー
(2020/06/27 21:21登録)
ペリーファン評価★★☆☆☆
ペリー メイスン第70話。1963年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
ここから私見メイスン第五シーズン(最終作まで)。「ガードナー、老いたり…」という感じ。スピード感に欠け、切れ味が悪い。ファン以外にはお薦め出来ない作品群です。
過去の過ちと湖上の活劇。濃い霧が全てを隠します。法廷シーンは予審。地元新聞の記者を煽って真相にたどり着きます。全体的に芯が欠けたぐんにゃりした印象。担当区外なのでバーガーもトラッグも出てきません。
銃は38口径6連発リヴォルヴァー、スミス・アンド・ウエッソン製、シリアル133347(翻訳では最初「携帯許可番号」あとの方では「銃器ナンバー」とあります。原文を見たら最初の方はシンプルにa Smith and Wesson .38-calibre revolver, No. 133347で「携帯許可」に該当する単語はありません) このシリアルは「歌うスカート」に続き2回目の登場です。頭文字無しの数字だけのシリアルは1942年以前、この番号なら.38 Special Military & Police M1905 1st or 2nd changeで1908-1909年製くらいか。
(2017年5月20日記載)


No.303 6点 悪夢の街
ダシール・ハメット
(2020/05/02 23:21登録)
1948年(Mercury Mystery No.120)出版。底本はDell #379 (1950) Mapback版のようだ。いずれもEQ(ダネイ)の序文付き。なぜハメット短篇発掘の功労者ダネイの序文は翻訳されなかったのだろう。(ミスマッチだと思われたのか) HPBは1961年6月が初版。1月に死んだハメットの追悼短篇集か。(HPBあとがきの(S)[=菅野 國彦]のちょっと間違ってる初出情報はEQ序文からのネタのように感じる。) (2022-2-12訂正: どうやらこの(S)は当時編集部で孤軍奮闘していた常盤新平のようだ。菅野圀彦だと年齢が合わない)
Dell版の表紙絵はRobert Stanley。地図はRuth Belew、悪夢の町 Izzardの雰囲気が出てる良い仕事。他、本文にもイラスト(Lester Elliot作)がついており、WebのDavy Crockett’s Almanackで7枚全部を見ることが出来る。
初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。
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⑴ Nightmare Town (初出Argosy All-Story Weekly 1924-12-27) K32「悪夢の街」 井上 一夫 訳: 評価5点
初出誌は後のArgosy誌。出だしはすごく良い。米国の小さな町を手探りで進んでゆく感じ。多分、ハメットがピンカートンに雇われて西部の小さな町に派遣された時の心情風景。でもアクションたっぷりの中盤以降はつまらない。悪夢っぽい大ネタは良いのだが、構成に難あり。主人公の妙技はフランス人の言う「シャルロ」の立ち回りを思い出してしまった。(映画にそんなシーンはなかったと思うが…) Dell版のイラストでは長い胡瓜みたいな棍棒にしか見えない。
p12 すもう(wrestle): 米国チームは1924年パリ・オリンピック、男子フリースタイル・レスリングで4階級の金メダルを獲得している。当時、話題になっていたのかも。
p12 十五ドルにたいして十ドル賭けろ(Bet you ten bucks against fifteen): 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)で$1=1662円。
p13 連邦保安官(MARSHAL): Wiki「連邦保安官」に詳細あり。この人は町に常駐してるので Deputy Marshalなのだろう。
p20 大事な、自分にとって本気な場面にぶつかると… 道化役をやっちまうんだが、なぜだろう?: この反省はハメットの本音っぽい。生を受けて33年、世間と渡り合って18年、と主人公は言う。当時ハメット30歳、世間に出たのは14歳の頃なので、大体一致する。ここでは、俺は自意識過剰の子供なのだ、と結論付けている。
p26 五十セント出して指一本見せれば(cost of fifty cents and a raised finger): 831円。密造ウィスキー(1フィンガー?)の値段。
p31 大きなニッケルめっきの廻転式拳銃(a big nickel-plated revolver): なんとなくコルトだと言う直感が… (全く根拠はありません!) 候補は45口径のコルトM1917民間用(ただの妄想)。
(2020-5-2記載)
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⑵ The Scorched Face (初出The Black Mask 1925-5) K36 #17「焦げた顔」丸本 聰明 訳
オプもの。『チューリップ』で読むつもり。Dell版のイラストが不気味。
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⑶ Albert Pastor at Home (初出Esquire 1933秋号) K70「アルバート・パスター帰る」小泉 太郎 訳: 評価5点
『チューリップ』で読んだ。Dell版のイラストにはLeftyと「おれ(Kid)」の姿が。(『チューリップ』に掲載されてるイラストは一部分だけ) (S)の解説ではエスクワイア誌創刊号とミステリ・リーグ誌創刊号の争いで譲ったのはエスクワイアとなっているが、どう考えても高級誌側が譲るとは思えない。『チューリップ』小鷹解説では譲ったのはミステリ・リーグ側になっている。
内容の評価は『チューリップ』参照。
(2020-5-2記載)
おっさん様が発見した「設定的に矛盾」が私の「馬鹿目」では見つからない… 原文はエスクワイア掲載号の無料公開(Internet Archiveのサイトで「esquire 1933」と検索、雑誌34ページ目)で確認できるので、ぜひ結果を教えていただければ…
(202-05-03追記)
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⑷ Corkscrew (初出The Black Mask 1925-9) K37 #18「新任保安官」稲葉 由紀 訳
オプもの。創元文庫『フェアウェルの殺人』で読むつもり。Dell版のイラストは珍しいカウボーイ・ハット姿のオプ。


No.302 6点 R・チャンドラーの 『長いお別れ』 をいかに楽しむか
評論・エッセイ
(2020/05/02 04:06登録)
2013年出版。清水俊二先生は名訳者、という印象をずっと持っていました。でも、本書を読んでみると、ところどころでかなり意訳してます。これならこなれた日本語になりますね。全体的には、概ね原文に即しているようだが、文章によってはかなりばっさり削って訳している。現代なら手抜きと言われかねないレベル。
村上訳は、たいてい原文の意味を正確に把握(柴田先生のおかげ?)してるけど、いつもの締まりのない日本語。まあそこは好き嫌いなのでしょう。(私は大嫌い。←公言する必要無いでしょ?) 時々、誤魔化しも暴露されています。(柴田先生に聞いてないところなのかな?)
英語翻訳のお勉強になる本。でも文章を周りから切り離して取り出してるので、全体の流れを無視してしまいがち。時々、原文で前後を確認した方が良いと思います。正確な文章の把握には大きなコンテキストも必要ですから…
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実例を最初の方から2例ほど。(ページは原書のもの。以下山本解説は一部要約してます。)
【Chandler】第1章p5 へたばったテリー・レノックスを見おろして金持ちの若い女が言うセリフ。
“Perhaps you can find a home for him. He’s housebroken — more or less.”
【清水訳】
◆「家を見つけてやってちょうだい。家もないのとおんなじなんだから」
【村上訳】
◆「おうちを見つけてあげてちょうだい。トイレのしつけはできているから--おおむね」
【山本解説と訳】
housebrokenは大小便のしつけが出来てるの意。more or lessは「まあまあ」くらい。山本訳の提示はなし。
【弾十六のイチャモンと試訳】
女はテリーのことを前段で「迷子の犬みたい」と言っている。なので犬の家捜しっぽく訳すのもありだと思う。文学者さんはこの女が「トイレ」なんて口にするタイプだと思ってるのかな?
◉「飼い主を見つけてあげて。最低限のしつけは出来てる—はず」
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【Chandler】第5章p28 テリーのポケットから自動拳銃を取り出して調べるマーロウ。
I sprang magazine loose. It was full. Nothing in the breach.
【清水訳】
◆弾倉をしらべた。弾丸は一発も撃たれていなかった。
【村上訳】
◆マガジンもはじき出してみた。弾丸はフルに装填されている。乱れひとつない。
【山本解説と訳】
breachの部分は辞書を引いても不明。ブリーチ(breech, 薬室)にはマガジンから送り出された次の弾丸が入る。空なのだから発射された形跡がないという意味だろう。
◆マガジンを抜き出してみた。フル装填されている。薬室にも弾は入っていない。
【弾十六のイチャモンと試訳】
breach(破ること、など)はbreechの誤記?誤植?村上訳はbreachとして、山本訳はbreechとして解釈。私もbreechの誤記か誤植だと思う。
拳銃の薬室(弾丸が収まるところ)はchamberと言う。breechの銃世界での正確な意味は「銃の後ろ側の開口部で弾丸などを込めるところ、大砲の場合なら銃尾の閉鎖機構」反対語はmuzzle。オートマティック拳銃の場合、後ろの開口部はスライドに空いた排莢口から見える薬室後部なので、薬室とほぼ同意。(リボルバーならbreech=シリンダの後ろ側)
原文で描かれてるのは初見の自動拳銃を扱う際の基本中の基本を省略して描いたものだろう。まず銃口を安全な方に向け、マガジンを抜き、スライドを引いて薬室に何もないことを確認する。これでその拳銃は確実に無害であるとわかる。拳銃を扱い慣れてる者ならほぼ自動的にやる動作。
つまり、拳銃の安全確保を行った、というのがこの文章の主たる意味。もちろん、ついでに発射の有無も確認している。(厳密に言えばマガジンと薬室の状態だけを根拠にして、発射の有無はわからない。発射した後で弾を補充する細工は簡単だ。まー上述の状態を見たら、この拳銃は使われてないな、と普通思うが。)
なので意訳せず、愚直に訳せば(上述の意味を理解してる)分かる人には分かる翻訳になり、それで充分な気がする。sprang... looseはマガジンの解除機構を押したら、マガジンがビヨーンととび出した感じの表現。
◉マガジンを解除してはじきだした。全弾装填してある。薬室は空だ。
原文では、この文の直前に拳銃の種類が書いてある。It was a Mauser 7.65, a beauty. I sniffed it. マウザー(モーゼル)の7.65ミリ(=.32口径)、候補はM1914かHSc。どっちも私にはbeautyだが、時代的にシンプルでモダンなHSc(1937)かな。次の文の訳は【清水】私は銃口を嗅いでみた。【村上】匂いをかいでみた。【山本】私はにおいを嗅ぎ…
安全動作を考えると清水訳は不適当。そんなことしてたらいつか怪我するよ。まず拳銃を無害化してから銃身や銃口を確認しましょう!多分、マーロウは顔の近くに銃口を持ってきたくなかったので、大袈裟に鼻を吸って(sniffed)硝煙の匂いがするか確かめたのだろう。
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著者は「文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。… 文芸作品の文章をすべからく文法で、つまり理詰めで理解しようと…[いうのが]…理解出来ないのだ」(p174) あんまり文法に頼るな、と主張してるのだが、文法苦手なのかな?まずは正確な文章の把握が大切で、ちゃんとした文法は非常に重要な手がかり(良い友達)だと思うのだが… (もちろん私は非常に文法苦手です)
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類書で『3冊の「ロング・グッドバイ」を読む―レイモンド・チャンドラー、清水俊二、村上春樹―』(2010)という本があり、こっちには銃の話が出てくるらしい。翻訳家では無い素人の感想文(←あんたと同じだよな?)という評がアマゾンにあったが、銃のネタがどう書かれてるのか気になる。


No.301 5点 ミステリマガジン1984年5月号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2020/04/30 01:02登録)
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年5月号 <337>
短篇特集は「サスペンスフルな夜」と題して4篇。他に「クライム組曲」(意図不明)と題して7篇を収録。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信治郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジ、今号のメインは男女が乗った手漕ぎボート、渦に飲み込まれ中。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載4回目、長篇時代(1927〜1928)が載ってる。やっとオプもの全てのBlack Maskヴァージョンを収録(長篇2作の雑誌掲載版を含む)した原書が届いたので、そのネタを絡めて下でコメントするつもり。青山『ハメットダッシュ』は低調。今回の目玉、都筑『出来るまで』に重大事件が記載されており、しばらく色々資料を漁ってみて、やっと謎が解けた。結構興味深いと思うので今回は問題篇として下に書き、次の6月号で解答篇を発表します。他、瀬戸川『睡魔/名作篇』はやはり見逃せない。リレー小説はセイヤーズが前号のお返しにシェリンガムで登場。
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は14篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ Wild Mustard by Marcia Muller (初出HMM1984-5書き下ろし)「野生のからし菜」マーシャ・ミュラー 竹本 祐子 訳(挿絵 天野 嘉孝)
海外作家書き下ろしシリーズ第11回。シャロン・マコーンもの。
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⑵ Simple question d'humanite par Catherine Arley (初出Ellery Queen Mystère magazine 1974-12)「心優しい女」 カトリーヌ・アルレー 長島 良三 訳(挿絵 じょあな・じょい)
アルレーの短篇は非常に珍しい、とのコメント付き。仏Wikiには全部で11作がリストアップされている。ebayで見つけた仏EQMMの掲載号(no322)表紙はジェーン ・バーキンか? 同号にはCécile Lacrique, Michel Grisolia, Catherine Arley, Robert Twohy, Alfred Haïk, William Bankier, Vivran, Edward D. Hochの小説が載ってるようだ。残念ながらフランス小説のFictionMags Index風データベースをまだ見つけていない。
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⑶ Waltz by Cornell Woolrich (初出Double Detective 1937-11)「ワルツ」 コーネル・ウールリッチ 田口 俊樹 訳(挿絵 山野辺 進)
掲載誌がなぜDoubleなのか、と言うと長篇一冊分+雑誌一号分の小説が載ってるから、らしい。雑誌表紙にウールリッチの名前無し。
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⑷ The Fantastic Horror of the Cat in the Bag by Dorothy L. Sayers (初出The 20-Story Magazine 1925-5 as “The Adventure of the Cat in the Bag”)「鞄の中の猫」 ドロシイ・L・セイヤーズ 関 桂子 訳(挿絵 畑農 照雄)
20篇の小説が載ってるので20-Story誌。
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⑸ Lonely Place by Jack Webb (初出AHMM 1960-2, as by Douglas Farr)「桃の収穫の季節」 ジャック・ウェッブ 山本 俊子 訳(挿絵 金森 達)
AHMMのクレジットDouglas FarrはC. B. Gilfordのペンネームらしい。つまり俳優ジャック・ウェッブの名義貸しなのだろう。
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⑹ 「黒いレストラン 第2話 RはろくでなしのR」東 理夫 (挿絵 河原まり子)
連載ショートショート。今月の料理(レシピ付き)は生ガキ。
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⑺ Bon Voyage by Dan J. Marlowe (初出AHMM 1969-3, as by Jaime Sandaval)「よい旅を!」ダン・J・マーロウ 望月 和彦 訳(挿絵 つのだ さとし)
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⑻ Aftermath of Death by Talmage Powell (初出AHMM 1963-7)「死後の影響」タルメージ・パウエル 沢川 進 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑼ Here Lies Another Blackmailer by Bill Pronzini (初出AHMM 1974-6)「脅迫者がもう一人」ビル・プロンジーニ 山本 やよい 訳(挿絵 山野辺 進)
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⑽ Children at Play by Angus Greenlaw (初出AHMM 1966-7)「子供たちが遊んでいる」アンガス・グリーンロー 松下 祥子 訳(挿絵 畑農 照雄)
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(11) Object All Sublime by Helen W. Kasson (初出AHMM 1964-12)「崇高な目的」 ヘレン・カッスン 延原 泰子 訳(挿絵 楢 喜八)
本誌に英語タイトルの記載が無いが、FictionMags Indexでそれらしいのは上記だけ。
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(12) Intruder in the Maze by Joan Richter (初出EQMM 1967-7)「トウモロコシ畑の侵入者」ジョーン・リクター 秋津 知子 訳(挿絵 佐治 嘉隆)
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(13) Death of the Kelly Blue by Henry Slesar (初出AHMM 1968-11)「愛犬の死」 ヘンリー・スレッサー 橘 雅子 訳(挿絵 金森 達)
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(14) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第4回 「解答篇4 シュリンガム氏の結論」ドロシイ・L・セイヤーズ(Dorothy L. Sayers) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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アームチェア・ディテクティヴ特約の評論
エッセイ・オン・ハードボイルド「伝統は死なず」マイクル・サイドマン 竹本 祐子 訳
モーリス・A・ネヴィルのジョナサン・ラティマー追悼文とともに。近年のハードボイルドについての小文。
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HMM OPENING FORUMとして
『春はかなしいのだ(乾 信一郎)』バードウォッチングの話。
『表情のある機械たち(日暮 修一)』古いカメラと模型の車の話。
『サラリーマンの乱調読書戦術(結城 信孝)』新聞社勤務のミステリ読書の一日の記録。
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第4回「四つの長篇小説(1927〜1928)」以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: スペンサーのボストン』もーちょっと書き込めそうだが… まー全然読んだことないし、興味も無い。
『共犯関係(青木 雨彦)2 銀行員について』ご存知ディック・フランシス『名門』についていつもの雨彦節。
『フットノート・メロディ(馬場 啓一)17 ミステリに於ける食事について』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)5 ヴァイタリティ』年代別作品数(1923-1926)の分析。コディ編集長との関係を理解しておらず、見当違いなことを書いている。1925年の作品は「なんか、どこか違う」という感じを受けてるのはスルドいのだが。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)97 むずかしい仕事』ポケミスのセレクションも任されていた都筑は古い感覚の翻訳者に、注をつけて良いから飛ばさないで完訳して欲しいと依頼するのだが、その翻訳者は「全部ホン訳するとかえってわからなくなる」とうそぶいて全然反省せず、細かいところを抜いた翻訳を続ける。そのため3、4冊は福島正実が初校にびっしり赤入れをして本にした。次の仕事を依頼されなくなったその翻訳者は乱歩に泣きついたが、都筑が赤入りだらけのゲラを見せると流石に乱歩も了解した。さて、問題です。その古い感覚の翻訳者とは誰か? ヒント。新青年時代から翻訳している。乱歩や横溝と親しい。都筑編集時代の前に、ある作家の翻訳を依頼されていたらしく、次はこの作品、などと次々と言ってきた。(都筑は、その作品は既に別の人に依頼していまして…とことごとく断っていたようだ。)
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン5 オリエント急行の魅力(小池 滋)』
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)17 クラーク・ハワードのThe Arm』
『アメリカン・スラング(木村 二郎)5 ヒット・パレイド』
『フィルム・レビュー(河原 畑寧)ヒッチコック・リヴァイヴァル』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)5』『赤毛のレドメイン』について。前半中盤は色あせていたが、最後のモノローグが素晴らしいという。前回の『僧正』でも似たようなことを言っている。強烈な犯人像がお好きらしい。
『名探偵登場(二上 洋一)17 探偵小説のからくり仕掛人:亜 愛一郎』
『愛さずにはいられない(関口 苑生)5 “性”少女は尊いか?』
『ミステリ漫画(梅田 英俊) 通行人『内面はわからんもんだなあ…』』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)29 マイク・ハマー、TVに登場』『Mystery Mine(木村 二郎)名無しの作品ファイル』『Key Suspects(西村 月一)デクスターの新作に触るゾ』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)ロス・トーマスの「モーディダの男」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(小泉 喜美子) 栄耀の餅の皮』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』


No.300 8点 はじめて話すけど… 小森収インタビュー集
評論・エッセイ
(2020/04/29 19:01登録)
2002年出版。各務三郎(太田博)といえば、早川書房ミステリマガジンには功労者としての扱いが(常盤新平とともに)公式にはされておらず(今もそうなのかな?)何かあったんだろうなあ、とずっと思っていた。日影丈吉さんが編集長交代の数号後にHMMの連載エッセイ中で「太田くんが辞めたそうだ。組合がらみということだが残念…」(未確認引用)と書いていて、ああそうか、組合トラブルだったのか…と納得はしたものの、事情がずっとわからなかった。
最近活躍中の編集者、小森さん(各務の大ファンらしい)がインタビューしてくれてて、すごく面白い。
結局、二人が早川を去った理由はジュニアとの確執らしいので、今でも早川公式はネタに出来ないよね…
他にもHMM関連では石上三登志も収録されています。当時のHMMファン必読。
その他は皆川博子、三谷幸喜、法月倫太郎(アントニー・バークリーについて)、松岡和子、和田誠(この本の表紙絵も担当)のインタビューを収録。
ちゃんと相手の知られざるネタを引き出していて非常に素晴らしいインタビュー集。誰か一人でも引っかかるならお薦めです。


No.299 10点 推理小説の整理学〈外国編 ゾクゾクする世界の名作・傑作探し〉
評論・エッセイ
(2020/04/29 17:06登録)
★★★★★ミステリだけではない美学への入門書(2014年11月9日アマゾンに投稿)
都筑先生に次ぐハヤカワミステリマガジンの立役者(準備は常盤新平さんがしたらしいですが)。 編集長時代には、マンガあり、アニメ評あり、立派な映画評論ありの黄金時代をもたらしました。正統派からは文句が出たのでしょうが… この本も、当時は先進的だったと思いますが、今では真っ当なスタンダード、保守派と思われるくらいの名作をリストアップしています。面白い本を見つける方法も伝授しており、確かに役に立ってます。他にも著者の美学が学べました。大真面目に読みすぎですか?でも田舎の少年にはとても有難かった水先案内だったのです。
(現在、4人が役に立ったって評価いただいています…)
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各務三郎なら私はこっち。1977年7月かんき書房出版。ミステリ(というか大人の小説。札幌の駅地下の書店、弘栄堂にずらっと並んだHPBが眩しかった… 当時もっと田舎に住んでたので…)を読み始めた頃に見つけ、スポンジのように吸い込み、多分いろいろな物の見方に大きな影響をうけているはず。でも書庫の奥にあるのか全然見つかりません。(見つけたらちゃんと読んで追記する予定。上記のアマゾン評も記憶だけで書いています。)
記憶の中ではバランスの良い入門書で、コロンボとかにも触れてたり、後から集めたHMMの太田博編集長時代を彷彿とさせる内容だった、はず。
桜井一の表紙絵も良い。
『ミステリ散歩』は未読なので、この機会にそっちも入手するつもりです…


No.298 5点 ミステリマガジン1984年4月号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2020/04/27 20:03登録)
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年4月号 <336>
小特集は「女たちの殺人物語」と題して3篇。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信次郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジが毎号描かれているようだ。今号のメインはベルリン風キャバレー・ダンサー。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載3回目、作家修行時代(1921〜1926)が載ってる。稿料について下で結構いろいろ書きました。他は都筑『出来るまで』と瀬戸川『睡魔/名作篇』はやはり見逃せない。リレー小説はバークリーがウィムジイ卿を引っさげて登場。
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は10篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ “Murder by Dog” by Christianna Brand (初出HMM 1984-4書き下ろし)「人間の最良の友」 クリスチアナ・ブランド 中村 凪子 訳(挿絵 山野辺 進)
英語タイトルの記載がない。上記はWebサイト“ミステリー・推理小説データベース Aga-Search”にあったものを採用。
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⑵ Mary Postgate by Rudyard Kipling (初出Nash’s and Pall Mall Magazine 1915-9 挿絵Fortunino Matania; 米初出The Century Magazine 1915-9) 「メアリ・ポストゲイト」ラドヤード・キプリング 山本 俊子 訳(挿絵 佐治 義隆): 評価7点
コンパニオンについての話だと解説にあったが、そーなのか? こーゆー話を書くキプリングは只者ではないなあ。途中で泣きそうになりました。実にハードボイルドな文体。翻訳は不安定なのが残念。(最後のほう、ニュアンスを掴みかねてる匂いがする… しかしながら原文を読んでも私の英語力ではよくわからない…) Mataniaの素晴らしいイラストはWebで見つかるので是非。
p40 建物のすぐ裏手で銃声—と二人には聞こえた(a gun, they fancied, was fired immediately behind the house): このgunは大砲だろう。数行あとで「爆弾(A bomb)」と言っている。爆発音が、大砲を発射したようだった、ということ。
p42 鼻先が平になった弾丸(たま)をつめた大きな自動拳銃だった。この種のものは戦争のきまりで敵国の市民に対して使ってはならないことになっている…(a huge revolver with flat-nosed bullets, which latter, ... were forbidden by the rules of war to be used against civilised enemies): 試訳「大きなリボルバーと先端が平らな弾丸—それは…文明国の敵兵士に対して使用を禁じられているものだ…」ハーグ陸戦協定(1899)で定められた弾丸先端は固く尖っていなければならないルール、先端がフラットな弾丸は体内で潰れて拡がり、内部の損傷を悪化させ兵士を不必要に苦しめるためお互いにやめましょう、という国際協定。(野蛮人には適用されない。) この翻訳では意味が取りにくいし、「市民」ではなく「兵士」に対する規定だし(むしろ警察のほうが後ろの市民に2次被害を起こすのを避けるため体内を貫通しにくいフラットノーズ弾を使う)、リボルバーを自動拳銃と間違えている。
(2020-4-26記載)
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⑶ The Woman Who Loved a Moter-Car by Julian Symons (初出The Argosy(UK) 1968-10 挿絵David Knight)「モイラ — 車を愛した女」ジュリアン・シモンズ 水野谷 とおる 訳(挿絵 天野 嘉孝)
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⑷ The Belvedere by Jean Stubbs (初出”Winter's Crimes 3” 1971, ed. George Hardinge)「ファニー — 望楼」ジーン・スタッブス 山本 やよい 訳(挿絵 新井 苑子)
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⑸ Whip Hand by E. S. Gardner (初出Argosy 1932-1-23 as “The Whip Hand”) 「先手を打て」E・S・ガードナー 大井 良純 訳(挿絵 門坂 流)
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⑹ Captain Leopold's Gamble by Edward D. Hoch (初出AHMM 1980-11-19) 「レオポルド警部の賭け」 エドワード・D・ホック 木村 二郎 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑺ 「黒いレストラン 第1話 理想的な夫」東 理夫 (挿絵 河原まり子)
連載ショートショート。今月の料理(レシピ付き)はスプリング・ラム・レッグ・ロースト。
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⑻ A Piece of Cake by Ron Montana (初出AHMM 1981-3-4) 「ケーキの分け方」 ロン・モンタナ 竹本 祐子(挿絵 細田 雅亮)
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⑼ Passport in Order by Lawrence Block (初出AHMM 1966-2) 「逃げるが勝ち?」ローレンス・ブロック 和泉 晶子 訳(挿絵 楢 喜八)
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⑽ Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第4回 「解答篇3 ウィムジイ卿の個人的助言」アンソニイ・バークリイ(Anthony Berkeley) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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HMM OPENING FORUMとして
『連想ゲーム(岡嶋 二人)』二人三脚の作家の秘密を公開。
『世界のミステリ作家を撮る(南川 三治郎)』文藝春秋のグラビアになった作家たち。撮影の苦労話。実家で文藝春秋を毎号とってたので懐かしいなあ。掲載号は捨てちゃったかな?
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第3回「修行時代—サンフランシスコ(1921〜1926)」以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。1921年末のピンカートンからの日給は6ドル(=9504円、フル稼働で月額約24万円)。『マルタの鷹』のプロットはヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』(1902)がヒントだ、という。しかもハメットがジェイムズ・サーバーにそう言ったらしい。『鷹』の前にぜひ読まなくては。しかし内面描写溢れるヘンリー・Jの文章がハメットに(逆の)影響を与えた、というところがとても興味深い。復員局補償金はタコマ時代の最悪期(1919か1920か)に月額80ドル(=13万円、1919年基準)、回復期病院転院時に40ドルになり、退院後(1921年5月頃)は20ドル(=31680円)に下げられた。1922年に遡及適応される追加補償金月額2ドル50セント(=4208円)を勝ち取り(合計額16ドル21セント…何の合計?)、1924年4月末に遡及適応される月額51ドル68セント(=81034円)を得る。しかし5月で打ち切り。Black Mask1924年8月に掲載されたハメットの詫び状、ずいぶん気弱な感じ。(小鷹さんは「ハメット唯一の見苦しい文章」と評している。) 体調がよっぽど悪かったのか。ボブ・ティール殺し(突っ返されたThe Question’s One Answerのことだと思う。結局、別の雑誌に載った)、そんなに酷い作品かなあ? 1926年7月、結核で血を吐いて倒れた時、復員局補償金月額90ドル(=14万円)を得た。パルプ雑誌での稿料は1語2セント。
※ パルプの稿料について、Richard Laymanの”Corkscrew and Other Stories”序文(2016)によると、Black Maskは渋かったらしく(記録が残っていないが)ハメットは1語1セントだったようだ。(他のパルプ雑誌のスター作家は20年代中盤に1語2セント、後半には3セントになったという) ハメットが1語2セントに昇格したとすればショー編集長時代か? (1926年コディ編集長は稿料の値上げを拒否しハメットはBlack Maskを去る。この時、ガードナーが自分の稿料を削ってハメットに上乗せしろ!と提案したのは有名な話。ガードナーにここまで言わせるコディって結構なヤツだったのでは?) ハメット短篇の語数はサットン編集長時代は2篇を除き6000語以下、コディ時代は14000語。1語1セント、14000語として140ドル(=22万円、1926年基準)。比較の対象にはあまりならないが、新人作家フィッツジェラルドがSaturday Evening Post初短篇(1920)で400ドル(=64万円)。気前の良いポスト誌の稿料とは言え、新人作家と約3倍の差。ハメットが自作を「屑」と卑下する気持ちもわかりますよね…
ところで上述の序文を読んで初めて気づいたのだが(←何のために年代順に読んでたんだろうねえ)、サットン時代のオプものには派手な銃撃戦などは全然ない(例外はBodies Piled Up)。死体とアクションが山盛りになるのはコディ時代。よく考えると、コディが掲載拒否した2作のいずれにもそーゆー場面が登場しない。お馬鹿なコディ&副編ノースには作品の品質より血みどろさがウケるということしか理解出来なかったのだろう。(ハメット詫び状の妙なへりくだりぶりは、お前ら、そんなに文章が読めないのかよ?という皮肉だったのか、と腑に落ちました。)
(この項目、2020-4-28大幅に追記)
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: ワインは死の香り』地図が大雑把すぎる…
『共犯関係(青木 雨彦)1 女神について』映画『ディーバ』についていつもの雨彦節。
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン4 ジェーン ・オースティンの伝統(小池 滋)』
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)16 M・E・チェンバーのMilo Marchシリーズ』
『アメリカン・スラング(木村 二郎)4 ダウンタウン物語』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)「ジョーズ3」の立体度は?』この頃、また3Dがちょっと流行ってたらしい。
『ロジャー・L・サイモンの東京日記(木村 二郎)』『名探偵登場(二上 洋一)16 おしどり探偵—シンとマユコ』『フットノート・メロディ(馬場 啓一)16 ミステリに於ける船旅について』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)4 銀色の目の女』『血の収穫』はつまらないがオプものの中短篇は無類に面白い、という感想。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)96 馬小屋図書館』今回は特許すべき事なし。
『愛さずにはいられない(関口 苑生)4 少年よ試練の壁に耐えてタテ!』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)4』ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』ほとんどSF的にクレイジー、と評している。
『ミステリ漫画(梅田 英俊) 没頭…ってことでしょうかね』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)28 伝統的“ハードボイルド”の図式』『Mystery Mine(木村 二郎)世界まるごとジョン・D・マクドナルド』『Study in Mystery(山口 勉)カセットで聴くミステリ案内』カセットの時代か。懐かしい…『外国の出版社めぐり9 モロー社』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)W・マーシャルの「骸骨詐欺事件」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(紀田 順一郎)劇画的ホラ話の傑作』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』


No.297 5点 ミステリマガジン1984年3月号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2020/04/26 09:44登録)
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年3月号 <335>
1983年翻訳ミステリ回顧。特集は「罠をしかけろ!」と題して騙し小説を4篇。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信次郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジが毎号描かれているようだ。今号のメインは女流飛行士、飛行機の後部が見えている。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載2回目だが、私が一番興味がある作家以前を書いた第2〜3章(ほぼ全文らしい)が載ってるので、下の方でトリビアも含め詳しく検討。他は都筑『出来るまで』と瀬戸川『睡魔/名作篇』が見逃せない感じ。田村隆一対談にはカンシンシロー先生(乾 信一郎、昔「信四郎」というペンネームも使ってたことから)登場、新青年時代の興味深い話。(詳細は下で)
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は11篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ Last Year's Murder by Edward D. Hoch (初出HMM 1984-3書き下ろし)「去年の殺人」エドワード・D・ホック 木村 二郎 訳(挿絵 深井 国)
国さんのイラストが素晴らしい。短篇の価値五割増し。
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⑵ Hurry, Hurry, Hurry! by Paul Gallico (初出Everywoman’s Magazine 1957-1 as “The Faker”)「急げや急げ」ポール・ギャリコ 松下 祥子 訳(挿絵 天野 喜孝)
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⑶ Emergency Exit by Michael Gilbert (初出Argosy(UK) 1968-9 as “Mr. Calder Acquires a Dog” 挿絵David Nockels)「非常出口」 マイケル・ギルバート 汀 一弘 訳(挿絵 野中 昇)
コールダー&ベーレンズ(Daniel John Calder & Samuel Behrens)もの。なお初出のArgosyは同名の米国雑誌とは関係ないらしい。ヘンリー・ウッド夫人のThe Argosy誌(1865-1901)とも繋がりはない。
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⑷ One Down by Carroll Mayers (初出AHMM 1981-4-1)「ワン・ラウンド終了」キャロル・メイヤーズ 嵯峨 静枝 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑸ A Deal in Overcoats by Gerald Kersh (初出Playboy 1960-12 as “Oalámaóa”)「厚塗りの名画」 ジェラルド・カーシュ 山本 やよい 訳(挿絵 楢 喜八)
詐欺師カーミジン(Karmesin)もの。
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⑹ The Iron Collar by Frank Sisk (初出AHMM 1965-6)「鉄のカラー」フランク・シスク 秋津 知子 訳(挿絵 佐治 嘉隆)
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⑺ Hérédité chargée par Frédéric Dard (初出Ellery Queen Mystère Magazine[仏EQMM]1958-2)「悪い遺伝」 フレデリック・ダール 長島 良三 訳(挿絵 じょあな・じょい)
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⑻ La main heureuse par Louis C. Thomas (初出不明)「つき」ルイ・C・トーマ 長島 良三 訳(挿絵 細田 雅亮)
Louis C. Thomas(1921-2003)の長篇デビューは1953年のJour des morts(Thomas Cervion名義)。
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⑼ Dream of a Murder by C. B. Gilford (初出AHMM 1965-5)「殺人の夢」 C・B・ギルフォード 坂口 玲子 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑽ A Burning Issue by Susan Dunlap (初出AHMM 1981-4-1)「後のまつり」 スーザン・ダンラップ 栗山 康子 訳(挿絵 天野 嘉孝)
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(11) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第3回 「解答篇2 サー・ジョン、きっかけをつかむ」グラディス・ミッチェル(Gladys Mitchell) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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HMM OPENING FORUMとして
『インスタント・ママ、奮戦す(深町 眞理子)』高校生の甥を預かることになった独身翻訳家。1990年から翻訳者冥利に尽きる大仕事、と予告。ホームズ全集のことでしょうね。『小説『1984年』のミステリー(新庄 哲夫)』オーウェルは探偵小説の愛読者だったか?『下町のお正月(日影 丈吉)』深川の昔の正月風景から。
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第2回「少年—青年時代(1894〜1921)」
私の興味はいつも「その人が完成する前」にある。功成り名遂げてしまった後の話は「あとは皆さんご存知の通りで…」で十分。そんな大事な部分がこの程度(雑誌で14ページ足らず)しか書かれていないのは残念。資料が少なく関係者の証言などは拾えなかったのか。以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。
ハメットはボルティモア育ち。当時の人口は508,957(1900年全米6位, Webページ “Population of the 20 Largest U.S. Cities, 1900–2012”による) 14歳(1908)で経済的窮乏で学校を辞めた。1915年頃にはピンカートンの事務員からオプに昇格、週給21ドル(=58968円、月額25万6千円)。西部に派遣されるようになり、一泊50¢か$1(=2808円)の宿で出張をこなした。1918年6月頃、陸軍に志願し、救護自動車小隊(Motor Ambulance Corps)に配属。1918年10月にスペイン風邪に感染。1919年5月、兵役不適格者に認定され、月額40ドル(=65560円)の恩給付きで除隊。ピンカートンに戻るも体調不良で[1919年?]秋にタコマで就労不能の宣告を受ける。銃を発砲し人を傷つけた経験はピンカートン社時代の警備任務時のたった1度だけらしい。
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: 隅の老人のロンドン』全然、ひねこびて無いので肖像はペケ。ポリーの髪型も当時の英国女性風ではないと思う。
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン3 新青年のクリスティー(乾 信一郎)』当時タイトルは訳者が勝手につけ、原文も訳者持ち込みだった、という。英国赴任の官僚には探偵小説の読書が義務付けられている、という噂があった。(当たり障りのない会話ネタとして当時使われていたらしい) 途中、田村隆一が、割り箸のせいで森林が破壊されてる!と関係ない話題で一人盛り上がっている。当時の日本の普通の新進作家は初版300部。
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)15 ハント・コリンズの処女作Cut Me In(The Proposition)』エヴァン・ハンターの筆名。
『アメリカン・スラング(木村 二郎)3 ミッキー・マウスがうようよ』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)古典的な図式をまもる『銀河伝説クルール』』『名探偵登場(二上 洋一)15 カニさんウマさん名コンビ—蟹沢警部補と相馬刑事』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)3』ミルン『赤い館の秘密』瀬戸川さんもネタバレ嫌い派のようなのでチャンドラーに全面的に同意、と書いて詳しく検討してない。本格ものとして評価しないが好き、という立場。ううむ。瀬戸川さんには父との確執があったのかな?
『ハメットにダッシュ!(青山 南)3 インタルード—ハメット円環』個人的連想ゲームが上手く繋がると嬉しいよね、という青山 南らしいネタ。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)95 鬼たちの反発』本国から怒られたクリスティー特集は1956年12月号〈6〉。海外版掲載権は作品別に指定されているのか… 当時の翻訳の稿料が明記されている。超トップで四百字250円、ひとりかふたり。200円が何人か。150円が普通だった。新人は120円くらい。社内の場合は100円。当時の挑発的な日本ミステリ界への提言は意図的に、刺激的に書いていた、という。(まーそれは読めばわかる)
『愛さずにはいられない(関口 苑生)3 少年、おい、安っぽくなるなよ』『フットノート・メロディ(馬場 啓一)15 ミステリに於けるドラッグについて』『ミステリ漫画(梅田 英俊) 縄縛』
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1983年翻訳ミステリ回顧、として
『アンケート 私のベスト3』作家・評論家・翻訳家38人の回答。
『リレー対談「本格は当り年、冒険はやや不作」(吉野 昌之VS瀬戸川 猛資/北上 次郎VS香山 二三郎)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(森 詠)燃えさかる火のそばで』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)27 ‘83年秋の注目作紹介』『Mystery Mine(木村 二郎)栄光のパルプたち』『Study in Mystery(山口 勉)新作ミステリ予告篇』『外国の出版社めぐり8 ハッチンソン社』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)スティーヴン・キング「異なれる四季」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』


No.296 5点 ミステリマガジン1984年1月号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2020/04/25 22:27登録)
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年1月号 <333>
女流作家特集。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信治郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴夫。表紙はMECHANICALの文字、銃を発射する探偵(自動人形?)とゼンマイのネジ。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
フィリップ・ロスの翻訳などでお馴染み(じゃないかなあ)青山 南の「ハメットにダッシュ!」の連載があったのを思い出し、単行本化されてないようなので、掲載年のHMMを大人買い。新たな発見があったけど、昔好きだった青山 南の筆風が今の好みからかなり外れていることに気付いてちょっとショック… 特集の女流作家ではセイヤーズの現行本が『ピーター卿の事件簿』しかないのは残念!いつか全貌を…と張り切ってる浅羽姉さん、これもその後の展開を知るものにとっては感慨深い…
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は12篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ A Machine to Say Hello by Henry Slesar (初出 HMM 1984-1書き下ろし)「ハローという機械」ヘンリイ・スレッサー 朝倉 隆男 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑵ Means of Evil by Ruth Rendell (単行本1979)「悪の手段」ルース・レンデル 深町 眞理子 訳(挿絵 山野辺 進)
ウェクスフォード主任警部もの。
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⑶ Akin to Love by Christianna Brand (初出Rogue 1963-4)「愛に似て…」クリスチアナ・ブランド 吉野 美恵子 訳(挿絵 中村 銀子)
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⑷ Silence Burning by Helen McCloy (単行本“The Singing Diamonds” 1965)「八月の黄昏に」 ヘレン・マクロイ 嵯峨 静枝 訳(挿絵 佐佐木 豊)
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⑸ Cardula and the Locked Room by Jack Ritchie (初出AHMM 1982-3-31)「カーデュラと鍵のかかった部屋」 ジャック・リッチー 島田 三蔵 訳(挿絵 畑農 照雄)
ジャック・リッチー(1922-1983)追悼。
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⑹ The Vindictive Story of the Footsteps That Ran by Dorothy L. Sayers (初出 単行本“Lord Peter Views the Body” Gollancz 1928)「逃げる足音」 ドロシイ・L・セイヤーズ 浅羽 莢子 訳(挿絵 佐藤 喜一): 評価5点
ピーター卿もの。仲良くバンターを連れて友人宅へ。二階の足音が気になるピーター卿。謎に魅力が無く平凡作。
p118 誘われても主人と食卓を共にしないバンター: 執事道を追究する男。
p118 一九二一年の平和な夏の日曜の午後(a Sunday afternoon in that halcyon summer of 1921): 本作冒頭のピーター卿の言動からWhose Body事件(私の推定では素直に読めば1920年だが他の情報から考えると1921年か1922年の「11月」)の後っぽい。ピーター卿最初の事件アッテンベリー事件は公式発表によると1921年(季節不明)なので、その後に遭遇した事件だとすれば、一応、年代記に収まるものの、繋がりが悪い。作者の念頭にはWhose Bodyの当初の設定年である1920年があったのだろう。
(2030-4-25記載; 2020-4-26修正)
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⑺ The Golden Girl by Ellis Peters (初出This Week 1964-8-16)「黄金の娘」 エリス・ピーターズ 山本 俊子 訳(挿絵 天野 喜孝)
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⑻ The Listening by Celia Dale (初出AHMM 1981-6-22)「聞こえる」 シリア・デイル 大村 美根子 訳(挿絵 佐佐木 豊)
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⑼ The New Broom by Donald Olson (初出AHMM 1981-10-14)「新米掃除婦」 ドナルド・オルスン 山本 やよい 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑽ Inspector Gothe and the Miracle Baby by H. R. F. Keating (初出Catholic Herald 1970-12-4 as “Inspector Ghote and the Dangerous Baby”)「ゴーテ警部と奇跡の赤ん坊」H・R・F・キーティング 望月 和彦 訳(挿絵 畑農 照雄)
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(11) My Christmas Carol by Budd Schulberg (初出不明)「わたしのクリスマス・キャロル」バッド・シュールバーグ 沢川 進 訳(挿絵 中村 銀子)
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(12) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第1回 問題篇 ジョン・ロード(John Rhode)
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HMM OPENING FORUMとして
『カトリーヌ・アルレー会見記(長島 良三)』来日した機会にインタビュー。アルレーはアイリッシュとハドリー・チェイスから影響を受けた、と言っている。『海原翔ける淑女たち(高橋 泰邦)』大阪帆船祭りの記事。8カ国10隻が集ったイベント。
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読み物は
『第14回バウチャーコン(E・D・ホック/早川 浩)』ニューヨーク開催のレポート。『続・桜井一のミステリマップ: ゴーリキー・パーク』人気企画の連載再開!『メグレのパリ(長島 良三)最終回 パリの女』街娼のインタビュー。『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)1』あらためて古典を振り返る試み。第1回目は総論。『フットノート・メロディ(馬場 啓一)13 ミステリに於けるブランデーについて』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)1 ハンプティ・ダンプティ』オプがチビで小太りだというのに気付いてびっくりしている。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)93 また多町がよい』EQMM日本語版、刊行前夜のドタバタ。表紙の抽象画採用はポケミスの成功体験から。翻訳者名は田村隆一案では小説の終わりにカッコで記す予定だったが乱歩に反対され撤回となった。誤訳やデタラメ訳が多かった従前の慣習を引きずらなくて良かった、と都筑は感じている。準備の途中で田中 潤司がいなくなった事情はうやむや。
『ジャック・リッチーを悼む(木村 二郎/丸本 聰明)』『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン1 ディクタフォンの秘密(数藤 康雄)』ファンクラブ結成のきっかけを語る。『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)13 ジム・トンプスンのThe Killer Inside Me』この時点でポップ1280未読だったとは。『アメリカン・スラング(木村 二郎)1 私立探偵が多すぎる』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)二重底の仕かけ』『ミステリがボクを育ててくれた(東 理夫)24 一年一度、一念発起』『愛さずにはいられない(関口 苑生)1 子供の顔は請求書』『名探偵登場(二上 洋一)13 白晢美貌の天才探偵 神津 恭介①』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)25 探偵はルネッサンス型からスペシャリスト型へ』『Mystery Mine(木村 二郎)尋問自供パート2』『A J H Review(アレン・J・ヒュービン)‘82年下半期の評判作』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)P・ディキンスンの「ツルク」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(石川 喬司)裸の特異点』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』


No.295 5点 EQMM日本語版 1957年4月号 <10>
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2020/04/25 21:07登録)
表紙は勝呂 忠。広告は裏表紙1ページ色刷り「住友海上火災」、裏表紙の内側1ページ白黒「江戸川 乱歩 海外探偵小説作家と作品」予約注文すると乱歩署名本が手に入るという。
定価100円(地方103円)、132ページ。
カットは吉田 政次。
古い作品が多くて嬉しい号。編集後記で都筑さんが「オールドファンに楽しんでいただく号」と言っています。
EQMM日本語版に載った小実昌さんの翻訳を追いかける企画です。
まだ途中ですが、暫定評価5点として、読んだら追記してゆきます。
以下、初出はFictionMags Index調べ。
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⑴ Crime Without Passion by Ben Hecht (初出The Grand Magazine 1933-9)「情熱なき犯罪」ベン・ヘクト 三樹 青生 訳
同名の映画の原作。
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⑵ The Dusty Drawer by Harry Muheim (初出Collier’s 1952-5-3 挿絵C. C. Beall)「埃だらけの抽斗」ハリイ・ミューヘイム 森 郁夫 訳
EQの解説(EQMM 1956-3)付き。
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⑶ I Killed John Harrington by Thomas Walsh (初出Collier’s 1937-6-12 as “Light in Darkness”)「俺が殺ったんだ」 トマス・ウォルシュ 中田 耕治 訳
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⑷ Pastorale by James M. Cain (初出The American Mercury 1928-3)「牧歌」 ジェイムズ・M・ケイン 田中 小実昌 訳: 評価6点
いかにもなハードボイルド風味の語り口。ただし私立探偵ものではない。田舎の犯罪の話。(だから「田園」というタイトルなのか) 小実昌さんの訳は快調。
p61 二十三ドル: 米国消費者物価指数基準1928/2020(15.09倍)で$1=1658円。23ドルは38134円。
p61 一セント銅貨…五セント貨…十セント貨(pennies... nickels... dimes): 当時のPenny銅貨は3.11g、Nickel貨は5.00g、Dime銀貨は2.27g、ということは$23なら全部Penny貨にすれば一番重くて7153gになる(一番軽くて522g)。7.153キロが全部Dime銀貨なら315ドル相当(=52万円)になるのだが…
(2020-4-25記載)
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⑸ £5000 for a Confession by L. J. Beeston (英初出1929年以前?、米初出EQMM1955-12)「自供書売ります」 L・J・ビーストン 田中 融二 訳: 評価6点
古めかしい意匠だが、野次馬根性を暴き立てられてるみたいで居心地が悪い… 手に汗握る、良い仕事。(2020-4-26追記: 博文館 世界探偵小説全集19 ビーストン集(1929)にこの作品の翻訳が収められているようだ。本作はこの作家としては珍しくない構成らしい。まあ大ネタは手癖としても周りを巻き込むシチュエーションが素晴らしいと思う)
p69 五千ポンド: これがいつの話だからわからないが、訳注では「約500万円」としている。(単純に当時のポンド円レート£1=約1000円を当てはめたもの。ただし日本物価指数基準1955/2015(6.07倍)なので当時の500万円は今の3000万円相当) 初出は1920年代と思われるので英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)で£1=8683円、5000ポンドは4342万円。ちなみにEQMMリプリント時の1955年英国基準(26.41倍)なら£1=3747円で、5000ポンドは1874万円となる。(英国物価と日本物価の推移が異なるので、このような結果となった。実感は英国物価で考えた方が適切だと思う。話の中身を考えると億単位が欲しいところだが…)
p70 イングランド銀行発行の100ポンド紙幣: お馴染みWhite Noteのこと。スーシェ版ポワロにもちょくちょく出てきます。100ポンド紙幣はサイズ211x133mm。文字だけのシンプルなデザイン、裏は白紙です。
(2020-4-25記載)
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⑹ The Ministering Angel by E. C. Bentley (初出The Strand Magazine 1938-11 as “Trent and the Ministering Angel” 挿絵R. M. Chandler)「優しき天使」 E・C・ベントリイ 深井 淳 訳
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⑺ Dime a Dance by Cornell Woolrich (初出Black Mask 1938-2)「死の舞踏」コーネル・ウールリッチ 高橋 豊 訳
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⑻ Ransom by Pearl S. Buck (初出Cosmopolitan 1938-10)「身代金」 パール・S・バック 大門 一男 訳
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読み物は
『ぺいぱあ・ないふ: フレドリック・ブラウン 火星人ゴー・ホーム』『海外ニュースCriminals at Large』『みすてり・がいど 第2講 探偵小説とはなにか』
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最後に
『編集ノート(都筑 道夫/福島 正実/田村 隆一/小泉 太郎)』豪華なメンツの編集部ですね…

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