| 斎藤警部さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.69点 | 書評数:1438件 |
| No.1398 | 8点 | 縞模様の霊柩車 ロス・マクドナルド |
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(2025/09/19 22:15登録) 「これはわたしの事件です。 必要とあらば、自腹を切っても最後までやり通します」 この話は 一人の ‘あかちゃん’ が大事な状況証拠となっているのが良い。 たいへんな救いになっている。 一方で ‘あかちゃん’ は重要な物的証拠をも握っており、そこは本作の表題にも繋がっている。 「きのう、ミサがすんで出て来た人たちは、倖せそうだったわーーとても倖せそうで、平和で」 このアーチャーには肩入れできる。 水のような補助線ワイズクラックが、一々良い。 娘はもうじき、莫大な遺産を自由に出来る身分となる。 彼女が結婚したい相手は素性の知れない貧乏画家。 父親とその後妻がアーチャーの事務所へとやって来た。 激昂する父親を、後妻は宥めようと必死だ。 アーチャーは画家の身元来歴調査を引き受ける。 画家が身を寄せるビーチハウスへと赴くアーチャー。 縞模様の霊柩車が通りかかる。 娘は実母とも逢っている。 屍体が発見され、過去の事件が掘り返される。 登場人物のアイデンティティに混乱が起こる。 「大きな声を出す競争をしましてね。 この紳士が勝ちました」 序盤からアーチャーの言葉遣いが冴えてること。 いい予感しかありゃしねえ。 8点以上確定のグルーヴだぜ。 地の文やらナニやらもズイズイやばくなって行くぜ、ヒヒ。 内省気取りの独白ッチもなかなかだぜ。 美人でないとかなんとか、一気にサスペンスの遥かな峰々を心の瞳に焼き付けたぜ、その横目の観察眼が。 クライマックスに片脚掛けたウグウグが前半から、中盤前から、早くも襲って来るぜ。 ポルシェ、マンゴー、抱水クロラール、おっと、本作二人目のホームズだぜ。 「あなた、女は好き?」 「その拳銃をしまって下されば、本当のことをお答えしますよ」 【【 次のパラグラフは、真相に触れはしませんが、未読の方はムニャムニャ斜め読みされた方が安全です。 淡いネタバレでも避けたい方には、代わりに 「いやいや、怒涛の真相暴露は本当にヤバかったです」 とだけ言っておきます 】】 本作終盤、最高に熱い告白のヒトクサリ×2には目を瞠った! 告白と対話、告白と論争、告白どうしの殴り合い。 長い長い、そして瞬時にして飛び去ったクライマックス。 ところが、最後にもひとつ、弱々しくも重大な追加告白が来た。。 いや、最後と思っていたら、おお、もう一つ、深く清らかな異質の告白が押し寄せた。。! いやはや、いつまでも終わらない告白の変格マトリョーシカ(ブランド風の告白合戦とはまったく異質)・・ ここまで来ると、まさか真犯人はアーチャーではないだろうな ・・ 流石にそれはないか ・・ とゆったり苦笑している隙に、アーチャーが不意に読者を追い抜いて、挙句、真相はこれですよ・・・・ 参ったな!! 真犯人も割れた後、終盤も終盤、細かい章立ての畳み掛けがひどく効果的で、心に迫るね ・・・ なんて悠長に感心していたのですがね。。(Tetchyさん呼ばれる ”太陽のような娘” の思わぬ再登場と、重要極まりない働きとか..) 「殺人犯人の道というものは、若い頃から決まっているものでしてね。 同様に、被害者の道というものも、若い頃から定められているのです。 その二つの道が交差するところで、凶暴な殺人事件が起こります」 本作、所謂クリスティ 「人間関係トリック」 の表側、すなわち人間関係そのものではなく、裏側にあるミスディレクションの果肉がズワアーと拡がったところに真相隠蔽の大トリックが仕込まれていたんじゃないかと思いますね。 まこれもテニスンの引用ですけどね。 人並由真さんの仰る > ポケミスには、登場人物の名前一覧がわずか13人しか記載されていないが、自分で実際に人名リストを作ると端役をふくめて約70人もの名前が並んだ(!)。 > ポケミスの人名一覧からは、かなり重要な人物が最低でも10人前後は欠損しており ですが、わたくしも、70人いたかはともかく、13人はいかにも少ないと思います。 ストーリー上重要な(映像化するなら人気俳優、あるいはブレイク狙いの俳優が充てられそうな)サブ脇役もチョコチョコ漏れていますし、チョイ役でも光ってる人がいっぱいいました。 ステイシー、死ぬんじゃないよーっ!! なんて祈ったものです。 ストーリーにはまるで絡まなくとも、しっかりキャッチしてやりたい端役の台詞もありました。 > 同113ページ最後の「へー」となる心の動き そこは私も、うっかり引用しそうになったくらいです。 「それ、返していただけません? 大事な手紙ですから」 「すみませんが、警察に見せなきゃなりません」 現実世界にカッチリはまれなかった登場人物が、三人、いや五人はいたって事になるのかな。 もっとかな。 HBらしく登場人物の枝葉分かれが果てしないにも関わらず、不思議とストーリーの幹はすっきり、見通しの良いミステリ小説となっています。 謎明かしにトリッキーな手間を掛けるスリリングな手強さと、対照的にシンプルな真相との取合わせが光る、名作認定も納得の一篇と言えましょう。 最後に、ロビンさんの(ちょっとネタバレ掠る)コメント > 『容疑者Xの献身』というタイトルが当てはまりそうな、いやそれ以上の これには膝を打ちましたね。 |
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| No.1397 | 7点 | 西成海道ホテル 黒岩重吾 |
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(2025/09/16 01:24登録) 釜ヶ崎の隣、西成海道町の格安ボロアパート 「春日荘」 の住人、関係者、管理人、大家、周囲の人々が繰り広げる、どえらいブルージーな人生劇場。 彼らの多くにとっちゃ、こんなん人生ちゃうよ、かも知らんけど。 同著者による、よく似たタイトルの 『飛田ホテル』 は紛うこと無き狭義ミステリの短篇集でしたが、こちらはちょっと違います。 『飛田』 の兄弟篇を期待して第一話を読んでいたら、その結末、足元がスゥッと消えたような意外すぎる着地点。 そこには確かな反転があるのだが、まるでミステリではないような。。 おっと、連関を見せる第二話も同様の ・・ これはミステリの領域にぴったりと身を寄せた ‘日常のサスペンス’ の理想形ではあるまいか。 ウールリッチ 「聖アンセルム923号室」 に通ずるような、ミステリではないがミステリ叢書/ミステリ系列に入っていることが相応しい連作短篇集だと思うのです。 うん、確かに強靭なサスペンスに押され煽られ、あれよあれよと最後の話まで読み尽くしてしまいました。 かなりイヤな感じの男女関係人間関係。 酒に賭博。 希望と絶望と諦観。 怠惰と熱中。 安宿に食堂にスタンドバー。 ぽん引きに街娼。 人情非人情。 射精と小便。 自慰と性交。 ゲスな野郎にあほ野郎。 出ていく奴、留まる奴、消える奴。 喧嘩に騙し合い。 コツコツやったり悪い近道を狙ったり。 時に犯罪。 街では暴動すら起こります。 第一話 虹の故郷/第二話 残夢の花床/第三話 闇に残った茜雲/第四話 果てしない階段/第五話 木枯らしの嗤い こうして見ると、各話の表題がどれもこれも刺さるんだなあ。 辛い一方だったり、絞り出した明るさがあったり、ねじれた皮肉だったり。 話の内容を無表情に突き放したような表題とも見えるなあ。 第×話のチョイ役氏が、第×話では主役で出てきたり、ある登場人物の意外な諸々が、別な話の中で明かされたり、人間模様のうねりが、連作短篇ならではの熱さをもって切り売りされます。 嗚呼、群像劇。 “あの一杯飲み屋の連中は、何時(いつ)も、こんなことを喋っていたのか” かつては賑わう庶民の街だったのが、すっかり枯れて陰湿な土地になり果てた ・・・ 以前釜ヶ崎に住んでいた黒岩重吾氏が、良き過去への郷愁を抱きつつ、執筆当時の近隣地区に取材を重ねてものした作品とのことです。 |
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| No.1396 | 8点 | 日本探偵小説全集(5)浜尾四郎集 浜尾四郎 |
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(2025/09/15 23:19登録) まず短篇たち、どれを取っても結末に重みがあり、オチなどと軽くは呼ばせない厳粛さがある。 しかもその厳粛に苦いだけでない味わいがあり、そこが良い。 独特の語り口で、トリッキーでディープな “法律” の振る舞いや在り方を俎上に載せた、素敵な作品が並びます。 彼が殺したか 8点 際どく転がるんだよ、結末が。 叙述なんとやらまるで不要の深みには感じ入る。 若き実業家の夫と、名家出身の若妻とが殺害された。 死の淵の夫は、或る男の名前を口にし、息絶えた。。 現代の俺たちにしたら見え見えの真相だぜ、などと思いきや、更に二重底で、しかも高速展開の直感地獄絵図。 何が二重のナニじゃいこのくそ主人公が! しかし本作の麻雀戦記は旨いわ。 むかし流の言葉遣いと表記がまたたまらない。 にしても、清三の面前で清一とは、此レ如何ニ。 悪魔の弟子 7点 紙面を騒がした殺人事件の真犯人は ‘たぶん’ 私ではない、と旧知の地方検事におかしな告白をする ・・・ バランス悪いなー でもすごく面白れー 男色の恨みの顛末はどこいった? 中途から急にシンデレラの罠っぽくなったのはいいが、真相の底、そこまででおしまいか? なのにトータル読後感はすこぶるアッパー。 これはやはり、作品の、ってより作者の気品ってやつの賜物かな。 死者の権利 8点 一代で成り上がった大実業家の息子が、恋愛事件の末に落ちた陥穽。 告白犯罪実話の面白さで推進力抜群。 ミステリらしい捻りもあるが、これがむしろ作者らしい法律論への拡がりを見せる。 夢の殺人 7点 レストランに勤める真面目一方の青年の前に、やはり真面目な性質の恋敵が現れた。 ただ彼は非常な美男子だった。。 作者にしてはちょっと軽いな、と油断しているとその軽みのまま深淵に落とされる、そんな物語の終わり。 殺された天一坊 8点 タイトルの通り、或いはタイトルがネタバレ、なのでしょうか・・・? これは清冽を極めた社会的心理探索劇。 大反転など無くとも充分。 実は主人公二人が完全なるハードボイルド文体で描かれているのが凄味の源泉。 短篇の中ではこれがハイライトか。 彼は誰を殺したか 7点 妻の従弟に殺意を抱く男。 彼もまた或る人物から殺意を抱かれる。 或る地点から法律論に流れこむかと思いきや、殺人論?らしきものにぐいっと引き戻され、そこから先は熱い心理劇の公開。 こんな残酷話にいたずら心が見える。 最後の、小粋な?オチがなんとも言えねえ。 しかし本作冒頭の十二文字、Jリーグファンなら思わず噴き出すかも知れません。 途上の犯人 7点 列車の中で奇妙な文学的因縁をつけて来る男。 思えば彼には一昨日の夜も市電で遭遇していた。 告白と告発が絡み合い、メタ味もあって躍動する筋運びの末、舞台は警察へ。 余りにエモーショナルな事象を示す、ラストセンテンスの意味する所は何か。 長篇「殺人鬼」は個別に書評済み(9点)。 戦前日本の誇り。 黄金期米英本格推理(中でもヴァン・ダイン)の、意義ある換骨奪胎に成功した巨篇。 読んでみてはいかがです。 巻末の解説に編集後記、さらには付録の、夭逝した氏を悼むエッセイの数々。 どれも素晴らしい。 |
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| No.1395 | 4点 | 夕暮まで 吉行淳之介 |
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(2025/09/12 11:30登録) 「今日は、なにを食べる」 「鳥がたべたいわ」 十三年に渉って発表された短篇八篇を七篇に再構成して世に問うた、不思議とおだやかな日常のサスペンス連作短篇集。 ただし刊行された本には 一章~七章 と長篇の体で章タイトルが付いている。 実際に読んでみると、基本ストーリーが(ほぼ)時系列順になっている事が手伝い、長篇のような感覚である。 だが、元が短篇として書かれた小説の集合体ということもあり、特に読了後、一篇の長篇(長さは中篇)として横に読んだというより、個々の短篇を透明なスライドにして重ねて上方から縦に眺めたような感覚に包まれるかも知れない。 そこは智と情に訴える興味のポイントだと思う。 ただ、肝心の小説の中身は ・・・・ 人によって好みや評価が分かれることでしょう。 中心となるのは、妻子持ち中年男と若い女との奇妙な関係。 女は男に××はさせる、××はしてくれる、××まで許すというのに、××だけは断固させない(最後のは ‘口づけ’ じゃありません)。 結果として変態的濡れ場が居並ぶ実に不道徳な(?)内容になるのだが、男には彼女以外にも若い女数人との付き合いがあり、彼女らとのおノーマルな関係はあっさりと描かれる。 また年相応な相手との交流もあるが、このあたり、前述の “上方から縦に眺めた” 時の面白い構成要素になっていると思われる。 二度登場する、警官に免許証の提示を求められるシーンや、各々の門限をターゲットとした消極的アリバイ工作(?)のシーンは、良いサスペンスとヴァイブスをくれる。 あとそうそう、あの “バイク” のシーンがね。。 「驚いているんだ。 それで、死んだのか」 「死んだのか、って、聞き方はないでしょう」 刊行時話題をさらったこの本のタイトルから、おじさんと若い女の交際を意味する 「夕暮れ族」 なる流行語が派生したというが、なんと皮相で浅はかな言葉遊びでしょう。 おまけに愛人バンクの名前にまでなりました。 君たちは、分かっていない! なんて、自分も分かっちゃいないくせに、言いたくなります。 そういやかなり昔、吉之助(よしのすけ)というシンガーソングライターがいました。 インタビューで、好きな吉行淳之介から芸名をもらったと語っていた気がします。 この本を買ったとき、お店の方が 「いやあ吉行淳之介はいいよ~う」 と熱く語っておられました。 新刊書店の若い女性だったら引いたかも知れませんが、古本屋でチョイ悪ジジイ風の人だったので、今も良い思い出です。 嗚呼、オリーブオイル。。。 |
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| No.1394 | 6点 | 暗いところで待ち合わせ 乙一 |
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(2025/09/12 01:34登録) 駅前の家には、病で視力を失った若い女が一人暮らしている。 少し間に父を病で失った。 幼いころ離婚した母は顔も知らない。 その家に、彼女とは面識のない若い男が隠れている。 彼が警察から追われているのは、駅のホームからある男を突き飛ばし、轢死させた犯人と目されているからである。 盲いた女に存在を気取られないよう、男は精一杯の工夫をこらし、努力する。 女には晴眼者の幼なじみがおり、白杖の代わりとなって時々一緒に出かける。 近所の飲食店には知り合いも出来た。 幼なじみとはある日、大げんかをしてしまったようで、それを知った男は心配し、彼女の力になろうとする。 盲者の女と、晴眼者の男。 この二人の立場から描いたカットバック進行はちょいとスリリング。 前者は後者の存在に気づかず、後者は前者に存在を気づかれまいとする。 ささやかな時系列マジックも素敵だ。 訪問者の機微も効いている。 だが、二人の非対称な関係がいつまでも続くわけはなく、やがてちょっとした事象から女は男の存在に気づく。 男もそのことに気づく。 さて次の一手を打つのはどちらか。 「UFOキャッチャーの上手な人なの」 話がそれまでのサスペンス展開一方から、ヒューマン・タッチの恋愛&友情モードへと傾くにつれ、物語を叱咤するスリルの鞭さばきが控えめになった ・・ と思ったらまたすぐ盛り返した。 その弾みの勢いで一気にミステリらしいクライマックスへ突入。 同時にクリスマス・イヴを迎える。 物語の初期段階で、かなり大きなヒントが晒されるゆえ、 ”××” は先刻承知となってしまう方も多いことでしょうが、そこでストーリーのバランスが崩れてしまうわけではないので、大目に見てやってください。 人の裏表にまつわる伏線など少なすぎるように思えますが、それほどに人が苦手な作者なればこそ書けた小説と理解し、ご容赦ください。 目の見えない彼女が ‘念のため’ もらっておいた “写真” とその保管場所が鍵となる流れは、本格ミステリ流儀の手掛かりとは違いますが、なかなか面白いと思います。 彼女がやたら “いざとなったら舌を噛み切って死ねばよい” と独白するのはちょっと笑いました。 いかにもそんなことぜったい出来なさそうで。 だがそれがいい。 エンディングで 「おかあさん」 が胸熱キーパーソンとして再浮上してくれたら、さぞ感動しただろうなあ ・・ どこ行っちゃったんだ ・・ 続編はないのか ・・ |
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| No.1393 | 7点 | 黒衣の花嫁 コーネル・ウールリッチ |
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(2025/09/10 21:10登録) 彼女はヒットリストを作った。 目次によれば、対象は5人。 その動機は隠されたまま、次々と目標を達成する彼女。 殺(ヤ)る方法は様々で、中には残酷過ぎるものがあり、ちょっと笑う類のトリッキーなものもある(推理クイズに使われそう)。 『わたし、近頃ね、今までに一度もしたことがないことを、いろいろしているみたいなの』 5人の共通項は見つからず、ミッシング・リンク案件となるが、ある時点でとうとう ”共通の友人” なる危険分子が浮上した。 だが、重大な目撃者さえ逃してやった ‘公明正大’ な彼女は、その危険分子にも手は出さない。 ミステリ興味を高値キープしつつ、各章のフォーマット枠へ上手に話を押し込みつつ、先の見えないサスペンス醸造は上々。 探偵役(上司に厳しい刑事)を中心としたユーモアの差し水も良い。 最後はちょっとしたフーダニット的ツイストからの・・ と思っていたら、ある種フーダニット、ホワイダニット共に120度の角度で反射する二段階ツイスト(!)、これは面白かった。 ただ、智に訴える要素が最後にでんと割り込んで来て、ウールリッチ情緒のような感覚が薄れたようではある。 クリスティ再読さんのコメント “復讐というものの燃焼感がはぐらかされたような印象” にも同感です。 そいや、最高のミスディレクションをキメやがったサブ章があったなあ、ありゃあヤラレました。 そこだけ即再読です。 |
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| No.1392 | 6点 | 残酷な遺言 島田一男 |
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(2025/09/08 18:50登録) 出版年に見合った昭和五十年代中盤~後半作が大半のようだが、貨幣価値や風俗語で見るともっと昔のような作品も混じる。 まあシマイチ先生は昭和六十年近くでも “ゴーゴーを踊りに” とかうっかり書いたりするからなあ、たしか。 さて昭和五十年代なら8月と共に夏も終わる感覚だったろうが、昭和百年の今年ともなるとまだ9月いっぱいは夏が続きそうだ。 いよいよ昭和三ケタの夏も島田一男でブッ飛ばすんだ。 □□残酷な遺言□□ エキセントリックな遺言状に縛られた三人の女性には、互いの血縁関係無し。 当然事件は起こるが、この遺言状が物語の中でもっと癖強の狼藉を働いてくれたら、更に良かった。 少々デコボコした物理トリック群(陳腐だったり無駄に凝り過ぎだったり)と人情物語のアンバランスが滑稽だ。 ま、あの ”装置” も使いようって事だ。 しかし三つの事件の関わり合いはちょっと面白い。 真犯人の明かし方に宿る、さり気ないやさしさが印象深い。 (色んな意味での..)真犯人をもうちょい見えづらくして、中篇か短い長篇に仕立て直したら、どうだったろう。 □□マンゴー雨の中で□□ 東南アジア周遊ツアーの途上、一人だけ水あたりに苛まれた若い女が、後日死体で発見された。 旅行の序盤より、この女を巡っては、男女問わず不審な言動を見せる者が多かった。うむ、ギラつく大胆伏線が却って霧の中の目眩しとして機能した。 水中での物理法則か。。 クリスティ某作にインスパイアされたような感はあるが、このツイストある構造はちょいと分からなかったな。 ラス前からラストに掛け、探偵役ツアコン男子の激しい心の動きが響く。 "明るい星が無数にきらめいている。 これでもあしたは雨だろうか……。" □□空の女□□ 東南アジア周遊ツアーの途上、、 こりゃあ 「マンゴー」 の二番煎じとまでは言わないが、似ています。 探偵役は同じ人。 最後にほのかな人情香を残すところも同じ。 だけど、こっちの方が犯罪の構造に奥行きと、ちょいとばかりウェットな情緒があるね。 役所での調べものが躍動。 タバコの吸い殻の隠れ場所。。 □□おそろしき睦言(むつごと)□□ 結婚~離婚~再婚の、無理があるプロセスに培養された殺意。 殺害トリックのミラーリング会話(?)に目くらましされたのは、”復讐の角度” の錯誤。 フラフラした甘い殺意の戯れから、一気にどん底へと叩き落される企みの厳しさ。 しっかしこの死体の発見状況と来たら、笑っちまうくらいヤバいな。 □□蛇眼レンズ□□ 不可能興味を纏った盗撮(?)と脅迫(?)事件。 惰性でアリキタリの結末を予感した所を襲った意外な展開、もう一突き予想外の展開、最後は意外過ぎる動機で、されど爽やかに締め。 不完全伏線からの後出し要素とか、ミステリとして何がしかハミ出している感はあるが、このズルいおおらかさに押し切られてしまう。 □□海猫は語らない□□ 山形の “飛島” にて旅情殺人ミステリ。 寝台車の若い男女五人組と知り合いになった、釣り人とフォトグラファー。 前出 “東南アジア” ツアー殺人譚x2の日本海版そのものと言ったナニだが、動機はともかく、犯人についてはより繊細な伏線がそこここに巡らされていた。 タイトルが深い。 グッと来た。 □□喪服の結婚式□□ 妊娠中絶手術のトラブルで亡くなった高校生と、その復讐を誓う人物。 唐突の異様な出だしが示唆する如く、本短篇集の中では異色作。 世にも不可解な “現場” が如何に生成されたのか、実況敷衍されて終わる。 これが素晴らしく智と情の双方に訴える。 短い枠の中、ストーリーの顔つきが目まぐるしく転回する意欲作。 8点 □□錯乱の部屋□□ ところが最後にもっぱつ、異色作の匂いプンプンの変態オープニング(笑)。 冒頭、”◯女” の言動に、引っ掛かるワードがいくつか.. そして眼が開くトゥイッチ急襲。 シティホテルのルームにて特殊腹上死(?)連続変態殺人事件発生。 そこへ主人公のホテル専務と二人の若い女性との交歓描写が併走し ・・ 誰かが急に安いアパートへ引っ越したとか、懐かしい大学の先生がどうしたとか、思わせぶりだが結局.. グダグダな結末。 惜しいなあ。 あるものの匂いが移った手掛かりはちょっと面白い。 シリーズ物が二作だけ続いたり(しかも中身が妙に似てる)、突飛な異色作x2で締めたり、他にもいろいろコンパイルのアヤフヤなテキトーさが、軽く痛いのだが、それも味。 ところで春陽堂文庫版の表紙絵イラスト、表題作にちなんでいるのだろうけれど、三人の女性が見方によっていずれも “中心” という巧妙な構図がニクいね。 いちばん左(だけど中心)の方が若いころの、というより化粧上手になったころの中島みゆきさんに見えます。 |
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| No.1391 | 7点 | 黒幕 佐賀潜 |
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(2025/09/06 20:57登録) 「戦争は、相手を殺さにゃ勝てん。 まごまごしとると、赤玉のために、殺されちまうでな」 読了後、タイトルの意味がガッツリ沁みる。 本作、成功ってことだねえ。 舞台は大阪・道修町(どしょうまち)、東京・神田鍛冶町、控えめに名古屋、鍵を握るは淡路島(何故なら..)。 薬品業界の中小プレイヤー、メーカー群に問屋群、大阪と東京のライヴァルどうしが生き残りを賭けて手荒な頭脳戦に突入、ありふれた愛欲や意外な恋愛感情が入り込んで搔き乱し、遂には或る壊滅的結果を見るに至る。 一方の社の売れ筋製品にはあり、他方の製品に無いものとは? エゲツナイあの手この手の面白さはあわや犯罪小説と呼びたくなる感触。 「黒幕」 ともう一人、或る人物の活動経緯を、素晴らしく冴えた明かし方で見せつける結末の突きは強い。 会計用語や厄介な数字の動きも上手に調理。 悪どい創意の躍動また躍動で風起こす、めっぽうエキサイティングな経済サスペンスの逸品と言えましょう。 これはネタバレではありませんが、時系列のちょっとした行き来が見当たりますので、ご注意を。 |
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| No.1390 | 7点 | 魔術の殺人 アガサ・クリスティー |
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(2025/09/04 23:37登録) 「あなたにはいきいきとした現実的な感覚があるのよ。 あなたにないのは幻覚(イリュージョン)だわ」 米国在住の旧友と再会したミス・マープルは ”英国に暮らす旧友の妹(富豪)の身辺に気懸かりな空気を強く感じるから、妹家族の中に入り込んで慎重に様子を見て来て欲しい” との依頼を受けた。 主役級夫人、つまり前述 “妹” のクセつよ婚姻歴のおかげでめっぽう複雑な登場人物構成だが、冒頭での人物紹介捌きがさりげなく上手で、意外と混乱はしなかった。 話の進行も巧みに整理されており、スタスタと読みやすい。 そこへ来て、なかなか意外な構造の銃絡み事件勃発。 更にほぼ同時刻、別箇の銃事件で意外な被害者が出た。 大半の関係者はひとつの部屋にいた。 本気で犯人当てに行きたくなる仕掛けだ。 さて夫人の現在(三人目)の夫は非行少年の更生を目指す一種の “少年院” を経営している。 最初の夫の長男(夫人より年上!)も父の遺志を継ぎ、当施設に関わっている。 二人目の夫だけは変わり種の風来坊で ・・・ 他にも、×番目の夫との間に出来た娘だとか、養女だとか、その娘、その夫。 ××番目の夫の連れ子である双子兄弟。 力を持った使用人に持たない使用人。 施設付きのエリート精神科医。 夫人はどうやら、ある薬物でじわじわと命を狙われているようである。 ミス・マープルもその状況証拠を目(と耳)にしたが、現夫からの断固とした要請で、夫人には秘密にしている。 果たしてこれ以上の被害者は出るのか? そのタイミングは? 夫人の運命と、小説内のミステリ的立ち位置は? ・・ と、何しろストーリーの進み具合がいいもんで興味津々ドコスコ読み進めて行くと ・・ うむ、なかなかにザッツ・ザ・雑な感じの終盤唐突展開に目を白黒させられちゃったり、するかもね。 殺人に纏わる中トリック(ちょっと具体的に言ったらもうネタバレ)はまあ、よく言や小味っちゃ小味の、原理は普通に気づいちゃう類の甘々のねえ、邸宅の間取り図もあからさま過ぎるっぺよって思うしねえ。 しかしながら、誰もが抱いた幻想の大いなる膨らみを、意外な針が一刺しして去って行く風の大トリックの方はかなり良かった。 胸が熱いですよ。 まさか、"逆トリック" ってやつ、狙った? 「ヒンデミット? だれだね、これは? 聞いたことのない名前だな。 ショスタコヴィッチだと! おやおや、ひどい名前があるものだ」 クリスティ再読さん仰っている通り、また了然和尚さんも触れられたように、本作でのミス・マープルは良くない意味で 「名探偵」 らしからぬ所がチョイチョイありますね。 他の登場人物にうっかり探偵役さらわれそうな流れすらあったりして。 まあ彼女は名刺に 「名探偵 ジェーン・マープル」 なんて刷って人に渡すようなタイプじゃないからね(?)。 “それから二人は肩をならべて、家のほうへひきかえしていきました。 その後姿はとても小さく見えて、とても弱々しそうでした” |
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| No.1389 | 7点 | 危険なやつは片づけろ ハドリー・チェイス |
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(2025/09/02 00:10登録) おっしゃる通り、危険なやつはとっとと片づけるに限ります。 人間にしろガラスの破片にしろアレにしろ。 「あなたのおっしゃることはこけおどしだと思っています。 いずれにせよ、あなたは死んだほうが安全です」 何しろ雑誌 『犯罪実話』 が読みたくなるのだ。 これで六割方、この小説の勝ちは決まった。 こりゃあ心が躍る。 さあ、会う人会う人を疑ってみよう。 サンフランシスコ近郊、ナイトクラブの女性ダンサー失踪事件を 『犯罪実話』 の記者バディが洗う話。 よくある端緒だが、筆が上手で話が早く、興味深々きびきび読ませる。 いきなり参考人が不審死を遂げるのも味のうち。 探偵役がむやみに気絶しないのも気に入った。 警察との連携が妙にスムゥーズなのはくすぐったいぞ。 得体の知れない私立探偵と、人気雑誌の記者とでは扱いが違うというワケでね。 人並由真さんも言及されている通り、二つのスモールタウンが主舞台となるが、片方の警察は探偵役に友好的、もう片方は敵意丸出しというのがミソ。 もちろんそれぞれ一枚岩ではないのだが、証拠をつかむためには敵地に乗り込まねばならず、だが時々は(時に危険を冒しても)安全地帯に戻って報告なり相談なり一息つく必要があるわけで、また敵地にも “敵の敵” たる味方のアジトがあり、そのあたり探偵の最適移動戦略には図らずも(?)のちょっとしたゲーム性があって面白い。 何よりこの二つの小都市が睨み合う中を往来する探偵役の人間臭いダイナミズムが、この物語に得難い特色と躍動とを供給しまくっている。 「あなたのやりかたは、手がこみすぎていた。 事件は手がこんでいればいるだけ、解きやすくなります。 本筋をつかみさえすれば」 しかし話の進行が、ある意味何もかも摩擦係数低めに行き過ぎで何かが怪しい? 最初にやっと登場した警察トラブルらしき事象も、ツンデレ気質の現れらしかったり、あからさまにユーモア過多?だったり、これは単にそういうお気楽通俗という事なのか、それともおそるべき深い穴があるのか ・・・ なんて前半でモゾモゾしましたがね、、 後半でもちょっと爽やかに進みすぎてないか、ストーリーが、って感じるポイントが無くはなかったけれど、本作の良さの一つがそういうライトでブライトな感覚なのだとは言えましょう。 ただし、多数の被害者引き連れての複雑な事件真相は、いかにもHBな側面は目立てど、たった一つのちょっとしたフックが実に心地よく効いており、そのちょっとしたことで7点のテラスにひょいと乗っかりました。 ガールズに金持ち達の配置とか、画家が登場する意味合いとか、巧いねえ。 「あんたのせいで、とんでもない騒ぎが起ころうとしているのを、あんたに知らせたかったよ」 結末では思わぬ “やり手” が正体を現しました。 が、その前途には・・ ポジティヴヴァイブと一抹の不安、苦味を置き去りにする、厚みのある良いエンディングです。 【最後にちょっとしたネタバレ】 真犯人、まさかあれほどまで “自ら” 手を下していたとは思いませんでしたな。 |
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| No.1388 | 6点 | ブンとフン 井上ひさし |
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(2025/08/31 12:19登録) 売れない作家 「フン」 先生の小説 「ブン」 がまさかのスマッシュ・ヒット。 タイトルロールの 「ブン」 は神出鬼没・変化自在の怪盗さん。 こやつが小説の中を飛び出して現実世界で大暴れ、人々の大喝采を得る。 これが恰好の宣伝となり小説 「ブン」 は何十万刷の大ヒットを記録するが、刷られた分だけ 「ブン」 の分身が大量発生したものだからたまらない。 国境をまたぎ世を搔き乱す 「ブン」 たちは警察から捕縛の対象となり、何故かそこに 「悪魔」 まで巻き込んでハッチャキメッチャキのシュトルムウントドラング大宴会が世界を襲う。 あとは秘密。 戯曲や放送台本を書いていた井上ひさしさんの、小説家としてのデビュー作。 長篇ですがあっという間の掌編感覚です。 SF感覚ほぼゼロの風刺おふざけファンタジー。 ジュヴナイルとして書かれたそうで、もののウィキによれば >> 1970年1月10日、朝日ソノラマのジュブナイル小説シリーズ 「サンヤングシリーズ」 のNo.18として、 「1億総ゲバ・ヤング」 を謳い刊行された。 との事。 実にゲバゲバナンセンスでギャラクテッィクファイヤーな本なのであります。 数十数年をおいての再読でした。 生意気盛りの当時は 「ゆるいなあ」「ギャグが古いなあ」 とブツクサ思いつつもゆったり読んだものですが、今となっては何もかもゆるくもなければ古くもなく、スタスタと面白く瞬殺読みさせていただきました。 何周か回ったのでしょうか、地球が。 6点でもかなり上のほう。 |
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| No.1387 | 5点 | 衝撃の1行で始まる3分間ミステリー アンソロジー(出版社編) |
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(2025/08/29 13:20登録) 「つまりは、雪密室の要素も持ち合わせているということね」 ← これには笑った アンソロジータイトルの意外性(?!)に飛びついちゃったけど、掌編ミステリで書き出しのインパクトに工夫を凝らすのは当たり前のことでした。 なので中身は、特に変わったというより普通に面白いショート・ショートが並んだ感じです。 中でもヤラレタのは、遺産相続の話と、殺しの告白の話。 悪賢い刑事の話、灼熱の夢オチ話も刺さりました。 例によって話のタイプはヴァラエティ豊か。 殺人絡み・犯罪絡みを中心に、SFホラーとか、日常の謎とか、叙述トックリ大いに躍動、頭のおかしい人が出てきたり、なかなかの寓話があったり、重かったり軽かったり、まあ普通に色々ですね。 つまらんのも少し混じってましたが、一読の価値はあるでしょう。 「以上が僕の告白だけどーー実は今の話に一つ、嘘があったんだ。 何だかわかる?」 |
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| No.1386 | 8点 | 流れ星と遊んだころ 連城三紀彦 |
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(2025/08/26 23:32登録) お前の全てを奪ってやるぜ 連城は眼でそう言うと、静かにキューを突いた。 登場人物表には四人で足りる。 俺だったら七人にする。 花村陣四郎 (花ジン):映画界の大スター 北上:花村のマネージャー 秋葉:元ヤクザ 鈴子:そのツレ 小田真矢:若手映画スター 野倉:映画監督 高松:映画プロデューサー 横暴な年配スターのマネージャー業に愛想が尽きた中年男は、自ら発掘した "原石" をスターとして世に送り出そうと、奇策を繰り出してはもがく。 その道筋は、痛々しく拗れた愛憎模様と、過去の●●●●とに、危ういバランスで裏打ちされていた。 怖ろしく遠まわりなやり方で、全てを告白したのが、この小説だ。 “これはそんな、四十何年間で初めて出逢った一つの夢への、俺の熱いラヴストーリーなんだ。” はじめから 叙述の揺れに つかまれる その揺れこそが隠れ蓑 開始七分の一ほどで 夢のように 最初の叙述反転喰らう ところが 隠れ蓑のはずの 叙述の揺れとギミックの霧が いっこうにおさまらず おいおいやってくれてるじゃないか 遊びの手が早いねえ 「実はもう本当の犯人が告白したんだ」 内容や構造は全く異なりますが、東野圭吾 「悪意」 の読後感に近い、叙述の鬼でした。(フゥ~~) 文字数多くゴツゴツしたブロックが襲ってくるような文章だけれど、読ませる力が強く、速い読書を途切れさせません。 内省がひたすら熟し、文章の流れに切れ目が訪れない感覚は、ボアロー&ナルスジャックの某作を思わせました。 奔流は衰えず。。 裏表ではなく 三面の反転 か? 120度の反転 または240度の反転 か? 三角関係の筈が 三人しかいないのに 六角関係に発展していないか? 「監督が二度、間違えてあんたの名前を呼んだからさ」 いわく言い難いのですが、小説内の “現実世界” にまで叙述トリックの魔の手を伸ばす、凄い場面がありました。 流石は俺達の連城、なかなかのセンス・オヴ・ワンダーでしたね。 「俺のために犠牲になるなどと考えるなよ。 犠牲になるのは俺の方だ」 そうだ、実はもう一人、登場人物が、いるんだぜ。 (そうだよな?) |
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| No.1385 | 5点 | 真夜中の密室 密室殺人傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
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(2025/08/25 10:40登録) 山村美紗■呪われた密室 京都の古い宿を舞台に、小味でたおやかな和風密室譚。 形態と同時に機能を変える小道具使いに、人情と実利、それぞれ複数の動機群が集約される様には膝を打つ。 佳きスターター。 6点 高木彬光■影の男 社長が今にも臨終というその時、つい先頃まで普通に話していた、社長の長男である専務が絞殺死体で発見された! この滑り出しは魅力的だ。 ××やらナニ絡みのトリッキーな動機を期待していると、、 数日後、次なる殺人事件発生。 うむ、密室トリックが平板なのはともかく、動機も結局そんなアレか・・ 書き分けの甘い登場人物の整理が面倒で、ちょっと読書がカサついた。 4点 中町信■動く密室 あの長篇の原型ではないけれど、自動車教習所、そして路上検定ルートが舞台の連続殺人。 となるとこの表題はクルマそのものを意味していそうなものだが、もう一押しのニクいヒネリがある(ネタバレに非らず)。 広いスコープと奥行きがある犯行トリック全貌には唸らされる。 文体のクセを逆手に取ったような?違和感伏線にも納得。 動機と合わせ、何とも割り切れない結末に残響が深い。 7点 泡坂妻夫■ナチ式健脳法 こりゃつまらん! わかりにくい! 乱筆乱文取り柄無し! 俺たちの妻夫さん、しっかりしてください! 脅迫事件らしきものと雪の足跡とが交錯する話です。 2点 大谷羊太郎■北の聖夜殺人事件 うらぶれた芸能人崩れの告白。 舞台は戦後まもない頃、地方巡業先の宿。 殺されたのは歌手の若い女。 容疑者に同宿の男女多数。 不可解興味と噛み合った密室トリック(?)は本当にささやかなものだが、ツイストかました真相の意外性と、思わぬ事件背景、信頼出来ぬ語り手の戯れと情深さには心が動く。 6点 天城一■むだ騒ぎ 被害者にまつわるちょっと面白い不可解興味に、密室とアリバイ(ご丁寧に時刻表)。 そこに時を遡る人間ドラマまで盛り込んでおきながら、短すぎる原稿にストーリーも登場人物もせわしなく詰め込まれて話が分かりにくいこと読みにくいこと、そんな余裕無い所に余分な言葉遊びが鼻につく。 こりゃダメダメダーメでしょう。 尺に余裕のある中篇か短めの長篇に直したら、相当イイ感じになりそうなのに。 詩情の萌芽すら在るのに。 もったいない! 3点 島田一男■渋柿事件 シマイチ余裕の軽密室。 ユルユルの器械トリックにありきたりの真相。 頭の弱い昭和の下層犯罪には目も当てられないが、なんつっても文章が良い。 いちおう言っておくと昔の××事務所の話ではない。 5点 鮎川哲也■妖塔記 灯火管制下にも開かれる寄席。 巨大ダイヤモンドを持ったインド芸人が拉致され、消えた 。。。。 三十五年後にようやく明かされた真相には深い陥穽があった。 某と某が◯◯かと思ったら◯◯じゃないというワンクッション意外性、残酷さが重い。 流石は鮎川の(まずまずいい時の)短篇。 ユーモアにまみれつつも、贔屓目なしに締まりが違う。 探偵役登場のマナーもニクい。 7点 私の持っている文庫本は、表紙の「島田一男」が不敬にも「島田一雄」と誤植されています。 プレミア付きでマニアに売るべきか、出版社を脅すべきかで迷っています。 |
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| No.1384 | 7点 | 目撃者 死角と錯覚の谷間 中町信 |
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(2025/08/23 23:30登録) 確信犯 .. 迷いの無いプロローグ|エピローグに挟まれ、快速で複雑コースを疾走するストーリーの虹色水しぶきを浴びまくる一冊だ。 幼子二人を巻き込んだ轢き逃げ事故の “目撃者” は、旅行先の温泉地にて大地震に見舞われ、死亡する。 “目撃者” の姉はこの死に不審を抱き、夫と共に真相追求へと乗りだす。 妻と夫に警察、三つ巴の探偵役が躍動。 やたらな連続殺人には 「またかよ」 って苦笑してしまうが、全体の感触は普通にシリアス(だが中町流にどこか変)。 探偵夫婦のユーモラスな関係が良い息抜き。 温泉旅行の参加者に、轢き逃げ事故の関係者、なかなか見えない人間関係と利害関係。 矢継ぎ早にミステリの場を襲う事件また事件(そして時に..)は、探偵役各人に仮説立てを促し、その仮説を放埓に打ち倒し、あざ笑うように謎の磁場を大いにかき乱す。 それにしてもやはりどこか香ばしい、どこかヘンな中町信文体が楽しい。 仮に、テラッテラに磨き上がってスムゥーズにも程がある佐野洋文体を基準とすると、中町信文体と来たら表面にダマは浮いてるわ基礎工事に歪みはあるわでドエラい違い。 顔は馬面でちょっと似てるんだけどね。 全て誉め言葉ですよ。 さて終盤が見えてくるあたり、少しずつ真相の片鱗が見えてくるにつれ “その因数分解に、ミステリ上の充分な旨味があるとでも?” なんて疑ってみたりもした。 複雑そうな全体真相も “足し算だけじゃつまらんのじゃが?“ なんて危惧したりもした。 しかし、意外と謎の核心は終結近くまで解きほぐされないままなのだな、と快い緊張を保っていたところ ・・・・ シ、シ、シンプルな核心真相から紡ぎ出されたフ、複雑怪奇な幻想の構築、まったく予想のスコープから外れる “動機” と、その隠匿魂には圧倒された。 いやいや、思い違い勘違いの積み重なりもここまでの建造物に仕上がると壮観だ。 ただ、真相を構成する各要素が、大きいレベルでもう一押し、カチリと嵌まっていたら更に良かった。 あまりに普通にリアルで(経験者いっぱいおるでしょう)地味な心理的密室トリックもきっちり役割を果たした。 奥がある上に、グインとカーヴを切ったダイイングメッセージの、結果と原因のねじれ現象とか、たまらんわ・・ ささやかなれど効果抜群の叙述の戯れもありました。 ある乗り物や、ある身体的特徴も、しっかり伏線を成していたんだなあ。 感心しましたよ。 読み始めは軽いゲーム小説かと踏んでいたんだが、まさかこんな人間悲劇から、全ての目くらましが派生していたとはね。 読了直後から酔いが回って来ましたよ。。 7点でもかなり上のほう(7.3相当)ですね。 |
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| No.1383 | 4点 | 二つの顔 リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク |
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(2025/08/22 22:05登録) 普通と逆ですよね ・・ “映像化不可能な文章” ってのはよく話題になるけど、この本の元になったのは “文章化不可能な映像” なわけで。 その映像の方は、コロンボシリーズの中では異色のフーダニット(+倒叙の変化球)ですが、人並由真さんも詳細に渉り触れられています様に、そのまま文章化するのは無理とあきらめて、通常運転のフツーの倒叙ミステリに仕立て直しています。 となると元の映像ドラマでは肝であったアノ要素が丸削りになっちゃうわけで、残ったミステリ素材だけでは、いかにコロンボの魅力をもってしてでも、いかにも凡庸な出来に終わってしまうのでした。(特にあの、××をはかるシーンの意味があまりにもモロ見えに..) 大富豪スーパーマーケット経営者の甥に当たる双子の兄弟 .. 兄は叔父に愛され、弟は家政婦に愛され、兄弟は仲が壮絶に悪い .. が、独身主義だった叔父のまさかの年の差結婚に伴う “金銭的クライシス” を目の前にどう振舞ったのか、コロンボは家政婦に疎まれながらも如何にして真相暴露に漕ぎつけたのか、という物語。 意外な被害者趣向や、そこに付随するホットな心理戦の流れもあり、読書中それなりに心躍らされる本ではあるのですがね。 ところで、あくまで素人考えですが、フーダニット趣向を残したままのノヴェライズ、工夫すれば出来たんじゃないかな、と思えてなりません。(それで成功してれば6点から7点は行ったかも) 少なくとも “イニシエーション・なんとか” や “十角なんとかのかんとか” を映像化するよりは少し簡単だったりしないのかな、と。。。。 |
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| No.1382 | 5点 | 高すぎた代償 佐野洋 |
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(2025/08/20 11:47登録) 資本家の走狗を俎上に桃色共産党がテラテラやってるなと思ったが、それだけでは終わらない。 渋谷のTSUREKOMIに趣味で仕掛けられたテープコーダー(ソニー登録商標)に録音されていた、過去の心中事件にまつわる不穏な会話。 事件性が垣間見えるこの録音をきっかけに、男女二人素人探偵の協力とすれ違いが錯綜し補完し合い、種々のヨコシマな思惑に揺さぶられつつ、ある悪事らしきものの暴露を目指す。 構成と章立てに工夫が見られ、そこでは一方でストーリーの進行が整理され、また一方ではストーリーの含有する謎が大いに読者の両肩を揺さぶる。 “自分がだまされているとしたら、一体だれにだろう。” ここから後はネタバレみたいなものになりますが、、 最後に、犯罪ファンタジーの大いなる幻影、萎んじゃいましたよねえ・・・ タイトルの意味合いも萎んだ・・(かな?) 洒落た小説構造を背景に、大きな真相への期待をこんだけ膨らましといて、まさかこんな、悪い意味でコンパクトな、しかもリアリティにちょいとひびの入った結末にぶつかって終わりとは。 ささやかな ‘叙述のたわむれ’ も、機能としては幻影を最後に萎ませる方向のものだったから、いまいち感心できない。 男女(女→男)の物語は多少響いたけれど、肩入れできる類の心理ではなく、悪いけどこいつバカだなぁ。。 とばかり思っていたら、、 最後の追い込み、××トリックの暴露含め、この心理劇の熱さにはちょっとやられました。 んだどもやっぱり、大きな真相あるいは躍動する真相を期待しただけに、この小説の収まり具合にはちょっとカックン。 結末を見せられるまではサクサク愉しく読ませていただきましたよ。 「密会の宿」 シリーズに繋がる初期作(第二長篇)のようだけど、本作の男女二人は (中 略) ですかね。 そうでないと結末の美が損なわれて、4点まで下がりかねないね。 |
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| No.1381 | 6点 | 山師タラント F・W・クロフツ |
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(2025/08/19 15:54登録) 「連中がその教訓を学びとったのだとしか考えられません」 薬局に勤める青年タラントには、決して世のため人のためではない、自分のためだけの燃え上がる野心があった。 卑怯な手を見事に使い分け、薬品事業でまずまずの資産と奇妙な信用を蓄え、やがて大富豪の娘と婚約を発表した矢先、タラントは溺死体となって発見される。 彼には、胡乱な事業の重要なパートナーでもある長年の恋人がいた。 彼女を慕う純情な若者もいた。 看護婦時代の親友がいた。 大富豪の娘の ‘相談役’ は野心を秘めた若い女だ。 タラントにしてやられた薬品会社には、タラントと五十歩百歩の際どいやり口で或る薬品事業を始めた役員がおり、彼がライヴァル視する総支配人がおり、事業を買い取って展開させた剛腕社長がいる。 要所要所にこすい山師どもが陣取る。 曲者に心の弱い者強い者、次々と登場。 まるで映画パイレーツ・オヴ・シリコンヴァレー縮小版のようだ。 だが交錯する騙しと騙し合いのスリルは熱い。 「そりゃ、気の毒な。 きっと自分から求めてのことにちがいないとは思うが」 整った各章表題が魅力的だ。 眺めれば、物語の内なる推進力が見える。 事件を起こすに至る(と思われる)人間関係ドラマも立体的に良く描かれている。 ちょうど真ん中あたりのフレンチ登場で安心感とサスペンスが同時に湧き上がるこのありがたさよ。 フレンチ登場からこんこんと湧き上がるフーダニット興味。 その巧みなバランシングの妙たるや。 終盤五分の四からの裁判シーンにはチョイトくどい所があり、、 なすすべなく退屈の袋小路へと導かれた。 ミステリ上の ‘ネタ’ が少なすぎたのかも知れない。 裁判長、検察官、弁護士それぞれの人物像も取って付けたようで、魅力は薄い。 “人間は疲れると、必然的に要点を見落としがちである。” しかし、だからこそ本篇内では異色のタイトルが気になる最終章 「八方まるくおさまる」。 結末には、ドンデンまで行かないドン返しと、ぎりぎりまで明かされない意外な真犯人。 フレンチ(と或る登場人物)にとって苦い結末。 まさか××による真相暴露で締めるとは思いませんでした。 恋愛ドラマに証言のナニが絡んでいるのがこの真相隠匿のミソなのだろうが、ネタがもともと弱い上、冗長な裁判シーンですっかり薄く引きのばされた感が強く、どうにも拍手喝采とは行かない。 だけど裁判シーンに突入するまでの五分の四は文句なしに面白いんだ。 7点行くはずだったんだ。 それだけは念を押したいんだ。 山下乱闘 ・・・ |
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| No.1380 | 4点 | 謎が解けると怖いある学校の話 260字の戦慄【闇】体験 藤白圭 |
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(2025/08/16 10:30登録) 掌編より儚い指編小説の寄せ集まりだが、全体通して見ると、呪われた古い学校を舞台とした一本の中編?ストーリーとなっている。 冒頭に 「主な登場人物」 一覧もあり、短い一編一編のつながりに思いを馳せる事が出来、そこはなかなかの美点。 ところがどっこい、一編一編が、「本編」 と 「解説編」 とに分かれる形式のミステリめいたホラー作品であり 幽霊譚|残虐譚|人間関係恐怖譚|陰湿いじめ話 等で構成されておるのだが、どれもこれもどうにも押しが弱くひねりが浅い。 若年層向けというよりは子供だましの感が強い。 それでいてこのようなライト残酷・ライト陰鬱な内容となると、ちょっとどうですかねという感想になってしまう。 ところどころ 「解説編」 が一読ピンと来なかったり、また言葉尻にホラー要素を引っ掛けたセコい話も目立ち、心はいつしか低評価モードへと。。 されど一編一編読ませる魅力はあり、特に終盤に入ると全体ストーリーの締めがどうなるか気になって仕方がない。 だが読了してみると、そこにはただ風が吹いているだけ、かも知れない。 いや、やはり私のようなホラー感覚欠如の者が読むからこのような読後感になるのであって、正常なホラー感覚の読者であれば違ってくるのではないかとも思う。 |
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| No.1379 | 8点 | もう一人の乗客 草野唯雄 |
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(2025/08/13 17:30登録) 呑み込まれるように読みました。 この真相は ・・・ 琴線に触れました。 「しかし裁判長、形式はどうであれ ( 中 略 ) お忘れにならんように、お願いしますよ」 警察に追われる若い女は婚約中。 彼女は犯行現場から帰宅の途上、拾ったタクシーが交通事故に巻き込まれてしまう。 タクシー需給の逼迫した大雨の夜ゆえ、同じ方向の男と “相乗り” したのが仇となり、そこから様々な事象が重なり転がり、婚約破棄の憂き目を見るに至る彼女。 ダブル・トラブルに追いつめられる彼女の当面の味方は、理由あって独身を貫く、同居中の実の姉。 きわどい物証が挙がり、状況証拠もひっくり返りそうにない。 「そうですか・・・・・・」 「ずいぶんいろんなことがあったんですね」 「ええ。 いろんなことがありました」 まずサスペンス発動の道連れに、謎また謎が散弾銃のように角度を違えて現れる。 だが、メインのミステリイベントは二つに集約。 この二つも、様々な誤解や憶測を纏いつつ意外と早くに一旦一本化。 しかし事態は快く複雑なまま、バチバチの違和感とミステリ興味は高止まりのままだ。 警察チームプレーの花が咲き、クセ強の権化のような刑事が登場。 商売女との結合シーンもすこぶる健康的。 えぐみをすくい取った、ひたすら爽快なサービス暴力シーンもある。 「そうか。 ここでひと芝居うつのが楽しみだったというわけか」 終盤へ向けて静かなクライマックス。 陰鬱な旅情に少しずつ、淋しい光が漏れて来る。 ところが最終章を迎えるやいなや、突如再び立ち上がる冷徹なサスペンスの壁。 そこには物語のバックヤードでひっそりと肥大化した、核心を突く 『謎』 が銃携行で脅すように同行している。 法廷闘争も、予見を裏切る高純度のスリルを保ち、或る嫌な(?)疑いに向けジリジリと迫る。 いつまでも擦り減らない、最後まで残された巨大な 『謎』。 何なんだこのダメ押しは・・・・ やがて明らかとなった、絶妙な××欺瞞と、隠し事の置き場所の機微。 こりゃ参ったね。 「それは、検事さんが女の心理をご存じないからです」 「女の心理?」 真犯人の伏線も、思った以上に大胆だったが、一方で予想を上回って巧妙でもあり、叙情的な側面含め、やられました・・・ とは言え流石にある時点でピンと来るわけですが、それにしても、まさか、もう一つの××欺瞞があったとは・・・ 真相を知ってしまうと堪らなく泣ける◯◯シーンもありましたね。 読中はただただ痛快で、まさか泣けるシーンに化けるとは思いもしなかった.. いや、実はその痛快さの中に、微妙な違和感が存在したのだが、無意識のままだったな.. “息もつけないくらいの烈風が吹きつけてきた。 町のほうからは、とぎれがちに流行歌のレコードが聞こえてくる。” 或る登場人物の取った行動の理由が、徹底したハードボイルド文体で表現されていたのには、しびれました。 最高に熱い真相と、微笑ましいエンディング。 思い切りの良いさじ加減です。 ここにやってくるがいい。 鳥のように早く、 一直線に。 人並由真さんご指摘の > さすがは僕らの草野唯雄、期待に応えた凡ミスである には笑いました。 ちょいと都都逸調で(?)。 しかしよく気付きましたね! 同じく人並由真さん > クライマックスに行くまでは読者の目を逸らすというか、意図的に一種のあるテクニックを用いている 本当にその通りです。 仮にネタバレ覚悟としても二言三言では言い尽くせない、絶妙な職人技に覇気を感じます。 【最後に、核心を突く、ぼかしネタバレ】 本文でもチラと触れましたが、本作には、二つの “思い込ませ” 叙述トリックが用いられていると思います。 一つは、冒頭の殺人に関すること。 一つは、ある刑事の体格に関すること。 どちらも、悪目立ちしない、ささやかなトリックながら、その効力はミステリの核心を突いて爆発的。 実にコスパが良い。 叙述トリックは、かくありたい。。。(大規模なやつ、ギラついたやつも好きだけど) |
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