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ミステリの祭典

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まだ中学生(仮)さんの登録情報
平均点:6.60点 書評数:115件

プロフィール| 書評

No.55 7点 消えない叫び
R・L・スタイン
(2021/06/08 23:23登録)
幽霊、ゾンビ、呪い、魔女、怪物。米国のホラー&ミステリ20作家が絶叫から始まり、あるいは絶叫に終わる物語競作シリーズ「Scream!絶叫コレクション」の最終巻。
「震える叫び」「不気味な叫び」に続く第三弾で、六作家が六連続の恐怖を繰り広げる。「サメがいた夏」ではラテンアメリカを起源とする風習が出てきて多民族国家の様相が分かり、「レンガに埋もれたガイコツ」で見つかったお金は禁酒法時代、大金を稼いだギャングのもの。「リス問題」は米英ではリスの肉を食べる習慣があり、味はあっさりして美味しそう。
日本の怖い話と外国の怖い話と、どちらが怖いだろうか。外国のいろいろな伝統や風習、考え方などを知ることが出来る面白さもある。


No.54 7点 失踪HOLIDAY
乙一
(2021/05/31 23:06登録)
表題作は性格の曲がった幼い少女が演出する狂言誘拐の顛末記。併録の「しあわせは子猫のかたち」は、人間嫌いの大学生と若い女性の幽霊の交流を描いた癒し系のゴーストストーリー。設定はありきたりだが、毎日「大岡越前」の再放送を楽しみにする世話好きの幽霊と、周囲を拒絶して生きるプチ人間失格な大学生の同居生活が微笑ましくて、ほろりとさせられる。
ノスタルジックな空間と死者による癒しがもたらす哀しみを伴う甘やかな感触は、児童文学作家のルーシー・M・ボストンに似ている。


No.53 7点 イッカボッグ
J・K・ローリング
(2021/05/21 23:23登録)
人は噓をつくと、ばれないようにまた別の嘘をつく。嘘が積み重なり真実が見えなくなる。幸せな国が一つの嘘をきっかけに駄目になってしまうことも。
コルヌコピア王国には怪物イッカボッグが住んでいるという伝説があった。子供を怖がらせ行儀良くさせるためと皆思っていたが、王様の側近たちが本当にいると民衆に信じ込ませようとした。信じない者は牢屋に入れられてしまうため王様の人気は陰り、豊かだった国は荒廃。王様さえも真実が見えなくなっていく。やがて不運に見舞われた子供たちが国を救うための不思議な冒険へと駆り出されていく。「ハリー・ポッター」シリーズの作者がコロナ禍支援のために発表した物語。真実、希望、友情の大切さを伝える。


No.52 7点 探検!いっちょかみスクール 魔法使いになるには編
宗田理
(2021/04/05 23:38登録)
「ぼくらの七日間戦争」の作家の新シリーズ。
「いっちょかみ」とは「関西の言葉で、何にでも興味を持ち首を突っ込みたがる人のこと」。個性が重視される現代社会に適応するための塾で、講師はあらゆるジャンルのプロが揃っているという。生徒は興味があるジャンルに「いっちょかみ」してみることで将来進むべき道を見つけることが出来るというわけ。主人公ユトリが選んだのは「魔法教室」。職業候補に魔法使いを選んでしまったのだ。ユトリの才能は花開くのか。
何やら怪しげな塾で「プロ」とはいえエリートとはほど遠い大人たちと子供たちのピュアな心が巻き起こす小さな奇跡の物語。読者の心に長年寄り添い続ける作者らしいシリーズの誕生。


No.51 6点 雪山のエンジェル
ローレン・セントジョン
(2021/03/17 22:53登録)
ケニアの少女マケナは山岳ガイドの父と山に登ることが大好きだったが突然、両親が感染症で帰らぬ人に。スラム街をさまよっていた時、スノウというアルビノの少女と出会い、助け合いながら生き抜こうとする。スラム街が強制的に破壊された日、スノウとも離れ離れに。救出してくれたのは孤児院を経営する女性ヘレン。彼女の故郷スコットランドで休暇を過ごすことになったが、気持ちのすれ違いから家出をしてしまう。マケナに危険が迫るたびに幻のように銀色のキツネが現れ、安全な場所に導いて...。
ジンバブエで生まれ育った作者がアフリカの全ての子供たちや生き物たちへの愛をこめて描く感動の物語。美しいイラストが散りばめられ幻想的な趣を添える。


No.50 7点 ハンガー・ゲーム0 少女は鳥のように歌い、ヘビとともに戦う
スーザン・コリンズ
(2021/02/05 20:20登録)
舞台は第1作から64年前の、独裁国家パネムの首都。主人公は18歳のコリオレーナス。優秀な生徒の集うアカデミーで学んでいるが、家は貧しく大学の入学金をなんとかしなくてはならない。
そんな時、賞金が出るハンガー・ゲームの10周年記念大会が開催される。10年前戦争に敗れた12の地区から、男女の子供1人ずつを生贄として差し出させ、殺し合いをさせるという大イベント。今回はこれを盛り上げるため、それぞれの生贄に、アカデミーの生徒が教育係として組むことになる。
ところがコリオレーナスの相手は、最も脆弱な地区の女の子で、得意なのは歌くらい。彼はガッカリしながらも、劣悪な条件の中で活路を探るうちに、しっかりとした手応えを感じるようになっていく。生々しくスリリングなゲームの展開と、その後の2人を追いながら、自意識が強く計算高いコリオレーナスの心の揺れを巧みに描いている。


No.49 6点 楽園の烏
阿部智里
(2021/02/05 20:11登録)
たばこ店店主の安原は、山を相続することになったせいで、断崖と奇岩に囲まれ、瓦屋根がどこまでも広がる異界に放り込まれる。そこには脚を3本持つ巨大な八咫烏が住んでいた。
彼らは人の形を取ることもできる。安原は、その一族の長である雪斎という男から、山を譲ってほしいと言われるのだが、不信感を抱き、即答を控えて、しばらく居座ることにする。そして人間界に留学していた頼斗という青年に付き従われ、その世界を散策するうち、奇妙な事件に巻き込まれていく。
約20年前、八咫烏の一族と猿の一族の間に起こった激しい戦いがその原因らしいのだが...。とぼけた感じの安原と、生真面目な頼斗のコンビも魅力的だが、後半のどんでん返しの連続が凄い。


No.48 7点 嵐の守り手 1闇の目覚め
キャサリン・ドイル
(2021/01/10 11:32登録)
11歳のフィオンは首都ダブリンを離れ、アランモア島の祖父の家で休暇を過ごすことになった。船から下りたその日、島が目を覚まし、同時に地下深く眠る闇の力もうごめき始める。ミステリアスな予感に満ちたファンタジー。
祖父はキャンドル職人だが、実はキャンドルに「天候」を閉じ込め燃やすことで過去と現在を行き来する「嵐の守り手」のひとり。島の言い伝えでは昔、闇の女王と大地の王が戦い、女王は今も地下に身を潜めているという。嵐の守り手は代々、闇の力を抑える役割を担ってきたのだ。果たしてフィオンは次代の嵐の守り手なのか。
アイルランド育ちの作者が伝説を基に、想像の翼を思うさま広げた読み応えある作品。


No.47 6点 内なる町から来た話
ショーン・タン
(2020/11/29 09:03登録)
登場するのは、87階に住んでいるワニや、やってきたときは「ワイセツだ」とか「不浄である」といわれたのに100年のうちに大都会になじんでしまった巨大カタツムリ、昼下がりに会議室でカエルに変わってしまった重役たちを、バッグに入れた持ち帰る秘書ら。どれも現実を踏み外しているおかしい不思議な話なのだが、絵を見ると、否応なく納得させられてしまう。
更に、海のない街のビルの屋上で、少年たちが釣り上げた空の魚をさばいてもらい、地下の王国の顔役に売る話や、ビルよりも大きいサメの腹を掻っ捌くヌルヌルとした無数のサメが現れ、猟師がそいつらの腹を切り裂くと、さらに小さなサメが元気よく転がり出て、それをまた猟師がという物語もある。
短編として面白いうえに、ファンタスティックで美しい絵や、シュールで不気味な絵がさらにその世界を広げている。


No.46 6点 サッカク探偵団 あやかし月夜の宝石どろぼう
藤江じゅん
(2020/10/25 20:37登録)
小学4年のカケルと3人の仲間たち。彼らが招待されたパーティー会場で盗難事件が起きる。
大きさが変わってしまったダイヤ。犯人が逃げたと思われる窓のカーテンの柄。消えた二つの宝石。どうやら、この事件のトリックは「錯覚」らしい?そう考えた4人は、近所に住んでいる研究者、二の谷さんも巻き込んで、事件の真相に迫る。
事件解決の糸口だけでなく、生活の中のふとした錯覚についても触れているので物語が身近に感じられ、ヨシタケシンスケさんの挿絵がより一層読み手の心をくすぐります。理科の勉強にもなる小学生向けの作品です。


No.45 6点 月のケーキ
ジョーン・エイキン
(2020/10/18 16:06登録)
丘に体を巻きつけているおとなしいドラゴンを観光の目玉にしていた町に騎士が現れ、電光剣でドラゴンの首をはねてしまい、困った町民がドラゴンの卵から赤ちゃんをかえして代わりにしようとする話がひとつ。
他に、家を燃やしてしまったが、時計の針を戻すことができる月のケーキを作らないかと持ち掛けられて迷う少年の話や、崖の上に立つヤシの木に、大霜がおりるというのでいろんな服を着せて布でくくったら、踊って逃げ出した話。「死んでしまった人にさようならを言える」方法を巡る話もある。
どれも読者をあっと言わせるファンタスティックな作品。ナンセンスなものもあり、しんみりと心に染みるものもあり、どれも魅力的だが、いかにも現代風のひねりが効かせてあるところが嬉しい。


No.44 6点 本能寺の敵
加部鈴子
(2020/10/07 20:49登録)
物語の舞台は織田信長が天下統一目前の戦国時代。主人公の涼音は孤児となり、忍びとして育てられた少女。信長の家臣明智光秀の屋敷に女中として仕えていた。光秀や家族に心惹かれていくが、かつての仲間、風斗が忍び込む。徳川家康に仕える風斗は味方なのか、敵なのか。やがて物語は歴史上有名ながら謎の多い本能寺の変へと動き出していく。
動乱の時代に情報収集として忍びの存在が欠かせなかっただろうと、忍者研究者の山田雄司さんが解説で述べている。優秀な忍びほど名は残さなかったそうだ。もしかすると涼音や風斗のような忍びが本能寺の変に関わっていたかもしれない。歴史を動かしていたのは戦国武将ではなく、彼らのような存在だったのか興味深く読めた。


No.43 6点 ぼくの名はチェット
スペンサー・クイン
(2020/09/08 20:00登録)
語り手が犬なので、人間の会話の言い回しが分からなくて混乱したり、テーブルの下に落ちている食べ物に気が散ったり、突然穴を掘ったり始めたりと普通のミステリのようなわけにはいかないのだが、そこがまた妙にリアルで面白い。


No.42 8点 フランケンシュタイン家の双子
ケネス・オッペル
(2020/08/11 20:01登録)
時代はフランス革命の最中。舞台は都市国家ジュネーブの市街から6キロほど離れた村のはずれ。主人公は、共和国に4人いる行政長官の息子ヴィクター。双子の兄コンラッド、遠縁の少女エリザベス、3人の親友で詩人肌のヘンリーが脇を固めている。
4人はそれぞれ性格が違っていながらも仲良く過ごしていたが、ある日、コンラッドが原因不明の病気で倒れるところから物語が始まる。
近代科学が隆盛になりつつある時代でもまだ、魅力を持っていた錬金術、それを核に、おどろおどろしい恐怖小説の不気味さをたっぷり絡め、愛と友情と嫉妬と裏切りの冒険小説が展開する。
それに色を添えるのが、コンラッドとエリザベスの淡い恋と、そんな二人に抱くヴィクターのぎこちない気持ち。文学馬鹿のヘンリーもいい味を出している。最後の最後まで予断を許さない展開と、圧倒的な迫力が素晴らしい。


No.41 5点 英国情報局秘密組織CHERUB<Mission7>疑惑
ロバート・マカモア
(2020/08/02 09:37登録)
私立探偵だった著者が読書嫌いの甥っ子のために書いた英国で大ベストセラーのシリーズ。
英国情報局の秘密組織チェラブ(CHERUB)は17歳以下の子供が活躍するスパイ機関で、大人の裏社会に立ち向かう。思春期ならではの恋愛感情や葛藤などもリアルに描かれている。


No.40 8点 夜中に犬に起こった奇妙な事件
マーク・ハッドン
(2020/07/06 18:11登録)
自閉症というテーマを扱いながらもユーモアたっぷりのユニークな小説。
細かい感情のニュアンスが理解できないクリストファーの思考回路に笑いながらも、彼の視点がだんだん理解できるようになる。数学の問題や思考を説明するイラストなども楽しい。
主人公の思考回路や数学の問題などを描いた個所は難しいかもしれないが、文章は平易なので読みやすい。


No.39 6点 ピッツェリア・カミカゼ
エトガル・ケレット
(2020/06/22 18:15登録)
イスラエルの作家の中編小説。「クレネルのサマーキャンプ」を国際漫画大賞のアサフ・ハヌカがコミック化。
自殺者だけが集まる世界を舞台に、男女3人の奇妙な道行きが描かれる。生前暮らしていたテルアビブそっくりの町で働く「オレ」。死後間もなく最愛の恋人エルガも自殺したと知り、男友達アルと彼女を探す旅に。途中で美人ヒッチハイカーも加わり、「意味のない奇跡」に満ちたサマーキャンプに辿り着く。
ケレット作品の持つシニカルな笑いと、エスプリの効いたオールカラーの絵が絡み合って、死後もなお人々にまとわりつく「生」の悲哀をあぶり出す。


No.38 6点 南河国物語 暴走少女、国をすくう?の巻
濱野京子
(2020/05/25 19:52登録)
古代中国風の架空の国を舞台にしたファンタジー。
仕事を求め都に上ってきた飾り職人の父が天下に名をとどろかせる雷将軍に間違えられるところから物語は始まる。「将軍の名をかたる不届き者」として父と共に役人に捕らわれた哀れな娘。ところが、この娘がまた大した度胸の持ち主...。
男社会の宮中で大人たちを手玉に取り、何ともちゃっかりとのし上がっていく様子が痛快で、ページをめくるごとに元気が湧いてくる愉快さがある。


No.37 5点 貧乏お嬢さま、メイドになる
リース・ボウエン
(2020/04/30 20:14登録)
ミステリとしてはシンプルだが、ビクトリア女王と血縁関係にある主人公が掃除婦をしているのがバレそうになって冷や汗をかくところや、気位が高い没落貴族たちの滑稽なやりとりなどミステリ以外の要素も楽しい。
セクシーでミステリアスなお相手とのGeorgianaのロマンスの行方も興味深い。


No.36 6点 パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 盗まれた雷撃
リック・リオーダン
(2020/04/17 20:12登録)
ギリシャの神の血を引いていると突然告げられた少年パーシーが神々による戦争を止めるため、ニューヨークからロサンゼルスまで米国横断の冒険に出掛ける。
ギリシャの神々が米国に住んでいるという設定が面白い。神々の住むオリンポス山はエンパイアステートビルにあり、禁酒中の酒の神が飲むのはダイエットコーク。米国の都市や文化、ギリシャ神話について少しでも知識があれば、随所で笑ってしまうでしょう。
エドガー賞のミステリ作家だけに読者を引っ張っていく展開は見事。親に愛されない、親をうまく愛せない子供という現代的な問題をさりげなく描きながら、気持ちの良い読後感を残す。

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