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ミステリの祭典

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半七捕物帳 巻の五
三河町の半七

作家 岡本綺堂
出版日2001年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2021/01/07 05:59登録)
年越し蕎麦はベビーホタテ代用のあられ蕎麦、初詣は池鯉鮒神社、と半七にちなんだネタで今年のお正月は過ごしました(苦笑)。三河万歳は見てないけどね。
で、光文社文庫の巻の五は引き続き昭和の半七。講談社大衆文芸館の「半七捕物帳」ではこの巻の作を6作収録、とあのアンソロの主力の巻になる。この巻では「幕末の世相」もよく描かれる。

「菊人形の昔」では有名な団子坂の菊人形を見物に訪れた三人連れの外国人が、掏摸被害に遭ってその掏摸を捕まえるのだが、すでに財布は持ってなくて、逆に群集に袋叩きになりかかり...という発端。どさくさで異人が乗ってきた西洋馬が盗まれた話と、管狐使いの老婆殺しの話が微妙に交錯する回で、この取り合わせが幕末の混沌を窺わせる。でこの女掏摸「蟹のお角」は次の話では、異人が伝えた写真技術と異人夫婦殺し、それから西洋犬の虐殺など、陰惨な事件の主役になる。
幕末開国で入ってきたものには西洋の文物だけではなくて、病気もある。幕末の流行病というと、「蟹のお角」には文久の麻疹も取り上げられているが、安政のコレラが歴史小説でもよくネタになり有名だ。このコロリを背景に「津の国屋」みたいな商家の大陰謀事件の「かむろ蛇」。病気と殺人がないまぜになって、よく人が死ぬ作品でもある...かつて、人の命ははかなく、無常なものだった。そんなことも実感する。
幕府の兵制改革の一環で西洋の軍事を取り入れて歩兵が作られたのだが、その歩兵屯所で横行する奇怪な髪切り事件を追ったのが「歩兵の髪切り」。と、半七は「理想化された江戸」の住人ではなくて、幕末の流動する世相を背景に、変わりつつある新しい風俗と、明治の世から見てもすでに廃れた古い風俗との軋轢のはざまで事件を追っていく...これが半七の唯一無二な世界なのである。

しかし、江戸時代なので「仇討」は現実の事件としてある。が、もはや仇討も単純な仇討、ではなくて「その理念をもう誰も信じていない」パロディみたいな仇討でしかない。仇討を利用した殺人事件の「青山の仇討」、そして半七が仇討を助ける「吉良の脇差」はこの巻で連続して語られる。とくに「吉良の脇差」などは仇討としてはかなり変則なものだからこそ半七の援助が要るわけだし、その悪人の開き直りっぷりが、勧善懲悪とはかけ離れた実態を示して面白い。
で、やはり商家の一粒種の誘拐事件を扱った「河豚太鼓」が名編。種痘を巡る喜悲劇の中に...と意外な真相。

と、半七の江戸はまさに幕末の変化真っ只中の江戸であり、その変化の中で起きた数々の事件、という印象の強いこの巻である。半七は捕物帳である以上に、歴史小説なのだ。

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