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ミステリの祭典

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名探偵の世紀
森英俊・山口雅也 共編

作家 事典・ガイド
出版日1999年10月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 弾十六
(2020/04/18 08:22登録)
最近ハメット漬けで、ふとヴァンダインを評した文章が翻訳されてることに気づき、ムック本(1999)を書庫から無事見つけました。
「『ベンスン殺人事件』について」(村上 和久 訳)がその批評です。ヴァンダインこてんぱんですね。続くバウチャー「ヴァン・ダインを評する」(村上 和久 訳)も手酷い仕打ち。優しさのかけらもなく、なんか個人的な恨みがありそうな感じ。まあ言ってることは正論なんだが、こーゆー書き方、EQの諸作品に対してやったことあるかい?と皮肉りたくなる。
ところで引用されてるオグデン・ナッシュの有名なPhilo Vance / Needs a kick in the pance(pantsじゃないんだよね。試訳「ヴァンスに、蹴りだ。おパンスに」)の元ネタ全文が知りたいのですが見つかりません。この一聯だけで完結した冗句なんでしょうか。
さてバウチャーはほっといてハメットの批評です。初出はThe Saturday Review of Literature January 15, 1927。この雑誌での書評は初登場。匿名ではなくDashiell Hammettと署名。その後、6月までほぼ毎月書評が掲載され、ちょっと飛び飛び掲載になりましたが、1928年10月から1929年2月までは毎号のように書評が掲載されています。(ここら辺の詳細はDon Herron主宰のWebサイト “Up and Down These Mean Streets”のHammett: Book Reviewer参照)
原文は“Poor Scotland Yard!”と題して、探偵もの長篇小説五冊(いずれも1926年出版)の書評。取り上げられた作品は順に①False Face by Sydney Horten ②The Benson Murder Case by S.S. Van Dine ③The Malaret Mystery by Olga Hartley ④Sea Fog by J.S. Fletcher ⑤The Massingham Butterfly by J.S. Fletcher. 翻訳はヴァンダインのところだけを抜いたもの。
この翻訳では省かれてしまった冒頭部分は、皮肉な調子で愉快なので、以下再現。
「長いこと民間探偵局に勤め色々な街で働いたが、探偵小説を読むと言った同僚は一人だけだ。『たくさん読むよ。』と奴は言った。『日々の探偵仕事でウンザリしたら、リラックスしたいのさ。日常家業と全く違うもので気を紛らわせたい。だから探偵小説を読む。』
奴なら“False Face”が気にいるだろう。これには日常業務で起こりうる事と全く違う話が書かれている。」
と最初の作品の評に入ります。
原タイトルは、最初の作品が英国もので、信じがたいほど間抜けな組織としてスコットランド・ヤードが描かれていることから。
「…しかしながら兄弟国を笑ってばかりもいられない。同書に出てくる米国シークレット・サービスや、『ベンスン殺人事件』のニューヨーク警察やD.A.も同じ調子なのだから。」
という感じで、この本収録の翻訳冒頭に続きます。
翻訳最後の文に出てくる “「そんなことは思いもよらなかった」といったスタイル”(little-did-he-realize style)は Had-I-But-Known という用語を意識してるのかな?(Howard HaycraftがMurder for Pleasure(1941)にHad I But Known schoolと書いて一般的になったのだと思うが、用語自体はもっと昔に遡るのだろうか?)
チャンドラーのSimple Art(こちらもSaturday Review of Literature 1950)でもそうでしたが、警察はそんなに馬鹿じゃなかろう、というのがいわゆる「ハードボイルド派」に共通した思いのようだ。でもこれは基本的に小説における対比効果を狙ったものだし、ハメットやチャンドラー自身の探偵小説だって警察の手ぬかりは結構ある気がする。(まあ本格系は世間知らずが多いので間抜けさがぶっ飛んでいることは確かだが…)
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他にも楽しい黄金時代のネタが詰まってるこのムック本。新しい世代のために改訂して復刊しても良いのでは?
(他のエッセイや研究は気が向いたら追記します。実は私はこの手の本は苦手です。どこにネタバレが仕込んであるかわからないので… 地雷原で途方に暮れる感じ)

No.1 6点 kanamori
(2010/08/14 16:17登録)
エラリー・クイーンを中心に、米国の黄金時代の探偵小説作家を多方面から紹介する読書案内。エッセイ&評論&座談会に未訳短編の収録など内容はけっこう充実していると思います。
とくに、法月綸太郎氏のクイーン作品の分析は、独特の切り口で、「災厄の町」が「Yの悲劇」の改良ヴァージョンでプロットに共通点が多いという分析は、眼から鱗という感じでした。

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