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ミステリの祭典

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レッドキングさんの登録情報
平均点:5.27点 書評数:888件

プロフィール| 書評

No.868 7点 名探偵に甘美なる死を
方丈貴恵
(2024/09/29 22:38登録)
現実の館と仮想の館。生身の人間とバーチャル分身アバター。大掛かりなゲームシステムで繋いだ二元空間を並走する、企画的な密室連続殺人。見事な館内図構成と鮮やかな真相解明ロジック。三種・・気圧トリック(いまいち)、ドールハウストリック(Very Good !)、二元設定トリック(まあまあ)・・の密室トリックを解体する、滑る様な伏線回収が心地よい。


No.867 7点 はなれわざ
クリスチアナ・ブランド
(2024/09/25 04:08登録)
孤島小国の海岸ホテルを舞台にした、広義の密室殺人事件。「密室」を形作るのは主役警部の視点で、六人の容疑者には、全員、犯行は不可能・・なはずだった。隻腕の音楽家を要にした妻と二人の愛人を廻る四角関係をメインに、半ば狂った恋情ドラマが、不可能犯罪のダミー解決を波状的に繰り返したあげく、カタストロフ風の悲劇エンドへ・・と思わせて・・・。
※最初の容疑者扱いが、視点を担う主役警部ってのが笑える・・「犯行時、あんたは皆を見ていたかもしれんが、皆はあんたを見ていない」・・確かに(^'^)


No.866 5点 死者と踊るリプリー
パトリシア・ハイスミス
(2024/09/21 22:33登録)
リプリーシリーズ第五弾にして最終弾、かつ第二作「贋作」の続編。夭折した画家の贋作ビジネスに関わるリプリーに、かつて犯した殺人をネタに執拗に絡んでくる不気味な夫妻。奇矯で陰湿で挑発的な夫妻との神経戦が、遺棄死体の出現を機に、グロテスクで滑稽なプチサスペンスへ展開する。リプリー、今回、このシリーズで初めて人を殺してない。

※ところで、このシリーズのリプリーの年代設定が気になる。1950年代の「太陽がいっぱい」では二十代、で、この第五作ではCDが出て来るので、80~90年代、てことはリプリー還暦あたり?・・何か違うなぁ。リプリー、シリーズを通して「未熟な若者」のまま、全然成長してない。野暮な「現実的」設定には囚われず、「永遠の若者」像のハーフダークファンタジーとして読むべきなのか。


No.865 8点 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック
鴨崎暖炉
(2024/09/16 22:59登録)
機械密室のHow(トリック解明)特化ミステリ・・・密室の密室による密室の為の密室・・・ Great ! 
  第一の「鍵入り瓶密室」・・見事なる機械仕掛け、鮮やかなる伏線回収・・に、3点(満点)。
  第二の「鉾槍密室」に 1点 、第三の「銃弾密室」に 0.5点、第四の 「ドミノ密室」には 1点。(「液体窒素」はいかん)
  第五の「最後の密室」と「始まりの密室」にまとめて 3点。で、3+1+0.5+1+3・・計8.5点・・うーん、8点。

※つい最近、このサイトでこの作家を「紹介」された。嗚呼 ! ここに自分向きのミステリ作家が、また一人・・と詠嘆。


No.864 5点 半七捕物帳
岡本綺堂
(2024/09/12 23:24登録)
手元の本は「巻の一」だが筑摩書房版、サイトに登録のある「巻の一」は光文社版(中身違うのか?)限定みたいなんで、こっちに書くのかな。

  「お文の魂」 武家に嫁いだ妻と幼子に現れる水に濡れた幽霊女、その正体は・・
  「石灯籠」  失踪と帰宅を繰り返した小間物屋の娘と、女将刺殺事件の消失トリック
  「堪平の死」 商家の素人芝居が真剣すり替え事件に・・あれで切腹て無理でない?
  「湯屋の二階」 三つの包み・「ミイラ首」「鬼龍首」「黒い鮫皮」・を持つ武士の謎
  「お化け師匠」 蛇に首を巻かれて怪死した因業な女師匠。事件の真相は・・
  「半鐘の怪」 誰もいないはずの半鐘の打鐘に続く怪異の数々の真相や如何に・・
  「奥女中」  十日ごとに夢幻的な屋敷に拉致され、贅なもてなしを受ける別嬪町娘のお伽噺奇譚
  「帯取の池」 池に浮かぶ艶美な帯と持ち主の娘の絞死。怪事件の真相や如何に・・
  「春の雪解」 按摩の霊感話から引き出された、愛と恩讐の男女五人春物語
  「広重と・・」 武家屋敷の屋根に幼女の屍体・・島荘「人喰いの木」元型の如き・・これ、あり得なくね?
  「・・と河獺」 雨中に傘の上から襲われ顔面に傷を負った隠居・・こっちは、あり得そう(かな)
  「朝顔屋敷」 奉公人の現前で神隠しにあった旗本子息・・ハードボイルドプロットの一つの元型やね
  「猫騒動」  近所迷惑な長屋ネコ婆さんと魚売り孝行息子のバケ猫怪談 
  「弁天娘」  弁天様申し子と噂される質屋娘と怪死した美少年の小僧の因果

「ミステリ」と言うより、「ミステリアスな末期江戸奇譚」だが、カテぇコタぁ言わずオマケして採点しちまぇ。全体で5点


No.863 7点 誕生パーティの17人
ヤーン・エクストレム
(2024/09/09 23:17登録)
「ウナギの罠」で味をしめたので、これも。二部屋ワンセット + 一室、締めて2密室付きの、3人+1人殺人。たしかに密室物でもあるが、まるで不可能感なく、それを「現実的」と肯定評価するか、「外連味不足」と否定評価するか・・迷うなぁ(^'^)。いずれにしても、「カー」でないことは確かだが、面白い。翻訳されたの二作だけ? 他のも是非読みたいが、スウェーデン語翻訳者なんて、そういなさそうだしなぁ。
※この文庫本の表紙イラスト、実によい(^.^)。「七人のオバ」「衣裳戸棚の女」のイラストに匹敵する。


No.862 7点 死の味
P・D・ジェイムズ
(2024/09/05 23:59登録)
教会で惨死した前大臣と浮浪者。資産家だった大臣、狷介な老母、美貌で軽薄な後妻、後妻の浮ついた兄、後妻の愛人のヤリ手医師、大臣の慎ましやかな愛人、左翼活動家の実娘、娘の活動家仲間の男、曰くありげな家政婦、過去に不審死を遂げた使用人の二人の女、哀れな司祭、死体発見者の老婆と少年、そしてダルグリッシュ(どうもダルビッシュ言いたくなるなぁ)警視と女警部・・・ドロシージェイムズのいつもの重厚な音色が、妙に軽やかに変奏していて、最後には、脇役のはずの女警部が、サラ・パレツキー女探偵なみのハードボイルドヒロインしちゃって。ミステリ根幹はせいぜいアリバイトリックなんだが、そう思わせない位にミステリアスに引っ張ってくれる、さすが。1点オマケ。


No.861 6点 暗い鏡の中に
ヘレン・マクロイ
(2024/09/01 23:05登録)
生霊ホラーとドッペルゲンガートリックと”死せる愛の社交界”ロマンの融合、素晴らしい。


No.860 4点 四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2024/08/29 22:53登録)
AI探偵シリーズ第三弾。島荘 「斜め屋敷の犯罪」 以上に、「完全に正しい」タイトルであった。脱力感において、カー「震えない男」や東野「卒業」等をぶっちぎる密室トリックには眼をつぶり、「水平線効果」とかのAIロジックを評価して。


No.859 3点 リプリーをまねた少年
パトリシア・ハイスミス
(2024/08/28 22:22登録)
アラン・ドロン死す・・日本以外では本国含め、どれだけ人気あったんだろ・・ で、リプリーシリーズ第四弾。
大企業経営者の父親を殺して家出した、16歳美少年のアプローチを受けるリプリー。法的にはシロながら、世間的にはグレー視されるピカレスクヒーローとして、少年に見込まれ、何の利益にもならない保護者、それ以上に「アニキ」役をイソイソと受け入れる。パリからハンブルグ、さらには壁時代の西ベルリンへ、少年との浪漫逃避行の末に、身代金目当て誘拐団との大立ち回り救出劇を演じ、挙句の果てに、衝動的な人殺し・・またもや・・までに至る。映画「太陽がいっぱい」のラストインパクトから遠く離れた、半汚れ・・実は真っクロな・・ヒーローの、美少年相手の暇つぶし感傷旅行てとこか。ゲイクラブでの女装救出劇あたりは、ちょっとした手に汗握る展開で、ラストの苦さもよい。「取り返しの付かない事に心塞がれる人生は損だよ」てな処世訓、正論だが、失恋と人殺しとでは重さ違うしねぇ。


No.858 5点 深紅の碑文
上田早夕里
(2024/08/25 12:48登録)
「華竜の宮」続編と言うよりも、スピンオフ。更に詳細に物語を担うため、呼び出された多くの登場人物達。面白いが、不満を言えば、ドラマが「人間的(現代人てイミね)」過ぎて、地質学的変動に相応しい、SFレベルの飛躍感がほしく・・少なくとも数世紀異時代なんだしね・・。


No.857 5点 華竜の宮
上田早夕里
(2024/08/25 12:44登録)
海面が250m上昇した25世紀の「再・白亜紀」の地球。体内AIをパートナーに生きる「陸上民」と、海棲生物「魚舟」と双生する「海上民」に分かれた人類。それなりに安定した歴史の後に、近づきつつある地質学的レベルの大破局。避けられない「ラグナロク」に向けて抗いもがく群像。「海上民」と「魚舟」「獣舟」の三様に焦点を当てた、「生物学的」SFを読みたく。


No.856 3点 最後の手段―コナン・ドイル未紹介作品集3
アーサー・コナン・ドイル
(2024/08/23 23:07登録)
ドイルの「未紹介作品集」その三・・は、ほぼ非ミステリの小噺集。
「科学の声」「大佐の選択」「やりきれない話」「告白」・・男女の、痛快笑話・情話・痛い切な話・運命的逸話。
「ウイルキー大尉の思い出話」・・名人スリのちょっとしたピカレスク小噺。 
「連隊のスキャンダル」「デヴィル・ホーカーの最期」・・賭博ネタ痛快譚。
「フラワリー・ランド号の悲劇の真相」・・ドイル得意の海洋冒険奇譚。  「教区雑誌」・・ドッキリ悪戯小噺。
「摂政時代の印象記」「百人隊長」「死の航海」・・近代英国、ローマ帝国初頭、第一次大戦末期を舞台にした・・「死の航海」に至ってはパラレルファンタジーとさえ呼んでいい位の・・フィクション。
「最後の手段」・・怒りと義憤に心を支配された男。その夢想の果ての果てを描く、ちょい寒い小噺。 
※その他「シニョール・ランバートの引退」は、「ドイル傑作集5(ラッフルズ・ホーの奇蹟)」にも収められた。

※冒険譚、奇譚、幻想譚、笑話、この作品集にはないが、SF、ホラー、そして何よりミステリ。コナン・ドイルの短編群には、古びた玩具箱をひっくり返した、塗装が掠れ傷が付き部品が壊れ、遥か流行遅れ様式となったオモチャ達の様な美しさがある。ほぼ、ミステリしてないが、採点してオマケに点数あげちゃう、ドイルだもんね(^^♪


No.855 7点 でぃすぺる
今村昌弘
(2024/08/20 22:28登録)
死亡した女性が遺した「七不思議譚」を手掛かりに、刺殺事件の真相究明に奔走する小学生トリオ。超常現象指向の少年に対する、少女の社会派ミステリ風論破・・今回はバケモン出て来んのね・・と思わせといて、最後の最後に、ウォーっとぉ(ミエミエ犯人は変わらんけどね)。ヒル子ちゃん出て来ないが、四作の中で一番好きだったりする。
※最近、サラ・パレツキー「社会派(政治家・企業・悪徳医者登場)」風を読んでたので、なおさらミスリードされた。
※ホントだ、322ページの4行目、誤植だ(初版)・・初々しくも三角関係はキチッとね(^^)


No.854 5点 ダウンタウン・シスター
サラ・パレツキー
(2024/08/19 22:44登録)
ヴィク・ウォーショースキーシリーズ第五弾。原題「Blood Shot」とは全く離れた邦題・・と思いきや、ちゃんと意味連なる「血」と「妹」だった。幼馴染の妹分からの依頼「私の父ちゃん誰?」捜しが、企業労災と保険に絡んだ巨悪に行き当たり、政治家・企業主・暗黒街ボス・汚れ医者ズラリ揃った分かり安い悪役達と、大立ち回りを演じる羽目に。このヒロイン、出自から知識人系フェミニストではなく、絵に描いた様な体育会系女だったのね。※序章と終章の標題、あきらかにボブ・ディランのアルバムタイトルちなみだが、何の関係あんのかな(別にないような)


No.853 8点 ウナギの罠
ヤーン・エクストレム
(2024/08/13 23:47登録)
"北欧のジョン・デイクスン・カー" と聞き、さっそく。けしてカーではないが、かくもユニークな「ウナギ密室」、堪能させて頂きました(^^♪ わが長編採点基準(あくまでも原則ネ)では、密室二つ以上が、8点クリア必要条件なんだが、スウェーデン寒村の、むせる様な体臭・体液臭・獣臭・草木臭・ぬめり臭描写が良く、8点あげちゃう。


No.852 6点 アメリカの友人
パトリシア・ハイスミス
(2024/08/10 23:00登録)
リプリーシリーズ第三弾。今回のリプリーは操り役。自分の利害に無関係な国外マフィア殺人計画に参画し、気まぐれな理由から、余命わずかの男に白羽の矢を立て、実行役として間接的に操る。しかし、いざという場面では、気まぐれに捨て身の手助けをしてしまう。この作では、白血病の英国人・・リプリー同様に仏人女を妻として仏で暮らす男・・が、妻子へ残す報酬目的のニワカ暗殺者として、リプリーと同格の主役を張る。その暗殺者にシンクロするかの様な、リプリーの虚無的な破滅衝動と殺戮衝動。暗殺者の妻が、カトリック的敬虔さから一転して、遺産への執着と含羞の発作的反応を見せるラストの苦さがよい。これも、男二人の「無自覚の同性愛」を間接暗示するエピソードなんだろな。第一殺人の「見えない男」描写が絶品。


No.851 5点 鷲は舞い降りた
ジャック・ヒギンズ
(2024/08/06 22:03登録)
「ジャッカルの日」が対ドゴールならば、こちらは対チャーチル誘拐フィクションで、「抜け穴」とか「失踪変容」とか、不思議なほどにミステリ臭の強い戦闘サスペンス。独の敗色強まる第二次大戦後半、ヒトラーの気まぐれから火が点いた、英首相誘拐というトンデモ作戦の息詰まる様な進行。歴史の悪役ナチス側からの描写という、読者心境上の難関は、二人の主役「鷲A」「鷲B」を、独米ハーフとアイルランド人に設定する事により、更に「鷲A」のユダヤ人少女救済エピソードにより絶妙にクリアして、読み手の心は、鷲たちの冒険行動に操られる。主役のはずの「鷲A」描写より、「鷲B」の、英国村娘との胸キュン浪漫に絡めた物語の方が、小説の主軸として魅力的。ただなあ、あの「遺書の如き恋文」で、ストイックな永訣エンドだったら、冒険小説美学的には良かったんじゃないのかなぁ。
※アイルランドって、英独間において、決して親英ではなく、むしろ、敵の敵は・・て感じで親独に近かったのね。


No.850 6点 自宅にて急逝
クリスチアナ・ブランド
(2024/08/02 22:16登録)
猜疑心とコンプレクスの塊のような、独りよがり老人が振りかざす遺言書の書換えが、足跡密室連続殺人を引き起し、未亡人・孫達遺族の間にわだかまる、葛藤・軋轢を焙り出してゆく。一族間のグロテスクでコミカルなやり取りに挟まれる、発作的な真情吐露の爆発と、ラストの屋敷崩壊を巻き込むカタストロフが見事。足跡トリックは・・カーがやりそうな脱力(*_*;もので、登場人物達が披露するダミー解釈のトンデモ具合の方がファンキーで良く。


No.849 4点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2024/07/27 22:05登録)
シャルル・ドゴール、ヒトラー毛沢東スターリンより格落ちするが、チャーチルケネディには同列する二十世紀レジェンド大統領。アルジェリア独立騒動に、仏愛国者の顔として君臨するも、「仏のアルジェ」テーゼを廃棄して独立の道筋を作り、フランス右翼達から、許しがたい裏切り者として命を狙われる羽目に。数度の失敗の後に、暗殺模索者たちが採った方法は、プロの英国人スナイパー雇入れ。ただただ、報酬の為だけに、ドゴール狙撃を企図する英版ゴルゴ13、対する治安機構のエースは、コロンボの様に風采が上がらずフレンチの如く平凡な恐妻家刑事。「逃げ隠れトンデモない・フランスは私だ」ムッシュプライド大統領に、治安機構内部にたむろする保身家・野望家たち。憎まれ役ヤナ奴官憲にハニートラップ女まで出て来て、スナイパーとハンターの虚々実々攻防が、映画超えて劇画タッチの面白さ。ゴルゴ並みの精確度にルパン顔負けの変装述を駆使し、仕事成功後は高額報酬による快適安楽余生まで夢見る殺し屋って設定がユニーク。これが複雑進化した果てに、ジェフリー・ディーヴァーとかがあんのね・・あんな風に捻くれると素直な面白さはなくなるがな。このストレートさ、ホント面白いんで、ミステリとしてはなんてことないんだが、オマケして点数4点あげちゃう。
※それにしても、なんかこの話、某あ元首相暗殺事件や某T前大統領射殺未遂事件と重なり過ぎ。

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