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ミステリの祭典

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フランケンシュタイン

作家 メアリ・シェリー
出版日1984年02月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 6点 虫暮部
(2022/04/16 12:25登録)
 イメージと全然違うな! これは見た目が醜いと言うだけで差別された者の哀話。

 意外や怪物のヴィジュアルについての記述は僅かしかない。“身の丈八フィート”で “均衡を欠いた姿”だけど “髪は黒くつややかに伸び、歯は真珠のように真っ白” だって。包帯を巻いたり釘が刺さったりの記述はありません。あとはひたすら醜い醜い醜い、だから、中身も恐ろしい怪物に違いない、と決め付けられた。
 同じことが小説の外でも起こっている。実は彼、頭は冴えていて饒舌だし、本質的には素直だし、運動神経も抜群。ところが、総身に知恵が回りかねみたいな、コミュニケーション不全のメタファーみたいなキャラクターが、二次創作三次創作で捏造されてしまった。

 つまり怪物は小説の中でも外でも、“醜い大男” に相応しい(と思われがちな)内面だと誤解されたのである。因みにそこまで暴れまくり殺しまくったわけでもない。
 “判り易い表層的なイメージが、正しい情報よりも、如何に一人歩きするか” と言う作中のテーマを見事に実世界でも体現してみせた。天晴れである。風評に囚われていた私は伏して怪物に許しを請わねばならない。

 小説としては、真ん中あたりに位置する怪物の自分語りがめっちゃ面白い。その前後は、物語成立の手続きをきちんきちんと踏んでいるところが堅苦しい。ここにもっとメリハリがあればなぁ。夫の詩を引用しているのは御愛嬌。

No.1 8点 クリスティ再読
(2021/01/31 17:55登録)
最近では4種類も翻訳が出ているようだが、読んだのは昔からある創元の森下弓子訳。新藤純子による解説が力作で、解説のためにこれを選んでもいいんじゃない?と思うくらい。
映画などで作られたパブリック・イメージと比較すると、原作小説は本当にマイナー。読んでる人には当然の知識なんだけども、原作での設定は次の通り。

・「フランケンシュタイン」は怪物を創造した人物の苗字。名前はヴィクター。
・ヴィクター・フランケンシュタインは博士でも教授でもなくて、ただの学生。
・怪物には名前はない。
・怪物のヴィジュアルについて詳細な説明はないが、人間誰もがその醜さに恐れおののき、爪はじきにする。純真な少女だけは恐れずに...とかそういう描写はない。
・人間社会からは孤立しつつも、怪物は自力で言葉や人間生活の常識を学習し、最終的には「若きウェルテルの悩み」「プルターク英雄伝」「失楽園(ミルトン)」を読んで人間を理解する....めちゃくちゃ、優秀。

ふとした出来心で怪物を作り上げちゃったヴィクターは、無責任にも生まれたばかりの怪物を見捨てて逃亡し、怪物は自力で生き延びて知識を得て創造主のヴィクターを詰問しようと追いかけるが、偶然会ったその弟をもののはずみで殺してしまい、ヴィクターと怪物の関係がコジレにコジレる話。怪物側に感情移入してしまう方がふつーだと思うんだが....創造主vs見捨てられた被造物、身近な人を殺す怨敵、「自分の伴侶を作れ!」と怪物は強制するが、ヴィクターは拒む....とこのヴィクターと怪物との関係に実にいろいろな切り口が現れるために、この関係性の面白さに惹かれてまったく、飽きない。

人はみなみじめな者を嫌う、だったらどんな生き物よりはるなに不幸なこのおれが、嫌われぬわけがない! だが、わが創り主よ、おまえが被造物のおれを憎み、はねつけるのか。どちらかが滅びぬかぎり、切っても切れない縁で結ばれているわれわれなのに。それを殺そうというのだな。どうしてそんなふうに命をもてあそぶことができるのだ?

いやこの怪物の告発が雄弁で本当に心に痛い。本質的に孤独な者、世界から疎外された者の叫び以外の何物でもない。だからこの関係性はドッペルゲンガー風の色彩を帯びてさえ、くる。フランケンシュタインと怪物は、深すぎる縁で結ばれていて、どちらがどちかなのか、区別がつかないくらいに、互いの妄執が束縛しあい続ける....この面白味、ロマン味を楽しむ小説なんだと思う。

人がおれを蔑むとき、そいつを敬わなきゃならんのか? ともに暮らして優しさを交わしあえるなら、おれは害をなすどころか、ありとあらゆる善行をほどこして、受け入れてもらえたことに感謝の涙を流すだろう。だがそれはだめだ。人間の五感がおれたちの結びつきには越えられぬ障壁なのだ。

この不条理が小説として素晴らしいポイントになっている。人間が怪物を嫌うのは「理屈」じゃないのである。だから怪物は絶望し、唯一責任を逃れ得ないヴィクターに、「怨敵として憎まれる」という反対方向の愛を捧げ続けるのである....いやこれが、本当に、泣ける話なのである。感動的な大名作。

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