home

ミステリの祭典

login
クリスティ再読さんの登録情報
平均点:6.39点 書評数:1397件

プロフィール| 書評

No.757 6点 クイーンのフルハウス
エラリイ・クイーン
(2020/10/25 21:48登録)
パズラー作家の短編というのは、長編と比較したときの存在意義をどう捉えるか?というのがクローズアップされるような短編集だと思う。

「ドン・ファンの死」は...まあこれ、ダイイングメッセージもロジックも易しいと思う。すっきりはしているけどね。その分メロドラマ風。長編にして...う~ん、あまり魅力がないのでは。
「Eの殺人」「ダイイングメッセージが何を伝えうるか?」という限界みたいなものを提示しているのが面白いといえば面白いけど、駆け足すぎて不発になってるように思う。
「ライツヴィルの遺産」こういう話になると、妙にメロドラマ風になるのが? 推理としては...無理筋だと思うんだけどなあ。最後の罠も意味不明だし。
「パラダイスのダイヤモンド」は、小品でダイイングメッセージも日本人にはどうでもいいし、推理に内容がないんだけど、「これぞリーだね」と思わせる文章の華麗さが、いい。評者とかはリーの文章が好き、が結構ウェイトが高いんだよ。
「キャロル事件」は、皆さんご指摘のように「災厄の町」とかああいうライツヴィル物らしさがある話。人情探偵エラリイになっちゃてるわけで、小説としては悪くないんだけど、たぶん本作が長編になったら文句をつけたくなる人が多いのでは...なんてヘンな心配もする。ロジックは通ってはいるんだけど、長編でこれをやると、肩透かしみたいなことになるように思う。短編で「よかった」のでは。

ちなみに「推理の芸術」では「ドン・ファン」「Eの殺人」は執筆がリーではなくてバウチャーではないか、と疑っている。絶対、リーじゃない。作品によって、かなり文章に差が激しいのを感じる。


No.756 7点 ラヴクラフト全集 (5)
H・P・ラヴクラフト
(2020/10/24 21:08登録)
ラヴクラフト全集も通常巻は5巻まで。6巻はファンタジー色が強いし、7巻は資料的だし...お待ちかねの「ダニッチの怪」を収録の巻である。まあこれには、創元の「重複収録回避」のクセが影響しているんだろう。「ダニッチ」は「怪奇小説傑作集3」に「ダンウィッチの怪」で収録されているからねえ。
長めの作品はあと「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」「レッド・フックの恐怖」「魔女の家の夢」なんだけど、これらがものの見事に面白くない。安めでマンガっぽいか、怪異に巻き込まれる主人公の主観ばかりで動きがなくなって...で、良さが出てないない。

としてみると「ダニッチ」の良さは、クールな客観描写の良さなんだと思う。ラヴクラフトって語り手の「語りの仕掛」が積極的に出た作品がいい印象もあるけど、「ダニッチ」は抑えた客観描写が、いい。ウィルバーが図書館で死ぬ描写の、

しかし腰から下が最悪だった。ここでは人間との類似がまったく失われ、紛れもない怪異なものになりはてていたからだ。皮膚はごわごわした黒い毛にびっしりと覆われ、腹部からは緑がかった灰色の長い触角が二十本のびて、赤い吸盤を力なく突出していた。その配置は妙で、地球や太陽系にはいまだ知られざる、何か宇宙的な幾何学の釣合にのっとっているようだった。

微に入り細に入りの視覚的描写のクールさが印象に残る。番犬に襲われて死んじゃうような情けないモンスターなんだけど、この死にざまが作品の頂点になっているのが面白いところ。まあだからその後の「見えない怪物」をやっつけるシーケンスはオマケみたいなもの。「見えない怪物」だからこそで、有線放送電話(懐かしい)による声だけのレポートがうまくマッチしてはいるけどね。

「ダニッチ」は評者のラヴクラフト三大名作の一角だから、別格の面白さだけど、この短編集だと「神殿」や「ナイアルラトホテップ」に、散文詩的な良さがある。スタティックな話だと、ラヴクラフトの筆は冴える。「神殿」は「ゴードン・ピム」のオマージュじゃないかな。

(「魔女の家の夢」って、非ユークリッド幾何学やらアインシュタイン宇宙論やらと、伝説やら魔女が通底する話だから、実は「僧正殺人事件」とコンセプトが似ている。ラヴクラフトとヴァン・ダインって、生没年がほぼ同じで、並べてみると面白い)


No.755 5点 毒ガス帯
アーサー・コナン・ドイル
(2020/10/24 20:54登録)
チャレンジャー教授モノの中編「毒ガス帯」に、短編「地球の悲鳴」「分解機」を収録した短編集。「失われた世界」よりもSFらしさは高いけど、科学考証はダメダメなのがドイルらしい。
「毒ガス帯」は地球が宇宙空間で有毒ガスが漂う地帯に突入し、人類全滅か?という話。スペクトルのフラウンホーファー線に異常が起きたのを知ったチャレンジャー教授は、毒ガス帯突入を予測して酸素ボンベを仲間に持ってこさせて、「失われた世界」のクルーと妻の5人で突入に備える。バタバタと毒ガスを吸って倒れる人々。翌朝毒ガス帯を抜けたらしく、生き延びたチャレンジャーたちは、死体だらけのロンドンを行く....
まあ、フラウンホーファー線のにじみから、なぜ毒ガス帯突入を推測できるか、とか説明しないしね、「エーテルが有毒になる」は設定、でいいんだけど、酸素を吸ったら生き延びれるのはレベルが違うから、なんでそんなことが推測できるのか意味不明。科学性が薄いのはそうなんだけど、この毒ガス、実は致死性がなくてみな次の日には復活してしまう.....う~ん、ドイルさん、何かあったの?次のチャレンジャー物は心霊学を扱った「霧の国」だからねえ。オカルト志向の方がSFよりも強いんじゃないかな、なんて思う。
「地球の悲鳴」はガイア説みたいに、地球が生命体で...という設定で、地殻に深く穴を穿ったチャレンジャーが、地球に針を刺してみて「地球に人類がいることを知らせてみる」という話。ホラ話みたいな面白さがある。この本ではこれがベスト。
「分解機」は内容的にはショートショートと言われても仕方ないくらいの話。科学を悪用する科学者をチャレンジャーがお仕置きする話で、つまらない。


No.754 5点 闇の中から来た女
ダシール・ハメット
(2020/10/22 20:56登録)
極めてヘンテコな本だが、このヘンテコさにハメットが全然かかわってないことでも、さらにヘン。

R.B.パーカーの序文も何かテキトーで、全体の半分が「マルタの鷹」のフリットクラフト話と、チャンドラーによるハメットの文体論の引用。で結末を強引にハッピーエンドにしたがっている。
で、小説は3章183ページの中編...ということになるけども、割り付けがスカスカで見るからにページ数が足りなくて単行本にしづらいのを、水増ししようとしている。こんなことするなら、1つでも2つでも、雑誌掲載だけで入手困難な短編でも訳してくれればいいのに。
訳者&解説は船戸与一。パーカーの序文を「パーカーはハメットの地下水系の流れに鈍感だから、そんなふうに浅薄な読み方をするのだ」と軽くバカにする。まあ、パーカーの序文に問題はあるんだけど、船戸だってハメットをマルクス主義で読むのを言葉で否定してるのに、中身はゴリゴリの左翼的な社会学テイストの評論。でも「W.ブレヒト」って誰よ。編集者チェック入れないのかしら。
空さんもご指摘だけど、訳文の視点で違和感が...と評者も感じた個所がある。それが訳者曰く「読みやすさを考えてのうえでである」。だから本作はハメットが「マルタの鷹」で到達した三人称カメラアイの世界を、かなり甘口に仕上げたのでは...なんて疑惑を持たれても仕方がないんじゃないかしら。

肝心のハメットの小説の中身は、行きずり男女の逃亡話。ブリジッドやらダイナのような意識的に「悪い女」じゃなくて、「無意識的にだけど、悪い女にならざるを得ない」悪いといえば悪い、不幸だけど強い女性の肖像。魅力はあるから強引にキスされたり、膝をなぜられたりするけども、されたらしっぺ返しをする女。「危険なロマンス」って言うけど、オトコ以上にハードボイルドな女のようにも感じる。まあだから、たとえばフリットクラフト話が明らかにすることっていうのは、ハードボイルドのオトコたちが「シアワセになれない不幸な男たち」だというアカラサマな現実だったりするわけで、同様に本作のヒロイン、ルイーズ・フィッシャーも、この一件がかたづいてもシアワセになれそうな気配が、全然、しない。見方を変えるとハードボイルドって「悪い女の小説」と読めるんだけど、この「悪い女」のリアル版みたいなところもある。そこらで「郵便配達」に通じるのでは、なんて思う。
そういう小説。そこそこ面白いけど、タゲ層がよくわからない。


No.753 7点 勇将ジェラールの冒険
アーサー・コナン・ドイル
(2020/10/22 14:27登録)
さて、ジェラール准将短編集は2冊あって、その2冊目。「冒険」「回想」はホームズの専売特許ではなくて....なんだけど、ジェラール准将が「冒険」で「回想」なのは、とくに「回想」が東京創元社がわざと仕掛けたか?となるような強引な訳題だからである。'the Exploits of Brigadier Gerard' が「勇将ジェラールの回想」になるには作為が必要だからねえ....素直に訳せば「功績」とか「手柄話」くらいなものなんだから。ちなみに Brigadier はよく「准将」と訳されるけど、ナポレオン麾下だと「旅団将軍」になる。ワーテルローの後に旅団長=准将にしてもらえたみたいだ。なので将官なのは間違いないから、「深夜プラス1」で将官扱いされなくて不満なフェイ将軍の Brigadier とは名称は同じでも、扱いは歴史の上で揺れている。
で、この後の方の短編集だけど、「回想」よりも歴史小説度が高まっている。「回想」は「歴史の裏で、ナポレオンのために戦うジェラールの冒険」という感覚だったが、「冒険」は逆に「歴史の中でナポレオンのもとで戦うジェラールの戦記」。マッセナ元帥の下で「トレズ=ヴェドラス防衛線」から友軍を無事撤退(半島戦争)させるために命懸けの潜入をするとか、ロシア遠征でネー元帥の下で撤退する遠征軍の殿軍を務める話とか、ワーテルローではグルーシー元帥への伝令として派遣されるがグルーシーを見つけられずに...(これワーテルローの敗因に挙げられる有名な話だ)で、おしまいはセントヘレナのナポレオンの臨終に立ち会う。とまあ、お話だからね、「この現場に居たら、ホント凄いよね」という花形のシーンが連続する。
まあだから、「回想」以上に、ナポレオンの戦記に詳しければ詳しいほど、楽しい小説になる。こっちは「歴史・時代ミステリ」にカテゴライズ。
とはいえ、友軍に撤退を知らせるために、狼煙を上げる任務を仰せつかったジェラールは、ゲリラに捕まって任務を果たすどころじゃない...が一発逆転の秘策が!なんて話とか、ヒネリもあってなかなかナイスでドイルらしさも十分発揮。
それでも歴史小説度が高くなってしまう分、ミステリマニア向けからは離れるかもしれない。しかし考証ばっちりでケチがつけれない歴史小説だそうである。ドイルの凝り性が発揮されている。


No.752 6点 バルコニーの男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2020/10/17 17:26登録)
久々にマルティン・ベック。日本での紹介は本作が一番最初だったわけだから、マルティン・ベック日本初登場の作品である。「ロセアンナ」の時にも書いたが、このシリーズはスエーデンの国情を反映してか、70年代の性解放を先取りしたところがある。なのでおそらく「少女の敵」連続少女暴行殺人事件をテーマにした作品ということでは、最初の作品になるんでは?と思う。どうだろうか。アメリカは性道徳がキビシイために、エンタメで性犯罪を扱うのが難しいところがあったからね。
そう見ると、本作がシリーズ中でも最初に紹介された、というのはやはりセンセーショナルな目的があったのでは、とも感じる。その次の紹介が大量虐殺の「笑う警官」だから、性犯罪の本作が比較上霞んでしまうが、海外ミステリ紹介では後れを取っていた角川が、海外ミステリでも存在感を出したのがやはりこのマルティン・ベック、という印象があるんだよね。
思い出の深いシリーズでもあるので、作品以上にその周辺について語ってしまうけど、本作からベックも管理職、ラーソンも初登場と「マルティン・ベックらしさ」が確立した布陣の作品。ステンストルムは残念ながらバカンス中で、はがきを送ってくれただけ(だけど、このはがきがナイス小道具)。そういえば新訳はメランデルがメランダーなんだ、どうも感じが出ないや...
犯人割り出しプロセスや逮捕などが偶然、なのを「傷」みたいに言いたくなるかもしれないけども、警察小説だからね、物量と組織による捜査を通じて、「偶然も絞られていって、蓋然的に必然に近づいていく」という風に読むといいように思うんだ。福祉社会スエーデン、というのもあって、社会と政府の間が近くて、警察の側も「社会を維持するための必要悪」みたいな覚悟があるあたりが、とても好ましい。だから本作でも「娘を守るために」市民が自警団を作って...というエピソードがあるけども、この心得違いの自警団に、ベックがキツいお灸を据える。
「健全な警察」ってこういうものだと思う....


No.751 6点 準急ながら
鮎川哲也
(2020/10/15 21:01登録)
鮎哲もやらなきゃね...なんて思ってたから、とっかかりは本作。
いや別に大した作品じゃない。「六、アリバイ」で犯人のアリバイが提出されて、「七、なぜパイを喰わせたのか」で鬼貫がアリバイを検証の上、看破する。だから一~五の文庫150ページが何なの?と思ってしまうと、逆に本作あたりは「長編ミステリとして、どうよ」という話になりかねないんだよね。

けどね、なぜか、鮎哲は愛される。この前半150ページに懸けて、実のところ評者も妙に鮎哲が好きなことを否定できないんだよ。まあ、本作のトリック自体、ホント大したものじゃないといえば、その通りなんだ。いわゆる「写真合成」じゃない、というあたりを丹念にツブしていくプロセスだとか、ほんわかしたユーモア感だとかもいいのだけども、北海道月寒・栃木烏山・愛知犬山・津軽・京都・伊豆雲見温泉・そして豊橋と短い作品なのに日本国中を駆け回るローカル色描写....で、このような日本各地をつなぐのが国鉄の列車である。
タイトルからして「準急 "ながら"」である。「今どき、準急に愛称がついてたりしないよ~」と言いたくなるような、懐かしい昭和ののんびりとした風情。東京から大垣まで6時間半かけて昼間に走る準急...特急でも急行でも、ましてや新幹線でもない、まさに庶民的で愛すべき準急の姿を、本作はミステリの中に定着したわけである。いや、いいね、ほんとに。

うん、鮎哲って、そういう作家なんだよ。


No.750 7点 ウィージー自伝 裸の町ニューヨーク
伝記・評伝
(2020/10/13 08:01登録)
たまには反則も、したいなあ。写真家の自伝である。
けどね、これがタダの写真家ではないのである。

ウィージーに写真を撮られるようになってはじめて社会の敵としてFBIやテキ屋のベストテン・リストにのるのだった。私はついに警察からそうした貢献を認められ、殺人株式会社の公認写真家という称号を与えられた。

1930年代後半から1940年代のニューヨークで、特別許可を得た警察無線を搭載したシボレーで、殺人現場にいち早く駆け付ける写真家、通名ウィージー。ギャングたちの殺し合い現場、殺人犯の逮捕の瞬間、捕まった犯罪者の面構えなどなど荒っぽい現場を撮影した、荒っぽい写真を新聞に売り込むのだ。評者に言わせれば、ハードボイルド小説を「書く」以上に、「ハードボイルド写真を撮影した」写真家であり、ハードボイルドを地で行った男だと思っている。
そんな男の自伝である。つまらないわけがないでしょう? 

それから枕の下の現金を隠すと、電報と手紙を読み始めた。『ライフ』の明細書には「殺人二件につき、三五ドル」とある。『ライフ』は弾丸一発につき五ドル支払ったことになるわけだ。つまり、ひとつの死体には五発、もうひとつには二発の弾丸が撃ち込まれていたのである。

....いや、ハードボイルド小説以上の、この非情で煮え切ったハードさ!

ギャングたちは、たいてい道路の側溝に倒れ込んで顔を上げており、黒いスーツに身を固め、ピカピカの専売特許の革靴をはいてパールグレイの帽子をかぶっていた。それはまるで殺されるための正装のようだった。

写真家の自伝?いやハメットの小説に出てきても全然不思議じゃないカメラアイ描写。そりゃ、写真家、だからね。まさに「カメラアイ」そのもの。
もちろんこの1930~40年代の描写が素晴らしいわけだけど、自伝だからね。ウィージーはこの「殺人株式会社の公認写真家」としての写真集「裸の町」1945を出版して、一躍時の人になり、アーチストに成りあがってしまう。それからは写真も自伝の記述も退屈になってくる。まあ、それは仕方のないことだ。
でこの写真集「裸の町」を映画化する企画があって作られたのが、ジュールス・ダッシン監督の「裸の町」で、ウィージーの写真にインスパイアされた、オールロケのポリスアクション。これも映画史では重要な作品になる。

ちなみに今は亡きリブロポートの写真関連書籍で出版された本である。装丁に戸田ツトムが入っていて、センスのいい造本が素晴らしい。もちろんウィージー撮影のギャングの死体がゴロゴロ転がった写真も多数収録。紙質はよくはないから、洋書でいいなら Weegee の写真集は手に入りやすいからどうぞ。


No.749 5点 裂けて海峡
志水辰夫
(2020/10/11 22:21登録)
ヤクザとのトラブルで刑務所に入ったカタギの主人公が出所してみると、自分の海運会社の唯一の持ち船が大隅海峡で沈没し、弟と苦労を共にした仲間は絶望視されていた。鎮魂のために沈没地点の間近の内之浦町中浦に赴いた主人公は、そこで沈没事件が事故ではなくて、何者かに撃沈されたのではないか、という疑惑を抱く...落とし前を付けるために主人公を追ってきたヤクザと、掴んだ手掛かりの証人を消していく謎の組織の両方に追われる主人公の逃避行の末は?

というようなバイオレンスの話。ヤクザと謎の組織は両方ともプロで、アマチュアの主人公が追われるのだけど、この主人公、積極的に反撃するタイプ。暴力は、使う側は他人をダマらせるために行使するのだけども、中には逆上して反撃して、とんでもない結果を引き起こすことだってあるわけだ。「一人だけの軍隊(ランボー)」みたいな話といえば、そう。
主人公にしてみたら、ヤクザの理不尽な暴力も、国家の「安保上の云々」による暴力も同じことで、カタギが捨て身で反撃する気合と能力がある時には、暴力なんてそもそも逆効果でしかない、という逆説が露になってしまっているわけだ。秘密や弱みがある側の方が、実は弱いんである。暴力を使ってしまえば、「暴力を使った」ということ自体がマイナスにしかならないんだよ...というアカラサマで「小説にならない」興ざめな舞台裏を気づかせてしまう、というのは、やはり小説としては?と思わないわけでもない。
主人公とヒロインに、評者は全然共感できない...ドツボな方向をわざと選んでいるようにしか、見えないんだよね。状況判断が悪くて逃げ切れるときにも、余計なことして捕まりかけるわけだし。主人公とヒロインの会話も気取りすぎ。
だから、たいへん後味の悪い話。ロマンティシズムってそういうことじゃないと思うんだよ。


No.748 7点 勇将ジェラールの回想
アーサー・コナン・ドイル
(2020/10/09 21:19登録)
ドイルの三大シリーズ・キャラクターは、ホームズ、チャレンジャー教授、それにジェラール准将、ということになるんだけど、ジェラールの人気は日本じゃ他の二人に大きく後塵を拝して...ということになってしまう。戦前の昔から翻訳されてはいるんだけどねえ。

「大奈翁」で通じた時代なら、それなりの読者層があったんでは、とも思うんだが、逆に今はね藤本ひとみとか長谷川ナポレオンとか読まれるようになってきたから、本作だって「ナポレオニック」の一つとして読まれていいんじゃないかな? この短編集だと8話収録、1807年のナポレオン絶頂期に中尉だったころから、1814年の退位直前にジェラールは准将、というナポレオンの転落の激動の中での、軽騎兵ジェラールの活躍を描いている。
中尉時代の上官は「30までに死なない軽騎兵はクズだ!」で有名なラサール大佐、大佐時代の司令官がマッセナ元帥、皇帝ナポレオンからの直々のご指名で役目を与えられることもこの本の中で3回、タレーランや参謀長ベルティエ元帥も登場...ミュラ元帥やらネイ元帥、マクドナル元帥の寸評など、ナポレオニックというか、ここらの元帥たちのキャラに馴染みがあると、3倍おいしい作品だったりするのである。

で、このジェラール准将、

「考える!おまえが!」陛下は大声を発せられた。「わたしがおまえを選んだのは考えてもらうため、とでも思っているのか?」

と、オツムの方はホームズどころか、大幅に足りない方なんだが、ナポレオンには誠忠無比、命知らずの楽天的な行動家で、生一本の快男児である。逆にそれが、作劇的に先が読めない方向に転がって行って、これはこれでドイルらしい良さにつながってくる。敵や味方が仕掛ける手の込んだ「罠」を、何も考えずにパワフルに突破してしまい、「結果よければすべてよし」になる話だから、結構な爽快感がある。いやホント、主人公が何も考えないイノシシ武者だからこそ、凝った陰謀でもコミカルに見えてしまうほどである。

いやいや、評者チャレンジャー教授より、ジェラール准将の方に、好感、である。歴史小説好きなら、SFよりおすすめだと思う。


No.747 5点 雪の別離
夏樹静子
(2020/10/06 14:36登録)
夏樹静子って「蒸発」とか「Wの悲劇」くらいしか読んだことなかった..けどなぜか本棚にある。どうやら亡き母が買ったもののようだ。なので初読だと思う。
時期でいうと「Wの悲劇」の頃の短編集で、8作収録。1作平均30ページ強。一応ふつうにミステリで、リアルな範囲でのトリックがあったり、意外な真相があったり。とはいえね、大概の作品は狙いが読めて、意外性はさほどない。シンプルと言えばシンプルなミステリで、あっさり風味。女性視点が多いけど、女性心理のドロドロはそれほどでもない。
80年代初めだけど、どっちか言うと70年代的テイストで、郊外新興住宅地が舞台だったり、地方の中小企業の内幕だったり...という世界。やたらと懐かしいんだけど、その分なんか古臭くなってるのが、評者はショック。この人キャラ造形は「世の中のフツーの庶民」というタイプがほとんどなので、リアルと言えばリアルなんだけど、もはやレトロな世界に入ってしまっている印象。
なので、全体的に見ると、大したことのない作品集。それでも最後の「天人教殺人事件」は新興宗教の教祖と補佐役の話で、特殊題材なこともあって、わりと面白い。けどね、語り口を変えたらずっとよくなりそう...なんて思ってしまう。
70年代的な標準ミステリ、というのが全体的な感想。


No.746 8点 屍蘭 新宿鮫III
大沢在昌
(2020/10/05 08:34登録)
評者は奇数番好き。昔のドラマで年喰った原田芳雄が出てたのが懐かしい...で本作はゲイ要素はほとんどないけど、事件の「女性度」が高い作品。いいのは犯人グループの中でいろいろ角逐があって、「女同士の愛憎の絆」に、オトコが割り込めないあたり。でワルい奴なのにこの光塚が妙に憎めない。この光塚のキャラ、なくても成立する話(でも、ないと鮫島への罠が作れないが)なんだけども、この男がいることで、話がうまく膨らんでいるようにも思うんだ。
あと被害者のコールガールの元締め浜倉のキャラがナイス。いい男じゃん。蘭の鉢植えだらけの病室で立ち尽くす暗殺者...とか、印象的なシーンがある。まあおばちゃん、マンガっぽいといえばそうなんだけど、このシーンでそういう印象が払拭する。


No.745 7点 弥勒戦争
山田正紀
(2020/10/04 15:08登録)
「裏小乗の独覚」というこのネーミングがすべて。裏高野、裏柳生、裏死海文書。「裏」ってロマンだ(苦笑)。
GHQの謀略云々が取りざたされる占領期の風俗と朝鮮戦争を背景に、GHQやら旧特務機関を向こうに回して、滅びを宿命づけられた独覚一族が超能力バトルを繰り広げる小説。ラスボスは弥勒。この超能力がブッダが備えたとされる天耳通やら宿命通やら、仏典に典拠を持たせたもの、というのがさすが。漏尽通で自殺的に宿縁を閉じて仲間を救うとか、よく考えてある。
アクションのネタに仏教を「使った」作品で、それこそ80年代以降菊池秀行やら夢枕獏、あるいは「孔雀王」なんかで盛んになる「密教バトルアクション」の先駆になるようなタイプの作品だけど、安っぽくならないのが山田正紀の実力をうかがわせる。さすがなものなんだけども、もう少したっぷりこってり、書いてほしかったなあ...

(坂口安吾が一瞬登場、なんだけど、弥勒に堕落をすすめる安吾とか、見てみたくない?)


No.744 7点 ケンネル殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2020/10/04 14:52登録)
ヴァン・ダインの中で皆様の評価の平均点が一番高いのが本作になる。面白い....一番アンチがいない作品になるようだ。密室~二度殺された男~別死体発見、と怪奇性で読者をうまく誘っていく流れに、ストーリーテリングのさすがの上達を見せているように感じるよ。ヴァンスが透視的に別な殺人があることを推測して、それを見つけ出すシーンが、何といっても、かっこいい。
ペダントリも二段構えで、中国陶磁器の話と、スコッチテリアの育種。中国陶磁器の話とか手慣れた感じがあって、安心して聞けるし、怪我をした犬の身元を調査するので追いかけるエピソードなど、物珍しくも面白い。ペダントリは装飾なんだけども、それが邪魔になってなくて、小説としてのふくらみになっているように感じる。
で、怪奇な事件に相応した怪奇な真相、うん、ミステリとしても小説としても、うまくまとまったアラのない作品だと思います。


No.743 4点 黒いジャガー
アーネスト・タイディマン
(2020/10/01 20:10登録)
女に滅法ツヨい黒人の私立探偵は?
シャフト!
その通り。相棒のためなら命だって賭ける男は?
シャフト!

と、黒人探偵は結構いるんだけども、小説の黒人探偵以上に、映画ではこの「黒いジャガー」のシャフトがレジェンドになっている。いわゆる「ブラック・エクスプロイテーション映画」のハシリであり代表作で、アイザック・ヘイズのテーマ曲と演じたリチャード・ラウンドツリーのカッコよさ、冒頭のシーンの望遠レンズを多用した街頭ロケの美しさ...などなどで、サブカルのレジェンドとなっている映画の原作である。映画の監督ゴードン・パークスは黒人だけど、原作作者は「フレンチ・コネクション」の脚本家で、白人なのが残念。

滅法タフな黒人私立探偵シャフトは、二人組の黒人ギャングのご訪問を受けたが、失礼だから窓から放り出してやったぜ。二人組を差し向けたハーレムのボスが自ら出向いて詫びたこともあって、その依頼を受けることにした。ボスの娘が何者かに誘拐されたようなのだ。シャフトは旧友のブラックパンサー活動家のベンから娘の行方を探るのが、このブラックパンサー一味は何者かの襲撃を受けて、ベン以外皆殺しになった!どうやらハーレムの麻薬密売に絡むマフィアとのトラブルが背景にあるらしい....

という話。シャフトのやたらなタフさが強烈。映画は原作の話の展開に結構忠実。クライマックスはやや盛ってる。白人警官との友情は小説はあまり表には出ない。ハヤカワ・ノヴェルズで映画公開に合わせて出版されたわけだけど、訳文が今一つで、結構何言ってるかよくわからないようなところも多い。意外なヒットで急遽出版が決まり、即席での翻訳出版だったのかな。原作も妙に心理描写しすぎでハードボイルドの良さみたいなものは薄い。

映画を見た方がずっといい。まあ映画も途中話は結構ダレるんだけどね。個人的にはこの監督の同名の息子が作った「スーパーフライ」の方がニューシネマらしいアンチヒーローで好きだなあ。


No.742 7点 宵待草夜情
連城三紀彦
(2020/09/30 12:17登録)
連城全盛期でも後の方になるからか、たとえば「戻り川心中」と比較すると、ミステリと小説のバランスがやや崩れつつあるか?という印象を受ける。小説側の方に力点が傾きすぎに感じるんだね。まあそれでも立派なものではあると思う。
個人的には戦後を扱った「未完の盛装」が、浪漫情緒に流れ過ぎず松本清張風のテイストが出て、面白いと思う。だからこれがミステリとロマンのバランスが一番とれた作品になるようだ。まあ浪漫情緒が読みどころの「宵待草夜情」みたいに情緒に溺れるのもいいんだけどね...実に夢二テイストで「待てど暮らせど来ぬ人を...」のメロディが読んでて脳内に流れまくりでありました。「この花は血を吐いて死ぬわ...」がミステリの仕掛以上に効いた仕掛けで、そういうあたりこの人がミステリから離れる遠心力になってしまっているようにも感じるんだ。
まあそういうわけで、ミステリ的な仕掛けとややサドマゾ的な男女関係を組み合わせた作品は、評者はやや苦手感が強い。あざとく感じがちなのは、年を喰ったせいかなあ。


No.741 5点 右門捕物帖(一)
佐々木味津三
(2020/09/27 14:45登録)
評者の「五大(か七大)捕物帖」もいよいよ右門で一通りになる。けどね、右門は全38編で作品数はそう大したことはないんだが、電子書籍以外では現役の新刊本は存在していない。かつては映画でもTVでも人気だったのだけど、「もはや過去の作品」ということにはなる。
で...なんだが、都筑道夫が本シリーズを嫌いまくって、「捕物帳を怪奇スリラーに貶めた」と批判して、ミステリとしてはなってないからミステリとして書き直したりとか、あるいは発表当時でも「旗本退屈男」の方だけど三田村鳶魚に「大衆文芸評判記」のなかで「時代物を全く時代知識なしで書く。その胆力は感服すべきものであるかもしれないが」と皮肉られるなど、批評面では散々なことでも有名でねえ。
しかし、スタイル的には半七はそれ以降の「捕物帳」ではないわけで、一般に「捕物帳」とされるスタイルを作り上げたのが、この「右門」であることは動かしえない。主人公とその相方(右門なら「おしゃべりの伝六」で、ガラッ八の先輩になる)との軽妙な掛け合い、ライバルの「あばたの敬四郎」(平次なら三ノ輪の万七)の鼻を明かす活躍、草香流柔術やら錣正流居合切りやら、平次の投銭に相当する必殺技...と、キャラクター配置は右門で完成するわけだし、

明皎々たること南蛮渡来の玻璃鏡のごとき、曇りなく研ぎみがかれた職業本能の心の鏡にふと大きな疑惑が映りましたので...

といった「語り物」調の平明な語り口も、平次に採用されたわけで、本当に銭形平次が右門の模倣から始まっていることは言うまでもないくらいだ。
事件はというと、八丁堀のお組屋敷の花見の座興で清正虎退治がすり替わって虎役が殺される「南蛮幽霊」、旗本の寝所に毎晩生首が届けられる「生首の進物」、忍城下で腕利きの侍の右手が辻斬りに逢う「血染めの手形」、山王権現の祭礼で将軍上覧の前で牛若に扮した商家の主人が毒死する「笛の秘密」...と派手で発端の怪奇性は十分、なんだけど、右門は「明知神のごとき」とか、そういうわけで論理性もへったくれもなくて、真相を看破してしまう。だからミステリと思って読むとけっこう、ばかばかしい。辻褄の合わない話も多いしなあ。

けどね、乱歩の通俗物やジュブナイルに通じる駄菓子の面白さがあるわけで、生暖かい目で読むには、そう悪くない。明智探偵=むっつり右門、というくらいに読めばいいんだろうと、思っているよ。縄田一男も乱歩が「多彩な美と、ギョッとさせる怪奇と、その間を縫って、苦み走った好男子むっつり右門が、颯爽と縦横に歩き回っている」と評したのを引いて、乱歩と味津三の相通じるあたりを突いている。

捕物帳を系統的に読むなら、やはり右門は外せない。


No.740 6点 失われた世界
アーサー・コナン・ドイル
(2020/09/25 21:44登録)
とりあえずドイル年代順、で読んでいるので「帰還」の次は「失われた世界」になる。ホームズからチャレンジャー教授、そういう流れでドイルのヒーローを見ると、やはりドイルはキャラの「誇張」みたいなものをうまく使って造形しているという風にも感じられる。
チャレンジャー教授はホームズと比べたらずっとマンガっぽいキャラではあるけども、猿人たちの王様と瓜二つとか、ドイルが楽しんで書いてるようにも思えてニヤリ。こんな破天荒な野人のチャレンジャー教授に対して、その論敵である、冷静だが皮肉屋の科学者サマリー教授を配し、さらに理想的な冒険家でいざという時に頼りになるロクストン卿、ワトスン的なニュートラルさを持つ「わたし」。このチームのキャラ付けにドイルらしい大衆作家的な達者さをみるのがいいのだろう。「わたし」は新聞記者で、旅行中に書いた記事が届くかどうか?をいろいろ弁解してみせるのが、リアリティを醸し出すうまいギミックになっている。
話としては、舞台となるメイプル・ホワイト台地の自然が博物学的に面白い、というのがもちろんなのだが、後半猿人vsインディアンの戦争みたいな話になってしまって、評者はやや興覚めした。自然描写と恐竜の脅威で押し通してもらいたかったなあ...なんていうのは、ちょっと無理な相談だろうか。SFと冒険のバランスの問題なんだろうけども、やはりドイルなので冒険の方が比重が高いことになるんだろう、仕方ないなあ。


No.739 7点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2020/09/23 13:26登録)
評者は半七と並行して読んでいるせいか、「半七ってホームズ、だなあ」なんて思わせるものがある。たとえばこの短編集だと「金縁の鼻眼鏡」が半七の「お化け師匠」に「化ける」わけで、古典ってそういう普遍性なんだな、なんて思う。「鼻眼鏡」今でも皆さん評判がいいようだから、綺堂の眼のつけどころが、優れているわけでもある。

だからね、ホームズの遺伝子というのは、いわゆるパズラーの名探偵以上に、半七もそうだけど、たとえばコンチネンタル・オプなんかにも強く流れているようにも感じるわけだ。たとえば、「恐喝王ミルヴァートン」とか推理とか特にないけども、名悪役を巡るアクション中心に皮肉な結末に終わる話で、書き方を変えたらハードボイルド?という気がしなくもないんだよ。あとたとえば「ブラック・ピーター」で犯人を呼び寄せる「逆トリック」とか、どっちかいえばパズラーでは廃れて警察小説で復活した手法になるわけだ。ホームズの遺伝子の広がり、みたいな視点でミステリを大きく捉えるのが、評者は好きだ。

あというと「踊る人形」。ポオの「黄金虫」が文字出現頻度+連結出現傾向から換字表を割り出す解読法だから、これは本当にコンピュータを使って解読するのと同じやり方なんだよね。でも「踊る人形」は暗号文が短すぎてとてもじゃないけどシステマティックな数理的解読法が適用できないから、宛先の名前からうまく解読してみせる、というヒューリスティックな解読法を示している。ドイルは模倣じゃなくて、ちゃんと新機軸を示していると思うんだ。ポオがこのシステマティックなやり方を示したのはもちろん凄いけど、小説での応用は「踊る人形」の方がいろいろできて面白いんじゃないかな、なんて思う。

やはりね、100年以上前の短編1つでも、その後のいろいろな小説の萌芽を豊富に含んでいる...と見ると、さらに趣が深いように感じられる。


No.738 7点 捕物帳の系譜
評論・エッセイ
(2020/09/21 10:10登録)
評者最近捕物帳を熱心に読みだしたのだけど、ミステリ史について論じた本はやたらとあるのに対して、捕物帳の歴史を論じた本と言うのが、ごくわずかしかないのに、ちょっと驚いている。

縄田一男と言うと、積極的に捕物帳アンソロを編む編者として活躍してるが、その縄田氏による捕物帳論である。ただし、扱っているのは半七、右門、平次の3人だけ。その分のツッコミは深いし、作家論としてはオーソドックス。まさに古典いう名に恥じないというか、ここに書かれた内容をベースにいろいろ論じる出発点になるような本である。
けどね、その分手堅くて、「なるほど」と思わせる指摘は多いけども、いわゆる「面白さ」みたいなものは、さほどない。以前評した野崎六助の「捕物帖の百年」が、本書を意識して本書の「逆」を行っていたんだなあ、とは思わせる。「百年」読む前にこっちを読んでおくべきだったと反省。
とはいえ、関東大震災が与えた「風景」のカタストロフが、捕物帳に与えた心理的背景、というのがこの本の一貫したテーマで、江戸庶民の末裔たちvs明治以降の新しい東京の住人たちの心理的な齟齬が、この風景の瓦解によって平準化されて、その新しい「風景」の上に、この捕物帳が「幻想の江戸」として立ち上がってくる、というのがこの本の「読み」。
胡堂が震災後に評者として選んだ川柳、

駿河町広重の見た富士が見え

がこの本の「原光景」。

評者的には右門の佐々木味津三を、東京新住民の代表として捉えて、同じ立場の乱歩と重ねて論じているのは卓見と思う。そうしてみると、右門って乱歩通俗長編の捕物帳バージョン、ということになるみたいだ。半七・右門・平次の三人の中で、一番「隙がある」というか叩かれやすい右門なんだけど、評者意外に好きだったりする....なるほど。

1397中の書評を表示しています 641 - 660